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①僕の帰りがあんまり遅いので、蛙は鳴き疲れて喉を潰してしまった。
「わざとじゃないんだ」
僕は虚空に向けて弁明した。
「道に迷ってしまっただけなんだ」
②昔から、眩しい場所が好きでない。
できればずっと暗がりで、コソコソ過ごしていたいと思う。
誰の目も届かないところで、卑屈に笑って、歪曲された自由を謳歌するのだ。
ほら、お前たちは僕を理解できまい、僕を理解できまい。
半分崩れかかった入道雲が、山の向こうで、つまらなそうな顔をしている。
吐息よりも暑苦しい陽炎が、僕の存在を揺らしていた。
「あ。家では、母親が僕のことを心配して悶えちゃいないだろうか?」
小鳥が歌う。
「お前の母親は、今手鏡の前で髪の生え際を気にしているよ。誰もお前を気にしちゃいない」
田んぼにはカブトエビが、ギトギトと足を振って泳いでいる。なぜそんなふうにして泳いでいるのか考えもせず、泳いでいる。
くだらなかった。全てがくだらないので、僕は束の間、自分が透明になったと本気で信じ込んだほどだった。




