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呼応  作者: 師走
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笑わないで聞いて欲しい。いや、笑っても構わないが、聞いておくれ。いやいや、聞かなくったって構いやしない。けれども私は話そうと思う。


水菜と、クレーン車。この二つが私の脳内を滅茶苦茶にしてしまったのだ。これらの言葉が、私を苦しめているんだ。断絶しているはずの二つの事項が、いつしか結託して私を襲っているんだ、だから私は襲われているのだ。


私は嵐山へ行ったよ。あそこの神社仏閣はつたない。人もいやに小綺麗で、やってられない。彼らのマスク剥ぎ取って、グチグチしたその唇の出来物を拝んでやりたくて。


私はこの頃救済を求めているので、様々な宗教を見物…、嘲笑しにゆきます。というのも、私の病は病院では治らないんだね。医者は私の目を見るだろう?もしかすると、内臓を覗くだろう?それに精神科医なら心のことだってお見通しかもしれない。けれど、そんなところに私の腫瘍は見出だせやしないんだ。医師たちはぽっかりと開いた傷口から顔を上げて、一言「空っぽです」と言う。そしてその傷を塞ぐ。やってられないな。信じられないほど、緻密で、型はまりで、粗雑なんだ。私はその縫痕を指でなぞってね、はあそうですか、と頷くんだよ。


分かるかい?私のこの身勝手な侮辱が理解できるか?私は罪なき他者を、あんなのほほんと生きている奴らを、無条件に罵倒して、そうして涙は乾燥してひび割れた私の喉を密やかに潤すんだ。


断じていう、私は狂ってるんじゃない。けれど、どう言っていいのか、そうだな、多分不必要に冷静なんだ。考えなくて良いことまで考えて、疑う理由のないものにまで虫眼鏡をあてがうのさ。いよいよ分からなくなったんだ、この世界ってものに、そしてまたそこで生きるってことについて。


水菜と、クレーン車。ああ、忘れたと思ったら、「いけない!忘れてはいけない!これ程重要なことを!」と思い返す。おかしくはないか?私はこの命題を忘れられたらどんなに幸せか(少なくとも、どれ程重荷が取れるか)想像もつかないほどだってのにさ。


銀のボウルに寝かせつけられた、水滴のひしひし光る細こい尖った葉をした水菜。

ここはまるっきり制圧された、俺の領土だが、一仕事終えたことだし、今だけは解放してやるとでも言いたげに、つい二ヶ月前通った時にはぼろい屋根をかざしてたあの商店を崩し去り、剥き出しの地に轍をそこらじゅう刻み付け、首をガクンと丸めて固まりつくしているクレーン車。


私はぞっとするんだ。分からないだろうな。多分周りの人からみると喜劇的に映ずるんだろう。だって、私だってこれを認めながら呆れて笑ってるのだもの?傷ついて狂人めいたような私を笑ってるんだもの!あああ、君、私はもう駄目らしいや。駄目らしい。全てに嫌気がさしてきた。自分が自分でなくなっているし、脚がね、しっかりと地面を蹴らない。馬鹿だよ。馬鹿げているんだ。


まあいいや、もういい、寝よう。さすがに夢の中までは追ってこないからな。夢はおかしなもので、不可分不可侵なんだな。私からすれば、あれこそ真実じゃないか知らんとも思うんだ。まあよそう。明日、隙でもあればまた書くよ。なぜって私は今まであんまりだんまりを決め込んでたからね………。すまなかった。

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