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呼応  作者: 師走
24/40

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自分でどうにもならないことを

だからといって他の人に任せられるわけもなく

ただ堕落していく私を眺め

責任を誰に押し付けるかだけを考える/


古い手錠がはめられているのに

それを全く知らないふりして

あっちを見、こっちを見ながら

欲しいものに努めて手を伸ばさず

がに股に歩いていく

そういうことを毎日繰り返す/


明日が命日だったらいいのに

またしてもまたしても、今日は乱暴に過ぎていく

大昔から決められたことしかしてこなかった罰で、

私にはこれから自分が何をするのか見通すことができる

それ以上のことはしないから。/


あの時ああしとけばよかった?

怖いことを言わないでほしい

私が一番嫌いなのが悔いることで

それ以外はみんな好き/


青い手袋が1組落ちている

親指の付け根にできた皺に光が反射する

その隣には赤い万年筆

使われない万年筆/


何かが狂い始めている

それに対してどう処置をすれば良いのか知れない

瞳に映る様々なもので

それを正常に戻すことはできないみたい

一通り考えて、そういう結論にたどり着く/


あれはみずみずしいリンゴだった

しかし私は、それをしおれるまで放っておいた

戸棚の上に置かれたそれは、もうすっかり茶色くくすんで

たとえ無駄遣いを極端に咎める祖母でさえ

まさか食えとは言わないだろう

私はそれを捨てるために1枚のポリ袋に手を入れて

りんごをつかみ取り、袋を裏返して包み込んだ

その時の一瞬の柔らかな感触、つんとした香り、底が溶けて戸棚に貼り付き、そこにシミが浮かんで…

そういう特異な情報が頭に一気に送られてきたものだから

ガン、という衝撃を受けた

私は怒った顔つきで、りんごの入った袋をゴミ箱へ投げ

今度はキッチンペーパーと塩素のスプレーを手荒く持ってくる/


十一人の小人が談合をしているの盗み聞いた

それによると、私はとにかく眠っている時のいびきがうるさい

それがあまりにゴウゴウと響いて床が揺れるから、そこを住まいとしている彼らは甚だ不快である

だからそれを解決するために私の口を塞がねばならぬ

その時に使う材料は、あんまり小さいと意味がないし、あんまり大きいとすぐバレる

もちろん私にバレたら蚊みたいにぴしゃんと潰されるだろうから、これは相当危険なことだ

そして決まったのは、口に入れるものとしては小さくも大きくもない、小人自身が一人侵入して、歯を殴ったり舌を踏みつけたりし、噛まれる前にすぐ逃げるということだった

小人たちはそれを本気で名案だと支持するようだったが、私は夜中小人がこっそり口の中に忍び込むなんてまっぴらだった

そこで私は勢いよく影から飛び出て、彼らを平手でぴしゃんと潰した/


誰も助けてくれないことを嘆く人が

それを理由にして、今度は神に救済を求める

当然神からも断られて大泣きしている

私はそれを不出来な娯楽くらいに思って遠くから眺める

みんなそう。

遠く離れて、その人と関わりないのをしっかと確かめて

不出来な娯楽として憐れむ/


死んじゃならねえ、死んじゃならねえ

生きるのがどうでもよくってつまらないように

死ぬのもまた、そうに違いないから。

生を否定するために死を渇望している時

死は実際、「生以外の何か」でしかない

誰も死の〈内容〉を慮って、死にたいとは考えない


私は生からすっかり見放されて

例えばマンションの三階の、馬鹿にせり出たベランダから身を乗り出して手を伸ばしている

けれど、かといって、死にはあと少し、あと一歩足りないらしく

すぐそこにあるのに、届かない

生からわずか外れて、死にも至れず

これっくらいがちょうどいい/


沢山の棒を一つずつ数えていた時、どこかで抜けがあったのに気がつかなかった

そのせいで多くの同胞が死んだ

私のせいだという事は明らかにされなかった

きっとみんなわかっているだろうけど、必死に糾弾することをこらえていた

私も自分からは告白しなかった

ただ狭いところにこもって呻いた

低い音で、人間じゃない何かになって


かなりの年月が経った今は

私もそれなりに自分を誤魔化せるようになり

表向き、一般人みたいに振る舞っている

けれど私のこの皮を一枚剥ぐと、そこにはおどろおどろしい汚れた血をたたえた奇怪な動物が呻いている

私はもうすっかり元には戻れないし

周りの人も私を人だと思っていない

未だ私は糾弾されず

私もまた告白しない

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