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呼応  作者: 師走
15/40

15

夜も深まる、目蓋が痛む

眠るわけにいかない、と無理に背筋を起こす

風呂場から音を奏でている換気扇は、絶えず外気を送り届けているというのに、私はまるきり家の内側と外側を隔てる壁を意識していて、そこで世界は二つに分断されているのではないかとさえ思っている


そうして立て続けに咳き込み、喉仏を抑えて顔をしかめ、万年筆を持って手紙を書き進める

部屋の隅で首をくくっている両親は、その締めつけた部分が緑色に朽ちてきていて、父は昨日とうとう体が外れて床へ伏した、母の体はまだ残っている


深夜ラジオのぼそぼそ言う下ネタと、聞き手の不潔な笑いが、やや掠れた音源として台所から流れている

ラジオのそばに落ちてあるリンゴは、皮を半ば剥きかけたまま放置されている


万年筆は手紙の上を幾度も空回りする

鼻をすすって上を向く

どうやら今日も出来上がりそうにないな、と弱気な心が起こってくる


かび臭い匂いのする、二つに畳まれた布団を伸ばして、そこへ肘をついて寝そべる

布団は連日体重で圧迫されているから、薄く伸び切ってしまって、もうこれが布団なのやら、床そのものなのやらわからない

ただ酸いた、この匂いが、若干の湿り気とともに布団の存在を確証づけている


足の五指をごにょごにょさせて、まだ意識を保とうとする

しかしどうやっても上手くいきそうもない

電灯の光は白々しく部屋中を照らし出しているが、私が眼を閉じさえすればこの世は途端に闇に堕ちる


家の中にコンセントの差し込み口は四つある

どれも常に使われているのだが、そのうちの一つには、コードの被覆が破れて銅線が剥き出しに飛び出ている不用のドライヤーが占めている


意図的なため息をついて、両腕で反動をつけて起き上がる

そこには先ほどのように、キャップの開いたままの万年筆が転がっていて、書きさしの手紙がある


私は憮然とした表情でそれを眺めていたが、やがて手紙を指先で引きずって机の外へ呼び出し、くしゃりと丸めた

その刹那、すんでのところで耐えていたはずの精神的な疲れがどっと体全体を巡ったのがわかった

私はただ全てが嫌になって、向こうへ弾き飛ばされていた掛け布団をかぶって目をつぶる


もし……、眠れば明日が来る

手紙はまた次の日に持ち越す

受取人はきっと私を待っている

忘れもしないで、いつまでも待っている

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