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呼応  作者: 師走
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私が壁によじ登ったとき

そこに1つのとっかかりもなかったので

いずれはやっぱり落下した

背中をしたたかに打ち付けて

力なく立ち上がる

私はまだこんなにも弱いのだ

悔しくなって髪を切る

ああ哀れな私よ




亀の甲羅のヒビ割れ数えて

空の星さえぶらぶら見つめて

人生豊かになるように、と念じてみたって

どれも効果はありゃしない

せめて静かに時間が経ってくれれば

最低限のラインってことで許してあげれもしたのだけれど




今日はあまりにちょうどいい気温であったから

僕は目覚まし時計と一緒に寝坊して

それと分かると大急ぎで布団を跳ね上げ

卵をもぎって一つ口に含み

行ってきます、すら言い出せずにスーツを羽織って外へ出た


新調した靴がキュルキュルと軽やかな音を立て

犬を連れた近所のおばさんが手を小さく振る

そのダックスフントはやけに太い鉄の鎖で繋がれていて

尻尾を振りながら僕に近寄ってきたが

にこやかな表情のおばさんは絶対に力を緩めなかったので

ぐい、と首から引き戻された


列車は5分おきにやって来る

あんまり等間隔に来るものだから、今がどの5分の中途にあたるのか確認しなくちゃならない

どうしようもないことに僕は腕時計を忘れていて

だけども癖で何度も手首を覗いた

その度に逆立った腕毛が流れていた


8時28分にプラットホームに舞い込んだ、満員に近い列車では

まるで人々が妖怪のように思われて

さながら百鬼夜行だった

口を固く閉ざして下を向き、スマホをいじる人も

機械的な作り笑顔と機械的な高い声と機械的な文句とを発する人も

皆どこか疲れていて、生気に欠けていた

きっと僕も同じだろうと思う


『学文路駅で人身事故が発生しました。大変申し訳ございませんが、しばらくの間北羽線の電車の運行を見合わせます…』

長細い液晶看板に、オレンジの点字が流れる

吊り輪にわざと体重を掛けて、僕は憂鬱を表現する

ガタン、と電車が揺れた



目的の駅で扉から放出された僕は

キュビスム絵画を鑑賞したときみたいに

世界のことわりを理解したような、していないような、変に超越した気持ちになって

ズボンをパンパンと払って歩きだした

背中から、早足の妖怪たちがさっさと僕を追い抜いていった


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