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石ころと明星  作者: 平井みね
本編
4/22

4

 イグナーツは四つ年下のエッダのはとこだ。

 親同士の中が良かったため、お互いの屋敷を行き来することも多く、幼い頃エッダはイグナーツと共に過ごすことが多かった。

 まるで姉弟のように親しかったが、交流はエッダの病気を境に途絶えた。

 途絶えた原因はやはりあばたであろうと、エッダは思う。


 フォルツ家と縁あるイグナーツの家も、歴史ある名家である。そんな名門貴族の嫡男であるイグナーツに、あばただらけで嫌われ者のエッダはふさわしくないと思われたに違いない。

 仲が良かっただけに、「万が一にも結婚でもされたらたまったものではない」とイグナーツの両親は考えたのだろう。


 病気の後一度だけ、エッダはイグナーツと会ったことがある。病気が治ってしばらくした後、十歳の時だ。

 おそらくこれは「エッダのあばた面を目の当たりにすれば、イグナーツはエッダのことが嫌いになるに違いない」という、そんな算段があったのだろう。ひねくれた考えだが、面会時変によそよそしかった両親の様子を鑑みると、あり得る話だとエッダは思っている。


 それはともかく、エッダはイグナーツと会ったのだが、その際イグナーツは何一つ変わりなかった。

 いや、変わりはあった。病気になる前よりもエッダにべったりだったのだ。やたらとエッダのそばにいたがり、別れ際には「エッダと一緒じゃなきゃ嫌だ」と駄々をこねた。

 イグナーツがそんな調子だったものだから、彼の両親はエッダと会わせないようにしたのだろう。


 だが、そんな大人たちの思惑とは裏腹に、エッダとイグナーツの関係は途絶えなかった。

 イグナーツがエッダに手紙を送って来たのだ。エッダもその手紙に返信し、二人の文通は始まった。

 初めは、一枚の便箋にたどたどしい文字が並んでいたイグナーツの手紙。それは年を経るごとに、何枚にも渡って流麗な文字が書かれるようになった。そして、彼の手紙には必ず、「エッダに会いたい」と書いてあった。

 それに対して、エッダも丁寧に返信をした。書きたいことは、いつもたくさんあった。「会いたい」とは、書けなかったけれど。


 そして、文通を始めて十年が経った頃、エッダは家を追い出された。事実上の勘当、エッダはフォルツの名を失い一族から追放された。血縁のイグナーツとの関わりも失って当然だと考えた。

 加えて、丁度その頃イグナーツは王国の騎士団に入団した。剣術と魔法の才に長けている彼は、十五才という若さで騎士になった。エッダに手紙を書く暇などなくなるはずだ。


 むしろ、ここまで続いたのが奇跡だったのだ。そんな思いを噛み締めながら、エッダは北へと旅立った。フォルツの屋敷を発つ直前、ちょうどイグナーツからの手紙が届いたところだったが、エッダは返事を書かなかった。


 しかし、文通は終わらなかった。エッダのもとに、改めてイグナーツから手紙が送られてきたのだ。エッダはそれにも返事を書かなかったが、するとまたイグナーツから手紙がやって来た。結局、エッダは無視できず、再びイグナーツに手紙を送るようになった。手紙の最後に、「どうか返事がほしい。エッダの手紙がまた読みたい」なんて書かれていたら、返事を出さないわけにはいかない。

 それからも、イグナーツはエッダへ手紙を送り続けた。魔物討伐で輝かしい手柄を立てても、古代に滅びたと言われる空間や時間を操る魔法を会得しても、いつしか明星の騎士と呼ばれるようになっても、止めなかった。


 それどころか、約一年ほど前から、頻繁にエッダの屋敷を訪ねるてくるようになったのである。


 突然訪ねてきた凛々しい青年が誰か、エッダは一瞬分らなかった。けれど、青年が「エッダ、久しぶり」と笑った瞬間、イグナーツだとはっきり分かった。その無邪気な笑顔は、幼い頃の面影を色濃く残していた。

 思いもよらないイグナーツの来訪に、エッダは困惑した。それと同時に、どうしてか泣きそうになったことも、はっきりと覚えている。

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