厄介でやかましい「やかん」
やかましく鳴り響く声の正体は、店のやかんから吹き上がってきた音だ。自身の熱を吐き出すために口元からでる声は、周りのことを考えずに感情的で、鳴り響く音は鼓膜を突き破るぐらい攻撃的だ。こうなってしまったやかんは手が付けられない、熱が収まるまで待つしかないのだ。下手に手を加えようとすると、もっと面倒なことになる、正直捨てたほうがいいのではないかとも考えたが、外に捨てるとと近隣住民の印象が悪くなるためできない。
「今日も、音なってますねこのやかん…まるで人間みたい。」そうつぶやくのは、新人アルバイトの綾里さんだ。彼女は、世間的にはよくできる子だが。うちで働いているときは個性的でメルヘンになりどこかねじが外れる。まあ、変な子だ。「だから、誰にも売れないんだよ。先代も今時、やかんじゃなくて電気ケトル」を売ればいいのに。」私が、そう言うと。やかんの音はさらに大きくなった気がした。「あ~あ、怒らせっちゃいましたね。」と笑いながら話す彼女の言葉を聞いた後、私は、本当にこのやかんに人の心があるのだろうかと考えてしまった。そう思う理由が、あったからだ。
生まれる前からそれはあった。聞いた話では、私の生まれる少し前にうちに来たと先代は言っていた。はじめはおとなしく可愛げがあったが、数年売れ残っていたため、試しに使ってみたらしい、その時からうるさい音を出すようになった。先代が困り果てていたある日、急にやかんが店からいなくなった。店中探したが見つからない。誰かが盗んだのか、どこかに置いたのか、店員や家族に聞いても誰もわからない。とにかくその日からうるさい音はしなくなり。平和な日々が少しあった。しかし、ある時店に差出人のない郵便物が届いた。その中には、いなくなったやかんだけが入っていた。みんな恐怖したが先代は違った。「よく戻った。」そうしてやかんに値札をつけ。中古品として使いながら売りに出していた。
そんな昔話を思い出しながら、私はやかんをみつめていた。「キューー。」とけたたましい音をあげやかんから湯気が出る。「店長ー今日お茶菓子もらったんで。それ食べながらいったん仕事休憩にしましょう。」店の奥から聞こえてきた綾里さんの声を聴いたとき。私は、先代がこの厄介者を捨てなかった理由が。少しわかった気がした。




