表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

厄介でやかましい「やかん」

作者: 調理器具専門店店長
掲載日:2021/03/29

 やかましく鳴り響く声の正体は、店のやかんから吹き上がってきた音だ。自身の熱を吐き出すために口元からでる声は、周りのことを考えずに感情的で、鳴り響く音は鼓膜を突き破るぐらい攻撃的だ。こうなってしまったやかんは手が付けられない、熱が収まるまで待つしかないのだ。下手に手を加えようとすると、もっと面倒なことになる、正直捨てたほうがいいのではないかとも考えたが、外に捨てるとと近隣住民の印象が悪くなるためできない。

 「今日も、音なってますねこのやかん…まるで人間みたい。」そうつぶやくのは、新人アルバイトの綾里さんだ。彼女は、世間的にはよくできる子だが。うちで働いているときは個性的でメルヘンになりどこかねじが外れる。まあ、変な子だ。「だから、誰にも売れないんだよ。先代も今時、やかんじゃなくて電気ケトル」を売ればいいのに。」私が、そう言うと。やかんの音はさらに大きくなった気がした。「あ~あ、怒らせっちゃいましたね。」と笑いながら話す彼女の言葉を聞いた後、私は、本当にこのやかんに人の心があるのだろうかと考えてしまった。そう思う理由が、あったからだ。

 生まれる前からそれはあった。聞いた話では、私の生まれる少し前にうちに来たと先代は言っていた。はじめはおとなしく可愛げがあったが、数年売れ残っていたため、試しに使ってみたらしい、その時からうるさい音を出すようになった。先代が困り果てていたある日、急にやかんが店からいなくなった。店中探したが見つからない。誰かが盗んだのか、どこかに置いたのか、店員や家族に聞いても誰もわからない。とにかくその日からうるさい音はしなくなり。平和な日々が少しあった。しかし、ある時店に差出人のない郵便物が届いた。その中には、いなくなったやかんだけが入っていた。みんな恐怖したが先代は違った。「よく戻った。」そうしてやかんに値札をつけ。中古品として使いながら売りに出していた。

 そんな昔話を思い出しながら、私はやかんをみつめていた。「キューー。」とけたたましい音をあげやかんから湯気が出る。「店長ー今日お茶菓子もらったんで。それ食べながらいったん仕事休憩にしましょう。」店の奥から聞こえてきた綾里さんの声を聴いたとき。私は、先代がこの厄介者を捨てなかった理由が。少しわかった気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ