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7.変人と爆発

「フィルです。 夜分に申し訳ありません、お時間よろしいでしょうか。」


 テディ様の部屋の前で声をかけると、あっさり入っておいで、と返される。

 中に入るとテディ様とテオ様がソファに座って向き合っていた。 何か紙を持っているので重要な話中だったかもしれない。


「お邪魔してしまいましたね」

「いや、丁度終わった。 僕はもう寝るよ、2人ともおやすみ」


 いつも通り無表情のテオ様が、おやすみと挨拶する時にほんの少し、優しく微笑んで部屋を出ていく。

 さぞ眠いんだろう、正気のテオ様は早々営業スマイル以外は見せない…


「フィル、あれがギャップ萌えだ……」


 テディ様がぶるぶる震えながら卓に突っ伏している。

 いつもの発作(弟バカ)なので気にしない。


「君も表情こそ豊かだけど笑わないからな、たまの笑顔は武器になる」

「テ…お兄様はきっと真面目なお顔をされるだけでうけますよ」


 言うじゃないかと揶揄われながら、そこ座れとソファに促される。

 テオ様がさっきまで座ってたところに使用人を座らせようとしないでほしい…


「俺はフィルの主じゃない。

それに、魔術士の価値観は実力主義。 貴族なんて地位は弱者が贅を守るための術だ、気にするな」


 そう言われても堂々とできないのが奴隷出身の性…

 恐る恐るソファの端っこに収まると、テディ様に笑われた。


「それで、銃弾の事でしょ? 何時間解説していい?」

「なん…15分くらいでお願いします。」


 自分の組んだ回路の解説を求められたテディ様は、それはもう目が輝いている。

 期待の眼差しを遮ると拗ねたようにしているが、すぐに卓の引き出しから紙の束を取り出して来る。


「まず今の社会で使われている回路の型はひとつ。

この型から直線に、用途によって枝分かれした回路に魔力を通して物を動かす力に変換している」


 目の前に図が描かれた紙を置かれる。

 図は基本的な回路の型を模したもので、正方形の枠組みの中心に円があり、そこから四方の角に向けて回路が伸びている。


「ただ、この型には欠点がある。 基盤となる型が正方形しかない事。

丸みがあるものや筒状のものに使うには効率が悪すぎるし、効果範囲も狭くなる。」


この説明は何度も聞いた。

 正方形の型以外で作った回路では、この型で作った回路と違う働きをしてしまうらしい。


「という訳で今回は丸いフォルムの銃弾に、丸い型を作ったから当てはめてみた!

回路は正方形の型の時と同じ働きをするように計算済み、魔力が均等に行き渡るように細くして大量に組み込んだ。

銃から発砲した後衝撃が加わると爆発する仕組みだよ」

「…ばくはつ…?」


爆発…!?? そんなに危ない物を「威力やばい」だけ言って渡したのか!?

 1発試し撃ちでもしようとしていたら、この屋敷の造りが変わっていたかもしれない。


「ちなみにどの位の爆発…」

「銃弾全体まで魔力が行き届けば、うちの倉庫くらいは木っ端微塵にできるかな?」


 この屋敷の倉庫ってちょっと大きめな一般の家ぐらいありますが。

なんたってそんなものを…


「お兄様は爆発的なのが好きなんですか…? 確かに天才は爆発を好むそうですが…」

「んん?別に好きで兵器開発してる訳じゃないけど。 研究室では魔力効率の研究してるし。」

「え…初めて知りました。 じゃあなんでこんな…」


 言いかけた時、室内の明かりが消える。

 この屋敷は消灯時間になると、明かりを付けるための回路に魔力が通らなくなる。

ので、時間以降も何かをする時は蝋などを点けておくのだ。


しかし、明かりが準備されていなかった室内は、窓から入る月光だけに照らされている。


「フィル」


 声をかけられて真っ直ぐ向き直ると、暗闇に2つ、淡い月明かりよりも強く光るガーネットが目に入った。

 普段の笑顔も真剣なものに変わっていて、きれいな顔も相まって恐ろしさを感じる。


「嫌でもすぐに分かるよ。

俺たちは何をしてでも、守らなきゃいけないものがあるからね」


 守らなきゃいけないもの…それは守衛である俺にとって向けられた、というわけでもなさそうな言い方。

 そしてこの屋敷は、俺がここに来てから1度も襲撃らしいものもなければ、たまに来るのは森で迷った子や旅人。 国で大きな権限を持っている貴族の後継が、2人もいるというのに、平和そのものだった。


敵もいないのにどう守れば良いのだろうという位に。


 街まで距離のある森の中で、屋敷には天才魔術士が組んだ結界がある。

 現状を加味すれば過保護…と言ってしまえる程だ。

 正直、何をしてでもという言葉がうまく飲み込めない。 けれど、守衛という仕事を貰っている以上は、もちろん守り通すしかないだろう。


「よくわからないですけど…仕事はちゃんとしますよ」


 その言葉を聞いたテディ様は、それは安心だねと言いながら蝋に火をつけた。

 明るくなった室内では、テディ様の瞳の光は鳴りを潜める。


「もう業務時間外だろう? 休んで大丈夫だよ」

「ん…そうですね、お時間ありがとうございました」


 俺の就業時間は消灯と共に終わるのだ。

 一礼してテディ様の部屋を出る。

 暗い廊下には明かりがほとんどなく、気が乗らないのだが右目を覆う包帯をずらしてガーゼを取る。

 すると真っ暗だった視界の色が反転したように変わり、鮮明に周囲が浮かび上がる。


…エマに会うかもしれないから、厨房に行くのはやめておこう。

そうして俺は自室へ足を向けた。

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