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4.守衛に真珠

「そろそろご主人の準備に行きましょう、エマ」

「はーい、行ってくるね」


 そう言ってレイさんとまだ少し顔が赤いエマが厨房を出る。

 俺の仕事はこの間に、2人が準備しておいてくれたワゴンに乗った食事を食堂へ運ぶ。 そっとご主人の食事のカバーをあげて覗くと、先程より丁寧に身を取り出されてジュレがかけられている柘榴があった。

 さすがにそのままにはしなかったか…と安堵したものの、ジュレで誤魔化せる代物だったかと不安になる。


 食堂でカトラリーを並べていれば小さな足音が聞こえて、テーブルから身を引いて頭を下げて迎える。


「おはようございます、ご主人」

「ああ、おはよう。 フィル楽にして」


 そう言われて姿勢を戻すと、目の前には俺が仕える主人である、テオ・フロスト様がいた。

 ご主人の後ろにいたレイさんが椅子を引いて席に座ると、丁度昇ったばかりの日が当たる。

…絵画のような光景だ。


 ご主人は凄まじく美形で、体をつくる色なんかは神々しいとまで評価される。

 薄くて白い肌に、日に当たって輝くシャンパンゴールドの髪。 同じ色に縁取られた目にライムの果肉のような透明度の高い瞳。

 表情は全く動かないけれど、それが一層人間でないもののように感じさせる。


 俺も顔や色は美しいという評価を受けがちだが、正直ご主人とは横に並びたくないと思う程整っているのだ。 …実際に公の場には俺ば同行せず、レイさんが付いているので希望は叶っている。

 というかレイさんは糸目というか、目を全く開かないだけで顔立ちは整っているし、深い緑の髪もこの国では珍しくて相当人目が集まるだろう。

 ご主人の参加するパーティーなんかは大変そうだなと改めて思う。



「おはよーす」


 さっきとは一変、軽い挨拶で入ってきたのはご主人と双子のテディ・フロスト様。

 少し遅れたが頭を下げて迎えると、「そういうのいいよ、俺には」と言われてレイさんと俺は元に戻る。


「兄さん…それ外でやらないでよね」

「お兄様の外面の良さを舐めちゃあいけないよ。バッチリだぞ?」


 椅子をエマに引かれて、お礼を言いながら座ったテディ様がドヤ顔で言い放つ。 それは誇るな。

 苦笑いしながらため息をついたご主人は食事に手をつけはじめる。


…そっくりな美形が向かいあって食事をしている。

 と言っても似ているのは顔だけで、テディ様の髪は黒くて毛先が少し赤みを帯びている珍しい色。

 目も深紅のガーネットを埋め込んだような色彩で、双子だというのに全く似ていない。

 神々しいと言われるご主人とは真逆で、テディ様は恐ろしいと形容される方の美形なのだが、その気さくな性格から相当人気…らしい。


「フィル、そんなに俺の顔見つめてどうしたの?」


 視線に気付いたらしいテディ様に絡まれる。

 ご主人とそっくりな…ご主人より少し女性的な顔が、いたずらっぽく笑う。 こういう所が受けるんだろう。


「いえ、テディ様が気になる訳では…」

「テディ様じゃないお兄様。」


 適当にあしらうと呼び方を訂正される。

 テディ様は自分の名前があまり好きではないようで、自分の使用人でないレイさんと俺には“お兄様”と呼ぶように言っている。

 顔も名前もかわいらしくて良いんじゃないだろうか…なんて考えていると、「フィル?」と圧をかけられたので渋々お兄様、と呼ぶ。



 食べ終わった皿をワゴンに載せていれば、ご主人が例の柘榴に手を付けようとしていた。

 レイさんの顔を伺うと、めちゃくちゃ期待の眼差しを向けている。 本当にやばい奴だ…


「…っんん!!?」


 盛大なリアクションで柘榴を一口食したご主人が、バッとレイさんを振り返っている。

 口元を隠してぷるぷるしているレイさんを軽く叩いて、ご主人は綺麗な顔を歪めながらもう一度食べ始める。

…律儀だな。


 テディ様の方には柑橘のジュレが用意されてあって、早々に食べ終わって「お先に」と席を立った。


「あ、フィルちょっと」

「はい?」


 呼ばれたので一度ご主人を見ると、ちょっと涙目になりながら頷かれた。 どうやら行って良いらしい。

 テディ様について行けば、部屋に入れられる。


「いつもすまないね、はいこれ」

「いいですよ、自分のためにもなりますし」


 そう言って取り出されたのは魔石。

 俺の魔力が貯まって金に輝くそれには煌びやかな装飾が施されていて、それには魔力が漏れ出さないように回路が組まれているらしい。


「これには10000フロット。 あと悪いんだけどこっちにも5000もらえる?」

「やけに多いですね。」

「こっちの魔石は俺が授業で使うんだ。 テオと当たる時は気合い入れたくてさー」


 テディ様の服の中から首飾りが取り出されて、渡される。

 既に魔力が貯められているようで、ガーネットの色に輝いている。

 どちらにも魔力を込めると、金の魔石は更に色を増して、ガーネットの色だった魔石は夕焼けの空みたいな色に変わっている。


「結構貯めてたんですね、もっとぎらぎらするかと思ってました。」

「8000くらいは貯めたかも。俺の生産量って2000くらいだから、何日か掛かったんだよね」


 2000フロット。 ご主人は5000フロットだと聞いたことがあるから、魔力の生産能力は双子でもかなり差が出るらしい。

 俺はテディ様に頼まれて、時折魔力を受け渡しているのだが、その差を小さくするためなのかも知れない。

 正直俺の魔力がどう使われているか詳しく知らないし、ちょっと怖くて聞けない。


「2000でも十分魔術士になれるのに、テオはもっとあるし…フィルはどんくらいだったっけ?」

「…500000っすね」

「はーーーぁ兵器並だなぁ…ほんとに、フィルに回路組む力があったらフロスト滅んでたな」


…これはこの屋敷の人間しか知らないことだが、俺は規格外に魔力量が多い。

 世間にいる“魔力量の多い人種”というのは、大体1000フロット以上を生産できる人間の事なのだが、そういう次元ではない。

 500000フロット持ってます、なんてまず信じられない。 どう考えても人外だ。


 ただ、俺は魔術回路を組む力がなく、魔術士が組んだ回路に魔力を流す事しかできないので、実際宝の持ち腐れだ。

 自力で魔術回路を組む力があり、かつ多くの魔力を持っている人間だけがなれる魔術士に頼って生きることしかできない。


 話をしていると、部屋の窓にコツンと何かが当たる音がする。

 見れば小さな氷でできた鳥が窓枠を突いている。


「テオが呼んでるな、よし行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 頭を下げると、あっと声がして後頭部に衝撃を感じた。

 慌てて当たったものをキャッチすると、小さな箱が手の内にあった。


「それ俺が回路組んだ弾!威力やばいから気をつけて使えよ。」


 そう言い捨ててテディ様は窓から飛び出して行く。 ここ結構高めな2階なんですけど…

 魔術で勝手に閉まった窓の外からは「ご主人!!!!」とエマの叫びが聞こえたのだった。

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