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1.守衛の夜

 ラファエル、18歳。 今俺は、森の中にひっそり佇む貴族の屋敷の守衛をしている。


 風が吹き付ける見張り塔の上、毛布に包まって銃を肩に引っ掛けたまま夜更けを待つ。

 熱を発生させる魔術回路の編まれた毛布だが、日が沈みはじめた頃から風に当たり続けていたせいで手先から冷えはじめている。


 この国は暖かくて生活のしやすい暖季と長く続く寒季、ほとんどの生命が途絶える程に寒くなる凍季があるのだが、今は寒季だ。 この国の寒い時期特有である「光の精」が空気に漂うのが見える。

 光の精とは、空気中の魔素が一定以下に冷やされると発光する現象…らしく、白い小さな光がそこらを漂うのだ。


 光の精をひとつ掴んで、手の隙間から漏れる光をぼんやり見ていると、室内へ繋がる天窓の下から声がかかる。


「フィル、時間です。」


 はぁいと返事を返して室内に降りると、湯気がたつマグカップをこちらに差し出して微笑む執事長、レイさんがいた。 執事長と言っても、この広い屋敷の使用人は3人だけな訳だが。


「ありがとうございます。あ、ミルクティー」


マグカップを受け取ってすぐ、甘い香りと紅茶の香りがして声に出して反応した。 ミルクティーはこの屋敷の主人の好みなので、まだ起きているのだと察する。


「ご主人様が学校での課題をされていたので。外は冷えたでしょうから、フィルのものにはジンジャーを入れました。」

「さすが執事長、いち使用人にまで抜け目がない」


そう言ってミルクティーを口に含む。…おいしい。

 濃く甘いミルクの味にふんわり広がる紅茶…これは厨房でミルクティー用に輸入した、香りが爽やかで味の強いものだ。


「やっぱおいしいです、店できますよ」

「では定年後は喫茶で一山当てますか?」


 控えめに笑いながら歩きはじめたレイさんの後ろについて厨房まで降りると、椅子にかけてマグカップを傾ける使用人がいた。


「あ、フィルくんおつかれさまー」


 室内灯に照らされたワインレッドの頭がくるりとこちらを向いて、愛らしい顔がにこりと笑んだ。

 メイドのエマ、俺より3つほど若い少女で、3人いる使用人の1人。 俺はエマの事があまり得意ではないので、小さい声でおー、とだけ発する。


「マグカップ、飲み終わったらここに置いておいてください。あとでまとめて片付けるので」


 レイさんはそう言って、食材の保管庫から大量の肉塊を取り出して出て行った。 分厚く均一にのった脂身、あの肉焼いて食ったらもたれそうだな…


「すごい量、豚肉?」

「そうだよ ほら、来年来る凍季のために、塩とハーブで漬けて干すの」


 なるほど、凍季。

 凍季は毎年あるものではなく3年に1度、暖季にあたる3ヶ月が丸々凍季に変わる。 長い寒季に次ぐ凍季、そしてまた長い寒季を終えてようやく暖季を迎えられるのだ。

 そのため保存食の備蓄が必要で、特に暖季にしか出回らない根菜や果実、栄養価の高い肉魚を準備している。

 俺は基本厨房の仕事はしないので詳しくないけれど、今年に入ってから忙しそうにしているのを見てなんとなく知っている。


「えと…言ってくれたら手伝う、時間あるし」


 ぎこちなく言うと一瞬エマがぽかんとした後、嬉しそうに「ありがとう!」と笑った。

 それを見て自分の顔がなんだか歪んでしまいそうで、ぱっと目を逸らす。


「じゃあ良かったら明日の昼過ぎにここに来てくれる?スパイスを長持ちするようにしたいんだ」

「あ、ああ」


 昼過ぎは屋敷に主人らが不在で、仕事も多くないから都合が良いんだろう。

 警備が主な仕事である俺もそれは同じで、普段の昼過ぎは銃の訓練や手入れをしている。


 食材を扱った事はほぼないが、料理が得意な彼女が居れば大丈夫だろう…


 いつもなら自分からエマに関わる事は無いけれど、凍季の厳しさは想像を絶する。 それは身をもって経験しているので、少しでも力になりたかった。


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