9.守衛の業務外Ⅱ
「もう父さん、お客様が困ってらっしゃる。」
店の奥から落ち着いた女性の声がして、その場の全員がそちらに向く。
すると仕切りから若い女性が困ったような顔で出てくる。
「ああすみません、うちの娘のオルラです。今年で18になりました。
こちらフロスト家御長男のテオ卿だ。」
「お初にお目にかかります、私オルラ・ウォーカと申します。」
フロスト家という言葉に、顔には出さなかったがほんの少し強張った女性は、背を正し柔らかい笑みで頭を下げた。
「テオ・フロストだ。 …行きつけの仕立て屋に娘がいたとは、知らなかったよ。」
「あ…ハハ、いえこの子は…」
「18の誕生日まで宮廷に仕えておりました。
これからは店の手伝いをしますので、お会いする機会が多くなるかもしれませんね?」
吃る店主と対照的に、落ち着いた様子で微笑む娘に少し嫌悪感が湧く。 …なんだろう、隠し事をしてるような、後ろめたさがあるような。
クリーム色の髪とシナモンの瞳という柔らかい印象を持ちながら、仄暗いように思えてしまうのが不思議だ。
手伝いをすると申し出て話の中に入った彼女が、こちらをまじまじと見ては執事服のデザインに細かく修正を入れていく。
宮廷では針子でもしていたのだろうか、すらすらと改良の提案が出てくる。
「時に従者様、そちらの目はお怪我でもされたのですか?」
「えっ…これは、怪我というか…」
シナモン色がじっと目を見つめながら質問を投げかけてくる。
馬鹿正直に「魔力量が膨大過ぎて変異しました」だなんて言えないので、困った時の主人頼み。 主人に許可を求める至って普通の従者を装い、テオ様に全力で困った顔を向ける。
「この子の右目は弱視でね。
見目に関わる事はあまり触れないでおくれ、この通り片目がなくとも美人なんだ。」
「そうでしたか、失礼いたしました。
では一つ提案として眼帯を作りませんか? 着脱も楽になるでしょうし、公の場でも目立ちにくいでしょう。」
また棚から紙の束を出して、今度は眼帯の製図を示す。
「私は魔術に関しては素人ですが、その包帯に魔力が働いている事くらいはわかります。 回路を組みやすい形でお作りして見せましょう。」
「…流石宮廷で育った女性だ。
そうだね、試してみようか。いいね?」
こちらを振り返るテオ様に、それ選択肢がないです…と思いながら頷いた。
そうして出来あがった執事服が、パーティの2週間前にレイさんから渡された。
街への買い出しの際に受け取ってきたのだろう。
確認をと言われていたので、パーティ用の執事服に袖を通す。
眼帯はまだのようで、受け取ったものの中には入っていなかった。
「…動きにくいな」
体の線に沿って作られた執事服はやはり窮屈だ。
この服で体術は難しいだろうに、レイさんは軽々やってのける。
黄緑の宝石で彩られた、テオ・フロストの従者である証を胸元に着ける。
首に焼き付けられた“18年前の年、男、1000、15年前の年、最低評価”は見事に隠れるデザインで、自分の白髪と正反対の真っ黒の布で仕立てられている。
普段は軽くて大きい、動きやすい服を着ているから余計に布の重さを感じて心地が悪いような…
…一度脱いでもう1着、自分が選んだ布で作ってもらった執事服を着よう。
オルラ嬢が手を加えた執事服は、軍服の要素が混ざったようなデザインになっていて、そこらのパーティでは着られるように考えられている。
コートの丈が短く、動きに支障が出にくい。
「これなら普段着てもいいかな…」
今まで訓練のためと称して窮屈な執事服を避けていたが、主人のためには整った服装も重要だろう。
従者のブローチを付け直して、何気なく視線を動かすと鏡に映る自分が見える。
白い髪と調和するような明度の高い黒に、透き通る黄緑の宝石が一点、何よりも際立っている。
「…テオ様のお色がよく映える」
自分より少し低い位置のライムの瞳が思い出される。 初めて会った時から、俺はいつだってテオ様に助けられて生きてきた。
なんだかこの格好がその証のようで…今日は久しぶりに執事服で過ごそうかと思う。
前回中途半端に終わったので連投です。
次回投稿は来週の予定ですが、万が一やる気が生まれたら今週中に投稿されるかもしれません。




