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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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夏のホラー2020 浅野内匠頭終焉之地之碑

作者: 小城

 新橋駅から歩いてすぐのところ、日比谷通り沿い新橋四丁目交差点の歩道の脇に浅野内匠頭終焉之地と書かれた石碑が立っている。浅野内匠頭が切腹をした一関藩主田村建顕の屋敷跡に建てられている。それとは別に浅野内匠頭の墓所は泉岳寺にあり、内匠頭切腹の翌年、赤穂浪士たちは吉良上野介の首級を泉岳寺にある亡き主君の墓前に供えている。

 さて、そんな赤穂事件から317年経った2020年。ネット上で、こんな噂がささやかれていた。

「深夜、新橋駅の近くで侍の霊が出る。」

「白装束を着た首のない武士が腹から血を流しながら歩いていた。」

「samurai ghost appears nearly the shinbashi st.」

 新橋駅の駅員の一人、佐藤もまた、そんな噂を耳にしていた一人であった。

「どうして、突然そんな噂がささやかれ始めたのだろうか。」

 彼は幽霊のことは信じていなかったが、そのような噂がささやかれ始めた経緯に関しては興味があった。駅員である以上、駅周辺の治安に対しては気をつけておかなければいけないと思っていたからだった。

 「まあ、噂なんて理由もなく出てくるものなのかもしれないからな。」

 彼もまた、ネット上の幽霊話をどこかの誰かの作り話であろうと思っていた。

 ある日の深夜、佐藤は新橋駅の周辺を歩いていた。コロナ騒ぎで外出する人は少なくなったが、このあたりは深夜といえども、決して閑散としてはいない。近くにはコンビニもあるし、車の通りも多い。街灯も多く明るい。

「こんなところに幽霊なんか出るわけない。第一、そんな格好をしていたら目立ってしょうがないだろうに。」

そう思いながら、佐藤が日比谷通り沿いを歩いていると、すっと、横に冷たい空気を感じた。それはまるで、夏場に冷蔵庫を開けたときにやってくる冷気のようであった。佐藤は全身に鳥肌が立つのを感じた。ふと横を見ると、白装束を着た人物が立っている。首はなく、腹からは血を流していた。

「ぎゃあ!」

 佐藤は驚きのあまり大声を出してしまった。コンビニの前でタバコを吸っていた男がチラッとこちらを見たが、すぐに目を背けた。白装束の人物は何事もなかったかのように歩いていく。

「見えていないのか…?」

佐藤は呟いた。他の人たちは白装束の人物の姿を感知していないようである。白装束の人物は芝公園の方角へ歩いていくとしばらくして消えてしまった。佐藤の横には浅野内匠頭終焉之地と書かれた碑が立っていた。

 浅野内匠頭の死の翌年、大石内蔵助率いる赤穂浪士47人たちは吉良上野介の屋敷に討ち入り、吉良の首級を上げた。結局、大石たちは切腹することになったが、討ち入りのことは「忠臣蔵」として世間に流布されることになる。しかし、それらはすべて、浅野内匠頭の死後に起きたことであり、内匠頭本人の知ることではなかった。大石内蔵助が討ち入りののち主君の墓へ参ったとしても。

 佐藤は思った。浅野内匠頭本人は一体、何を望んでいたのだろうかと。佐藤は碑に向かってそっと掌を合わせた。

「風さそふ花よりもなほ我はまた春の名残をいかにとやせむ」

浅野内匠頭辞世の句である。浅野内匠頭長矩。元禄14年3月14日(1701年4月21日)現在の東京都港区新橋4丁目31にあった一関藩主田村家の屋敷にて切腹没。松の廊下で吉良義央を切りつけてから半日後のことであった。

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