イントロダクション
約五十年前に、後に新世界大災害と名付けられる地球規模の大災害が世界を襲った。人
類はかろうじて滅亡しなかったものの、地形は大きく変わり、多くの命が奪われ、傷つき、
それでも残された人々は新たに国の境界線を定め、法を定め、それまでの時代とは世界情
勢は大きく変わった。
人々は失った人命や肉体に代わるものを早急に求め、テクノロジーは飛躍的に進化し、
旧世紀ではまだ夢の途中であった『ロボット』や『サイボーグ』が現実のものとなったの
である。
店や会社の受付では、見た目ではなんら人間と変わりない人型自律機械『オートマタン』
が人の応対をし、夜のビルでは警備のためにオートマタンが巡回する。金持ちの家ではメ
イドの代わりにオートマタンを使うのがステータスであった。
オートマタンが存在するということは、電脳の性能もそれと共に進歩したということだ。
車は自動で目的地まで連れて行ってくれるし、考えるだけでその行動をサポートする老
人用介助マシンもある。今や電脳は人間の生活に関わる物全てに必要であり、そのシステ
ムを管理、制御する上で欠かせないものとなっていた。
また人間そのものも、事故や病気で失った体の一部の代わりに、義身躯と呼ばれる
機械のそれで補うようになった。中には、脳以外の身体全てが義身躯という人間もいる。
そんな義身躯を付けた人間を、『サイバーロイド』(総称をサイバーズ)と呼んだ。
サイバーロイドというのは、不幸にも五体不満足になってしまった人達には純粋にあり
がたいテクノロジーだったが、裏では『人間以上の能力を手に入れる』ためにサイバーズ
化し、自分の欲望のためその性能を犯罪に使う者も数多くいた。
今の時代の犯罪は銃火器よりも、戦闘などに特化したオートマタンやサイバーズを使っ
たものが多いのだ。
新香港は早いうちからオートマタンやサイバーロイドのテクノロジーを受け入れ、広ま
った国の一つだ。新世界大災害の折に大陸から切り離され、三つの主要島と大小200以上
の島から成る国で、大災害の5年後に完全に独立した。
首都を九龍に移し、旧世紀以上に、経済、観光、文化の中心として発展し続けている。
今は西暦2050年―――――。
そこには多種多様な人種がおり、サイバーロイドも、オートマタンも、善も悪も、あら
ゆる情報の全てが混沌とし、雑多なエネルギーを内包しているのだ――――…。