迷信の数々
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「あれっ? いつの間にこんな暗くなったんでしょうか? 全然気が付かなかったです……」
僕は夢中になりすぎていたせいで、辺りが既に真っ暗になっている事に気が付かなかった。
「……私は気が付いてはいたけどあんなに楽しそうに話している瑠衣を止められないでしょう?」
皐月さんはと言うと、僕とは違い辺りが暗くなっていた事に気がついていたようで、笑いながらそう言って来た。
「何で教えてくれなかったんですかー! お墓で怪我でもしたらどうするんですか? 怪我一生治らないかもしれないんですよ!」
僕は小さい頃お父さんから聞いた事を思い出しながらそう口にした。
「……それって多分迷信よ? 夜に笛吹くと蛇が出るとかと一緒じゃないかしら?」
皐月さんは僕の言葉に一瞬だけ目を丸くすると、微笑みながらそう言って来た。
「……え……それも嘘だったんですか? かなりショックなんですけど……」
僕は小さい頃お父さんやお母さんから言われた沢山の事が嘘だったことに驚きを隠せなかった。
「……話を聞いている限り、昔の瑠衣は意外とやんちゃだったようね……今の瑠衣も好きだけど……そんな瑠衣も見てみたいかも……」
皐月さんは僕の方を見ながら終始ニコニコとしていた。
「……そんな風に言われたら、何も言い返せないじゃないですか……本当に皐月さんはずるいですよ……」
僕はそう言いながらお墓のほうに向き直った。
「……お父さん、お母さん今日はもう帰るね? またその内くるからさ」
僕は今一度お墓に向かって手を合わせると、目を瞑った。
「……さてと、帰りましょうか? 今日は僕の家に泊まっていって下さい。流石に今から皐月さんの家に戻ると日が変わってしまいそうですしね? それと絶対怪我はしないようにゆっくり帰りましょうね?」
たとえそれが迷信だとしても、一抹の不安が拭いきれなかった僕は再度皐月さんにそう言っていつもよりもゆっくりと歩き始めた。
 




