皐月さんだけのもの
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「……薄々は気が付いていたんだ……今の両親が本当の両親じゃないって事……」
だいぶ心が落ち着いた僕は皐月さんに抱きついたままでそう口にした。
「うん……」
皐月さんは頷くだけで特に何も言ってこなかった。
「怖かったんです……本当の事を知って僕自身を保っている事が出来るかどうか……でも、皐月さんのおかげで本当の事を知る事が出来ました。これで前に進む事が出来ます」
僕は皐月さんをそっと離すと、皐月さんの目を真っ直ぐ見た。
「……ど、どうしたの瑠衣?」
僕が急に真剣な表情で見つめたせいか、戸惑いと不安が入り混じったような表情で僕の事を見てきた。
「……僕の両親に会ってくれませんか?」
僕は意を決して皐月さんにそう提案をした。
「……はぁ……」
皐月さんは急に大きな溜息を吐いてその場に座り込んでしまった。
「わわっ! どうしたんですか! 皐月さん?」
急に座り込んでしまった皐月さんを慌てて支えるとそう声をかけた。
「……別に何でもないわ……私が勝手に勘違いをしただけ……」
皐月さんは普段の表情へと戻ると頬を少し赤くしながらそう言って来た。
「勘違い……ですか……勘違い……」
勘違いをしたと言われ一体何を勘違いしたのか考えたが一向に答えが出なかった。
「……一体何を勘違いしたんですか?」
どれだけ考えても何を勘違いしたのか分からず、僕は素直に訊いてみる事にした。
「……怒らない?」
皐月さんは少し伏し目がちにそう訊いてきた。
「? よく分からないですけど多分大丈夫ですよ?」
僕は首を傾げながらそう返した。
「……本当に?」
皐月さんは僕の様子を見て信じられなかったようで、もう一度念を押すようにそう言って来た。
「大丈夫ですって……それより早く言ってくださいよ?」
僕は少し呆れたようにそう言うと言葉促した。
「……記憶を取り戻した瑠衣に別れを告げられると思ったのよ……」
皐月さんは顔を真っ赤にしながらそう言って来た。
「……へっ? まさか本当にそう思ったんですか? そっちの方がショックなんですけど……」
僕はまさかそんな事を言われると思ってなかったので、かなりのショックを受けてしまった。
「……うー私だって頭ではそんな事ないって分かっていたけど、記憶を取り戻したのなら、好きな子がいたって言われてもおかしくない訳だし……付き合っていた子がいたって……」
皐月さんは顔を真っ赤にしたままで早口でそう言ってきた。
「あははは……確かにそれはそうかも知れませんね? って言うと思いました? 残念ながらそんな子は楓ちゃんだけだったみたいですよ? と言う事は今は皐月さんのものという訳ですね」
僕は苦笑いをしながらそう言うと、皐月さんに手を伸ばした。
「……それでも少しヤキモチ焼いちゃうわね……橘さんに……」
ようやく皐月さん落ち着いたようで、、普段の雰囲気に戻っていた。
「それは勘弁してあげてください……今はユウっていう頼れる男の彼女なんですから」
僕はそう言いながら皐月さんの手を取った。
「そうだったわね……それじゃあ帰りましょうか?」
立ち上がった皐月さんはそう言いながら僕に微笑んだ。
「はい!」
そう返事をしたまでは良かったが、そこでようやくここが病院で能登先生がいた事に気が付いた僕たちは能登先生に対して苦笑いをする事しか出来なかった。




