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後輩(ぼく)と先輩(かのじょ)の恋物語  作者: 白城縁
十二月 クリスマス
77/126

映画やドラマのワンシーン

――――――


「本当に大丈夫なの瑠衣?」

 皐月さんは僕の事を心配そうな表情で見ていた。

「……正直な話大丈夫って言ってあげたいんですけど……ごめんなさい皐月さん」

 それだけ一言口にして僕は用意された部屋へと入って行った。

「ふぅ……さてさてどうなることやら……叶う事なら今の僕が消えない事を望もう」

 そんなに大それた事ではないかも知れないが、思い出す記憶によっては性格自体が変わってしまう事もあるかも知れない。

「……悲劇のヒロインを演じている所悪いが、別に今の記憶が無くなる訳ではないからな?」

 部屋に入ると、呆れたような表情をした普段から見慣れた能登先生の姿があった。

「……どうして能登先生がいるんですかね……っていうのは失礼ですかね?」

 催眠による記憶想起法を行う為、精神科の先生に依頼を出したはずがそこには能登先生一人しかいなかった。

「……改めて自己紹介をする事にしよう。この桜ヶ丘大学病院の院長をしている能登珠希のとたまきだ。今日はよろしく頼む」

 いつになく真剣な表情をした能登先生を見て、僕は慌てて姿勢を正した。

「この病院の院長……なるほど、そういう事だったんですか……」

 僕は能登先生の言葉で今まで疑問に思っていた事が解消されていくのを感じた。

「それで早速だが、キミが構わないのであれば皐月君にも同席してもらおうかと思っているのだが……しかし勿論無理強いはしないこれはキミの過去を見るという事と同義なのだからな」

 能登先生はそういうと、準備を始めてしまった。

「……困ったな。別に皐月さんにも話そうとは思っていたのでその事については構わないんですけど……さっきの別れ際、柄にもなく格好つけちゃったので……恥ずかしいというか何というか……」

 僕はまるで映画やドラマのワンシーンのような別れ際を演じてしまった手前、どんな顔をして逢えば良いか分からなかった。

「全く……本当に変わった奴だな……普通は他人に過去を見られるなんて嫌がるだろうに……しかも記憶を失う程のトラウマがあったかも知れないというのに……」

 能登先生は呆れたようにそう言うと、大きな溜息を吐いた。

「……何を言ってるんですか……僕は僕の全てを皐月さんに好きになって欲しいんです。それがどれだけ格好悪い事でも、それがどんなに苦しい事でも皐月さんなら全部知ってもらいたい……あぁ……そっか何も悩む事なんてなかったんだ……」

 僕はそう言いながら自分で勝手に納得してしまった。

「能登先生。皐月さんを呼んで来て下さい。勿論無理に連れて来てはダメですよ?」

 僕はそう言うと心を落ち着かせる為、ベットに腰を掛け目を瞑った。

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