見覚えの無い天井
――――――
「……んっ……」
目を開けるとそこは見覚えの無い白い天井だった。
「……ここ……は?」
気を失った事までは覚えているが、その後何があったかなんて僕の知る由もなかった。
「……すぅー……すぅー」
微かに聞こえて寝息で、ここに僕以外の誰かがいる事が分かった。
「……皐月……さん?」
既に当たりは真っ暗になっていて辛うじて月明かりで、顔を確認する事が出来た。
「んっ……瑠衣……」
目覚めてはいないようだったが、寝言で僕の名前を呼んでいた。
「……そうか。ここは病院か……何があったんだっけ? ぐっ!?」
気を失った時何があったか鮮明に思い出そうとした瞬間、頭に強烈な痛みが走った。
「……無理に思い出そうとするな……」
二人しかいないと思っていた部屋の中からもう一人の声が聞こえてきた。
「……能登……先生? どうして……ここに?」
保健室ならまだしも、どうして能登先生がこんなところにいるのかどうか分からず、そう訊き返した。
「んー説明するのは面倒なんだが……まぁ、紛いなりにも生徒会の顧問だからな……そう言うことにしておけ」
能登先生は珍しく歯切れの悪い感じでそう言ってきた。
「……分かりました。そう言うことにしておきます。でもすみませんご迷惑をかけたみたいで……」
僕はそれ以上追求する事はせずに頭を下げた。
「……」
僕のお礼の言葉に対して、ふっと口元を緩めただけで何かを言ってくる事はなかった。
「……僕はどうしたら良いんでしょうか?」
答えを求めたわけではなかったが、つい口からそんな言葉が出てしまった。
「……そうだな……個人的な意見を言わせて貰えば記憶なんてあってもなくてもどっちでも良いと思っている」
少し悩んだ様子だったが、能登先生はそう返してきた。
「……医療関係者とは思えない言葉ですね……でもその方がありがたいですね……すみませんくだらない事を聞いちゃって」
能登先生の言葉で何処か吹っ切れた僕は、微笑みながら能登先生にそう返した。
「……ふっ……無理だけはするなよ? 困るのはキミじゃ無い。キミのそばにいる人間たちなんだから」
能登先生はそう言うと、病室から出て行ってしまった。
「……なるほど……それはちょっと困ったな……」
能登先生の言葉に僕は胸を痛めながら、それからしばらくの間月明かりに照らされた皐月さんの寝顔を見ていた。
 




