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僕は僕らしくあればいい

――――――


「うっぷ……気持ち悪い……もう勘弁して……」

 翌日、体育祭の当日となり僕はユウたちで形成された騎馬の上で揺られていた。

「……聞こえてない……か……僕はもうここまでのようです……ごめんなさい……皐月さん……もう一度逢いたかった……」

「何を言ってるのよ、瑠衣。まるで死んでしまうような台詞じゃない」

 意識を失いかけていた僕の耳に聞こえて来たのは、愛しの皐月さんの声だった。

「……あれっ? どうして? 僕は騎馬戦をしていたはずじゃ……」

 気持ちの悪さからか、僕の頭は全く働かずどうして皐月さんがそばにいるのか検討もつかなかった。

「……白熱していたものね……剣持君たちは悪くないわ。怒らないであげてね?」

 少しずつ気持ち悪さも軽くなり、徐々に何が起こったのか思い出し始めていた。

「……あぁ……僕また格好悪い所を見せてしまったんですね……」

 僕の異変にいち早く気がついた皐月さんは競技の最中だと言う事もお構いなしに、僕の所へと駆け寄ってくれた。その騒動で僕が気絶し掛けている事に気がついた審判団は慌てて競技を中断したと言う次第だった。

「……そんな事ないわ。瑠衣が知らないだけで私にだって苦手な事はあるわ……それに前にも言ったけどその方が可愛げがあるわよ? 私は瑠衣の全てが好きなんだから」

 皐月さんは僕の事を頭を軽く撫でながら、そう言ってきた。

「……そうか……そうなんですね……こんな僕でも良いんでしょうか?」

 僕は皐月さんに似合う男になりたくて、ずっと格好良さを求めていたけど皐月さんはこんな僕の事を好きと言ってくれた。

「何を当たり前の事を言っているの? 他の誰でも無い……瑠衣だから私は好きになったのよ?」

 皐月さんは恥ずかしがる様子もなく、僕の目を見てはっきりとそう口にしてくれた。

「……皐月さん……」

「……瑠衣……」

 僕たちにもう言葉は必要なかった。僕たちは吸い寄せられるようにお互いの顔を近づけていった。

「……ごっ、ごほん……お楽しみの所悪いんだけどここグラウンドのど真ん中だぜ?」

 もう少しで唇が触れるというところで、大きな咳払いが聞こえてきた。

「……ひゃっ!?」

 皐月さんはユウの咳払いに驚いてしまったようで慌てて立ち上がった。

「いでっ!」

 僕は皐月さんの膝の上から放り出され、地面へと後頭部を強打する事になった。

「……あっ……ごめん瑠衣」

 皐月さんは慌てて僕を抱き抱えると、打ち付けた後頭部をさすってくれた。

「酷いです……後で覚えてろよユウ。邪魔した事を後悔させてやる」

 僕は皐月さんに抱き抱えられながらもユウを睨むと自分の足で立ち上がった。

「……こんなんじゃもう体育祭どころじゃないし。僕はもう帰るよ? 後の事は楓ちゃんたちに任せて……行きましょう? 皐月さん」

 僕は皐月さんの肩を借りながら、ゆっくりとその場を後にした。こうして、僕にとって一番の難所である体育祭は幕を閉じる事となった。

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