掴み所の無い女子生徒
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「失礼しまーす……」
僕は中に人の気配を感じ取っていたので、恐る恐るといった感じで教室の中へと入って行った。
「……?」
中に入るとそこにはあの時保健室へと入って来た女子生徒の姿があった。
「キミは……」
僕は直ぐに状況を察して、やはり全て知ってたユウに対して少しだけ苛立ちを覚えた。
「……あっ、あ、あの時はすみませんでした!」
僕が思いを巡らせているほんの一瞬の間に、その女子生徒は文芸部員らしからぬ体育会系のノリで深々と頭を下げてきた。
「へっ?」
一瞬何が起きたのか分からなかった僕は、素っ頓狂な声をあげてしまった。
「あの後直ぐに生徒会長が来て、私に何度も頭を下げてきたんです……少なからず私にも非があると言うのにも関わらず……私、二年生なので生徒会長の噂は耳にしていました。だからと言うわけでは無いんですけど何だか凄く怖くなってしまってあの時は逃げ出してしまったんです……」
その女子生徒は早口で捲し立てるように一気に言葉を紡ぐと、大きく深呼吸をした。
「い、いや僕の方こそごめん……悪いのはキミでも皐月さんでも無い……僕自身だ……」
そんな事は最初から分かっていた。でも何処か認めたく無い自分も居て、結局沢山の人に迷惑をかける事になった。
「いえ……そんな事は……私もその気持ちは分かります……好きな人と一緒にいたら襲いたくなっちゃいますよね?」
一瞬僕の聞き間違いかと思ったが、その女子生徒は顔に似合わずとんでもない事を言ってきた。
「……何だか気が合いそうだね? 名前を聞いても良い?」
僕はあの状況を見られたのがこの女子生徒で良かったと、ほっと心を撫で下ろすと微笑みかけながらそう訊いた。
「……ぽっ……」
ただ名前を聞いただけだというのにも関わらず、何故かその女子生徒は頬を赤く染めた。
「……?」
僕はどうして彼女が頬を赤く染めているのかよく分からず、首を傾げていた。
「天然ジゴロが……」
僕が首を傾げて悩んでいると、呆れた様子のユウの声が聞こえてきた。
「私……何か目覚めちゃうかも……」
僕がずっと悩んでいる所に聞いた事もない言葉が増えて僕は更に頭を悩ませる事になってしまった。
「……それで結局名前は教えて貰えるの?」
それから少しの間悶えていた彼女だったが、ようやく落ち着いたようで改めてそう訊く事にした。
「……すみませんちょっと取り乱してしまいました……お恥ずかしい。私の名前は九重紬です。以後お見知り置きを……」
紬と名乗った女子生徒はまるで貴族のような立ち居振る舞いで、頭を下げてきた。
「随分と掴みどころがない人だな……」
この僕ですらどんな人なのか測りえなかったので、素直に感嘆の声をあげた。
「それは褒め言葉として受け取っておく事にしますね?」
紬さんはわざとらしく舌を出すと立ち上がった。
「さてと……私は教室に戻りますね? もうお昼休みも終わりなので……またいつかお逢い出来る日まで……」
紬さんはさも当たり前のように軽く会釈をしながら、教室から出て行ってしまった。
「……ねぇ、ユウ……あの人一体何者?」
全くもって紬さんがどんな人なのか検討もつかなかった僕は、苦笑いをしながらユウに声をかけた。
「……そうだなぁ……正直な話俺にもよく分からないんだ……あの人の事は昔から知ってるんだけど会う度に別人になってるかのようだからな……」
ユウが紬さんと昔からの知り合いだという事にも驚いたが、何より会う度に別人のようだということの方に恐怖を感じた。
「……ユウ……あの人とは正直もう関わりたくない……」
僕は底知れぬ恐怖が襲ってきて、思わず口に出してしまっていた。
「ははは……それは無理かも知れないな……はぁ……」
ユウは乾いた笑いを浮かべると、がっくしと肩を落とした。その様子を見て僕も同じように肩を落とす事しかできなかった。




