『表』と『裏』
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荒木に詞を渡してから数日が経ちようやく荒木から呼び出しがあった。
「悪い遅くなった。流石に言葉を変えないで曲作るのは大変だったぜ。すごく良い詞だったな、おかげで良い曲が出来たよ。
荒木は舌を出しながらそう言ってきた。素人でも詞を全く変えないで曲を作るという事はとても難しい事だとは思っていたので、荒木が非凡な才能の持ち主だと言う事を思い知らされた。
「ありがとう。じゃ今日から早速練習するんでしょ? 音楽室借りなきゃね。僕の権限で何とかするよ……って言ってももう準備出来てるんだけどね。ほら音楽室の鍵。じゃ行こうか?」
僕はそう言いながら荒木の手を引っ張って音楽室へ向かい歩き出した。
「ところで何時から音楽室の準備してたんだ? 今日たまたまって訳じゃないだろ?」
歩きながら荒木はそんな事を訊いてきた。
「あぁーまぁね僕が詞を渡した次の日からだよ。まぁ、もちろん使わなかった日は別の人が使っていたから安心して、今日ももう少ししたら明け渡すつもりだった所だったしね」
僕はさも当たり前のようにそう言った。
「お前一体何者なんだよ。お前じゃなきゃそんな事出来ないだろーよ」
荒木は心底呆れたようにそう言ってきた。
「そーかなぁ? 皆優しいからね僕が言うと素直に従ってくれるんだ。これがまた面白くてさ、ふふっ……」
僕はまるで悪役のような笑みを浮かべながら荒木に言葉を返した。
「正直敵に回したくねーな。でも味方ならすっげー心強い奴だわ。それとお前に裏と表があるのも分かった」
荒木は少し驚きながらそう言った。
「裏と表って何?」
僕はきょとんとした表情をしながらそう言った。
「あぁ……やっぱり怖いわお前」
荒木は首を振りながらやれやれといった表情をしている。
結局『表』と『裏』の話はよく分からずじまいのまま音楽室へと辿りついた。
「まぁ機材は明日以降揃えるとして。取り敢えず聴いてみてくれ。一応俺が歌ってみたのがこのCDに入ってるから覚えてくれ」
荒木はそう言いながら僕にCDを渡してきた。
「じゃ僕は聴いてくるから他の二人が来たら練習でもしててよ。一応楽器の使用許可もとってあるからさ」
僕はそう言ってプレイヤーとヘッドホンを持って隣の部屋に向かった。




