夢の中の少女
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ユウとの会話が一段落した後、と言ってもユウはまだ口をパクパクしていたが……そのまま放置して生徒会担当に会う為、僕は職員室に向かっていた。この桜ヶ丘高校は教師一人一人に部屋がある為、複数の教師に会うのはかなり面倒な造りになっている。という訳で北村先生に合った後は生徒会担当の能登先生に別の部屋に行かなくてはいけない。担当の名前は北村先生との会話で初めて知った。北村先生に部活に入らず生徒会に入りたいと言うと二つ返事と共に教えてくれた。目の敵にしてくる北村先生が何も言わずに了解してくれた事に少し不信感を抱きながらも生徒会担当の能登先生がいる部屋の前に辿り着いた。一応の礼儀としてノックをしてから部屋のドアを開けた。
「すみません。生徒会に入りたい者なんですが? 能登先生はいらしゃいますか?」
ドアを開けるとそこには眼鏡を掛けた白衣姿の女性とここの生徒思われる少女が椅子に座りながら話をしていた。その少女を見た瞬間、僕はあの夢の光景が頭に浮かんだ。直感的にこの少女が夢に出てきた少女だと頭ではなく体で理解した。僕は先生に挨拶するのも忘れ、ゆっくりとその少女の方に近づいていく。少女は何も言わずその場にじっと座っている。距離は少しずつ縮んでいく。たった数メートルしか無いはずなのに僕には何十メートルも何百メートルも離れてるような気がした。まるで七夕にしか逢えない織姫と彦星のように。手を伸ばさなければあの夢のように消えてしまうかも知れない。そんな思いから僕は少女に向かって思い切り手を伸ばした。初対面の人にそんな行動をしてしまえば誰もが気味悪がるだろう。しかしその少女は何も気にすることなく。まるで僕のことなど見えていないかのように窓の外を眺めている。僕たち二人の様子を見て何が起きたのか分からないといったような表情をしていた能登先生だがようやく落ち着きを取り戻したのか僕の目の前に立ち塞がった。
「女の子にしかも、その様子から見て初対面だよな。それなのにいきなりそんな行動を取ってお前は変態なのか?」
僕はその先生の言葉で強制的に現実へと引き戻された。すると、先生は安心したのか、ポケットから煙草を取り出し火をつけた。
「す、すみません無意識の内にこんな行動を取ってしまいました」
僕自身も自分がどうしてこんな行動をしてしまったのか分からなかった。いくら夢で何度も見ている少女がいたからといって、こんなにも触れたいとか消えて欲しくないと思うのだろうか?
「まぁいい、彼女も特に気にしていないようだし、まぁ彼女の場合は特別だが許してやろう。それにキミは生徒会に入ってくれるようだしな」
能登先生と思われる女性は先程とは打って変わって、本当に何も気にしていないように話題を切り替えた。その変わり身の早さに少し戸惑いながらも、僕は言葉を返した。
「そうです。生徒会に入りたいんですが、何か条件はありますか?」
条件なんて無いだろうとは思っていたが、もしもの事を考えて僕は訊く事にした。
「聞きたいか、条件?」
能登先生はまるで悪役のような笑みを浮かべながら僕に迫ってきた。内心ヤバイ所に来てしまったと思いながらも夢にまで出てきた少女の事が気になり、一呼吸置いてからどんな条件があるか訊いてみた。
「条件は副会長さんになることだな。どうだい皐月君?」
夢に出てきて今、目の前にいる少女は皐月という名前らしい。名前だけ聞いたのに心臓の鼓動が高鳴っている。この人の事をもっと知りたい、その思いが更に強くなり僕は副会長になる事を条件に生徒会に入った。