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昔遊んだ女の子

――――――


「ところでユウ、どこに向かっているの?」

 僕達はユウの後に続いて、当たり前のように皐月さんの腕にしがみついたままで廊下を歩いていた。

 廊下ですれ違った生徒達は、僕達の姿を見た瞬間というよりは、皐月さんを見た瞬間そそくさとその場を離れていった。その光景があまりにも異様で……僕は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「あ、言うの忘れてた。文芸部の部室だよ、そこに楓って奴がいるんだ。まぁ簡単に言うと俺の幼馴染だね。うん、きっと多分そういうカテゴリーに分類されるんじゃないかな。世間一般的に言うとだけど……でもなぁーうーん」

 ユウは説明しながらしきりに唸っていた。そんな話をしていると文芸部の部室である教室の前に辿り着いていた。

「おっと、ここだここだ。楓ーいるか?」

 ユウはそう言うとノックもせずにドアを開けて入って行った。

「……いるけど? どうしてここにいるの? ユウちゃん」

 中に入るとそこには、眼鏡を掛けた三つ編みでロングヘアーの女の子が窓際の椅子に座って本を読んでいた。

「どうしてじゃないだろ……さっき電話で行くって伝えただろ? フウ」

 会話を聞いていると流石は幼馴染だなって思うくらい親しく呼び合っていた。

「お話するのは構わないのだけれど……剣持君。そろそろ紹介して貰えるかな? そちらの人を」

 皐月さんは少し気まずそうにユウに向かって女の子の紹介を頼んだ。

「あ、すみません。こいつが一応、自分の幼馴染の(たちばな)(かえで)っていう奴です。よろしくしてやって下さい」

ユウは少し慌てながら女の子の紹介をしてくれた。

「よろしくされます……篠宮会長っと瑠衣くんだね。キミの話はよく聞いています。いつもユウちゃんがお世話になっています」

 楓ちゃんはそういうと、僕と皐月さんに向かって深々と頭を下げた。僕らもそれに釣られて慌てて頭を下げた。

「何やってるんですか全員で、ここに誰かいたら間違いなく注目の的ですよ?」

 ユウは僕達に向かって少々呆れたように言ってきた。

「ところで楓ちゃんと何処かで会った事あったっけ? 何処かで見たことがあるような……」

 僕は楓ちゃんの言葉使いに違和感があり反射的に訊いてしまっていた。

「もしかしてルイ覚えててくれたんだ……小さい頃に遊んでいた事を」

 楓ちゃんのその言葉でようやく思い出すことが出来た。

「そっかやっぱりそうだったんだ……あの時の女の子だったんだ。いつもあの公園で淋しそうにブランコに乗っていたあの……」

 僕がこの街に来る前、子供の頃に住んでいた家の近くの公園によくいた女の子が楓ちゃんだったとは思いもよらない事実だった。僕もその公園が好きでよく遊びに行っていた。何ヶ月も通う内にその女の子、楓ちゃんに声を掛けたんだ。それからというもの毎日のように遊ぶようになった。いつの間にか遊ばなくなったのは何となく覚えているけど、あんなに毎日遊んでいたのに何故遊ばなくなったかまでは全く覚えてなかった。

「あの頃の私はとっても内気だった。ほんと、ルイのおかげで今の私があるといっても過言ではないよ……」

 楓ちゃんも昔を思い出すように、どこか遠くを見ながら言った。僕と楓ちゃんが話をしていると皐月さんの頬がどんどん膨らんでくのが見えた。それを見ながら僕は心の中で微笑んで皐月さんに近づいて行った。

「皐月さん心配しないで下さい。僕は皐月さんの事。世界で一番大切な人で、世界中の誰よりも大好きですから……」

 更に皐月さんの後ろから抱きついて耳元でそう囁いた。

「ちょっと瑠衣。みんな見てるのにこんな所で抱きついて……そんな言葉を掛けないでよぉ」

 皐月さんは顔を赤くして慌て始めた。そんな皐月さんの姿を見て僕は笑みを浮かべていた。

「あ、あのーお二人さん、お熱いのは結構なんですけど私、どうしたらいいのかな? 生徒会に入ればいいのかな? どっちなのかな?」

 僕達のやり取りを見て楓ちゃんは申し訳なさそうに僕達に声を掛けてきた。

「あっごめんなさい……ついついあなた達の事を忘れてしまっていたわ。それで生徒会に入って頂いてもよろしいかしら?」

 皐月さんは慌てて生徒会長モードに切り替えて楓ちゃんに言葉を返した。

「まぁ、そうですね。このままだとユウちゃんがあまりにもかわいそうなので入ることにします。役職は書記辺りでお願いするです」

 楓ちゃんは最初と同じように僕達に深々と頭を下げた。僕達もそれに釣られて最初と同じように頭を下げた。その様子を見ながらユウはやれやれといったような表情をして溜息をついていた。

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