『恋』をするという事
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七夕も終盤となり屋台も徐々に店仕舞いを始めている。そしてこれから本来の目的である短冊に願い事を書く時間となった。先程の一件以来僕達はお互い声を掛けづらくなっていた。こんなのは僕達らしくないけどこんな雰囲気も悪くはなかった。何故かお互いの気持ちが通じ合ってるようなそんな気がした。
「皐月さんはどんな願い事書いたんですか?」
僕は自分の願い事が書き終わった後、皐月さんに思い切って訊いてみた。
「普通の事しか書いてないわよ、でも瑠衣には内緒だけどね?」
皐月さんは意地悪そうな笑みを浮かべながら僕に言ってきた。
「えー教えてくれないんですかー? 意地悪です。皐月さん」
そんな会話をしている頃にはいつもの僕達に戻っていた。お互いに笑い合って、そんな単純な会話なのにとても幸せに感じた。この時に僕ははっきりと自覚することが出来た。
皐月さんに『恋』を『初恋』をしている事に……
「織姫と彦星って一年に一度しか逢えないんですよね……」
僕は唐突にそんな事を口にしていた。当然皐月さんは不思議そうな顔をしている。僕は気にせず言葉を続けた。
「僕は皐月さんと一年に一度しか逢えない何て考えると凄く怖いです……自分が壊れてしまそうで……」
皐月さんに『恋』をしていると自覚した今、逢えないという事を考えただけで僕の心は不安で一杯になった。そんな僕を心配してくれてなのか、皐月さんは僕をゆっくりと抱きしめてくれた。
「瑠衣、私は……私も瑠衣と逢えなくなるなんて考えられないよ……」
皐月さんから抱きしめられたのも驚いたが、その後の言葉にはもっと驚いた。
「皐月さん……それって、もしかして僕達、両想いって事ですか? 夢じゃないんですよね? 現実ですよね?」
僕は少し涙ぐみながら皐月さんに思いっきり抱きついた。
「そうだね、両想いだね、瑠衣……」
そう言った皐月さんの表情に翳りがあったのを僕は見逃さなかった。
「皐月さん、何も心配することありませんよ僕は(・・)絶対に皐月さんを裏切るような、傷付けるような事はしませんよ。だから安心してください。それに短冊にも書きましたしね、皐月さんといつまでも一緒にいられるようにって」
僕がそう言うと皐月さんは僕の腕の中で泣き始めた。皐月さんが泣き止むまで僕は皐月さんを抱きしめていた。その間も笹は燃え続けていた。その煙が天の川へと届くように、願いが叶うように祈りながら……
 




