唯一の抜け道
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ゴールデンウィークも過ぎ、ようやく高校生活にも慣れ始め、クラスメイトとも仲良くなり、楽しくなり始めた今日この頃。僕はどの部活に所属しようか机の上でうんうん唸りながら考えていた。しかも締切が今日という事もあり尚更頭を悩まされていた。特に入りたい部活もなくどうしようかと考えているとユウに声を掛けられた。
「なんだ瑠衣、まだ決めてなかったのかよ。急いだほうがいいぞ、北村にまた怒られる前に、特に入りたい部活がないなら委員会にでも入ればいいんじゃないか?」
机に突っ伏していた僕は勢いよく立ち上がった。そうか、その手があったか。なんで今まで気が付かなかったんだろう。ユウの一言によって憂鬱な気分は嘘のように晴れ渡っていた。この桜ヶ丘高校は部活動に入ることは強制ではあるが、唯一免除される方法があった。それが、委員会に所属するということだった。生徒の自主性を重んじているこの学校では、行事のほとんどを生徒会を始めとする委員会役員が運営をしている。その為役員は部活動に所属しなくてもいい事になっている。
「ユウ、僕、生徒会に入る」
急に立ち上がったのといきなり僕が生徒会に入るとか言い出した事、両方に驚いたのかユウは口を開けたまま動かない。恐らくユウは冗談で言ったつもりだったのだろう。
「だって、生徒会に入れば部活やらなくてもいいんだよね?」
僕はさも当たり前のように放心状態のユウに向かって言い放った。ようやく現実に戻ってきたのかユウは僕の肩を掴みながらこう言った。
「生徒会だけはやめておけ、良くない噂しか聞かないからな」
ユウは少し周りの視線を気にし、辺りを見回している。そんなに気にするなら、言わなければいいのにと思いながらも『良くない噂』の方が気なったので自称『情報通』のユウに詳しく訊く事にした。
「ユウ、その良くない噂って何なの?」
周りにもわざと聞こえるように大きな声で言った僕に対し、ユウはさっき以上に周りの視線を気にしながら慌てて僕の口を塞いだ。
「馬鹿っ! 誰が聞いてるか分からないんだから、そんな大きな声で言わないでくれ。もし生徒会長にでも聞かれたら学校にいられなくなるぞ。あぁ怖い怖い」
本当に怖がっているユウを見ながら、さっきよりもその生徒会長に逢ってみたい。生徒会に入りたいという気持ちが強くなった。少し迷っていたが奇しくもユウの一言によって生徒会に入る決心させてしまったという訳である。
「忠告ありがとうユウ。おかげでもっと興味を持ったよ。生徒会も生徒会長にも」
ユウは一瞬ほっとした顔をした後、まるでおぞましいものでも見るように僕に視線を向けた。しまいには口をパクパクし始めた。僕はそんなユウの顔を見ながらしてやったりと思いながら、相変わらず面白い奴だなと改めて感じていた。