ユウ。生徒会に入る
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屋上で皐月さんの過去を聞いた後、僕はユウを連れて生徒会室へと向かっていた。
「ところで瑠衣。生徒会の仕事ってどんな事やってんだ?」
ユウは先程の暗い表情から今度は不安そうな表情をして僕に訊いてきた。
「何もしてないよ? お茶飲んだりお菓子食べたり……」
僕がさも当たり前のように答えるとユウは開いた口が塞がらないといったような表情をしていた。
「お前らは生徒会室で何やってんだよ……」
ユウは不安そうな表情から呆れた表情に変わっていた。僕はユウのコロコロ変わる表情を見ながら面白いやつだなと思った。
そんな会話をしている内に僕たちは生徒会室の前に到着していた。
「今日は生徒会の日じゃないけど、多分二人共いると思うから大丈夫だよ」
僕はそう言いながら生徒会室のドアノブに手を掛けた。
「すみませーん、皐月さんと能登先生いますかー?」
ノックをして声を掛けながら入っていった。僕の後ろにいるユウに驚いたのか入った瞬間、皐月さんは口に咥えていたクッキーを床にポトリと落としてあたふたしていた。
「皐月さん久しぶりです。新しい生徒会役員連れてきましたよー」
僕は皐月さんの行動をニコニコして見ながら要件を告げた。
「あっ、うん。了解したわ、名前と学年を教えてもらってもいいかしら?」
皐月さんは僕とデートした時のような年相応の言葉遣いから生徒会長切り替えながらユウに訊いた。
「あっはい、一年、剣持勇です、役に立てるかは不安ですけどよろしくお願いします」
ユウは今まで聞いたことのないような超真面目な口調で皐月さんに言葉を返した。
「そうか、君が勇くんか、噂は聞いているよ」
そう言いながら窓際で煙草を吸っていた能登先生はニヤニヤしながら近づいてきた。
「どんな噂が流れているんですか、能登先生?」
僕はどんな噂が流れているのか気になっていて能登先生に近づきながら訊いた。すると能登先生は僕の耳元まで近付いてきた。
「情報屋やってんだろう、それにあいつは……」
その後の言葉は声が小さくて聞き取ることが出来なかった。聞き返そうと思って能登先生に声を掛けようとしたら能登先生自身の声で遮られた。
「頼んだよ剣持君、それじゃ私は帰らせてもらう」
あの言葉の続きを聞きたかったが聞き返す前に能登先生は生徒会室から出て行ってしまった。
「そうだわ、せっかくだしこのまま会議をしちゃおうかしら? 二人共時間は大丈夫?」
さも名案のように、皐月さんは能登先生が出て行ってすぐに僕たちに訊いてきた。
「別にいいですよー」「別に構いませんよ」
僕たちは殆んど同時に皐月さんへと言葉を返した。
「それじゃ始めましょうか……瑠衣君、剣持君それぞれ席について」
皐月さんの一声で僕はいつもの席に、ユウは少し迷った後に僕の向かいの席に座った。
「皐月さんお菓子食べてもいいですか?」
僕は会議が始まるという直前のタイミングで皐月さんにお菓子を取ってもらいたくて声を掛けた。
「……もう、しょうがないわね。ほら、あーん」
皐月さんは近くにあったクッキーを摘みながら僕に近づけてきた。
「っもぐもぐ、やっぱり清水屋のクッキーは美味しいですねーありがとうです、皐月さん」
ユウは僕たちのやり取りを口をぽかんとあけながら見ていたが、我に返ったように
「いつもこんな感じなんですか、お二人は?」
少し呆れたように皐月さんに声を掛けた。
「こほん……失礼しました。普段はこんな事してないんですけどね。ついつい、では気を取り直して……今月行う七夕についての会議でしたね」
僕は今月七夕を学校行事として行うとは一度も聞いてなかったが、さっきのやり取りで僕は幸せだったので気にはならなかった。
「で、具体的には何を行うんですか?」
ユウは少し苦笑いをしながら皐月さんに訊いた。
「準備が少し遅れたこともあり、七日に間に合わないので次の週の十四日に行うことにします。具体的な内容については、普通の七夕とあまり変わりはありません。夕方六時から九時くらいで校庭の中央に大きな笹を用意して、参加してくれた生徒に願い事を書いてもらって燃やす感じです。多少の出店を開いてもらうことも考えています。イメージ的にはちょっとしたお祭りみたいなものです」
皐月さんは少し早口で告げ、僕たちに視線を向けた。
「了解しました。ところで俺は何をしたら良いですか?」
ユウは全て聞き終わった後、すぐに自分が何をすれば良いか皐月さんに訊いていた。その早さに僕は、やる気のある奴だなぁと思いながら、クッキーをどんどん口に運んでいた。
「実は準備は殆んど終わっているのよ。後は笹を取ってくるだけそれだけは、私一人では準備ができなくて」
皐月さんは申し訳なさそうにユウに言葉を掛けた。
「ってことは俺たちで採ってくればいいんですね? 行くぞ瑠衣、では待っててくださいね会長」
ユウは皐月さんの返事も聞かずにまだクッキーを食べていた僕の手を引っ張って昇降口へと向かっていった。
 




