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後輩(ぼく)と先輩(かのじょ)の恋物語  作者: 白城縁
プロローグ 四月
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―――桜が舞っていた―――高校に入ってから初めての登校。春だから桜が舞っているのは当然の事だろう。桜ヶ丘高校へ行く道の途中には桜並木がある。そこにある桜の中でも一際存在感のある大きな桜の木。そこに彼女はいた。彼女を初めて見たとき、僕はその場を動くことが出来なかった。あまりにもその光景が現実離れてしていて……まるで自分が別の世界に迷い込んだかのように。そう思ってしまうくらいすごく綺麗だった。いや……そんな言葉で何て言い表す事の出来ない光景だった。


――――――


「おい瑠衣。お前当てられてんぞ」

 隣から声聞こえてくる。それと同時に周りが少しざわつき始めた。

「う……うん?」

 僕は意識が朦朧としたまま、隣からの声に反応する。あれっ……僕は今何をしているんだろう。ここはどこなのだろう。意識は現実と夢を行き来している。ようやくここがどこかを認識しようというタイミングで急に頭に痛みが走った。

「痛っ」

 僕はあまりの痛みに声を上げて立ち上がった。と、同時にここが学校でそして授業中である事を思い出した。頭を気にしながらも、今夢に見ていた事を思い出していた。あの時であった少女の事を……

 夢で見る程、僕はあの先輩のことを気にしてるのかな? どうしてだろう。

 僕はその時まだこの感情の正体を知らなかった。この感情が『恋』だという事を……僕があの先輩に恋をしてしまっていた事を……

「何時まで突っ立っているんだ水野? もう一度叩かれたいのか?」

 教科書を手に持ち僕の前に立っているのは担任の北村先生。かなりご立腹のようだ。僕の事をすごい剣幕で睨みつけている。

「えっ……あの……あはは」

 僕は北村先生のあまりの剣幕に狼狽えるしかなかった。その様子を見てクラスメイト達は笑っている。最近の習慣になってしまいつつある僕と北村先生のちょっとした揉め事。クラスメイトが笑うのも無理はない。入学式も無事に終わり二、三週間過ぎ学校生活にも徐々に慣れ始めたこの時期にはよくある事だろう。とは言っても一度や二度ならまだしも毎日のように居眠りをしていれば、北村先生のこの剣幕も仕方のない事だと思う。自慢ではないが僕は勉強がかなり出来る。入学してすぐのテストでは一位だった。その事もあるのか眠っていてもスルーしてくれる先生の方が多いのだが、北村先生は担任の意地もあってか僕を目の敵にしてくる。まぁ、それが普通なのだろうけど。

「いくら成績が良いからといって眠っていて良い訳がないだろう。水野……後で職員室に来るように……っとチャイムも鳴ったようだし今日はここまで」

起立―礼とお馴染みの号令が終わった後、僕はそのまま机に突っ伏した。

「災難だったな瑠衣。でも起きないお前も悪い」

 僕のすぐ隣から声が聞こえてきた。ユウだ。本名は剣持勇(いさむ)。このように呼ぶようになったのは僕の勘違いからだったのは良い想い出だ。だってユウにしか読めないでしょう? 今時いさむなんて。最近の親は物凄い当て字を使うから尚更ユウだと思い込んでいた。その時以来彼の事はユウと呼んでいる。

「本当だよ……僕の事を起こすのは北村先生ぐらいだよ? 何考えてんのかな? テストで満点取れれば何も言わないと思うんだけどな」

 僕がそう誰に言う訳でもなくそう呟くと隣にいたユウは深く溜息を吐きながら、やれやれといったような動作をした。

「瑠衣。お前それ本当に言ってんのか? やっぱバカと天才は紙一重って訳だ」

 僕はユウの言ってる事を何一つ理解出来なかった。僕の言ってる事……間違ってんのかな? そんな事を思っているとユウは更に溜息を一つ吐いてから話を続けた。

「確かにテストで満点取りゃ問題無いかも知れないが、先生にもプライドがあるんだろうよ。お前も分かってやれ……ところで、そんなに毎日のように授業中寝てるけど夜遅いのか?」

 ユウは少し呆れ気味に僕に訊いてきた。それに対して『嫌、十時には寝てるよ』って言ったら少し間を空けて『小学生かよお前は』と言う声が聞こえてきた。

 そんな他愛のない会話をしている間も夢で見た光景を思い出していた。あれは僕が見たただの夢だったのか或いは現実にあった事なのか僕は思い出す事は出来なかった。ただ本当にあった事なら、あの少女にもう一度逢いたい。言葉を交わしたいその想いだけがどんどん募り始めていた。


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