七行詩 461.~480.
『七行詩』
461.
貴方は私の目に映るように
笑っては泣き 時に大人びた表情で
度々 筆を執らせようとする
“美しく若く居られるうちに
私を描いてください”と
私に出来はしないのに 貴方はそっと手を重ねると
仕事を放り出すことを 許そうとしないのです
462.
完璧な今などないけれど
完璧な過去を私は持っている
全ての愚かさなどは忘れ
愛しさだけを残した過去
そして今 悲鳴をあげているのは
その鉛を引き摺る鎖であるか
身体であるか 心であるか
463.
共に 舞台に立つことはできぬなら
せめて最前列に席を買い
貴方を見つめ続けましょう
貧しさと等価の安らぎを得ては
拍手を送り続けるのです
この世には 貴方に並ぶほど
高価なものはないのですから
464.
行き場のない 心が生涯を食い潰しても
その心が 私に筆を執らせるので
私には必要なものなのです
嫉妬が貴方を女性にするなら
私はどのように 手を引けばよいのでしょう
ずっと遠い場所に居る貴方の
心を占めるには どうすれば
465.
背が高いとか 低いとか
見慣れるまで 一緒に居て、と言えばいいのに
雨上がりの 土や風の臭いなどは
泣き虫な私たちにとって
すっかり馴染みのものになったでしょう
ほんの些細な特別さも
今や 自然の一部となっているのだから
466.
貴方にも 信念があるのは分かりますが
一度でも 貴方に「参った」と言わせたい
一度でも 言いなりになってみてください
私は無茶など言わないから
私が笑ったら その理由を考えてみてください
貴方はどんな時 どう笑うのか
少し比べてみてください
467.
貴方が望むものが何なのか
私にも話してくださいませんか
それは私には 用意できないものですか
或いは できないことかもしれません
想いの対象が 私にとって
貴方でなくてはならないように
それは誰かに 譲るものではないのですから
468.
私が隕石だとしたら
一つを目掛けて 進み出し
広い宇宙で ぶつかり合えずに すれ違えば
直線を 描きながら 離れて行くでしょう
けれど この星の 重力があれば
弧を描き 出会いの場所へ 帰ることができる
何度すれ違いを 繰り返しても 忘れることなく
469.
どうか お願いです、私は 結末を知ることを急ぎ
できることなら 先に決めておきたいのです
私はこの先 どのように立ち回ればよいのか
そして それを演じきるために
ゆっくりと 時間を使いたいのです
私は貴方の決断にのみ 左右される
貴方は私が抱えた 最も大きな問題であり 導である
470.
本当の限界はどこか 最終電車で探しに出る
支えもなく いつまで立っていられるのか
どこまで歩いて行けるのか
切り開かれた道ではなく 自ら枝葉を掻き分けて
足場の悪い坂道を上り 下りゆく
立ち止まるまで 終わることなき それはただ
希望を捨てた考えを 繰り返すことに似ている
471.
仕事帰り 次の電車に乗るまでに
どれだけの人とすれ違うか
日が暮れても 出歩けるようになったとはいえ
最近 綺麗な人が 多くなったと感じます
神の子たちは 大人になる
しかしその人影が どんなに綺麗であったとしても
貴方ではないことに 落胆してしまうのです
472.
いつか私が 貴方を諦める日が来たとしても
貴方の望みは 決して諦めないでください
望みが 貴方を強かにし
その強かさに 私は惹かれたのだから
前へ、前へと 送り出すことが
私に許された 愛であり
私もまた 貴方に祈り 強くなれるので
473.
丹念に 端正に織られた着物のように
貴方を覆う長い髪
隙間から覗く 耳飾りは
揺れる度 光り 首筋をより魅力的にする
貴方が美しく在るための姿は
貴方が描いた作品なのだ
それを掲げながら 貴方は胸を張り 町を歩く
474.
夜の帳が降りたなら
私たちは 地上の月となり
満ち欠けを 互いに埋め合うように
いつの日も 二人でようやく完成する
押されては引き 引かれては押して
互いを満たすため 求め合う
相手にも自分が 必要であると 確かめたいのだ
475.
私は実に幸運である
訪れた幸運の一つを 見逃さずに済んだのだから
いかに ひととき心を踊らせても
いかに ひとたび突き落とされたとしても
結末までを 愛せてこその運命である
受け入れられる生涯であれば
それは全く 単純なもので良い
476.
もしも私が欲しいなら
私のスプーンを曲げてみてください
冗談だと 笑い飛ばすならそれでもいい
私が条件を出すのは
その難題に 向き合う誠実さと
愛の大きさを 量りたいから
さて貴方は どのように応えてくれるのでしょう
477.
貴方に向け 贈ったもので満たせたなら
溢れた分だけ 返してください
私は最初に 貴方から受け取ったものがあります
それは私を支配し ある時は寄り添い
また ある時は私の 心の棲み処を燃やすのです
その火を鎮めるために 涙はあるのではなく
想いの熱を我が頬へと 伝えるためにあるのです
478.
大きな広場は 都会の風の通り道
夕暮れ時 劇場を後に
文明の中で生きるのではなく
文化の中で生きていたいと思ったのです
人が受け継ぐ伝統とは
人が行き交い 町が栄えた証だから
この町に貴方が居たことを 私は誇りに思います
479.
下手だと笑われたとしても
私も一緒に 笑い返してみるのです
憧れて始めた楽器だから
もしも貴方が見かねたときは
正しい旋律はこうだと
貴方が歌って 教えてください
それなら私は何も 上手にできないままでいいから
480.
冷めたコーヒーを 最後に一口すするのに
私はどれだけ時間をかけるのだろう
この席を立てば 私の居場所はなくなるでしょう
この店を出れば 再び孤独が始まるでしょう
夢のない人生は全て
身に起きた出来事と その余韻だけである
私の身には何も起こらず 夢だけが残っている