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教えて☆弥勒先生!






「って言っても俺、弟子とか取ったことないから分かんないんだけど何教えればいいわけー?」

「特別なことはしなくていい、言ったようにコイツは俺等あやかしについて何も知らねぇことばかりだ。お前にとっちゃ常識でもコイツにとっちゃ未知の知識。お前はコイツの知りてぇことに答えながら、いつも通りしゃべればいい」


 イオリくんはそう言ってポンッと元のおキツネさまの姿に戻ると、トトトと縁側へ足を向けた。

 それを見た目隠し3人組のうち二つ結びの子がささっと先回りして、イオリくんのために高級そうな分厚い座布団を縁側に敷く。

 ふむ、と一つ頷くおキツネさま。

 フミフミと前足で座布団の具合を確かめると、猫がするみたいくるくる回ったあとゴロンと横になった。

 会話は聞こえるけど俺と弥勒くんの間に入って取り持つ気はないのがありありのイオリくんの態度に顔を絶望に染めながら、ギギギとブリキみたいに首を動かし避けられない現実と向き合う。


「で、孝太クンは何知りたいわけー?」

「ええっと…」


 ダラーッと座卓に頬杖をついてやる気のなさを隠そうともしないチャラ天狗に、ダラダラ背中に汗が伝う。

 あやかしについて知りたいこと、たっくさんあるけどこんな急に聞かれてもすぐには出てこなくてたじろいでしまう。

 しかも明らかに俺のことを気に食わないって態度を隠そうともしない相手に、萎縮するなって方が無理な話で。


(ていうか俺、何でこんな嫌われてんの…!?)


 ここまで露骨にされて気づかないはずがない。

 イオリくんが俺を邪険に扱うのとは別の感じで、俺に対するネガティブな感情が伝わってくるっていうか。

 今日初めて会ったばかりなのに、なっ何かしたっけ俺…!?


「えっと、あのっ、俺が見たことあるあやかしってまだ両手の指におさまるくらいなんだけど、他にどんなあやかしがいるのかなー? …なんて」

「どんなって何? 種族? 容姿? 能力? 生態? 名前? そんなアバウトに聞かれても答えようがないんだけど。人間だって見た目やしゃべる言葉や住んでる場所や文化や習慣が違って多種多様なわけじゃん、孝太クン以外にどんな人間がいますかーって聞かれて答えられんのー?」

「うぐっ」


 何とか質問を絞り出すも真っ向から跳ね返されてしまう。

 たったしかにアバウトに聞きすぎたかもしれないけど、俺だって何からどう聞けばいいか分からないんだからそんなバッサリ切らなくても…! もっとこう、会話を続けようとしてくれてもいいじゃんか…!

 早くも心が挫けそうになったその時、弥勒くんが続けて言った何気ない一言が意外な突破口になることとなった。


「むしろ多種多様さで言ったら断然あやかしの方が上なわけだし、数だって多いんだから一々説明してらんないってのー」

「…え?」


 バリバリと何枚目かの煎餅をかじるチャラ天狗の言葉に目を瞬かせる。

 きょとん顔の俺を見て逆に訝しんだ弥勒くんが“なにさ?”っていう顔付きで片方の眉を上げたのを見て、慌てて頭に浮かんだ疑問を口にした。


「かっ数が多いって、あやかしの数がってこと? えっ、あやかしってそんなたくさん居るもんなの?」

「…そりゃ人間様に比べたら少しばっかし少ないかもしんないけど、それなりに居んじゃない? その辺の歩いててもフツーに出会でくわすし、ただ見えない人間には気づかれないってだけで。アレアレ、外歩きながらスマホで街中のモンスターをゲットするゲームあんじゃん。俺の体感的にはアレより出会す頻度は多い感じ?」

「え!?」


 おっ思った以上に居る!

 それなりっていうのがどのくらいの数か分からなかったけど、超メジャーな某有名ゲームを引き合いに出されて衝撃が走る。

 アレより多いって、えっ予想外の遭遇率なんだけど!


「逆に孝太クンは何であやかしがそんな居ないもんだって思ってんのー?」

「や、何か…なっ何となく? あやかしって数がすごく少ないイメージがあるっていうか…」

「なにそれ変な偏見ー、今ここに居んの孝太クン以外全員あやかしなんだけどー?」


 ケラケラ笑う弥勒くんに俺も自分で言いながら首を傾げた。

 いや、だって、…あれ?

 言われてみれば、何でだろ?

 俺が見たことあるのって両手の指におさまる程度で少ない方だって思ってたけど、そもそも最近あやかしが見えるようになったばかりなんだから妥当な数なんじゃ…。

 むしろそう考えると多い方なんじゃって、今更ながら思ったり。

 一人不思議がる俺の向かいで弥勒くんは肩をすくめると、あぐらをかいたまま軽く仰け反るように後ろに両手をついた。


「まあ俺達の世界でもあやかしは昔に比べて数がかなり減ったとか弱くなったとかまことしやかに言われること多いけどさー、それって単に年寄り連中が“昔はいい時代だった”って自慢半分に懐かしんでるだけで実際はそんな言うほど変わってないと思うんだよねー。在り方が変わっただけで」

「…あ、」


 それを聞いて俺は思い当たった。

 自分の持ってる先入観がどこから来たものなのか。

 なぜなら今弥勒くんが言ったセリフと似たようなことを、以前イオリくんの口から聞いたことがあったからで…


『今の世じゃ、自らの力で実体化・可視化できるあやかしは一握りだろう。そもそも数自体だいぶ減ってるからな、大抵のあやかしは闇に紛れてひっそり生きるだけだ』


 たしか言ってたそんなこと。

 思わずチラッと縁側で横になってる真っ白なモフモフを見れば、それを察したかのように片目を開けたイオリくんと目が合う。

 俺が何か言う前に、フンッと鼻を鳴らしたおキツネさまが口を開いた。


「悪かったな、年寄りで」

「おっ俺が言ったんじゃないじゃん」


 俺とイオリくんのやり取りを見て何かを察した様子の弥勒くんが、少し焦ったように身を乗り出した。


「あ、え、なになにちょっとー。それじゃ俺がイオリちゃんディスッたみたいじゃん、違うよ違うー。確かに一時期減ったっぽいのは事実だし弱体化したやつもいるけど、新たに生まれたやつもいるから全体的に見ればあんま変動してないんじゃないかなーっていう推測であくまで俺調べの話っていうかー」

「別にフォローせんでいい、それこそ俺がそいつに話したのは俺の目の届く範囲に居る奴らを見て推測した内容だ。言ったろ、お山から出なかった俺じゃ情報に偏りがある。その為に顔の広いお前を頼ったんだ、弥勒」

「イ、イオリちゃーん」


 頼ったって言葉に感動したように胸を押さえ、ハートが飛んでるのが見えるくらい熱くイオリくんを見つめるチャラ天狗。

 さっきまでやる気なさそうだったのが一変して見るからに機嫌がよくなったのが分かった。

 そんな二人の会話を聞いてまた一つ疑問に思ったことがあって、座卓の上で持参したあやとりで遊び始めてたみーちゃんとひーくんにコソッと話しかけた。


「顔が広いって、弥勒くんってそんなに知り合いが多いの…?」

「そうね、ミロクさまは“こみゅりょくおばけ”って呼ばれるくらい人間にもあやかしにも友人が多いわ。性格がああだから敵を作ることも多いけれど」

「ミロクさまは保守的な天狗には珍しい“こみゅりょくおばけ”だからな、色んなところにツテを持っていて早耳なのだ。生憎と耳だけじゃなく手も早いがな」

「コ、コミュ力お化け…」


 ふたりともどこから仕入れたのそんな言葉。

 みーちゃんひーくんの口から出た意外すぎる言葉に呆気に取られつつも、思わず納得。

 確かに軽いノリやよくしゃべる口はコミュ力かなり高めって言えるかも。

 実際イオリくんとこうして知り合いなんだってことがそれを裏付ける。

 もし二人が学校に居たら、イオリくんは…性格は俺様だけど猫を被れる優等生タイプで、弥勒くんはその…見るからに不良な問題児タイプっていうか。

 普通なら交わらないはずの二人なのに、弥勒くんのコミュ力の高さでイオリくんの友人枠をゲットしたんじゃないかなって想像できて思わず感心してしまう。

 そう言えばイオリくんって、お山の祠に籠り気味だったはずなのに最近の知識や流行り言葉を意外と知ってたよな。

 あれってもしかしなくても弥勒くんの影響だったりすんのかな…?


 そうしてイオリくんの言葉で気を良くしたチャラ天狗は、俺が質問する前に自分の方からペラペラしゃべり始めた。


「言ったようにあやかしは人間に比べると数は劣るけど、それでも淘汰されることなく時代の変化に適応して自らの在り方を変えて生き残ってきたわけよ。まあ俺が見てきた感じだと、現代社会いまに生きるあやかしは大きく分けると5つのタイプに分かれるかなー」


 顔の横でひらひらと広げられた右手の親指が、まず最初に折り曲げられた。





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