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ヤツユビの影


pt、ブクマ、感想ありがとうございます。

嬉しいです励みになります。







 目の前に、緑豊かな森が広がっていた。

 土と木の匂いが濃く漂って、爽やかな風が吹き抜けてとても気持ち良かった。

 けど突然、バキバキバキ!と何かが壊される大きな音がすぐ近くで聞こえた。

 巨大な凶器が、何かを粉々に破壊しようとしていた。


『やめて! お願いやめて!』


 悲痛な叫び声が、耳に響いた。

 まるで自分のことのように胸が痛くて、苦しくて、悲しくて堪らなくなった。

 恐ろしい凶器が、再び降り下ろされる。

 必死に止めようとするけど敵わない、には止められない。


『やめて、やめてやめてやめて!』


 壊される、消されていく。

 やめて、お願いやめて。

 お願いだから、お願いだから――…!



『お母さんを、殺さないで!!!』






「――っ!」


 バッ!と飛び起きた俺は、バクバクと激しく鼓動する胸を押さえた。

 汗が額を伝って、ハアハアと荒い呼吸を繰り返す。

 さっきまで森の中に居たはずなのに、いつの間にか自分の部屋のベッドに寝ていて訳が分からず混乱した。

 深呼吸を繰り返して、ようやく落ち着く。


「ゆ、夢…?」


 あれ、俺いつ寝たんだっけ?と、寝る直前の記憶を呼び起こす。

 あっそうだ、金平糖。

 あやかしの作った金平糖を食べて、気を失うように眠っちゃったんだ俺…。


(今のが、笹夢の金平糖が見せるっていう面白い夢…?)


 面白いっていうか、何かすごく不安になる夢だった。

 訳が分からない内容だったけど、誰かのお母さんが殺される夢だってことは分かった。

 すごくリアルに感情が伝わってきて、悲しい気持ちが胸に残っていた。

 てか俺どんくらい寝てたんだろ、窓の外真っ暗なんだけど。


――ガチャッ…


 その時部屋のドアが開いて、パチッと部屋の電気がついた。

 ドアから顔を見せたのは母さんで、起きてる俺を見てホッと息をつく。


「あら、よかった孝太。起きたのね、ずっと寝てるから心配したのよ。具合でも悪いのかと思って」

「う、ううん。大丈夫」


 そう言った途端ぐううっと俺のお腹の音が鳴ったのを聞いて、母さんは安心したように微笑んだ。


「晩ご飯もうとっくにできてるから、早く来なさい」

「かっ母さん」

「ん、なーに?」


 部屋には入らずリビングに向かおうとした母さんを思わず呼び止める。

 けど呼び止めたものの別に何か話があったわけでもなくて、強いて言えばその…確認したかったっていうか。

 変な夢を見たせいか不安な気持ちが残ってて、けどいつも通りの母さんを見てほっと肩の力が抜けるのが分かった。


「…何でもない、呼んでみただけ」

「なぁに、変な子ね」


 母さんはおかしそうに笑うとパタパタとリビングへ。

 部屋の時計を見たら夜の8時を大きく回ってて、帰ったのが5時過ぎくらいだったから大体3時間近く眠ってたことになる。

 何かホント、変な夢見ちゃったなぁ。寝汗すごくかいたし。

 イオリくんの言った通り、夢を見るっていうか夢に襲われた気分だよ……って。


「…あれ、イオリくん?」


 ベッドから下りようとして、ふと部屋の中に自分以外の気配がないことに気がついた。

 イオリくんだけじゃなく、みーちゃんやひーくんも居ないみたいで首を傾げる。

 どこ行ったんだろ、また散歩にでも出てるのかな…?


「孝太ー、早くご飯食べてお風呂入っちゃいなさーい」

「はーい」


 イオリくん達が居ないのが少し気になったけど、みんなすぐ戻るだろうって思って俺は少し遅めの晩ご飯を頬張った。

 けどその夜、日付が変わってもイオリくん達が戻ってくることはなかった――…。






「やばいやばいやばい! 遅刻するうううう!」


 翌日、俺は朝から猛ダッシュで学校に向かっていた。

 イオリくん達が帰ってこないのが心配で、あと変な時間に寝たせいで全然眠くならなくて夜更ししちゃって。結果、寝坊してしまった。

 いつも通ってる通学路じゃなく近道の空き地を突っ走って、用水路をジャンプして飛び越えて、自分の背より少し高いブロック塀を手をついて乗り越えた。

 そうしてチャイムが鳴る5分前、まだ先生が門を閉める前に俺は校内に滑りこんだ。


「ハァ、ハァ、ハァ! まっ間に合った…!」


 セ、セーフ! はーっ、よかった遅刻しなくて。

 全力で走ったせいで汗をかいて暑くって、服をパタパタさせながら靴箱に向かう。

 けどその途中、こっちに駆けてくる雄大の姿を見つけたんだ。


「あ、おはよう雄大。昨日あれから大丈夫だった…」

「そんなことより大変だ孝太! こっちだこっち!」

「わっ! なになに!?」


 雄大は俺の手を掴むと、そのままバタバタと裏庭の方に向かって走り出した。

 ちょっ、俺今走ってきたばかりなんだけど!?


――ざわざわざわ、ざわざわざわ…

「な、何これ? 何の騒ぎ?」


 雄大に連れていかれた裏庭には、たくさんの生徒で溢れ返っていた。

 裏庭に面した校舎の窓から顔を出してこっちを見下ろしてる子も何人もいて、全員が見つめる先では先生達が声を上げてみんなを追い払おうとしていた。


「ほら校舎に戻りなさーい! 教室でそれぞれ担任の先生から説明があるから、それまで大人しく待ってるようにー!」


 俺は雄大に引っ張られるまま付いていって、人垣をかき分けて一番前に。

 そこでは数人の先生達がまるで飼育小屋を隠すように立っていた。

 けど身体の間から、バッチリ見えたんだ。


 散らばった羽毛が、地面に広がる赤黒い染みが。

 飛び散った内臓が、横たわる動物の死体が。

 真っ赤な血にまみれた、飼育小屋が…。


「ひ、ひどい。何あれ」

「全部死んでる、ウサギもニワトリも全滅だ」


 あまりにも残酷な光景に言葉を失う。

 風に乗って鉄っぽい匂いが鼻をついて、それが血の匂いなんだ分かって手で鼻を覆った。


 昨日ヤマトと一緒に撫でたあの茶色のウサギが血塗れで横たわって、ピクリとも動いてないのが見えた。

 ニワトリの首がスパッと横に切られて、地面に転がっていた。

 あんなの、まるで。

 鋭い刃物で横に、切り裂いたみたいな…。


『雲竜のノートによるとヤツユビは糸を使って獲物を捕らえ、糸を使って肉を切り裂き、糸を使って人を操り悪事を繰り返すあやかしだそうだ』


 その瞬間、イオリくんが言ってたことを思い出した。

 糸を使って、肉を…切り裂く。


 え、うそ。まさか、ヤツユビが…?

 昔雲竜さんが退治して、つい最近俺が退治したヤツユビが、また現れたってこと…?




**



 それから緊急の職員会議が開かれて、先生達は職員室に集まって教室には生徒達だけが残された。

 静かにしてるようにって言われてたけど、みんな席を立ってそれぞれ友達と話してた。

 可哀想って女子は泣いてて、男子は異常者の仕業だって騒いでた。

 窓際の俺の席の周りにも、雄大と春が集まっていた。


「きっと犯人は駄菓子屋のオヤジさんが言ってたやつだぜ、シロを傷つけたのと同じ犯人だ。ちくしょう、ひでぇことしやがる」

「うん、本当怖いよね…」


 目をつり上げて怒る雄大と、悲しそうに眉を下げる春。

 俺は俺で二人が心配するのとは別の不安を抱えてて、一人黙りこくっていた。

 ヤツユビはもう倒したんだし、人間の異常者がやったって考えるのが普通だよな。動物虐待のニュースとか、たまに見るし…。


(でももしかしたら、ヤツユビの仕業なんじゃ…)


 いやでもイオリくん、ヤツユビは2匹だけって言ってたし…。

 いやいや、でもでも…。


 ぐるぐる、ぐるぐる。

 堂々回りの思考にどんどん不安が大きくなっていく。

 そんなふうにうんうん悩みつつ、朝から走ったせいで喉が渇いてた俺は自分の水筒のお茶をゴクゴク飲んで、気持ちを落ち着けようとした。


「…ん?」


 その時ふと、自分のランドセルについてるキーホルダーが目に入ったんだ。

 あれ? 俺、ランドセルにキーホルダーなんてつけてたっけ?


(…え? このキーホルダーって…)


 つけた覚えのないキーホルダーは、前に一度だけ見たことがあった。

 平べったいアクリル製っぽいそれは、動物のキャラクターを象っていた。

 そして次の瞬間、そのキャラクターが口元にニヤッと笑みを浮かべ…て……。


「ぶーーー!?」

「わっ、きたねぇな孝太!」

「孝くん、大丈夫?」


 飲んでたお茶を口から吹き出す。

 ごほごほ咳き込む俺の背中を、春が優しく擦ってくれた。


「ごっごめん、俺ちょっとトイレ行ってくる!」


 俺は空色のランドセルを掴むと、慌てて教室のドアから廊下に飛び出した。

 そんな俺の背中を、雄大と春はポカンと口を開けて見送った。


「…孝太のやつ、何でトイレ行くのにランドセル持ってったんだ?」

「…さ、さあ?」






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