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vs.オオヌマ④(※嘔吐、流血表現有)






 急いで隣の部屋に入る。

 レースカーテンが風に揺れてて、縁側の窓が開いてるのが見えた。

 オオヌマが、すぐ後ろまで迫ってるのを感じた。


 おっお前みたいデブっちょ妖怪に捕まってたまるもんか!

 学年で十本の指に入る脚力を舐めんなあああ!


「うりゃあああ!」


 裸足のまま縁側から庭に向かって大ジャンプ。

 けど勢いがよすぎたせいで着地の時に足がもつれて、そのままゴロゴロと全身で地面を転がってしまう。

 庭に置かれた大きな庭石にぶつかって、ようやく身体が止まった。


「ったぁ~…!」


 身体中あちこち打って痛かった。

 土で服が汚れて、かろうじて弓は離さなかったけど筒に入ってた残り2本の矢が庭に散らばってしまったのが見えた。


「アアア゛ァアア…!」


 ハッと顔を上げればオオヌマが俺と同じように縁側から大きくジャンプして、飛びかかってくるところだった。

 おっ大きいのに身軽すぎだし、アイツ身体の中身ちゃんと詰まってるのかよ!?

 ていうか月明かりの下で見るとやっぱり気持ち悪いいいっ!


「のわああああ!」


 悲鳴を上げながら俺はまたゴロゴロと転がってオオヌマを避けた。

 運よく近くに落ちてた矢を一本拾って、振り向きざまにオオヌマに向けて放つ。

 けど今度はオオヌマが後ろに大きくジャンプして、俺の矢を避けてしまった。


「くそ!」


 全然当たらなくて焦りと不安ばかりが大きくなっていく。

 それでも立ち止まってるひまなんてなくて、オオヌマとの距離ができた今のうちに俺は急いで最後の一本を拾いに走った。

 けど…


「コータ! 待てコータ!」


 矢を拾う寸前、肩を揺すられて顔を向ければ大きく潤んだ目が一つだけ…ひーくんだけが俺の肩につかまっていた。

 え、ひーくんだけ? みっ、みーちゃんは!?


「落ちた! あそこ、あそこだ!」


 ひーくんが指差した方を見れば、俺とオオヌマのちょうど中間くらいに小さな身体を見つけた。

 どこか怪我をしたのか、大きなひとつ目を両手でこすって涙を零していた。

 みーちゃん! しまった、さっき俺が転げ回ったせいで振り落としちゃったんだ!


「アアァ゛! に゛んげんの子供、くくく食ろうてや゛るうう!」


 再びオオヌマが俺に向かってズリズリと突進し始めた。

 その途中に、みーちゃんがいる。

 このままじゃ、みーちゃんがオオヌマの大きな身体に潰されてしまう…!

 ここから走っても助けようにも、今からじゃ間に合わない!


「――っ!」


 オオヌマが迫り来る中、俺は最後の一本を拾い上げると弓矢を構えた。

 けど今度はすぐには射たずに、グッと弓を引いて狙いを定める。

 オオヌマがどんどん俺に、みーちゃんに迫っていた。


『破魔の弓矢は普通のやつとは違うんだ。威力は精神力で決まる、気力で引け。弓を引く自分の姿や射た矢の行く先を、ちゃんと頭に思い浮かべろ』


 イオリくんに言われたことを思い出す。

 気力、つまり気持ちだ。俺の気持ち次第で威力が変わる。

 慌てちゃダメだ、集中するんだ。

 イメージする。自分の姿を、オオヌマの身体に矢が深く命中するところを、俺の矢がアイツを倒すところを。

 俺はみーちゃんを助けたい、ばあちゃんや母さんを守りたい。

 あんなやつに、みんなを奪わさせやしない!


「っ、いっけええええ!」


 シュバッ!と勢いよく放たれた破魔矢はこれまでになく速く、鋭く空気を切り裂いた。

 オオヌマが避ける間もなく、大きな口の上にある目の一つに深くに命中する。

 やった!と、一瞬喜びかけた。

 けど突き刺さった矢はそのまままるでオオヌマの体に吸い飲まれるように入っていって、見えなくなってしまったんだ。


(う、うそ…。失敗、した…?)


 絶望に顔を歪めた、その時。

 ボンッ!と、まるで爆発したみたいにオオヌマの身体の一部が吹き飛んだ。


「ギッ!? ギア゛ア、ァア゛アア!」


 オオヌマが苦しそうにのたうち回る。

 口の上、頭にあたる部分の半分がボコッとなくなっていた。

 それはちょうど矢が入っていったところで、俺はその威力のすごさに呆気に取られた。


「す、すごい…」


 はっ破魔の弓矢って、イオリくんの言う通りにちゃんと使うとこんなにすごかったんだ…。

 身体を吹き飛ばされたオオヌマの気が逸れてる内に、俺は急いでみーちゃんの元に駆け寄った。


「みーちゃん! 大丈夫!?」


 破魔弓を肩にかけて、空いた両手で小さな身体を抱き上げる。

 涙を流していたみーちゃんは、パッチリと大きな目で俺を見上げて頷いた。


「コータ、平気よ。目にゴミが入っただけだから」

「コータ、平気だそうだ。めっ目にゴミが入った、だけだそうだ」


 涙目のみーちゃんを同じく涙目のひーくんが俺の肩から下りてヒシッと抱きしめた。

 な、なんだ。ゴミが入っただけか。

 どこも怪我した様子はなくてホッとする。


 よかった、無事でよかったと安心して息をはいたその時、フッ…と俺達に大きな影が覆い被さったんだ。


「「コータ、後ろ!」」


 ふたりが声を上げた時には、もう遅かった。

 俺が振り返る間もなく、ブォン!と鞭のようにしなった触手が俺の身体に叩き付けられた。


「あぐっ!?」


 後ろから脇腹に衝撃を受けて、吹き飛ばされる。

 とっさに腕の中のみーちゃんとひーくんを抱き込んで、ふたりを守りながらズザザッ!と地面に転がった。


「うっ…、うっ…」


 襲った衝撃が強すぎて、一瞬何が起こったのか分からなかった。

 頭、背中、腹、腕、足――全身に激痛が走った。

 膝を擦りむいて、血が流れてるのが見えた。

 痛みと一緒に吐き気も込み上げてきて、俺は口から胃液を吐き出した。


「うぇっ…! ハア、ハア…!」


 口の中が酸っぱくて、視界が涙で滲んだ。

 頭も切ったみたいで、こめかみに血が伝うのが分かった。

 ダメージが大きすぎて、すぐに起き上がることができない。


「コータ! 起きてコータ!」

「コータ! 逃げるんだコータ!」


 みーちゃんとひーくんが小さな手で必死に俺を揺り動かす。

 何とか肘をつきながら顔を上げれば、身体の一部を失って怒り狂ったオオヌマの姿があった。

 ズボズボズボッ!とオオヌマが何本もの触手を生やし、俺を叩き潰そうと振り上げる。


「にに゛んげん゛のごどもめ、よよよぐも我の身体をおお゛ぉおお…!」


 俺は動けない、身体に力が入らない。

 抵抗したくても手元にあるのは破魔弓だけで、矢はもう残ってなかった。

 痛い、怖い、苦しい、…悔しい。

 こんな、こんなふうに終わるなんて…!


「ふたり、とも…! 逃げてっ…!」


 せめてみーちゃんとひーくんだけでも逃がそうとした。

 けどふたりは首を横に振ると、俺にひしっと抱きついたまま動こうとしなかった。

 オオヌマの触手が俺達めがけて、ブオンッ!と振り下ろされる。


(もう、避けられない…!)


 俺はみーちゃんとひーくんを庇うように腕の中に抱きこむと、ギュッと目を瞑った。



 ごめん、ばあちゃん。ごめん、母さん。

 俺、頑張ったけどダメだったみたいだ。

 ここで終わりみたいだ。

 ごめん。二人を守れなくて、ごめん…よ……。






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