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vs.オオヌマ③





「きっと岩に封印されてる間に弱ったのね、あれならコータの弓で倒せるかもしれないわ」

「きっと雲竜の封印によって力が削がれたのだな、あれならコータの矢も効くかもしれないぞ」


 ふたりに励まされ、俺は両手でグッと弓を握った。

 見た目グロいし臭いも最悪だし、身体も俺よりずっと大きいくて気持ち悪くて堪らなかった。

 でもふたりの言う通りオオヌマが弱くなってるなら、俺でも倒せるかもしれないと希望が湧く。

 それに…


(この家には俺だけじゃなく、母さんとばあちゃんも居るんだ…!)


 めっっっちゃくちゃ怖い。

 今まで生きてきた人生の中で一番って言えるくらい恐怖、緊張、不安がマックス状態。

 でも俺がここで逃げ出すわけにはいかない。

 オオヌマが二人に何かする前に、アイツを家から追い出さなきゃ…!


「おっ俺、行ってくるよ。みーちゃんとひーくんは危ないからここに隠れてて」


 一人で行くのは怖かった。

 けど小さなふたりを危険な目に合わせるわけにはいかなくて、みーちゃんとひーくんは置いていこうって思った。

 でもふたりは大きなひとつ目でジッと俺を見上げると、口々にこう言ったんだ。


「あらコータ、わたしたちを置いて一人でオオヌマを探すつもりなの?」

「しかしコータ、おれたちも一緒の方がオオヌマを見つけやすいと思うぞ?」

「目が二つより四つの方がいいと思うわ」

「目が二つより四つの方がお得だぞ」


 ふたりの説得に目をパクチリさせた俺は、嬉しくなってえへへと笑みをこぼした。


「ありがとう、すごく頼もしいや。えっと、じゃあ一緒に来てくれる? でも危なくなったらすぐ俺から離れるんだ、分かった?」


 仲良く頷いたふたりを肩に乗せる。

 念のためスマホをズボンのポケットにしまった俺は、少し考えたあとブレーカーを上げにいくのは止めることにした。

 目もだんだん暗闇に慣れてきたし、カーテンや障子のすき間から月明かりが差し込んで完全に真っ暗ってわけでもなかったし、停電したままでオオヌマを探すことに。

 だってあんなキモいやつと明るい中戦うなんて絶対無理だし!

 暗い方がまだマシ! あんなのを明るい電気の下でよく見たら、俺絶っっっ対気絶する!




「ハア、ハア、ハア…!」


 ギシッときしむ廊下。

 ふすまやドアをそっと開けて、部屋の中を一つ一つ確認していく。

 音に気づいたアイツがどっかからか飛び出してくるんじゃないかって思うと無意識に呼吸が荒くなって、心臓のバクバクが止まらなかった。


(そういやオオヌマって、あんまり目がよくないのかな…?)


 一瞬照らしただけだったけど、スマホのライトに反応しなかった。

 それに大きな口はあったけど目っぽいものはなかった。

 だったら俺達の方が有利だよな。何てったってこっちは目が四つだ、へへっ。

 俺はそんなことを考えながら、恐怖に負けそうになる心を奮い立たせた。


「アアア゛ァァ゛ア…」

「っ!」


 その時、長い廊下の曲がり角に差し掛かったところでまたアイツの声が聞こえた。

 それと共にあのイヤな臭いを感じて、俺は手で鼻を覆った。


「近い、近い。居るわ」

「近い、近い。そこだ」


 ふたりが指差した、廊下の先。

 ゴクリと喉を鳴らした俺は弓を握り締めながら、曲がり角からそっと顔を出す。

 障子窓越しに淡く月明かりが差し込む廊下の先に、そいつは居た。


 みっ見つけた、オオヌマだ。

 ふたりから聞いてた通りオオヌマは自在に身体を変形できるみたいで、大きな身体を廊下に合わせて細長くしてズリズリと進んでいた。

 この先にあるのは、ばっばあちゃんの部屋だ…!


『あと一度でもオオヌマに精気を吸われたら終わりだろうな』

「…っ」


 イオリくんの言葉が脳裏を過る。

 俺はとっさに廊下の角から飛び出すと、筒から矢を取り出して弓を構えてオオヌマの背後に立った。


 矢の数は十本。オオヌマは長い廊下の一番奥。

 緊張から汗が吹き出して、喉がカラッカラに渇いて、手が小刻みに震えた。

 でも練習してた的よりアイツはずいぶん大きいし、この距離なら外すことはない。


(イケる…!)


 ギリギリと力一杯弓を引き、狙いを定めて破魔矢を放った。

 シュバッ!と空気を切り裂き、勢いよく矢が飛んでいく。

 そしてオオヌマの大きな背中のだいたい真ん中辺りに、ズバッ!と矢が命中した。


「ギッ!? ガアアァ゛ァ!?」

「や、やった!」


 矢が刺さったオオヌマが苦しそうに仰け反った。

 やった、効いてる! 俺の矢でもちゃんと効くんだ!

 これならオオヌマをやっつけられるかもしれない!

 そう喜んだのも、つかの間だった。


――ズボッ!

「え…?」


 オオヌマの身体から手足とは別に長い触手みたいなものが生えて、背中に刺さった矢を抜き取ったんだ。

 それだけじゃない。

 突然オオヌマの背中に目玉がボコッと五つも現れて、いっせいにギョロッとこっちを見てきた。


「ご、ども…? こども゛、見エ゛る…? 我ガ、見える゛…? こども、コドモ子供ゴドモ!」


 コ、コイツ目があったのか…!? てか言葉がしゃべれたのか…!?

 まっまさかあの目も、今まで取り込んできたひと達の…!?

 オオヌマは廊下の壁を這ってまるでムカデみたいにUターンすると、今度は口の上にボコボコと目を生やしてニタァッと大きな口を歪めて俺を見た。


「ううう、うま゛そう、だぁ…!」

「ヒッ!」


 俺は急いで二本目の矢を取ると再び放った。

 けど慌てすぎたせいで、今度はオオヌマの頭の上をかすっただけで天井に当たってしまう。

 オオヌマは身体から触手を生やすと、ズゾゾゾゾッ!と俺に向かって伸ばしてきた。


「オオヌマに捕まってはダメよコータ、食べられちゃうわ」

「オオヌマの触手に捕まるなコータ、絞め殺されるぞ」


 ふたりに注意されて俺は急いで角を曲がって廊下を引き返した。

 巨大でグロテスクな化け物が触手をくねらせながら、人間の手足を使って俺のあとをズリズリズリズリ!と高速で追いかけてくる。


「~っ、キモいキモいマジでキモいいいいい!!!」


 とうとう我慢できずに絶叫しながら廊下を全力ダッシュ。

 怖さと気持ち悪さがいつもより俺の足を速くした。

 途中俺の叫び声が聞こえたらしい母さんが、風呂場から声をかけてきた。


「どうしたの孝太ー!? ブレーカーまだー!?」

「め、めちゃくちゃでっかいゴキが出たからちょっと待ってて! 母さんが見たら気絶するレベルだから今退治してるとこだからまだお風呂から出てこないで待ってて!」

「わ、分かったー!」


 母さんはゴキが苦手だからこう言っておけば大丈夫!

 実際俺が相手してるのはゴキの何万倍も大きくて何億倍も気持ち悪いやつだけど!

 一瞬オオヌマが母さんの声の方に行くんじゃないかって心配して振り返ったけど、脇目も振らず俺を追ってきていた。

 かっ母さんが狙われないのはよかったけど、何で俺ばっかりに向かってくるんだよおおお!


(いっいつまでも逃げてちゃダメだ…! どこか、どこかアイツを迎え撃てそうな場所は…!)


 走りながら必死に考えていた俺の頭に、ある場所が浮かぶ。

 それまで以上に猛ダッシュ、オオヌマを少しでも引き離す。


「あった、ここだ!」


 目当ての場所にたどり着いた俺は、ふすまを開け放って畳の部屋に入った。

 それをさらに二回繰り返せば、仏間に出る。

 廊下から三つの部屋が繋がって、お盆や正月に親戚で集まる時に使う大広間ができた。

 よしっ、ここなら…!


「こども゛、ごどもおおお…!」


 充分な距離と場所ができたところで振り返れば、最初の部屋にオオヌマが入ってきたところだった。

 弓を構えて、オオヌマ向かって矢を放つ。


「ヴ、ウガガアァ…!」

「よしっ、当たった!」


 でも最初の一撃ほどの効き目はなくて、オオヌマは少しだけ怯んだあとまた猛然と俺に向かってきた。

 次々と破魔矢を放つ。

 けどいくら身体が大きくても動いている相手を射るのは難しくて、その上オオヌマは巨体なのにまるで重力がないみたいに壁や天井に張りついた。


 身体をブニョブニョと変形させては、俺の矢を避け続ける。

 さらに柱やふすま、天井近くの欄間が邪魔してオオヌマの身体に当たらない。


(こっここもダメだ…! そうか、家の中じゃ障害物が多いから矢が当たりにくいんだ…!)


 残りの矢は、あっあともう二本しかない…!

 このままじゃ無駄に矢を使うだけだ、もっと見通しのいい広いところじゃないと…!


「コータ隣の部屋よ! 窓が開いてるわ!」

「コータあっちに走れ! 外に出るんだ!」


 みーちゃんとひーくんの声にハッとした俺は、ふたりの指差した方に向かって走り出した。





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