七章 物静かな少女と活発な少女
翌朝。学校の始業式が始まった。ピンク色に染まった桜がひらひらと舞う。
「おはよーさん! サミ!」
いつもの声に呼ばれ、足を止めて振り返った。声の主は、もちろんハズ。隣で歩く遊馬も振り返ってにこりと笑った。
「……」
「おはよう。えっと、ハズさん。それから、さくら」
「俺の名を気安く呼ぶなっ!」
「おっはよう! 遊馬! サミちゃんも。名前決めた?」
ハズの隣のさくらが遊馬の隣に並び、明るく挨拶する。遊馬がさくらの質問に少し眉間に皺を寄せた。
「それが、決めてなくて……」
「ふーん、そっか。えっとね、ハズは、ハジメにしたの」
「どうやって書くの?」
「創作の創で、はじめ」
「そうなんだ! サミ、今日から俺を創って呼べよ!」
「……うるさい」
ハズの声が耳元に響く。遊馬が隣で苦笑した。
「すごくいいよ。サミはどうしよっか」
「なっ。お前、サミってなれなれしく……」
「ハズ黙って」
「はい……」
「じゃあ、美咲ってどう?」
「ミサキ?」
「そ。美しく咲くで美咲。けっこう可愛いと思う」
「あ、そうだね。サミ、それでいい?」
「……何でも」
「そっか。よし、美咲で決定! あ、でもあたしたちは、ハズとサミだからね。ところで、サミちゃん」
さくらが、サミをじっと見つめた。その視線は真っ直ぐにポニーテールに結んだ髪に向けられていた。
「……何?」
「ポニーテールも可愛いけど、ちょっと、いじらせて」
「え?」
さくらは言うと同時にサミのポニーテールを結んだ黒いリボンをほどいた。黒髪が桜と共に舞う。サミは即座になびく髪を押さえた。
さくらはサミの手をどけ、サミの髪をいじりはじめた。
「ちょっ……」
「静かに! あたし、けっこう髪をいじるの好きなんだ。だからちょっと、こうして――」
約一分。サミの髪はポニーテールからツインテールに変わっていた。右側に黒いリボンがなびいて、左側には、さくらから借りた黒いゴムが輝く。
「ぬおっ」
「うわっ」
ハズと遊馬が感嘆の声を漏らした。ハズは頬を赤く染めてじっとサミを見る。サミも顔を赤くした。
「ほら、可愛い。あたしとおそろだよ」
「……」
サミが無言でうつむく。遊馬はにっこりと微笑んで見せた。
「すっごく素敵だよ。サミ」
「なっ」
「むぅ」
ハズとさくらが、声をあげた。サミは顔をあげ、無表情で遊馬を見た。
「……ありがとう」
小さくて、聞こえづらい声だったが遊馬にははっきりと聞こえて、嬉しくなり、目の前のサミが愛らしく感じた。
「みぃつけた」
平和な時間を過ごしていると、どこからか、低い寒気がするような声がした。
えー、次回は戦闘シーンを入れたいと思っています。