三章 人を狩る族に生まれた少女
「人を狩る族?」
遊馬はゆっくりと、サミの言葉を繰り返した。サミは小さく頷いた。そして、ベットから起きだして遊馬の横を通り、遊馬に向き直る。
「あたしたちは、望みを叶えるために人間の魂をこの鎌で狩るのよ」
サミは自分の右手をゆっくりと開き、その右手を見た。刹那、サミの右手から黒い光が溢れ出し弾けた。その光は鎌の形へと変化し、また弾け、消えた。
サミの右手にはしっかりとサミよりも大きな鈍色の刃を持つ黒い鎌が握られていた。
「うわ……すごい」
遊馬は思わず感嘆の声を漏らした。
「あたしは、あんたの命を今すぐにでも、奪える」
サミが鈍色の刃を遊馬の首元に向けた。後、数センチのところで刃が止まる。少しでも動けば、切れてしまいそうだ。
「本当?」
「本当よ」
サミは真っ直ぐ遊馬を見た。遊馬も動かない。しばしの沈黙が流れた。
「す、すごいや!」
先にこの沈黙を破ったのは遊馬だった。
「本当にいたんだ! 死神なんて! うわっ、僕、初めてだよ!」
遊馬は自分が鎌を突き立てられているのにも関わらず、興奮気味に言った。
サミはその遊馬に驚き、遊馬に刃を向けるのをやめ、ゆっくりと降ろした。
「じゃあ、この鎌で人をぐさってやるの!? あ、それとも、ザンって横から切るのかな? ねえねえ、この鎌で切られると痛みってあるの!?」
遊馬の表情はまるで、新しい玩具を見つけた子どものような幼い表情をしていた。興奮して頬がピンク色に染まっている。遊馬の表情がハズに重なった。
急に寂しくなり、遊馬にばれないようにふーっと息を吐く。
「あんたは殺さないわ。あたしを助けてくれたんだし。それじゃ、あたし、行くから」
サミは右手の力を緩めると、また黒い光が鎌を包み、やがて鎌は消えた。サミはそれを見届けると、扉のドアノブに手を伸ばした。
遊馬は驚き、サミの白く細い腕を掴む。しかし、その白い腕は意外にもすばやく動き、掴んだ遊馬の手を振り払った。
「あ、ごめん。でも、待って」
同時にサミも振り向く。そして、無言で睨んできた。
サミの顔に険悪の表情が浮かぶ。
「何?」
「あ……も、もうちょっと休んでいかない?」
「いい」
「うっ。あ、あのさ、お願いがあるんだけど……」
遊馬は少しサミから視線を外した。こんなこと言っていいのだろうかとためらってしまう。
しかし、遊馬は決意したように、サミへ視線を戻して、言った。
「僕の……僕の魂を取ってほしい」
「いや」
即答だった。あまりの速さに拍子抜けしてしまう。
「何で?」
遊馬は声を絞り出すように言った。ドアノブに手をかけたサミの手が止まる。
「人に頼まれて狩るものじゃないわ。そんなに軽くない」
サミが振り返り、冷血な目で遊馬を見る。遊馬は体を震わせた。恐怖で崩れそうな足を何とか持ちこたえる。
「あんたさ、勘違いしているようね、デス・パンプキンは何も思わずに人間を殺しているわけじゃないの。望みを叶えるために人を殺す。何も思わずに殺すデス・パンプキンっていないわ」
「望み? 人を殺すほど、デス・パンピキンが殺したい望みって?」
「デス・パンプキン」
「あ、ごめん」
「……言うならば、人間界に住む……」
「人間界に住む? サミもそうなの? 人間界に住んでどうしたいの?」
サミは答えなかった。時計の刻む音が部屋中に響く。
やがて、サミは小さく息を吐いて、言った。
遊馬の発言、ちょっとやばかったですね。
遊馬はそんな子なので、これからも暖かく見守ってください。笑