プロローグ2
空に黒髪が舞う。黒髪をポニーテールに結んだ少女が鈍色の刃の彼女よりも大きい黒い鎌を持って宙に浮いていた。
「今回のターゲット……これで、四百四十四個目の魂……」
彼女はポニーテールの髪を風になびかせ、幼さがまだ残る顔に似合わないような透き通る高い声で呟いた。彼女の濃紫色の瞳が光る。
彼女の視界には彼女よりも小さい五、六歳の少女が映っていた。小さな少女――人間が砂地を走り回りながら、キャッキャと友達とはしゃいでいた。
「さようなら」
彼女が冷たく誰も居ない宙で呟くと、薄く不気味に笑った。
そして、彼女は大きな鎌を大きく振り上げ、人間を切り裂くように振った。
すると、人間は先ほどまであげていた甲高い大きな声をぴたりとやめ、崩れるように倒れた。それから人間の体がすーっと薄くなり、小さな丸い半透明の固体になって彼女の元へ浮かび上がってきた。そのまま彼女の鎌の先に吸い込まれるように消える。
彼女は、ふーっと息を吐いた。そして、鎌の先を見てくすりと笑った。
「やっと、四百四十四個」
それから彼女は鎌の持つ右手の力を抜いた。鎌はポワンと黒い光となり散らばって消えた。
「おーい!サミィ!」
声変わりのしていない低いと高いの間の声が彼女を呼んだ。
彼女――サミ=リュードュは無表情で振り返った。
「何」
ただ二文字の言葉を吐き捨てるように言った。サミを呼ぶ声が急にやみ、同時にサミと同じくらいの茶が少し混じった黒髪の少年がサミに近づいてきた。
「うう……冷たいよ」
少年はわざとらしく涙腺を緩ませた。
少年の名はハズ=ナイリーター。彼はサミと同じく最年少で四百四十四個の魂に王手を掛けたサミの幼なじみだ。
「ま、いいけどね」
ハズはエメラルドの目を細めて白い歯を輝かせながら笑った。
「サミ。約束守れよ。ほら、早く一緒に来て」
ハズが、サミの白い腕を掴んで引っ張り始めた。
ハズの言葉にサミは無言で答えた。無表情の眉が少し吊りあがる。
ハズは本当にデス・パンプキンなのかと疑うくらいに人間を殺すことが苦手だった。ましてや、小さな生物も殺せない、極度の優しさを持つ少年だった。だからいつも魂を狩る時はサミがいなければ、狩る事ができず、こうやってサミをいつも呼んでいた。
「サミ、俺も四百四十四個になるんだぞ」
ハズが急に胸を張る。サミは溜息をついた。それはあたしのおかげ、と声に出さずに呟く。
「分かってる」
サミは一言言うと、引っ張るハズの腕を振りほどき、ハズの後ろから天上へと上がっていった。
††††
白く銀色に輝く髪が黒髪に混じってきらめく。少年はマフラーを巻き毛布にくるまって天を見上げながら、白い吐息を吐いた。コホンと小さく咳をする。
天には無数の星が動くように瞬いていた。点々と光り、少年を月光と共に照らす。
「はあ、疲れた」
言葉と共に白い息を吐く。その言葉と息は、誰も居ない闇夜に消えた。
††††
サミはニンゲン界と異界を繋ぐ狭間に来ていた。門番にIDカードを見せ、ニンゲン界へ行く許可をもらう。
サミは無言でニンゲン界へ続く扉を見た。大きな白い扉。扉のあちらこちらには何かの絵が刻まれていた。
肩を上にあげ、深呼吸をする。そして、踏み出し、白い扉のドアノブに手をかけた。引こうとするとその手を止められる。
「なあ、サミ。あのさ、俺らニンゲン界に行っても俺ら一緒になるよな? また、一緒だよな? 会うまで、絶対生きれるよな?」
ハズが目に涙をためて、口をゆがめながらサミに訴えるように言った。
そのハズの表情に愛着を持ち、口元が緩んでしまう。
「あたしは絶対に死なない」
サミがそう言うと、ハズは涙を引っ込め、にかっといつものように笑った。そして大きく胸を張る。
「そうだよな。サミ、つえーもん。そんでもって、俺もつえーしな」
「つまんない冗談」
サミも目を細め、笑う。黒髪が揺れた。
そしてサミはゆっくりと、ドアノブを引いた。
第二回目の投稿終わりました。プロローグを二つに分けて書きました。さて、次回から本題ですね。やっとニンゲン界です。つまり、遊馬と出会います。
それでは、感想&評価等おまちしています。