十章 異界の者との戦いの終わり
ハズはサミの手を離した。ポタリと赤い滴が宙を舞う。すでにサミの横腹は赤く染まっていた。
「愉快、愉快」
マクシンが頭上でくすりと笑いをもらいした。サミは睨みつける。
「おや? まだやる気ですか?」
マクシンの問いに答えず、ハズがスピードを上げ、鎌を振り上げた。マクシンは笑いながら鎌を持つ片手でハズの鎌をとめた。
ハズは思いっきり体をひねらせ、回し蹴りをするが、反対の手で足をつかまれ、投げられる。
「ハズッ!」
ふっと飛ばされるの防ぎ、もう一度鎌を振る。彼の目にはエメラルド色の瞳ではなく、真紅の色が輝いていた。
もう、ハズを誰にも止められない。彼は怒りに狂うと自我を忘れ、標的を粉々にするまで、たとえ味方だろうと自分の身が滅びようと、とめられなくなるのだった。スピードも力も何倍にも増幅する。
長年一緒のサミでさえ、ハズをとめられなかった。
「ハズッ!」
サミはもう一度ハズを呼んだ。しかし、ハズはとまらない。獣のような唸りを上げ、マクシンだけを見ている。
さすがにマクシンもハズの変化に気付き、笑みを浮かべなくなった。
ハズが鎌をもう一度縦に振り上げると、マクシンはそれと同時に鎌を横に振り、ハズの顔面を狙った。首を動かし、それを避ける。マクシンの鎌の刃が頬を掠めた。ハズは避けると鎌を振った。マクシンは避けきれずに鎌の持っていない腕を切り落とされた。
マクシンの左肩から血が雨のように噴出した。腕が地へ落ち、そのまま砕け、消えた。これが、デス・パンプキンの消え方である。人間界の害にならないように、デス・パンプキンの組織が片付けるのだ。
「くぅっ」
マクシンが痛みに声を漏らす。ハズがそれを気にせず、思いっきり鎌を振り下ろした。スパンとマクシンが半分に裂かれ、血を噴出す事もなく、砕けて消えていった。
マクシンが消えるのと同時にハズの体が傾き落下していった。サミが、堕ちてくるハズの体を受け止め、ゆっくりと地上に足をつけた。
「サミっ!」
遊馬がさくらを抱えながら、サミに寄ってきた。
「大丈夫!?」
「……平気。これくらい、かすり傷。それより、さくらは?」
「あ、こっちは気を失ってるだけ。ってサミ、それはかすり傷って言わないよ!」
「デス・パンプキンは回復力はすごいから、こんなの五分したら治る」
「そう……なの?」
遊馬が眉をひそめ、サミの傷口を見る。サミはハズの腕を肩に回し、鎌をくるりと回転させ、取っ手の部分でトンと地を軽く叩いた。
「……しばらく人間には姿が見えないから、学校に行ける」
「でも、制服は?」
いくら姿が消え、傷口が元に戻っても制服は赤い血がこびりついたままだ。白い制服に赤は目立つだろう。
「……ハズなら、元に戻せる」
ハズには狭い範囲なら、かなり体力は消費するが跡形もなかったようにすることが出来る。サミは呟き、歩き出した。遊馬は驚きながら、さくらの腕を肩に回しサミに後について行った。
「サミ、そっちじゃなくて、こっち」
「……」
変な終わり方ですが、許してください。
次回は、学校生活の話です。