料理大会
「うむ。実に美味であった――」
大陸では極めて珍しい東洋料理のフルコースに、A国の王様は満足げに頷いた。
絢爛豪華な椅子の背にもたれかかれば、合図されたような動きでナプキンを持った侍女が、王様の口を拭きに入る。
「さすがは宮廷の料理マイスターだ。褒めてつかわそう。して、当の本人はどこにおる?」
王様が視線を左右にさまよわせながら言った。すると傍に立つ大臣が顔を曇らせる。
「それが、調理場にはおらず……料理を完成させた後に、どこかへ行ってしまったようで」
「…………まあいいだろう。では、次は挑戦者の品を持ってくるのだ」
「はっ!」
従者が慇懃な挙動で料理を運ぶ。
テーブルに置かれたモノが一品しかなかったことで、王様は少し怪訝な表情になったが、それを作った挑戦者の男は、構わず一礼した後、ドームカバーと呼ばれる金属の蓋が被せられたそれを、ゆっくりと開ける。
「私の料理は、こちらになります」
……A国の城では、一年に一度、料理対決が開かれる。
優勝者はマイスターと呼ばれ、王様の専属料理人になれるのだ。しかし、現チャンピオンは大陸でも最高に優れた腕の持ち主であり、挑戦者は何人も戦いを挑むことすら諦めている状態だった。
それがこのたび、十数年ぶりに一人の挑戦者が城にやってきたのである。みすぼらしい格好をした優男で、とても技術を持っているようには見えなかったが、久々の挑戦者であることには変わりがない。
城では、すぐに料理対決が開かれる運びとなった。
対決のルールは、城にある食材を使って、制限時間以内に王様でも食べたことがない、美味しい料理を作ること。それだけだ。マイスターと挑戦者は、同時刻に城内のキッチンを使って調理を行い、全ての工程を一人でやりとげる形で完成させ、より優れた側の者を、宮廷料理マイスターとして認めることになるのだ。
「さて。僕の料理は全て完成したけれど、キミの首尾はどうなんだい? 見たところ、調理台には何も料理が乗っていないようだけど?」
腰に両手を添え、勝利を確信しているマイスターを見て、挑戦者の男は少し笑みを零した。
「心配は要りません。今から作ります」
「へえ。いったい、何の食材を使うのかな」
すると突然、男は切っ先の尖った包丁を握り、微塵のためらいもなく、マイスターの腹を突き刺した。
「うぐっ……!」
白いコック服が、じわりと鮮血に染まる。
「な、なにを……」
困惑するマイスターに、挑戦者の男は悠然と言った。
「何って、捌くんですよ。王様も食べたことがないであろう、あなたという食材をね」
終。




