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ゆりかご

 あるところに、若い夫婦がいました。

 二人は、もうすぐ産まれてくる赤ちゃんのために、一台のゆりかごを買いました。

 竹を幾重にも編んで作られた、やわらかみのある、昔ながらのゆりかごです。


 しばらくして、夫婦の間に、かわいらしい女の子の赤ちゃんが産まれました。

 ゆりかごは、赤ちゃんにとって安心出来るスペースです。

 おしめが濡れて泣いているときも、おもちゃを上手く持てずに怒っているときも、おなかが一杯になって眠るときも、ゆりかごは、赤ちゃんをなだめ、癒すかのように、いつも優しく包み込んでくれていました。


 それから数年が経って、赤ちゃんはすくすく大きくなり、ゆりかごを使う必要もなくなりました。しかし夫婦は、それを棄てたりはしませんでした。なぜなら、柴犬の赤ちゃんを飼い始めたからです。

 ゆりかごは小さな柴犬の赤ちゃんにとって、お気に入りの場所となり、夫婦とその娘は、子犬を大事に大事に育てました。

 そのかいもあって、子犬は日に日に大きく逞しくなっていきました。しっぽをぶんぶん振りながら、毎日家中を駆け回るようになりましたが、窮屈であっても、休むときは決まって、小さなゆりかごの中でした。


 それから長い長い年月が経ち、子犬だった柴犬もいつの間にかおじいちゃん犬となり、ゆりかごで身体を丸めながら休む時間のほうが多くなっていきました。


 やがて、厳しい冬が過ぎ、傍らの窓の外に咲く一本の桜がつぼみをつけ始めたころ、天寿をまっとうした柴犬は、眠るように息を引き取りました。

 ぽっかりと空いたゆりかごは、使用者がいなくなりましたが、夫婦はそれでも、棄てたりはしません。


 桜が咲く頃、結婚して家を出ていた娘が帰って来ました。

 腕には、産まれたばかりの小さな赤ちゃんを抱いて。


 娘は、純白のおくるみで巻いた赤ちゃんを、そっと、年季の入ったゆりかごに乗せました。覗き込んで見守る皆が、笑顔になります。

 ゆりかごを優しく、そおっと押してあげると、桜の花を見ながら、赤ちゃんも、にっこり笑っていました。


         終。

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