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無駄なこだわり
「教授。ちょっと訊きたいんですが」
私立大学の研究室にて。資料を纏めていた専門家の元に、男子生徒が訊ねて来た。
「なんだい?」
「泣きっ面に蜂ってどういう意味なんでしょうか?」
教授は簡単な質問だとばかりに平然と答える。
「そりゃあ、踏んだり蹴ったりってことだろう」
すると、男子生徒は虚を突かれたように視線を彷徨わせた。
「ええっと、その、踏んだり蹴ったりっていうのは、どういう意味なんですか?」
最近の若者はそんなことも知らんのかという口調で、教授が答える。
「だから、弱り目に祟り目みたいなことだろう」
その返しに、男子生徒は余計、困った表情になる。
「あのう……、弱り目に祟り目とは……?」
教授は呆れ返り、大きく溜め息をついて言う。
「だから、ダブルパンチってことだ!」
男子生徒は、肩を縮こめながら申し訳なさそうな声で教授に言う。
「すいません、慣用句を別の慣用句で例えずに教えて欲しいんですが……」
すると教授は自慢げに胸を反らし、イタズラっぽく笑い出した。
「それは出来ないよ。だって、僕は慣用句の専門家なんだから」
終。