追跡者
「助けてくれ!」
酷くやつれた顔をした一人の男が、真夜中の駐在所に駆け込んできた。
「どうかしましたか?」
「追われているんだ」
「追われている? いったいどんな奴ですか?」
「姿は見えない。とにかく、こっちがいくら頼んでも離れてくれないんだ」
警官は男を椅子に座らせ、お茶を一杯出してやる。
「姿が見えない上に、話の通じない相手ですか。危険ですね」
「そうだ。それに手下を使って、追い込んでくる」
「手下までいるとは、かなり巨大組織のようですね……」
「巨大だよ……それはもう、ね」
ふう、と息をついたとき、スーツ姿の男が駐在所にやって来た。やつれた顔の男がそれに気づいて、あっ、と声を上げる。
「こんなところにいたんですか。早く戻ってくださいよ、先生」
スーツの男が呆れたように言えば、
「……分かったよ……やれやれ」
やつれた顔の男は、お茶を飲み干すと、面倒くさそうに立ち上がって駐在所を出て行く。
その背中に、警官が問い掛けた。
「あのう……いったい、あなたは何から追われていたんですか?」
すると、やつれた顔の男が振り返って言った。
「締め切りという追跡者だよ」
終。