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因果応報

「ここは俺の土地だぞっ! この泥棒めが!」


 閑散とした田舎の畑で、サングラスの中年男がヒステリックに叫んでいた。

 隣の敷地で植えられていた柿の木の枝が、ほんの数センチ、サングラスの男の敷地に入っていたのだ。柿の木の持ち主は、一人暮らしの八十歳を越えた老婆であったため、枝の剪定せんていが充分出来ずにいた。それでもサングラスの男は関係ないとばかりに、いつも怒鳴り散らす。


 男は植物の葉っぱや枝が、一ミリでも自分の畑へ入ってくることが許せない、寛容さという精神など微塵も持ち合わせていない人物で有名だった。その性格を示すように、畑は低いブロック塀で囲われ、四方に立つ、赤文字で書かれた『立ち入り禁止』の看板が、周囲の農家をこれでもかと牽制していた。


 そんなある日のことである。

 サングラスの中年男が自分の畑を耕していると、突然、大量の黒い液体が湧き出してきた。

 実はこの地域、かつて石油が採掘されていた場所を整地したエリアであり、液体の正体も、石油を含んだ水であった。といっても、男の畑から出たものは不純物だらけで極めて純度が低く、生産性なんて、まるでない代物だ。

「お、おい! 誰か助けてくれよ!」

 男は叫んだが、立ち入り禁止と書かれている以上、入るわけにはいかないと、周りの農家たちは誰も近寄らず……。結局、油は、男の育てている野菜類を襲い、その全てをダメにしてしまった。


「ねえ、パパ――」

 父親と芋掘りをするために近くを通った男の子が、その畑の有り様を見て言う。

「――あの畑は、どうしてあんなに黒くなったの?」

 父親は首を傾げて苦笑した。

「さあ。分からないけど、土の中から出てきたものみたいだよ」

「ふーん、そうなんだ。……じゃあ、その畑のおじさんが育てたものなんだね」

「育てた?」

「うん。だって、畑の中から出てきたってことは、そこのおじさんが育てたってことでしょ? なんだか凄く臭いけど、我慢するしかないね」

 男の子の父親は、確かにそうかもしれないと、心の中で思った。

 生産物は、生産者の心が出るという……。


 あの汚れた油は、サングラスの男が持つ心の狭さ、狭量さが育てた産物だったのかもしれない。


         終。

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