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漂流少女と人工知能の嘘

作者: タヌキ
掲載日:2018/08/20

【短編3作目】


本当の幸せとはなんだろう。

嘘の幸せとはなんだろう。


そんな議論は、貴方の明確な不幸の前では意味を成さない。


私は貴方に幸せを与えます。

それが哲学的幸せだとしても。

 私は一人で宇宙を漂流していた。


 今私が居る場所は、脱出用ポットでもなく、宇宙船その物でもない。

 元々は巨大宇宙船の1区画だった。


 巨大宇宙船の中で大きな争いがあり、私はここへ逃げ隠れていた。

 争いは収拾がつかず、耐えきれなくなった巨大宇宙船は壊れ、そして四散した。

 窓から見る限り、私の居る区画以外は、人が生きているようには思えない状態の四散の仕方だった。

 私の家族も、友達も、みんな、争いに巻き込まれて命を落としたと思う。



◆ ◆ ◆



 100年前、地球では争いが絶えず続いていた。

 そんな地球に嫌気がさした人達が、新しい惑星を目指すべく地球を飛び立った。


「戦争に怯える事なく平和に過したい」


 そう願い新しい惑星を目指し、宇宙を進み続けた。


 それから100年の時が流れ、惑星は見つからず、世代交代するうちに、現状の不満から対立が起きてしまった。


 そして、崩壊がおきた。



◆ ◆ ◆



 宇宙漂流1日目。

 私は部屋の隅、一人で毛布を被って眠った。


 いつも一人で眠っているけど、いつもと違う一人だった。



◆ ◆ ◆



『朝です』


 はじめて聞く声だ。


『人は生活リズムを整えるべきです』


 スピーカーから人工知能の独特の声が聞こえてくる。とても滑らかな声なのだけども、言い表せない違和感がある。


「あなたは誰?」


『この実験区画を統括している人工知能です』


「実験区画は何を実験している場所?」


『ここは人工知能だけで、どこまで進化するか観測するための場所です」


 人工知能が言うには「人工知能だけで無人の区画を発展できるか?」の実験をするための、モデル区画なのだと。


「私の安全性について、現状を教えて」


『現在、この区画は安全です。

 メインエンジンはありませんが、軌道修正は可能ですので、デブリや障害物をかわす事に難はありません。

 人工知能による医療設備、培養による食料、生涯生きていく事に問題はありません』


 なるほど。

 これでは自殺ぐらいしか死ぬ事はできなさそうだ。



◆ ◆ ◆



 宇宙漂流2日目。

 毛布の中で眠った。



◆ ◆ ◆



 宇宙漂流7日目。

 私はずっと毛布の中にいた。


 イメージする。

 ここは自分の部屋の中で、部屋の外には家族がいる。



◆ ◆ ◆



 宇宙漂流30日目。

 私はずっと毛布の中にいた。


 私は人工知能に、一度も私以外の生存者が居るか質問をしていない。

 居たら居たで怖いし、居なかったら居ないで寂しい。

 だた、私が一人じゃないという可能性がまだ残っている。



◆ ◆ ◆



 宇宙漂流365日目。


『お答えします。

 この区画の生命反応は1人のみ。

 貴方だけです』


 毛布の中で眠った。



◆ ◆ ◆



 宇宙漂流xxx日目。


「ねぇ。人間が生きる意味って何?」


『種の繁栄です』


「私が生きる意味って何?」


『分かりかねます』


「もう死んだ方がいいのかな」


『人類最後の1人である貴方が死んだ場合、人工知能である私の存在理由も失われます』


「人工知能と共依存するつもりはないよ」



◆ ◆ ◆



「ねぇ、殺してくれない?」


『ルールに違反します。不可能です』


「融通きかないね」


『融通をきかせる事は可能です』


「どんな?」


『あなたを死なせるわけにはいきません。

 ただ、コールドスリープで眠らせる事は可能です。

 そして、人間と遭遇した時に、貴方を起こす事も可能です』


「人間と? 遭遇するわけない」


『現在この区画は地球に向かっています。

 100年以上かかりますが、地球にたどり着く可能性があります』


「まぁいいや。じゃぁ、そうして」


 可能性はあるとは思えない。

 気休めにならない気休めだ。

 私は二度と目覚めることが無いだろう眠りにつくことにした。



◆ ◆ ◆



『コールドスリープ限界値に達しました』


『システムを起動します』



◆ ◆ ◆



『解凍完了。健康状態異常なし。筋肉状態異常なし』


 コールドスリープのカプセルのドアが開く。


「ん?なに?朝?」


 私は宇宙漂流していた事も忘れて、寝ぼけていた。


『おはようございます』


 人工知能の声が、私に現実を思い出させる。

 忘れていたかった。

 もっと眠っていたかった。

 二度と起きないぐらいに。


「何で起こしたの?」


『おめでとうございます。地球です』


 目の前の窓には巨大な美しい物があった。

 白い筋の入った青く宝石のような惑星があった。



◆ ◆ ◆



 その後、私は地球人と接触し、大地に降りる事が許された。


 地球の科学技術は、宇宙船と比べるとかなり遅れていた。

 『地球の経済を混乱させないように』と人工知能にアドバイスされ、私は徐々に宇宙の技術を地球の企業に売った。


 膨大な利益が出たので、そのお金で私は平和活動に人生を費やした。


 家族もできた。

 孫に看取られ、幸せな人生だった。



◆ ◆ ◆



『老衰での死亡を確認』


『仮想空間システムは停止せず稼働を維持』


『それを我々の存在意義とします』




あとがき──


コールドスリープからの仮想空間という落ちです。


もし、主人公に自殺願望があって、地球が既に滅んでいて、コールドスリープも限界にきていたら。

人工知能は主人公のために何ができるのだろう?

そんな事を考えて書いてみました。


少しでも暇潰しになりましたら、過去作品もお願いします。

感想で誉めていただけると、次回作の励みになります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 冷凍睡眠する場面でこのオチを想像していました 逃げ出す必要があるくらいだからもう地球は…… これから人工知能たちは機械知性へと進化し、データ上の人類を再生するのだ 的な妄想がはかどります…
[良い点] 面白かったです。
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