漂流少女と人工知能の嘘
【短編3作目】
本当の幸せとはなんだろう。
嘘の幸せとはなんだろう。
そんな議論は、貴方の明確な不幸の前では意味を成さない。
私は貴方に幸せを与えます。
それが哲学的幸せだとしても。
私は一人で宇宙を漂流していた。
今私が居る場所は、脱出用ポットでもなく、宇宙船その物でもない。
元々は巨大宇宙船の1区画だった。
巨大宇宙船の中で大きな争いがあり、私はここへ逃げ隠れていた。
争いは収拾がつかず、耐えきれなくなった巨大宇宙船は壊れ、そして四散した。
窓から見る限り、私の居る区画以外は、人が生きているようには思えない状態の四散の仕方だった。
私の家族も、友達も、みんな、争いに巻き込まれて命を落としたと思う。
◆ ◆ ◆
100年前、地球では争いが絶えず続いていた。
そんな地球に嫌気がさした人達が、新しい惑星を目指すべく地球を飛び立った。
「戦争に怯える事なく平和に過したい」
そう願い新しい惑星を目指し、宇宙を進み続けた。
それから100年の時が流れ、惑星は見つからず、世代交代するうちに、現状の不満から対立が起きてしまった。
そして、崩壊がおきた。
◆ ◆ ◆
宇宙漂流1日目。
私は部屋の隅、一人で毛布を被って眠った。
いつも一人で眠っているけど、いつもと違う一人だった。
◆ ◆ ◆
『朝です』
はじめて聞く声だ。
『人は生活リズムを整えるべきです』
スピーカーから人工知能の独特の声が聞こえてくる。とても滑らかな声なのだけども、言い表せない違和感がある。
「あなたは誰?」
『この実験区画を統括している人工知能です』
「実験区画は何を実験している場所?」
『ここは人工知能だけで、どこまで進化するか観測するための場所です」
人工知能が言うには「人工知能だけで無人の区画を発展できるか?」の実験をするための、モデル区画なのだと。
「私の安全性について、現状を教えて」
『現在、この区画は安全です。
メインエンジンはありませんが、軌道修正は可能ですので、デブリや障害物をかわす事に難はありません。
人工知能による医療設備、培養による食料、生涯生きていく事に問題はありません』
なるほど。
これでは自殺ぐらいしか死ぬ事はできなさそうだ。
◆ ◆ ◆
宇宙漂流2日目。
毛布の中で眠った。
◆ ◆ ◆
宇宙漂流7日目。
私はずっと毛布の中にいた。
イメージする。
ここは自分の部屋の中で、部屋の外には家族がいる。
◆ ◆ ◆
宇宙漂流30日目。
私はずっと毛布の中にいた。
私は人工知能に、一度も私以外の生存者が居るか質問をしていない。
居たら居たで怖いし、居なかったら居ないで寂しい。
だた、私が一人じゃないという可能性がまだ残っている。
◆ ◆ ◆
宇宙漂流365日目。
『お答えします。
この区画の生命反応は1人のみ。
貴方だけです』
毛布の中で眠った。
◆ ◆ ◆
宇宙漂流xxx日目。
「ねぇ。人間が生きる意味って何?」
『種の繁栄です』
「私が生きる意味って何?」
『分かりかねます』
「もう死んだ方がいいのかな」
『人類最後の1人である貴方が死んだ場合、人工知能である私の存在理由も失われます』
「人工知能と共依存するつもりはないよ」
◆ ◆ ◆
「ねぇ、殺してくれない?」
『ルールに違反します。不可能です』
「融通きかないね」
『融通をきかせる事は可能です』
「どんな?」
『あなたを死なせるわけにはいきません。
ただ、コールドスリープで眠らせる事は可能です。
そして、人間と遭遇した時に、貴方を起こす事も可能です』
「人間と? 遭遇するわけない」
『現在この区画は地球に向かっています。
100年以上かかりますが、地球にたどり着く可能性があります』
「まぁいいや。じゃぁ、そうして」
可能性はあるとは思えない。
気休めにならない気休めだ。
私は二度と目覚めることが無いだろう眠りにつくことにした。
◆ ◆ ◆
『コールドスリープ限界値に達しました』
『システムを起動します』
◆ ◆ ◆
『解凍完了。健康状態異常なし。筋肉状態異常なし』
コールドスリープのカプセルのドアが開く。
「ん?なに?朝?」
私は宇宙漂流していた事も忘れて、寝ぼけていた。
『おはようございます』
人工知能の声が、私に現実を思い出させる。
忘れていたかった。
もっと眠っていたかった。
二度と起きないぐらいに。
「何で起こしたの?」
『おめでとうございます。地球です』
目の前の窓には巨大な美しい物があった。
白い筋の入った青く宝石のような惑星があった。
◆ ◆ ◆
その後、私は地球人と接触し、大地に降りる事が許された。
地球の科学技術は、宇宙船と比べるとかなり遅れていた。
『地球の経済を混乱させないように』と人工知能にアドバイスされ、私は徐々に宇宙の技術を地球の企業に売った。
膨大な利益が出たので、そのお金で私は平和活動に人生を費やした。
家族もできた。
孫に看取られ、幸せな人生だった。
◆ ◆ ◆
『老衰での死亡を確認』
『仮想空間システムは停止せず稼働を維持』
『それを我々の存在意義とします』
あとがき──
コールドスリープからの仮想空間という落ちです。
もし、主人公に自殺願望があって、地球が既に滅んでいて、コールドスリープも限界にきていたら。
人工知能は主人公のために何ができるのだろう?
そんな事を考えて書いてみました。
少しでも暇潰しになりましたら、過去作品もお願いします。
感想で誉めていただけると、次回作の励みになります。




