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無力な手






「鈴音!!」


背中に受けた衝撃に息が詰まったが、必死で声を絞り出す。

本名なのかすらわからない、赤塚と言う名しか知らない男を前に、鈴音は呆然と立ち尽くしている。白く長い骨張った指が伸びると、鈴音は一瞬苦痛に顔を歪ませ、力なく男の腕の中に倒れ込んだ。

それを合図とするかのように、金縛りにあったように遥祈の体は動かなくなる。絶望感が襲う。

また、手を伸ばすことすら許されない。


「またなの…!?」


また。自分達から、鈴音を奪ってゆく。腕の中にどんなにしっかり抱えていても、もぎ取っていく。


「…どうして…っ!!」


ぎりぎりと遥祈の体は音を立てるだけで、呻くような声を上げ、男を睨み付けた。

「赤塚っ!!」

代弁するような、苦しさと悔しさと悲しさと憎しみと、ごちゃごちゃに混ざった、食い縛るような要の声がする。

「そんな怖い顔しないでよ、二人共さ」

鈴音をその胸に抱え、慈しむように頭を撫でながら、こちらを見て笑う。紅い瞳が、優越感を湛えて細められる。

「ゲームなんだからさ」


ゲームと、過去二回も、この赤塚という男は口にしてきた。

そんな馬鹿げた名目で、鈴音が傷ついて良い訳がない。


「さぁ鈴音」

紅い目が鈴音を再び映して、薄く笑みに歪んだ唇がそっと、聞こえているはずのない耳に言葉を囁き入れる。

「どこへ行こうか」

「どこにも行かせないよ」

遥祈や要同様、動けなくなっているはずの、否、少なくとも前まではそうだった、瑠依の声がした。


視界を横切ったと思った次の瞬間、先程も聴いたような鈍い音と同時に黒い髪がなびいて男がよろける。

支えを失った鈴音の身体はすかさず瑠依が支えた。

「お前動けんの……あれ」

要が驚きの言葉を言い終わる前に、身体の拘束が融けた。反射的に鈴音のもとに駆け寄る。

「痛いなぁ…流石、瑠依君」

2度の殴打に赤く腫れた右頬を撫でながら、赤塚が薄く笑った。

「でも、ゲームは始まった」

いつの間にか鈴音の部屋ではなく、白と黒が混ざり合う、モノクロの歪んだ世界にいる。

「いい加減、何の為のゲームか教えなよ」

低く怒りを押し殺した瑠依の声。それが聞こえた時には、既に視界が掻き消え、モノクロに支配されていく。暗いような、眩しいような、目を伏せたくなる、不快な感覚が遥祈を襲う。

「聞かないほうがいいと思うなぁ」

赤塚は飄々として笑う。その言葉が終わると同時に、ノイズが始まる。


鈴音。


引き離される前に、遥祈はむしゃらに手を伸ばすが、届かない。

耳鳴りが酷くなり、頭痛が襲い、すべての感覚が無になった。














すべての感覚が元に戻った時、そこには、違う世界の、違う自分がいる。


「……鈴音」


流れた涙だけは、確かに遥祈のものだった。



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