魔法少女の○○○やりませんか?
[キーンコーンカーンコーン…]
3時限目の終了を告げる鐘の音が学園中に響き渡った。それと同時に全ての教室にもざわめきが感染する。
机同士を合わせて弁当を食べる姿勢を取り出す者。食堂や購買へと足を運ぶ者。
弁当を持って中庭に向かう者。
皆それぞれの昼休憩を開始する。
いつもと変わらない風景…、多分他の教室も同じ風景が広がっていることだろう。
そんな毎日の繰り返しに俺はあくびをしながら答える…。
今日も一日ご苦労様…と。
?(おーい!駿。昼飯食いに行こーぜー♪
あくびをしている途中に友人の和真が俺の机の前に現れた。これもいつもと同じ展開…。
駿(俺、今日弁当なんだけど?
いつもと同じ気だるい声と顔で和真の誘いを断る。
和真(食堂で食えば問題なし!行くぜ!!
駿(あ、おい!
和真は強引に俺を食堂へと誘う。
紹介が遅れたが俺は宮島 駿、普通の高校2年生だ。私立和澄見学院の教育学部で教師になるために勉強している。中等科の頃は卓球部だったが高等科に入ってから部活を辞めて今は帰宅部である。
俺を今食堂に連行しているのが親友の山下 和真。
昔から家が近所でよく遊んでいた仲だ。
いろいろ破天荒なやつだが人の気持ちを第一に考えて行動できる一面を俺は密かに尊敬している。
いつものように螺旋階段を降りて食堂に直行していく。弁当を持ってきてようがきてなかろうが和真と俺はいつも食堂に行く。いつもと同じ…、なんの編鉄もない俺の日常…。
そんな日常を俺は過ごすだけ…、
ただ…、流されながら…。
〈学院大食堂〉
[ドッン…!!]
先にテーブルに座っていた俺の目の前に和真が現れる。
大きいどんぶりの乗ったお盆をテーブルへとドッン…!!と音を立て着机させる。
和真(見ろ!駿!食堂のおばちゃん特製、ギガ盛りエビ天丼だぜ!!
駿(美味そうだな。
弁当のふたを開けながら俺は和真のどや顔に答える。
和真(これを食すためにどれ程の苦悩に耐えてきたことか!教えてやろうホトトギス!
駿(あえて聞かない方向で…。
和真(なにぃ…!!?
オーバーなほどのリアクションも和真の持ち味。
駿(それよりお前大丈夫なのか?先月も小遣い厳しいって嘆いてたろ?
和真(ん…?ふっふっふ♪そこなのだよ宮島くん…♪
箸を俺の方に向けながら和真は再びどや顔を作る。
俺は分かりやすく頭の上に?を浮かべながら続きを聞く。
和真(なんと、この山下 和真…!先週からバイトを始めたのだよ…!!
駿(バ、バイト!?お前が!?
思わず声を大きくしてしまった俺は和真に口を押さえられて冷静さを取り戻す。
和真(おっと…!言いたいことはわかってる…!俺は働いたら負け信者だったからな!
駿(それは大声でいうことじゃない…(-_-)
和真の腕を払って椅子から上げた腰を再び戻す。
駿(で?どういった風の吹き回しだよ?お前がバイト始めるだなんてさ。
俺の知っている限り、確かに和真はそういうのとは縁遠いやつだった。
そう思っていたという方が適切だろうか?
働いたら負けだとかを恥ずかしげもなく公言していたやつだったからな。
和真(ふ…♪なあ駿…♪
駿(な、何だよ…?
急に気持ち悪い笑顔で和真は俺に語りかけ始めた。
和真(お前…、小学生は好きか…? (にこり♪)
……………………………
駿(………お巡りさんここに変態がいます…。
和真(待て、早まるな。
駿(うっせぇ!気持ち悪い顔したと思ったら何を言い出すんだお前は!ついに取り返しの付かないところまで来てしまったのか!?
和真(俺は正常でいたって真面目である!!
駿(なお危険だよ!
和真(ま、まあ、とりあえず落ち着いてこれを見ろって…。( ̄▽ ̄;)
和真はポケットから四つ折りにしたチラシの様なものを俺に手渡し、俺はそれを拡げた。
駿(? 小学生アイドルグループ…SuKaRa?
和真(え!?まさか…、知らないのか!?
駿(……全然。
和真は深いため息をついて再び話続ける。
和真(少しはテレビ見ろよな~。SuKaRaはな…、今超売れっ子のスーパーアイドルなんだぞ!!
駿(はあ…。
俺は興味無さそうに返事を返す。
和真(今年はあの''GGF''にも出場するのが決まってるくらい凄いグループなんだぞ!?
駿(ふーん、あの''GGF''に…?
普段テレビを見ない俺でも''GGF''の名前だけは聞いたことがあった。というか知らない人の方が少ないのではないのだろうか?
''GGF''とは毎年12月に開催、全国生放送される歌謡祭のことだ。
平均視聴率は毎年40%超え、若いアーティストから名だたる古参の歌い手まで参加する長寿番組である。
ちなみに''GGF''とは''Grand Glorify Festival''の略称で、その名の通り40組近くいるアーティストの中から最も優れた一組を決める祭典である。
それに和真のいうアイドルが出るというのだが…。
駿(で?そのSuKaRaとお前がバイト始めたことに何の関係があるんだよ?
和真(さっきも言ったが、SuKaRaは今年の''GGF''に出場する!しかも特別枠だから会場じゃなくて野外の特設ステージで歌うんだ!!
駿(へえ?
和真(特別枠なだけにその野外ライブはチケットが別販売でさ!その販売日が昨日ネットで発表されて、それをどーーーしても手に入れたくて!!
駿(それでバイトを?
和真(そーだ!!
駿(そんなに欲しいのか?
和真(欲しい!!!
和真は本当に分かりやすい…。現金なやつだが素直と言い換えれば俺の知ってる中で随一だろう。
和真(駿はバイトしないのか?
駿(え…?俺…?
唐突な和真の問いに俺は固まった。
考えても見なかった…。俺は和真と違って別に働きたくないとかそういうのじゃない。ただ純粋に、流されるまま生きてきたから、そういうのに免疫がないだけなのだ。
……いや、これはあくまで仮初めの言い訳だ。
一番の理由は“何をしても「変化」がないことに飽きたから”だと思う。
今まで部活や習い事もたくさんやってきた…。
確かになにかしら自分に得られるものはあっただろうけど…、それは大きな「変化」には至らなかった。
俺は自分自身の「変化」を望んでいる。いやそれに至るなにかを望んでいるの方が正しいかもしれない。
「変化」そのものではなく、それに至る何か。
「変化」なんてものは自分で行動しなければ起こらないものだというのが一般論だが、少なくとも俺は
なにかをして「変化」が起こったことなんて一度もなかった…。
だから今回のバイトの件に関わらず、俺は何かを進んでやることに否定的だった。
俺は和真にただ一言だけ返事を返す。
駿(……考えとくよ…。
和真(おう♪たまには社会に貢献するのも悪くないぞ?
駿(ん…。
そのあと…、気づいたら弁当の蓋をしめていた。
今日…、弁当のおかず何入ってた…?
それすらも覚えていないほど心ここにあらず状態だった。午後の授業でも頭がぼーっとした感じで、いつも以上に窓から見える空を眺めていた。
…………………………
(放課後)
和真(んじゃ!今から俺バイトだから♪
駿(ああ。頑張ってな。
和真(おう♪
和真は颯爽と走り去っていく。遠くでいかにもなアイドルソングを歌っていたことは記憶から消しておこう…。和真のためにも、俺のためにも…。
…俺はいつもより遠回りして帰ることにした。というのも、和真に言われたバイトのことを俺自身が意外と気にしていたからだろう。バイトの募集をしている店を学校の帰り道近辺から商店街までスタスタと歩きながら探した。
求人の雑誌を見たりして探してもよかったがこっちの方が確実だろうと見て回った次第である。変な所で行動型だと前和真に言われたことがあるが俺は認めていない。
コンビニ、レンタルビデオショップ、本屋、漫画喫茶、ファミレス…といろいろ見て回ったが残念ながら心より興味が湧いた所はなかった。少しくらい和真にバイトのことを聞いておけば良かったとため息をつきながら後悔した。
気付くともう夕方の6時…、いつのまにか俺は家の近くの路地を歩いていた。結局収穫は無しだったわけだがいい暇潰しになったと考えればそう悪くない。
俺の両親は二人とも病院勤めで帰りは遅いし下手すれば帰って来ない日もあるくらいだから丁度良かったと言えば丁度良かった。
駿(今日はもう帰ろう…。
俺は誰もいない路地でそう言い捨ててその場を後にした…。そう…しようとした…。ふと目の前の電柱に妙な張り紙が見つけ、俺はそれに目が行ってしまった。立ち止まってよく見るとやっぱり妙なことが書いてある…。
「新人急募!魔法少女の○○○やりませんか?
時給…働きによります。
就業時間…ご要望承ります。
土日・祝日は給金UP
お気軽にどうぞ」
…いかにも怪しすぎる広告だ。多分小学生のイタズラかなにかだろう。この路地はあまり人通りがよくない。というか人がいるのを俺は見たことがない。
そんな路地にバイトの広告があることだけでも不自然だがそれに加えてこの内容である…。しかし、小学生のイタズラにしては良くできている。字も直筆で綺麗に書かれていて自分で思っておいてなんだが小学生が書いたにしては達筆過ぎる。いや、最近はいろいろ教育が行き届いてるからこんな達筆に書ける小学生がいてもおかしくない…?
…だとしたらとんだ才能の無駄遣いだな。
まあイタズラってのは間違いない。見たところ電話番号も書いてないし、見れば見るほど謎過ぎる。
…と疑いつつも、その広告からにじみ出る非日常感に俺は惹かれていた。俺はそのチラシの裏を見ようと手を伸ばした。
[スッ……、ピカッ!!……ボォア!!!]
駿(!!? うわっ!? 火っ!?
チラシに触れた瞬間…、チラシが青い炎を灯し燃え始め、俺の右手に炎が燃え移った。
駿(や、やばっ!!?燃え…!!?あれっ…!?でも…、熱く…ない…?な、なんで…!?
驚きつつも俺は目の前で起こってる不思議な光景に見入ってしまった…。確かに青色の炎が俺の右手を包んでいる。なのに熱さどころか殆ど何も感じなかった。だんだん炎が弱まっていき、熱さを最後まで感じないまま火は消えてしまった。
駿(ん?これ…、なんだ…?刻印…!?
気付くと、右手の甲に青い刻印が刻まれていた。
駿(ど、どうなってなるんだよ…!?さっきから…!小学生のイタズラにしちゃあ手込みすぎだろ!?
?(イタズラではなく…、魔法…、なのですが…。
駿(え…?
突然の声に驚き振り返ると、ひとりの小さい女の子が路地の入り口に立っていた。
駿(だ、誰…!?
リリ(申し遅れました…。私…、リリス・シャルレットと申します…。宮島 駿さん…、おめでとうございます…。あなたは見事…、第一次審査の面接に合格いたしました…。
駿(…………は?
初めての作品になりますので至らない箇所は所々あると思いますが自分の作品を好きになっていただく人が一人でもいる限り続けていきたいと思います♪
誤字脱字のことも気軽に指摘していただければ嬉しいです♪自分も作品を少しでも好きになっていただけるように頑張って書いていきます♪