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鐵のクラッカーズ  作者: イーグル・プラス
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雪獄 08

クラッカーの起源

クラッカーの原型となる「鉄の筒」が使われたのは、魔術がまだ未発達であった時代の補助具としてであった。

収束管と呼ばれ、魔力を上手く前方に投射出来ない魔術師が、筒内で爆発を起こし、指向性を得るために利用したのが始まりである。

後に投射魔術が理論として確定し、伝播・普及されてからは、久しく使われることはなかったが、衆民を戦力として見做すようになってから再び注目されることになった。

一〇〇年以上前の話である。

 生き残りの兵二一名(有木を含め二二名)を引き連れて行軍を再開する。


 自分に対する兵卒どもの目が変化しているのを感じる。だが有木はそれでいいと思う。


 戦闘による興奮を冷ますにはちょうどいい材料だった。戦勝、それも一方的なものだった場合、兵が血気に逸って、かえって命令を受け付けなくなることが往々にしてある。もしくは牧野のように友人を失い、消沈することもある。


 それらを自分への恐れで中和出来るならば、それに越したことはない。元々、軍曹というのは憎まれ役だ。普段おとなしい分、こういう場面で引き受けてやっと釣り合いが取れるというものだろう。


 尤も、義堂だけは違ったようだ。抜剣突撃兵は先程から自分のすぐ後ろに立ち、自分の代わりに背後に気を配り、落伍がないかを確かめている。副官の真似事をしてくれるのはありがたいことではあった。先の一件で寧ろ、自分は彼女からの評価を高めたようだ。

 それが救いになるわけではない。しかしこれからのことを考えれば、悪いことでもない。どうせ彼女はいずれ伍長になる。そのための事前演習代わりだ。集団の面倒は義堂に任せて、自分はこれからどうするかに思いを巡らせる。


 悠長なことを考えていられたのは僅かな時間だった。戦闘音が大きくなるにつれて、緊張の度合いが高まる。馬は二頭、怪我人を乗せている。ここからどうやって切り抜けるか。有木は全員に隠密行動を命じる。再び外套の頭巾を被り、静かに移動。


 待機中の騎兵の背後をつければ、と有木は思う。

 そうすればその馬を奪って、すぐさま友軍の陣へと駆け戻れるのだが、そんな上手い話などあろうはずもない。


 やがて義堂が有木に報告。敵兵を見つけたようだ。


「後備兵です。背後を警戒している兵もいる」

「だろうなあ」


 うめく。帝国兵を森の中に残したまま、平原の主力とぶつかっているのだ。後背に気を配るのは当然と言えよう。とりあえず、怪我人を馬から下ろして隠密行動に備える。


「この線にそって移動する。連邦が押されている、薄い陣を見つけるぞ」


 現実、出来るのはそのくらいだ。正確には陣が薄いのではなく、味方が押している部分だ。敵が苦戦していれば、後備兵も前を向かざるを得ない。

 有木は出来るだけ森の端に近づくようにして集団を導いていた。中央突破など狂気の沙汰だ。こんな弱小集団は、裏端からこそこそと逃げ出す以外の生き残り方は出来ない。


「あ」


 ふと思いつく。寧ろ何故それを思いつかなかったのかと自分に笑いたくなる。


「寒川伍長、味方と連絡を取れるだろうか」


 ここまで近づくと、敵の魔力波を拾おうとあまり関係がなくなる。念信が錯綜しているため、混信すらあり得るのだ。

 寒川は首を振って否定する。


「無理です。ここまで魔力波が飛び交っていると、私の魔力で念信を届かせるのは……」

「うん、だろうね」


 案の定である。だがそれが目的ではない。


「魔力波の多寡はどのくらい分かる?」

「ええと、ここまで混信状態ですし、戦闘の魔力波もあります。ちょっとそこまでは……」

「いや、戦闘の魔力波でいいんだ。分かる?」

「あ、はい。それならば、大雑把な位置までなら……」

「よし、いいぞ」


 有木はようやく糸口を見つけた気分になる。


「この近辺で最も魔力波が濃い部分を探してくれ。そこが恐らく、苛烈な攻防が行われている場所になるから」

「苛烈なところを行くんですか?」


 宮嶋が悲鳴のような声を出す。大きめの声だったので睨み付けると、彼は身を縮めた。


「それってつまり、味方が一番奮戦している場所だからね」


 短く応えて、寒川に改めて命じる。

 移動距離としては僅かだった。すぐに義堂に、魔眼による偵察を行わせると、彼女は我が意を得たりとばかりに頷いた。


「かなり慌ただしい様子だ。背後を警戒している兵も少ない。この人数では少し厳しいが」


 また敬語を忘れているが、怒鳴りつける場所でもなければ、そんな柄でもない。


 初めて見たが、義堂の魔眼は水宝玉の色を持つ美しい瞳だった。


「よし、総員、撃ち方用意」

「まだ遠いぜ、軍曹どの」

「いやいいんだ。当てる必要もなければ勝つ必要もないよ。もっと言うと突撃する必要すらない」


 有木は頷き、自ら歩兵咆に装填を開始した。全員がそれに倣う。不満を言う者はいない。彼らは兵隊としての訓練は受けているが、戦術に関しては丸きり未知だ。有木とて経験と、良い教師を見つけたから多少は承知しているだけだ。義堂は経験則から少しは理解しているようだが、それもいち兵士の視点に過ぎない。

 ともあれ、程なくして装填は完了。着剣も命じた。


「当てる必要はない。とにかく、連続して撃ちまくれ。近づいてきたら応戦するが、そうでなければ絶対に前に出るなよ。義堂、君も突撃はしないように」

「了解」


 義堂は抜き身のまま腰帯に挟んでいた鋭剣を、いつでも使えるように地面に突き刺す。有木もそれを真似た。


 機会はいつがいいだろうか? 判断する根拠はない。気づかれる前に撃て。


 有木は己を叱咤し、最小限の声で部下に命じた。


「撃ち方、始め」

散兵線の弱点ですな。ひとつひとつの部隊の後備が甘くなるという。


ようやっとA1に返り咲きです。

試験は簡単なんですが、試験に到達するまでが長かった。

チームで勝つのと個人の戦績を上げるのとが違うというところが、ボダブレの難しいところであり、面白いところでもありますな。

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