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鐵のクラッカーズ  作者: イーグル・プラス
14/15

北部野営 03

農兵【のうへい】

税金を支払うことのできなかった農民は、税の代わりに兵役によってそれを補うものとなる。

もともと帝国は人口が豊かなこともあり、徴兵制ではなく兵役制度を敷いていた。そのため成人した男女の大半は一通りの軍事訓練を受けており、農兵もその制度をより活かすために生まれたものである。

まだクラッカーの大半が滑腔式であり習熟も早かったことから、戦列を組んで進軍する消耗戦術を主流としていた時代の、莫大な命の浪費である。

帝国ほどの人口や国力を持たない国家がこれらを真似て、その勢いを減じたことは歴史家によって詳らかにされているが、それが帝国の目論見通りであったかは定かではない。

 にやりとして帽子を被り直す。

 曹長に確認すると、成績そのものは思ったより良好であった。


「人事に口出し出来て良かったよ」


 ため息混じりにうめく。鷹栖も同調し、


「基本的に山育ちの連中です。目はいいですので、本作戦において役立つでしょう」

「後は基本的な訓練をもっとな……いや、今言っても詮無いことか」


 山越えにあたり、当然ながらその道程は容易なものではない。

 冬が近く、既に積雪も十分であるため、ただ踏破するだけでも非常な危険を伴う任務だ。しかも攻略したらしたで、休む間もなくさらに進軍し、敵の後背を突かねばならない。全く冗談のような作戦だ。悪夢のような、と呼称しないのは、天野の夢にはもっと最悪の戦場が何度も浮上しているからでもある。

 そしてそんな心配より何より、山越えを困難というより、無理難題に押し上げている因子がある。


 ウルガノス要塞。


 帝国では要塞と呼称する。

 連邦が山間部に建造したこの要塞は、見晴らしの良い高台に幾つもの要塞咆を備え、帝国の侵入を長年に渡り拒んできた。当然だが周囲の森林は定期的に伐採され、射程内にはろくな遮蔽物がない。騎兵での突撃を試みようにも、それまでの地形が邪魔をし、足の遅い魔力兵では要塞に近づくまでに肉片に変わっている。歩兵では何をか況んや、である。難攻不落と呼んでいいだろう。


 そしてこれを攻略せねば、大集団を山向こうに派遣することは敵わない。


 天野は頭の中に地図を編み出して思考する。幕僚会議で概ねの方針は決定されてはいるものの、今一度己の中で大隊の動きを思索しておく必要があった。


「俺もまあ、天野家の人間だからな。ここいらで少しばかり、織戸閣下に自分の立ち位置を示しておく必要がある。出世もしたいし」


 半ば独り言であったが、その意味を正しく理解する鷹栖は深く頷く。


「先日の戦闘で、敵陣を切り崩すきっかけを作ったわけですが」

「あれはいろんな偶然が重なった結果だし、栞原大佐どのの騎兵連隊がいてこそだ。それに、その前に俺は両翼の友軍に流血を強いている。他人の手柄まで独占して胸は張れんさ」

「なればこその立候補ですか」

「まあな」


 卯要塞攻略にあたり、天野はある重要な任務を、自ら名乗り出て受け持っている。代価として、ある程度自由な部隊編成の権利を得た。


 その一つの結実が、現在の大隊の兵の様子となる。


 罪人兵・農兵は全てこれを除外し、正規兵のみ、特に強化兵を中心とした構成。さらに猟師の出身を多く取り入れた。無論、兵士の数には限りがあるため、貴重な猟師、つまり咆の扱いに慣れ、卯要塞攻略にあたって重要な要素となる山歩きに習熟し、体力もある兵士を取られた他部隊長からの風当たりはやや厳しくなったが、致し方のないところではある。


 その代わり、騎兵や魔力兵(特に戦術魔術師)の数は最小限度に留め、実質、『軽歩兵大隊』とでもいうべき様相となったのが、第六一六大隊、天野大尉の部隊の内訳である。


「試金石だよ。新しい施条咆を持った兵士の運用、そしてその指揮官の」

「平野の会戦なら何も心配はなかったのですが。よりによって要塞相手では、九七式とて豆鉄砲に過ぎません」

「連邦がそうそう、こっちに都合の良い戦争をしてくれるものか」


 鼻を鳴らして煙草を一本取り出す。


「まあ、会戦は好きだ。特に火力と鉄量で押す戦争は大好きだ。だが今回は少し試したいこともある。良い機会だと思うさ。部下達にはせいぜい、効率的に死んで貰う」

「大尉どののために、でありますか?」


 試すような幼馴染みの最先任曹長の言葉に、


「世界のため、かな」


 天野は嗤った。あながち冗談というわけでもない、悪辣な笑みだった。


 兵士の一人が天野の名を呼ぶ。待ちかねていた、もう一つの物資が到着したことを知らせるものだった。

ちょっと切るとこ中途半端でしたね。まあいいや。


大攻防戦で芋砂して遊んでた戦犯は俺です。1試合だけだよ!

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