セルフで神なんてちょーワクワクするんだけど
「…神様、私はどうすればいいのでしょうか」
「えっと、あなたの夫は浮気をしておりません。病気で寝込んでいるのです。看病をしているのはいとこのマリさんです」
セ ル フ で 神 様 やっ て ま す ―――
「えー…、それでは次のニュースをはじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじ」
世界が崩壊し始めたのは、少し前のこと。
一番初めの頃は、家のパソコンがたまに止まったりそれくらいだったんだけど最近はもうテレビだって真面目に報道してくれないし家電製品は動かないし人間だってたまにフリーズするのだ。
昨日は父が、
「今日の夕食はカレーがいいいいいいいいなああァァぁぁぁぁぁぁぁああはいいいこくけ」
とか近所迷惑に大声で言っていたので口にガムテープを張っておいた。
一昨日は妹が、
「おおおおにににににいいいいいいいいいいいいいいちゃぁあん」
などとかなりの時間をかけて高い声でいっていたので口の中に綿を詰めておいた。
けれど誰も怒らないし母なんか、一日中窓拭きしている。
世界が崩壊を始めていると最初に認識したのはかなり初期のことだ。
だけれど、悲しくも辛くもなかった。
俺は、この世界があまり好きではなかったから。
俺の住んでいるここは北海道と呼ばれるとても広い場所で、世界は今も崩壊を続けている。
どうやら南の方からどんどん消滅していってしまっているようで、もうすでに沖縄や九州地方は消えてしまっている。
別に確かめに行ったのではない、何故だかわかるのだ。
頭の中に声が響くのだ。
ああ、このくそったれで最悪で惨めな世界を終わらしてくれているのはだれだろう。
「ところで、そんな君に一つお願いがあるよ」
一昨日からずっとお兄ちゃんを連呼し続けていた妹が急に話しかけてきた。
「…どうした」
「この世界はもうすぐ崩壊する。だから君に世界を救ってほしいんだ」
「嫌だよ。俺は今ここで人生を終えることに満足してんの。それに救うったって俺は弱いし怪物とか出ても戦えねぇよ」
「選択肢は3つあるよ。君がこのまま永遠にここで生きたいなら僕は止めないけどね」
「永遠にここでって…どういうことだよ」
「言ったでしょ、この世界はもうすぐ完璧に崩壊するんだ。でも、崩壊しても君の魂はまだ死んでないから崩壊した何も無い真っ白な世界で死ぬことも出来ず魂だけで生き残ることになってしまう」
「…それは、避けたいな」
「じゃあ選択肢は2つだ。今から言うから聞き逃さないでね。一度しか言わないから。一つ目は、この世界を今から直すっていうのだ。二つ目は、違う世界を1から創るってことだ。やり方は僕が教えるから問題ないよ。難易度もそんなに高くないだろうし僕だって世界を何個も創っているんだ」
「お前が世界を創り直せばいいんじゃねぇの?」
「僕は駄目だよ。僕は創りすぎてしまった。もう制限を越えてしまったんだ。それに、今この世界でこんな風に喋ったりしてるのは君だけなんだよ。もう一人だけ君のように普通に生きている人はいたけれど彼は僕が話しかける前に自殺してしまったんだ。君は特別なんだよ」
「…俺は特別、ね。でもさ、俺はもうここで死ぬんだって思ってたし世界を創るっていうのが楽しくないならやりたくないからな」
「とっても楽しいよ。僕も初めて世界を創った時は寝る間も惜しんで創ってたよ。それに、自分好みの世界で自分の創った掟どおりに自分好みの人が生きてるなんてワクワクしないか?ああ、飽きてしまうかって?それがねぇ、飽きることも無いんだ。きっと君は頭の中で難しいゲームをチートで攻略するような想像をしてるかもしれないけれど、そんなもんじゃないよ。とりあえず世界を一通り創り終えるまではもう楽しくて仕方ないよ。どうだい、選ぶ気にはなったかい?」
「お前、名前なんていうか知らないけど俺が世界を創るっていう前提で話してるだろ。俺がこの世界を創り直すってほうを選んだらどうなるんだよ」
「それはそれで楽しいしいいよ。でもオススメは創るほうだから」
「…ていうかさ、自分で創るって事はセルフでやるってことだろ?」
「そりゃあね。セルフじゃなかったらなんなんだい?機械がやってくれるわけ無いしね。もしかしてめんどくさいとか思ってる?やっぱり今の生活好きだった?」
「そんなわけないだろ?セルフで神なんてちょーワクワクするんだけど」