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その者、旋藍の姫なり

大切な何かを守るためならば


私は喜んでこの手を血で染めましょう。


たとえこの身が穢れ、神からも、この血からも


見放されたとしても。


たとえ戦い続けたその果てに


私に何も残っていなかったとしても。














ザクッザクッ...


雪が解け、田を耕す季節。

徐々に太陽の出ている時間が長くなり、それに合わせて気温が上がっていくのも感じている。

そんななか、田に一人の人影があった。


旋藍(センラン)

ここはそう呼ばれる国だ。

決して大きな国でも強い国でもなかったが、ここ100年程戦いは起こっていない。

平和な農耕を行う国。


そんなある晴れた日、彼女は田に立っていた。


「姫!お止め下さいそのようなこと!義虎(ヨシトラ)様が知ったら…!」


「父上がどうと言うのです?民を治めるもの、民の苦労を知らずして救うことなどできはしません!」


「しかし…!」


彼女の名は『藤宮(フジミヤ) (アカネ)』。

この旋藍の地を治める『藤宮 義虎』の一人娘。

美しい顔立ちに綺麗な薄水色の髪と海のような深い青の瞳。

普段はこれまた綺麗な衣を纏っていて天女のようだとよく言われるものだが、どういうわけか今はそれらを脱ぎ、ただの農民のような恰好をしている。

後ろでひとまとめにした髪が腰のあたりで揺れる。


「とにかく、私はやりますよ。ほら、あなた方もやりましょう?」


「う…わかりました…。」


村人たちは何度言っても田を耕すのを止めない姫に軽く溜息をつき苦笑した。

我らが領主にこのことがばれたら何を言われるか分からないが、皆この姫には甘いのだ。

そんなこんなでしばらく耕していると、茜は遠くから馬が駆けてくるのが見えた。

その背に乗っているのは年若い青年。

茜のよく知る人物であった。


「姫~!義虎様が呼んでたぜ~!」


「集!今行くわ!」


(カガリ) (シュウ)』。

金髪に緑の瞳。

茜の幼馴染であり側近。

この国で義虎以外で唯一茜にタメ口をきける存在。

三人衆と呼ばれるこの国の実力者の一人だ。

背に背負った武器の名は「陽炎」という大剣。


「まーたそんなことしてたのかよ?お前は一応姫なんだから、少しは考えろよ。」


「あら?集の叔父様だって田を耕してるじゃない。」


貴平(キヘイ)さんはそんなに高い地位じゃねぇし。」


「…三人衆が高い地位じゃないなんて集以外にいう人いないだろうね。」


「いやいや、姫であり名高い巫女の血族の茜様に比べれば俺達はそんなでもないですよ。」


「茶化さないでよ。まったく…」


「ははっ、わりぃわりぃ。」


馬の背に揺られ、茜は運転している集に寄り掛かる。

集が微かに息を飲む気配がしたが特には気にしない。

視線を前方から周囲に移せば、田を耕している大人や子供の姿が見える。

軽く手を振ると子供たちがキャアキャアと手を振りかえしてきた。

前方が白く輝き、あたりが赤く染められていく。

鴉が何羽か連れ立って鳴きながら飛んで行った。

遠くの道を手をつないで歩く母と子が見えた気がして。

茜の胸を、哀愁と懐かしさと愛しさが駆け抜けた。

思わず涙が出そうになってグッと堪えた。


「茜?」


「…こんな世界が、ずぅっと続けば…」


「…………ああ。そうだな。」
















その願いは、


この数日後にあっけなく崩れてゆく。


そして


彼女の物語はここから始まった。

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