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晴れの暗殺学‐WEATHER OF ASSASSIN-

作者: 北條改新

 それは忘れ去られた遠い記憶の誓いの物語。

 それは大切な燃えない思い出。

 おれだけが忘れている誓いの思い出。


「誓う? 何を誓うの? ハレくん」





「おれはいつかマジ絶対に偉くなってアヤノちゃんのために忍界仙人になってやるだ」





 「んじゃぁ…そうなるまでハレくんをお護りするね」





 「ああいいぜぇ。里で一人前に認められるマジな存在にお互いになろう」





 「うん。あたしがんばる!」





 「二人で誓おうマジな英雄になるって……」


あの日の満月の夜―――金木犀が並び立つ中。

 二人は一厘ずつ金木犀の花びらを食べて誓いを立てた。

 それは忘れ去られた遠い記憶の誓いの物語。

第一章 【ある偽物忍びの少年時代】


 1

 

 逢井晴の日常には修行の習慣がある。

「………………………………」

 八月の夕焼けに空気を通してキノコや大樹がそこらしら聳えたつなか渓流の穏やかな流れの音が聞こえ続けている。

 時には、美しい鳥の鳴き声をあちらこちら耳にしながら、逢井晴は草地で胡座をかきながら目を瞑って大地のエネルギーを体内に吸収し始め気を身に宿し高めている。途端に心の視界が心地よい深緑へと広がっていく―――――大地の全ての自然の霊気を感知し体内に取り込む。

すると、自分が一体化して行く気がした。

 途端に、自分が一本の大樹から栄養を吸い取るみたいな感覚で一気に鮮明化する。

 身体から色温まる様にぼわぼわと繊細な緑色がオーラを放ち。

 落ち着いた雰囲気を漂わせてハレは立ち上がり――――――。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 ハレは根性を胸に鬼畜過ぎる雄叫びをした――――――。

 キリっとした目でハレは、忍びの術の基礎中の基礎――――影分身の印を素早く束ねる。

「マジかよ…………くっそぉ―――――――――――――――」

 だが、初めの2印を練っただけで身体が軋み激痛が伴われ命が折れそうになって行く。

皮膚が剥がれ細胞が崩壊し頭が、かき氷を一気食いした頭痛が入り込む。

「おえ!」

 その反動で血を吐いてしまうのだった。

 からだ中に電気が走る激痛で拘束され途中から印を練ることもできなくなる。

ハレの視界が薄らと消滅し力が尽きていった。

「―――――――マジ、畜生―――――――――――」

ハレは思い返していた。

いや、屈辱と悔しい思い出と書いて惨めと書く記憶を振り返るのであった。

逢井晴はいじめられる素質に愛されていると言いようがない体質に恵まれているのであった。忍びなのに印を練ることもできない事を。さらに他人から扇情的になめられていた。されていたのである。ハレは里で嘲笑い者にされ、馬鹿にされ、時には恐れられ除者扱いされていた。

何故、そんな風にされているのかはハレにとってさっぱりわからない。

――けど、悔しさはマジ人一倍あるのは確かである。

――ムカつき度もマジ異常である。

――マジで見返したい気持ちもある。

――友達とも思ってくれない奴はマジそこはかとなく皮肉の見して。

――友達と思ってくれる奴はマジなんとなく友達風に扱って付き合ってきた。

――被害妄想のし過ぎかも知れないけど、マジ奴らの表情や笑顔がマジで偽物の様な気がしてマジ嘘の様な気がしてマジ演技臭くてマジ内心侮辱されている様な気がした。

里で馴染めない自分に腹も立っている。

「…………………………………」

正直――――逢井晴という自分が嫌いだ。

それでも日々努力を重ねるハレは、自身の里であるアリールゼンションの里の東方の山で放課後を使い修行をしていた。

 ハレは、忍びの世界では、忌み嫌われているため学校でも仲間外れで居場所が無いハレは学校以外の活動はほとんどこっちで忍びとしての鍛錬を行っている。

本当に何故―――嫌われているかなんて知らないハレは、誰かに訊こうとしても里の奴らは顔色悪く口を開かずハレの元から逃げて行く。

その様な姿は懲り懲りするくらい数多に見てきている。

自分自身を何も理解できず何も知らず15年と半年ちょっと生きてきたハレは、不安と悩みと孤独を背負いながら一人ぼっちで道を進んでいた。

独りで居る方法しか思いつかなかった。

でもいずれ、おれの事を認めて欲しいと思っている。

そして―――――――――。

唯一ハレの身柄を確保してくれる忍者がいる。

アリールゼンションの里で一番偉い祖父である里の長を仕切る忍界仙人。

――おれはマジ英雄になりたい。

――幸せな程、マジ信頼されたい。

――そう思って忍界仙人にマジでなりたいと思っている。

「マジ。早く自立して立派な一人前の忍者になってジジイみたいな忍界仙人になることがおれの夢―――――もっともっとマジで努力しないとなぁーと~」

 風にあおられる草原に自分の体を預け額に手の甲を乗っけてそう呟く。

「クン。クン」

 ハレは何かに反応する様に突然、鼻梁を動かした。

「何か――――マジ、くせぇーな…………こりゃーおれの修行の成果が試せるかッ」

 ハレは、にやけた。

 ハレは、耳と鼻をぴくぴくさせて突如態度を変える。

 遠くから気配がしてきたため草地に寝そべっていた体を側転させて高く飛ぶ。

「うっしゃああああああああ!」

 ハレの嗅覚は生まれつき以上に鋭い鼻をしている。

獣の臭いがしてきたハレは、それを見逃さず修行中である姿、素肌に黒いタンクトップと上からオレンジのフードつきのオーバーオールを着こなし、木に立て掛けてある黒い剣を背中に背負って心の準備をする。

「――――――――――おらああああああああああああああああああああああああああああ!」

漆黒の剣を鞘から抜き始め切れ味を確かめるように行先の大樹の並みを切り上げて一気にブった切る―――――剣先から鞘に納刀して収める独特な特徴の刃音を鳴り響かせ口で微笑み浮かべた。及び開いた道を歩き始める。

「よっしゃあああああ! マジ、いくか!」

長い茶色の前髪を束ね、ブーツの音を立てて徐々に歩くスピードを上げる。

「ふはははははははははははは。うははははははははははははははははははは」

 不気味な笑い方をしながらワクワクが止まらない。

一気に走り――ハレは嗅覚を頼りに森を抜け荒野を思いっきり駆ける。

「はぁはぁはぁはぁ――――――――――」

高速の様に走るハレは、閃光の視界がばぁーっと広がっていきつぶらな瞳が潤って―――背中に羽が生えたみたいに追い風がハレを援助する。

「ははははははははは。マジ、今日は運がイイことに風はおれの味方だぜぇぇ。マジ、からだが軽いぜぇ~ マジで背中に羽が生えたみてぇーだ!」

 心地よい風に愛されるハレはとても安らぎを感じた。

 一閃超えた先には、ハレを待ち構えている敵が矛先を向けている。

 忍者として最大の敵である悪魔共が数匹、滑稽を並べる――――。

「………ニッ」

 ハレは闘争心を隠しきれず、ワクワクした。

「まずは、このおれのマジで最強なところを見せつけてやらぁ!」

敵の群れの間の隙間を疾風の如く電光石火みたくすり抜ける。ハレは奴らに挑発の態度を見せつけた。それに応じた奴らはハレの後ろに憑いてくるように後を付いてくる。

「ふは。マジ面白れぇ―。マジ、きったねぇー唾液を垂らしやがって――――――あの悪魔、憑依系統の()()()か、しかもハイエナ―――ってことは………親玉もハイエナってことだよなぁ!」

 そのままひたすら、荒野を駆けながら、一戦交える事を即応する。

ハレの手は柄をしっかりと構えた――――。

カシャ―――。

キーン―――。

漆黒の剣と鞘から抜き下ろす金属音を奏でながら、清々しいく鯉口を削り火柱を立ててものうちで力強く風を切る様に抜刀した。緩んだ気を一転返しマジな顔を浮かべるハレは、左から飛び掛かる食屍鬼を鎬でからだを水平切りで真っ二つに切り込み―――そのグールの体は掠れるように姿が消滅していく。

「マジモードのおれには、単純な攻撃は効かないぜぇー! だって今のおれはマジ、全力だ!」

 次の二匹目のグールは、最初にやられた仲間がどう、やられたか学習したようにパターンを変え三匹目と一緒に行動をし始める。こいつらにはどうやら知能があるらしい。

奴らは、二手に別れてシャッセーオーバーステップを仕掛けてきた。

残りの二匹目と三匹目のグールは、そのままバランスを崩さず、攻撃を仕掛けてくる。

「うおっ! あっ、あぶねっ!」

 悪魔たちの攻撃は驚く程に正確なポイントを捉えていた。さらに精密過ぎている。

おまけにぶれがない奴らの反撃はこめかみを喰らう様にしっかり捉え。確かに正確だった。

「?」

 しかし、完全には避けきれなく数本前髪が裂けられ少々の血が額から汗の様に流れ出す。

気迫が係る反撃に内心、ビビり。言い方を変えれば、焦り心拍数が高鳴りさらなる命の駆け引きの緊張感を自覚させて思わずスピードを鈍速に下げてしまう。

 その様にされ、神経を集中できないまま、相手の思惑に気を取られ、さらなる死角からハレに脅威が襲い掛かる。

「はっ!」

 だが。

 その気配を微かに気づいていたのが運がイイことに―――――――――。

身の危険を感じたハレは、連続ワンストンプオーバーターンで命を切り抜ける。

「………うは、マジで間一髪! マジ、つい、取り乱しちまったじゃぁあねぇーか!」

 顔面からぽたぽたと垂れ流す血汗をぺろりとベロで舐めまわし、双眸が猛獣を狩る緋色の瞳に移り変わる。淀みの感情がぼこぼこと沸騰し蓋を開けた瞬間を狙い堪っていた血が震え出す様なワクワク感がハレを襲いどうしようもなくたまらなくする。

 学習が良過ぎる獣共は、結構手ごわくハレは、戦いの血が疼きニヤニヤが止まらなかった。

「くううううう。マジ、わくわくが止まらねぇーマジサイコ~! つえーなマジ、お前らぁ、マジつえーよ! こんなんじゃ、マジおれワクワクしちゃうじゃゃねぇーかぁ―――――しかも、こいつら忍びを見てきた目をしてやがる。きっと親玉の躾だろうな! だが、だがなぁ~おれだってマジの忍びだ! 忍びの世界を脅かす悪魔は全部祓うのが忍びの掟だ! だから、お前らには悪いが、ここで身を脱いで貰うぜぇぇぇぇ!」

 ハレは、食屍鬼共よりも遥かにスピードをつけて奴らと差をつける、嗅覚と聴覚で奴らの下品な息荒い声を頼りに感覚でかなり離れたこと計りハレは、足で地面を蹴り宙に浮く間、奴らの正面を向くように軌道を変えコイルターンをする。地面に着地する寸前タイミングを見計らい慣性の働きの応用を使いジグザグにダイアゴナルターンをしておまけについてくる摩擦力を使いうまく重力のバランスをコントロールを掛けてブレーキをする。

 ハレは、自然エネルギーを片手剣に注ぎ力を溜めて奴らに対しせせら笑いが止まらない。

 そして、次なるモーションに入る。ハレ。

 ビ―――――――――――ン。

 と。言う、効果音と共に―――――。

片手剣から放たれる光の波動を発しる。

一気に祓う技のステップの段階に入るハレ。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」

 気勢を張って両手で柄を握りしめる。

 文句なくハレの元へ食屍鬼が来る。

 ――――マジ、バカが!

 心臓の鼓動が縮まっていく感覚を覚え視界から見える奴らの動きが遅くなるのを感じた。

 ――ドクン。

 ――ドクン。

 ――ドクン。

 ――ドクン。

 と。安心感が感じられない心臓の鼓動が耳を塞いだ時の様にうるさく聞こえる。

「この、刺激、マジ、たまらねぇー!」

 凝縮される緊張感によって敵の動きがスローモーションに見える。

 敵の動きがはっきりとわかる。

 この空間でハレだけが。

 加速する。

 自分の生命力と忍力の波長を調和させ片手剣の切先から風の渦が纏い始める。

 ハレは左足を一歩下げ――笑いの一太刀で自らの剣を振り祓う。

「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 キ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ン。

 音速以上で飛行するジェット機などの衝撃波によって生ずる爆発音。金属音。耳鳴り。全てどれをとっても鼓膜が破れてしまうじゃあないのかという凄まじい迫力音。

 風の刃が食屍鬼らを襲い渦の中に飲み込まれきめ細やかな無数の凄絶の風針が舞い。

身体の組織を破壊していく―――――――。

言わゆる――――ソニックブームって言うヤツだ。

「マジかああああああ。うぉおおぉおぉおおぉおおぉおぉおおぉおおっぉ――――――――」

しかし技のコントロールが一切できないハレは技の風圧に巻き込まれて反動で後ろへ吹っ飛ばされてしまう。思わず、だらしがない悲鳴を上げて何も抵抗ができないまま―――そのまま崖から落下する。つい悲鳴を上げるものの地面に足が着地したのは、運が良かった。神の御加護なのかもしれないと安堵する。

だが、重力には逆らえないので全身にビリリと電気が走る信号が流れるハレだった。

「マッジッ着・地・は・な・れ・な・い………マ・ジ・後・で・修・行・し・な・い・と・い・け・な・い・か・も―――――――――――――――――――」

そして――瞳に1つの影が映る。

 

「こらぁぁぁぁぁぁぁ! ばかハレぇぇぇぇぇ! また、こんな里外れにこもってぇ! 今日こそ許さないんだからッ」

 アヤノ、ギクリとハレの体が凍り付いた。意表を突かれる様に。


 木陰に女の子が1人立っている。椿の彩を身に纏うサマーブレザー、フレアスカートから細くて肉付きがいい美しい脚を堂々と披露するようなニーハイという格好はハレと同じ彩夏(さいか)(こう)学園忍び高等塾に通う制服だ。

 彼女の名前は、桐那岐綺乃(きりなぎあやの)。高校生にして大人びた雰囲気。大人びた性格。背はすらっと高く、おれの身長を拳一個分抜かしている。プラスに出るところはしっかりと出ているらしい。

 ~らしいというのは、別におれは興味も関心も無い事を意味していてアヤノを慕う輩が言っている事を素のまま説明しているのだ。その続きを簡単に話すと―――――。

 ハニー色に染まる前髪が揃えられ背中まで伸びる髪を尻尾のように三つ編みで留めてある。

 それはまさしく、《金木犀の妖精》――――。

 と里では結構な有名の看板を持つ人気者でおまけに優等生でみんなからの憧れでモテモテと来ている。その実力は相当なもので戦闘センスは常人の上を行き珍しい闘いをするという評価と評判されている。おれからしてみれば、未熟なおれに自慢しているようにしか気がしてならない存在だ。ここからが、おれの意見だが。その上、余裕ぶっこいて。いつも、いつも『ぼっち』のおれに気遣う御節介女であると同時にうざい幼馴染である。

 そう、人類一を代表する。御節介幼馴染である。自身でおれの事をおもりと思っている。

「……………つーかアレかぁ? マジもしかして、マジでもしかすると……ここらに居たと思らわれる悪魔がマジ居ないのってッ」

「うん。あたしの剣で殺っといたわ。ハレのために!」

 うわーと悲しげに溜息を吐くハレ。

 黄金のつるぎからバチバチンっと金色の稲妻が迸る。

 少女は絢爛だ。凛とした可憐な瞳は吸い込まれそうに透き通る。

 容姿端麗ですべての体のプロポーションが揃ったこの少女。人を助ける事や人の幸せや自分の幸せや情愛深い性格を持つ。この少女こそ、おれの唯一の友達と呼べる友達で諄い様だが、幼馴染と言える幼馴染だ。

「たく、マジ、お前は、余計な事を仕出かしやがってッ―――――――――――――」

 憂鬱な顔で空いている手で頭を掻く。その様にしてチラッとアヤノの様子を伺った。

しかしあーろう事にアヤノはおれの行動が気にくわない態度をしている。それは、怪訝していると見えるだろう。

「………………………」

 ハレは、能天気な顔から思わず冷や汗を掻いた。

「ポンコツハレ!」

「んだよ。マジ優等生さまぁ、おちこぼれが孤立して里から離れたから御怒りですかぁ~」

 怒鳴るアヤノにめんどくさてやってらんねぇーの態度を浮かべ適当な対応をする。

「きみって言う奴は、どおーして魔除けがされていない区域に入って勝手に悪魔退治なんてしているんだよ。未だに忍術もろくに使えない奴が……まだ悪魔退治を許されていないハレは里の掟で外には出てはいけない決まりでしょ!」

「掟、掟ねぇ~」

 里の掟とは、忍びに置ける仕来たりみたいなものだ。簡単に言うとルールを破ったらそれなりの天罰が下るというシステム。忍者の里に生まれた奴らはみなその宿命を背負う様に因縁付けられる。おれにとっちゃぁどうでもいいものだが、里は不良を侵す者を見過ごすことは無いらしい。いざ対象になると惨めになるものだ。

「ナニよ? 掟に不満でもあるの?」

「不満? あるよ、大ありマジのすけだぜ、掟っておれにとっちゃあマジ、行動範囲を縛るだけの重っ苦しい皮肉なものでマジ、鬱になるからさぁー。マジ、そー思っただけだよ」

「ナニ、言っての? 掟があるから、忍びの秩序が守られているのよ。で、正直なところ、黙ってて欲しい?」

「はッ。何が? ああ、破った事? はは。アヤノ。マジ、笑えない取引でも目論んでいる顔に見えるのはおれだけか? マジ。だが、そーできるならマジ、そーしてくれる?」

「ええ! いいわよ。里には黙っててあげるわ。うふふ…………」

 忌忌しげに呟く不気味に笑うアヤノにゾクンと得体のしれない感覚が奔った。

 まるで、体内に氷をぶち込まれたみたいな感覚だ。喩えという悪寒だ。

しかし、昧者のおれは、昧死の様に、

「そりゃーマジどうも! てか、お前は何様と尋ねたら殿様とお答えやがるタイプですか? なに、マジ、えらそーにしておれを仕切っているんだよ。掟なんて人を縛る制度で下らないもじゃないかぁ? 何、平然と正義感を感じっちゃってるわけ? あんなのマジ、人権の侵害だっつーの。マジ、プライバシーの侵害だろーよ」

 余裕綽々に掌返してそう言う。

 内心ビビりながら。

「…………屁理屈はこっちに置いて、きみの考えは抛り捨ててやるわ」

「おい! マジかよ、捨てんなッよ! なんか、扱い雑じゃね?」

「あたしが許せないから許さないだけ! だから、このあたしが、成敗してやがるわ(キラッ)」

 腕っぷしとにこやか表情には、背中にドスグロイ予感を感じる。

「マジ、でたでた。はぁ~マジ、何でお前が許さないって話になるんだよ。アヤノにはマジ、関係の無いことだろッ!」

「ばかね。里で罰を受ける換わりあたしが罰を下してあげるのよ。感謝しなさいよね」

「……なにそのぷちツンデレみたいなセリフ…………。お前はいつからツンデレ属性になった?」

 という返しセリフを無視してアヤノの体内から何かが放出する。さらに鮮明化される金木犀の花びらがランダムに放電しはじめる。そしてアヤノの両手の先端がまばゆい光を発する。

「っうおぉ!」

 あっぶねぇ。

 ビリビリリビビビ。という高音の雷鳴を轟く。

 金木犀の彩の雷がおれの身まで襲いかかる。

 その荒い放電みたいにアヤノの柳眉が逆立てる。

「っち!」

 ハレは万事休すな事態に軽く舌打ちをした。

 彼女の不本意な実力行使には片寄がある。己の実力という名の力を利用し過ちを犯さないようにハレの身柄を限定させアヤノは事を犯したらこらしめることしか能が無いのだ。この少女は。顔はかわいいが中身は残念みたいなオチがある。その様な表現が今まさに乱撃する放電でじわじわと感じさせる。そう思ってハレはキレ顔をする。攻撃態勢に入る彼女の鬱憤に対し不条理で不合理でやはり不公平に思えてきてひどく込み上げる怒りが隠せない。

 ――――――なぜ、

「なぜ、そんなにマジで機嫌が悪い…マジ、おれは強いんだ。マジ、ここに居たっていいだろ。ここがおれのマジな居場所なんだ」

 ――――ここしかマジで居場所がないんだ。

 ――――里はおれをマジ、軽蔑した目で見るし気圧されるのが厭なんだ。

――――身と心にマジ、重くなった様な感覚が上乗せされより身と心が苦しい。

 ――――なんと言ってもそれをぶち壊すマジな力が無い自分に嫌気を指す。

「……………へー意志が固いのね。相変わらず…………」

意地っ張りな文句を洩らし八つ当たりされたアヤノは表情を変わらず目を座らす。

「でも。きみは強くなんかない。さっきだって食屍鬼をたまたま祓ったみたいだけど、それは、雑魚の悪魔よ。所詮きみはその程度くらいの忍びってこと………ハレは大人しくあたしに身守られていればいいのよ! あたしみたいな忍びになりたいならなおさら、大人しくしてよ! きみが一歩、一歩、勝手な事するたび………あたしが見えているはずのハレが。ハレを見失ってしまう。ハレにもしもことがあった時、すっごく恐いのよ。心配なのよ。だから、わかってよ!」

「っち……そーいうのマジ、うざいんよ………マジ何なんだよ……アヤノは別にいいじゃないか忍びの才能があるんだから……くっそぉ…本当にマジ御節介女…余計なお世話……あっちにいけよ! おれの気持ちを踏みにじることばっかしやがって。大体アヤノはいつも上から目線で見下してむかつくんだよ! おれの事をナニひとつわかってない癖に!」

 ――――おれは強い。

 ――――おれは強いんだ。

 自分で。そう。自身がありありに誇っている。

 だから、もっと強くなりたくて忍びになりたくてここで修行しているんだ。

 なのになんで罰なんか受けなくちゃならない。

 マジ、ありえない。

 不公平だろ。

 自分たちだけ印が練れたり、忍術や体術を身に付けて忍びとしてどんどん強くなって。

 そんなのずるいだろ。

 才能の無い奴は光を掴めなくて暗闇を彷徨う。

孤独に生きるしかない奴は微かな必勝法を考えて孤独から抜け出す方法を探すしかない。

 だから、自分なりのど根性で努力して強くなるしかないのに。

 何故、アヤノは拒む。

 訳わからねぇー。

 ひとりで強くなるのにどこが悪い要素や要点や概要がある。

 強い奴、里に認められている奴はいいじゃないか。

 英雄の気分になれて。贔屓されて。

 認められない、冷たい目線で見られるおれは屈辱の言葉に他は当てはまらない。

 おかげで付いたニックネームがポンコツハレの恥を知る異名だ。

「ええ、あたし、神様じゃないもん。人の気持ちなんて零から全部わかるはずないわよ。そんなこと、当たり前でしょ。けど………ハレ。あなたにひとつだけ言葉をプレゼントするわ」

「………マジよー。傍観者でいるのはやめろッ………マジ、やられるこっちが辛くなるんだよ!」

「ハレは勝手に意気がって成長した風に自慢して威勢を張るけど、はっきり言って自己満足にしかならない弱者のすることよ………」

「マジ、うっせ――――」

「人は一人で努力しても絶対に強くなれないわよ!」

「…………………………」

 ハレはその言葉に酷く心を抉られ意表を突かれた。

 だから。

「だから、マジ単独で法を破ったおれに腐れ縁の優しさで代わりに罰をあたえるみたいな……」

「そうよ」

 語尾にハートマークをつけて満面な笑みを浮かべる。

「………………………………マジ、うん………………そこにウィンク入れたら、そこらの猛獣(おとこ)どもはハートを射止めるんじゃないかって冗談言ってみたり――――」

「ふふ。入れたら、大人しくお仕置き受けてくれる?」

「いや、マジ遠慮しておく。けど、マジその満面な笑みにやはり、あざとさを感じるぞッ!」

 過保護すぎるアヤノは印を練る。

「未」

親指は左が上。一直線に重ね。

「巳」

親指は左上にして重ねる。

「寅」

両親指は真っ直ぐに伸ばす。

すると、迸る金木犀の花びらからアヤノに似たいくつかの影分身が形成された。

「ハレ、これでも抵抗を試みる?」

「…………………なんの冗談だ、マジで、アヤノさん?」

 アヤノはハレに訊いた。

 さらにアヤノの表情に薄らと憤りが混在している。

「―――試みる?」

 二度言う。アヤノはしばし強引な言い方をした。

 そして、ハレは腕を組んで考えた。

 しかし、

「………………………フン。うん、無理だあ~。マジ、うん、お手上げ…」

 首を傾げて鼻で苦笑いをする。どう思考を練っても打開策が思いつかなかった。自分でも単細胞だと思っているのに忍びのカリキュラムだってテストの成績だってケツから一番、二番を醜い争いをするのに頭脳明晰の羽川翼さんの様に猫被っても阿良々木暦の様に勇者になれるはずが無い。所詮ドラえもんの秘密道具に頼るのび太くんがお似合いの立ち位置なおれだ。

この時ばかり、ハレは自分自身を愚かだと悟りを開く。

さすがに漫然に呆れてハレは軽薄に愚痴をこぼす。

「マジでッお前は御節介女だよ―――」

「その言い方は正しくないよ……面倒見がいいおねぇーさんって言って欲しいなぁ」

「あっそーかよ、マジ、手加減は……しないのが、てめぇーだもんな………お前はマジ、いつだってそーだたなぁ。こういう場面では、マジ、おれを見る時はいつだって憐憫な目で見る慇懃無礼な忍者だもんな…………忍術が使えない相手に忍術を使う思考がアヤノらしいつーか。アヤノはおれの知っているアヤノは金科玉条だったわ……こうなった以上優等生とオチこぼれじゃぁ……大差あり過ぎて、おれは大人しくしてた方が命はありそーかぁ?」

「そうねハレ……倍返しされそうな実力行使は吐き捨てた方がいいんじゃない。うふ。ハート」

「オイおい……アヤノ。お前はやっぱ世話焼きな御節介女だよ」

「その言い方は正しくないよ……面倒見がいいおねぇーさんって言って欲しいなぁ!」

「ふぉーほほほ・ふぉーほほほ」

 腹もよじれずに笑えない事なのになぜかバルタン星人のもの真似をして現実逃避してハレは号泣した。

 夏。

8月の夏休みなのに――おれは、忍術が一切できずにして成績が足りず補習組になってしまっていた。だが、補習じゃ強くなれないことを察してサボったのはいいが―――おれの日頃の惰性に目を付ける御節介女、桐那岐綺乃に捕まったらもう逃げる考えは正直……捨てた方が身のためだ。「さぁー更生をはじめましょうかあ~……」アヤノはたのしそーだ。

「マジっつーかぁ~、なんつーかぁ~、これはマジ。勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~」

 ハレは天に叫んだ。神様なんぞ、信じていないが。

きっと、神様はこう言うはずだろう『どんまい』と。


     2

     

 次の日。

 とある、エアコンが効くお店で体を冷やされながら、体を涼んでいた。

「影分身で掌底438本だぁ~なんじゃそりゃー。ぶははははははははははは」

 割り箸で牛丼を口の中に放り込む逢井ハレは嘲笑される。桐那岐雷汰に口の中の食べかけの米粒を目の前でとばされた。

「ライタ……それは。あちこち、こぶがあるおれに向かって笑っているんだよな…恐ろしい妹に高笑いする兄貴。ここは愉快過ぎる桃源郷か…おいっ」

 ハレは怱忙の間だ。

 ハレの顔面は蜂にでも襲われたのかぐらいに酷いもので気が強い顔が原形の欠片もない。

 向かい側に座るツンツンした金髪に染めるライタが悪趣味な笑みを口で浮かべていた。額にはヘアバンドで特徴を付ける。その下から、目つきが悪い虎の双眸のはずなのに厳ついクールな外見とは裏腹に中身はたちの悪い人の面白く無い事をあざとくコケにして嘲笑する悪趣味な傾向がある。なので、今のおれを的にしてツボに入って腹を両手で抱えてげらげらと興奮気味に足も暴れ出している。

「しょうがないでしょ~あーでもしないと小柳先生を説得できなかったんだからぁ」

 掌を返して助けてやったんだから感謝しなさいよねをどこからか聞こえて来る幻聴な態度をするアヤノは溜息を吐いて鼻で苦笑いをする。

「よかったなぁーアヤノに助けて貰ってよぉ。健気な『金木犀』様にご奉仕されたとなったら幸せだろコノヤロ~」

「マジで本気で言っているのかぁー。ありゃー笑いごとじゃ無いレベルだぜぇ。たく」

「しかし、まぁー。ハレ! お前は俺らしかつるむ奴居ないんだからさぁ。もっと俺らを頼って生きていこうぜぇー ぼっちは寂しいだろ?」

「なんだよ。マジでその憐れんでいる口ぶりは。マジ可哀想だと思っているのか。この俺を? マジ、ふざけるなよ。里の奴らはマジで全員信用ならねー。どいつもこいつもマジ、おれが道を歩くたびに汚れた奴を触りたくないようにマジに道をあける。さらに別のもんを見るような目でマジ差別をしてくるし。たまにお前たちに似たいいマジな優しさを持っている奴が絡んでくる。けど。ライタもアヤノもマジおれをからかっているようにしかみえねぇーんだよ!」

 怒気が入るハレは拳に今の気持ちを強く握りしめる。

「まぁーまぁー落ち着けよ」

 気軽な態度でライタはハレの心を鎮静させようとするがより悪い傾向に思ってしまい。ハレにとっては可哀想だと認識してしまう。じわじわと来る静かな怒りに反射的に反応するようにハレの双眸が真紅の色に鮮明に変化を遂げる。それはまるで虎視眈々する様に――――。

「マジ、なめんなよ。ライタ!」

 啖呵を切るハレをライタはハレの胸ぐらを掴みとった。

「何だあぁあ。その上から目線の態度はッ! あくまでも年上の意見をお前のために述べてやってんだぜ。少しは嘘でも『うん』とか返事はしたらどうなんだよ。つ~かさぁお前はいつまでネチネチした夕日に照らされた少年時代を送り続けているのはもうやめたらどうなんだぁ? そしていつになったら忍者になれる? 不憫なおちこぼれがッよ。俺らはお前のために信頼を寄せているが気休めにお前の悪友をやっているわけじゃねーんだよ」

「マジ、気休めはそっちだろ。なに? マジ、下手な友情ごっこしっちゃっているわけぇ? マジ、そーゆうドラマチックは役者だけにして欲しいね!」

「俺らはテメーの都合のいいケツの穴を拭き取る使い捨てトイレットペーパじゃねーんだよ!」

「え? マジ、オシュレットの間違えじゃなくてぇ~」

「ふはは。所詮ポンコツは、知識もポンコツだなぁ。便座のシャァーはウォシュレットって言うんだぜぇ! 低レベル!」

「……マジっるっせぇ」

 自分自身で自爆をして屈辱を味わって恥辱を味わう。

 一個上のライタに向ってさらに胸ぐらを強く掴む。ハレの細幅む生意気な瞳孔がライタのやんちゃな態度を穏やかでは無くさせて激昂させる。

 ライタは、クールな激怒にハレの面構えを対峙する。

「ハレ、表に出ろ! その不細工な顔を粉々に治療してやる!」

「マジ、上等だ! こらああああ!」

「ちょっとやめなって!」

 立会人の立ち位置に立たせられるアヤノは焦り声を上げ磁石の様にくっ付く彼らの両肩を引き裂いた。

「っち!」

 と空気にまき散らした舌打ちを捨てて店内全員へ八つ当たりの如く侮辱した態度を執りハレは自動ドアに向かった。しかし…………。

「あれ!」

 目を瞑っていたせいでどすっと壁にぶつかって「いてー」とおでこをすりすりしながら目を開けるとそこは確かに出入り口である自動ドアだった。

「マジ、なんだああ!」

 ハレの姿がセンサーに認証されないのである。自動ドアなのに反応しないのだ。一瞬、ぶすっとした。目を疑う。しかし―――ますます怒りに狂ったハレは顔を真っ赤にして。

「おりゃややややややややや」

 と無駄な汗をかき飛ばし白目になりながら猛烈に足踏みを繰り返すが一向に開く気配が無い。

「ふひひひひひひひひひひひひ。自動ドアに反応しないなんて。自動ドアに相手にされないなんて。どおしたハレ!」

 それを観ていたライタは机をバシバシと叩き涙目に爆笑した。

 今日この上ない恥辱を味わったハレは見栄を張るようにバカにされた仇を犬歯を噛み揃え怒りを堪え様と心得る。

「もうなにやっているのよ! ほら!」

「マジ、くっそ! 自動ドアまでもおれをマジでこけにしやがって……」

「も~っ。してないわよ……」

 アヤノが手を引いて自動ドアに立ちドアが開いた。もうこれは、壊れていない証拠になってしまったが、そんな事を気にする余裕というか、ハレは頭の容量が悪いためすっかり考えなどしていない。ただ、アヤノの手が引っ張られて自動ドアの境界線から一歩出たのだ。

 アヤノは深々嘆息し未だに仏頂面をするハレを見て。

「ほら、泣くなよ。男でしょ」

 ハレは気が強いが、実はやられると非常に泣き虫だった。

けど。

 ハレ自身そうは思っていないのだろう。自分を天才と思い込み強いと思い込みそれがハレにとっての支えでありエンジンみたいなものなのだから。

「マジ、ないてねぇー。おれはマジで強いんだ! マジ…泣くはずがねぇー」

 同じ一五歳なのにどっちが姉か弟なんて立場は、はなっから明白済みだ。

 そんな関係がこの二人なのだ。

 アヤノは、厳しい時は厳しい、怒る時は怒り、笑う時は笑い、優しい時は優しい、泣く時は泣く。アヤノはしっかりとした人間性の部分が良く出来た子なのだ。まさしく、未来の猫型ロボットに例えられるだろう。皮肉にもそう思ってしまう。

「…………………ハレ」

 アヤノは腰に手を当てて腰を低く。まったくと呟き口で微笑みをする。

「あたしは、ハレが心配だよ。こんなんじゃあ一人前の忍界仙人にはなれないぞっ。」

 無理な苦笑いを浮かべて揶揄を入れる様にアヤノはハレの額に成長しろと思いを乗せてデコピンをくすぐるように突き立てて「コノ!」と静かに笑いを飛ばす。

「………うっせ。御節介女ッ」

「その言い方は正しくないよ……面倒見がいいおねぇーさんって言って欲しいなぁ」

 アヤノは静かにハレの顔に手を伸ばしてハンカチで涙を拭く。

 そうすると惨めに思ったのか手をパシンと叩くハレは暗黙する。

「……ハレ…」

 ハレは飛ばされたハンカチを凝視して悟。

「血?」

 ハッと疑いハレは、手を隠すアヤノを見て自身の長くなっている爪に目を固定させ、後退りをする。

「……大丈夫だよ……大丈夫だから……」

 アヤノは一生懸命に物事の事実を隠し通そーとする。

「……………………」

 そんな彼女を見るハレは動揺して困惑が揺れ動き。正常ではいられない。

「落ち着いて………ハレ………………」

「ック……」

ハレは呻き声を張って現実逃避をする様に建物の屋根に飛び移り姿を消した。

「ハレ……待ってッ」

 アヤノは心配そうな目を傾ける。一瞬だけ、落胆させるように肩をはぁーと落として。故障していない自動ドアを潜りライタの元へ戻る。

「どうだった。アヤノ? ハレの目は元に戻ったんかぁ」

 シャツ一枚に緩めてあるネクタイのコーディネートをしているライタは堂々と寛ぎながら活気が見られない少し遅れたイントネーションで怒気が滲むアヤノに向って適当に揶揄を指す。

「ライタくん。ワザと試したでしょ!」

「きゃはは。ばれたぁあ? だって面白いじゃん。被害者ぶる奴を痛めつけるなんて。ハレ自身は被害者の気持ちなんだろうけどそれは思いあがりもいいところだ。被害者はこっちだつーの。ま、事実を隠してる俺らが起こしているから仕方が無いケド!」

「そんなことはどうだっていいのよ…今の問題はそこじゃないわ…ライタくんは…いつもいつも…ハレを怒らせてあーやって―――もしも里を抜けたりしたらどおするの…ふざけないで! ハレはおもちゃじゃないのよ」

「そう、おもちゃじゃない。あいつは反逆者と吸血鬼の子だ! だから、おもちゃじゃない。

悪魔と言う属に体する吸血鬼の烙印を背負う化け物だ。本来ならば敵に回る……………………………お前も知っているだろう。あいつが里に居るだけで………里のみなはびびって怖がり消えて欲しくて目障りな存在なことを。本当は殺されるべき対象の忍びだ。あいつは、死刑なんだよぉ。けど。殺せない。殺されないのは、なぜってみんなは、昔からそう思ってきた。トップの権力とやらの都合がいい言い訳でハレはいかされている。あいつは、それが…どれだけの思い。想い。重い。ことなのか。わかちゃぁいない。どれだけの幸せな事なのか、わかっていない。甘えているんだよ。忍びの世界は甘えはねぇー。いつハレが、覚醒してあのやろーが力の制御もできないまま見境なく人を襲う時が来る可能性も確率もあるんだ。そうなれば、内部戦争で確実にアリールゼンションは崩壊する。そして、奴らも動く! 忍びの裏社会に生きる住人が全力でハレの力を欲しがるだろう! 自身たちで作った作品に遺伝情報の組み替えや禁忌を犯した体であるハレを取り戻そうとするだろう。ハレを利用とするものが、人類を絶望の傾きに導くんだ!」

「……大丈夫よ、ハレはそんな真似はしないわ。あの子はあたしたち以上の意思を持っているし――――――――なにより、あたしが生きている限りそんな風にはならないわ…………」

「……ふん。今はいいけどな! 幸い、吸血鬼の血が混ざっていても衝動して異変になるのは歯と爪の刃と真紅の双眸だけだ。でも、じっちゃんが、なぜ、里に鬼を匿っているのか理解に苦しむよ」

「忍界仙人様はきっと大事な孫を純粋に人として育てたいだけだと思う…忍界仙人様は歴代の仙人の中でも異例な考え方をしているらしいから。人を差別しない。それがあの方よ」

「だから、俺らアリールゼンション里の国民はハレに正体をさらすのは禁句って言うわけねぇ。吸血鬼の呪いをより効率よく抑え込むため―――――――――――」

 そう言って立ち上がりライタはアヤノと肩を並べる。

「まぁーがんばれや。おれは責任なんて背負う事なんてできねーし。つもりもこれぽっちもねーからよ。優秀な暗部であるお前が鬼を監視してくれて自慢に思うよ。金木犀の妖精さん。

「あと、隠しているつもりだろぉーけど、切った皮膚…一応医療班に見て貰えっ………」と外に出てじゃぁーなと言葉を残し残されたお勘定を残して「ふはははは。ごちそーさん」と瞬歩して消え去る。

「あ、あ、あいつ。ちゃっかり逃げる計算いれたなぁぁぁ。なんて抜け目ないの!」


「5480円になります」

 と定員が言う。

「どんだけ…注文しているのよ。もー」

 財布の中のお札がすっからかんになって訳が分からない苦笑いをしながら噴火寸前の剣幕が浸される。

 

    3

 

 アリールゼンション里。

 そうそれは、忍者が暮らす拠点地――――――――。さらに厳密を述べれば、栃木県を舞台に忍び国家が開拓された一つの忍びの国――――――総人口約二百万人。うち、男性は98万9887人。女性が100万3499人。

忍者も一般人も生活する集体地。

であり。

忍び文明がそのまま現代に移行された一つの里。

よって。ちょっと、変てこなスケールに支配されている。


 全員が【忍者?】と訊かれれば―――――――。

 決して全てが全ての人間が忍者ではない。

 忍びは里を護る義務があり、責務があるわけで常に責任と気迫が荷となり戦場に赴く命をかける負荷のある仕事を任せられる。のため…責任重大に耐えられる者やヤル気がある者にしか任せられないのである。ここで()いと言うならば、才能がない奴が、悪魔退治や任務や他里と交戦を交える事があってもただ、死人が出るだけだ。それを想定して文字通り戦力の欠片も無く力ない者には、仲間の資格ナシと後押しされ、迷惑行為になりかねない重大な職業である。

 忍びは忍び耐えるものだ。

忍びは忍びから信頼を貰い求められ里や仲間のために全力で命を掛ける。

忍びとしての実力があり、死ねる覚悟の才が必要とされる。

 ハレみたいな忍術も練る事もできない奴や体が弱い奴。体質的に問題だったり、霊力が無い奴は、元も子もない存在になってしまう。ただ、邪魔者になるだけ。

 忍びとは、忍者の世界はしつこい蜂のように厳しい世の中なのだ。里の中には、忍者になりたくてもなれない奴や忍者になりたくもないのになっている奴や適当に生きる奴がいるが、そーいった曖昧な現状は、常に付き纏われるため里の年間死亡数は役2千人と言われている。計算すると一日当たり5人の何らかの死亡が確認されている。

 けど、街を見る限り里のみんなはそんな不穏な空気を漂わせず、平和ボケした連中でわいわいと自分の利益のために御客を招き商売をする輩が大勢で賑わいを奏でている。

 遊園地に似た活気でハレの歩く周りは欲々しい物が囲まれているが、今の状態では目の毒である。なぜなら地面のタイルから異常な程の水を沸騰させた様な熱気と蒸気がハレの元へダメージが来て巻き込まれ―――体調は猫背の体勢を身構える程に怠かった。

 今日の気象は快晴。街をすっぽりと支配するのは夏の季節という怪物だけだ。しかも本当に人ごみは凄絶だから参ったの一言が言えてしまう。さすが、大都区――《ウツノミヤ》

 そして面倒臭い絡みを避けるためそれなりの対策を立てなければならない。

ハレは顔を隠すオレンジ色のフードで他人に正体がバレずにしている。炎天下の空下で嘆息を何度も洩らしながら汗をかき、堂々と街中を風来坊の如く単純に彷徨っていた。

「あちー。今日の気温は40度超えとか……マジぱねーだろぉ~」

 しかし。

 こんな真夏の中。

 補習とかマジ「ありえない」

 マジ「行きたくない」

のは。自分でもう断固決めつけているのに。

 補習なんて忍びのする事か? とマジ不愉快に思う。

 補習なんて強くもなれねーカリキュラムを熟しても無駄の一言に等しい。

 たとえば、ガリガリ君の限定味――シチュー味かコーンポタージュ味を地雷とわかっていて手に取りハイフィーリングの気分で食べようとした時に隣のガキンチョが一口食って糞まずいとネタバレされてガラスの仮面の衝撃面をする様に凌駕してしまう。あははは……そんな天平地異的、天罰な始末はないでしょーと思うと驚異的に命取りになる。そう、どっちも食った時どっちもゲロみたいな味で実際レンジで温めた方が美味しいくらいだ。

 だが、こんなたとえ話はどーでもいい話だ―――今の不機嫌さは他にあるのである。

 これも迷惑なことを仕出かす御節介女のせいだ。

 あの御節介女さえこの世に居なければ補習なんて行く必要性は無かったんだろう。

 思い返せば。

 

【2時間前……】


 都忍区ニッコウ――街外れには杉並木で一方通行に導かれた例弊使街道がある。そこをぬけるといかにもジブリでも出て来そうなガサツにツルで縛られた不気味な赤いレンガで出来た通行トンネルが開通してあり、そこを潜り抜けた先には、建物らしきものがあるが、人の気配は、まったくと言って存在はしない。それは、言い過ぎで人は、多く住んでいる。けど、大雑把に言ってしまえば、何もないと言えるだろう。ただ、何もないのは何もないとは言えなく、周囲には、山の谷が見えてそれが、囲うように古い木造建築や神社やお寺や建物や屋敷などが現状維持を保っている。

 ハレの家はすぐそこにある。

 ぽつりと置かれているように。

 とある場所にとある門構えがいいお屋敷が、ハレが住む住処だ。

 祖父とは二人暮らししているわけではない。

 ハレと祖父の関係から考えれば、そうなる。里で頂点に君臨する忍界仙人と嫌われ者のオチこぼれが、一緒に暮らしとなれば、立場は無いし贔屓になってしまう。そう思い込んで里外れに一人住んでいるわけだ。


 ハレはぐうすかぐうすか魘されながら寝ている。


 昨日のアヤノ仕様地獄のお仕置きタイムが、再現された夢に魘されていたおれは寝汗で滑ったシーツで気分が損ねずちょうどタイミングよくアラームで起こされた。

目を覚ましたかと思いきや何だか息苦しい。

己のテリトリー付近に誰かいる。女の子の匂いがする。

その女の子が、何かを仕出かすのはわかっていた。

だが、ハレは寝起きで意識が朦朧としているため抵抗ができず、

「くらぇぇぇぇぇぇぇぇ! ダブルツイング往復ビンタァァ」

 ぼやけて目を開けようとした時には往復ビンタをその女の子されていた。

「いてぇぇぇよ。ぴくちょう!」

「え! なに鬼畜!」

「チクしょ……う!」

「え? 畜生……。

「ところで! おはゆ~ハレッ」

 太陽の様にキラキラした笑みで挨拶をされて禍々しい気配を殺気立てながらハレは唖然とした。数秒後……つい挨拶をすることを忘れて――――。

「童女におはようって起こされる……何だ……ここは夢も希望もありゃぁしない桃源郷かぁ?」

 しかし。あの悪夢のような忌々しい体験を再び脳内で再生されるとは、夢も希望もありゃあしない。しかも、部屋を見る限りよくわかる事だ。部屋には、エアコンは常備されているが電力会社とは契約する顔も起たないのでおれの部屋はいつ蜃気楼が起きてもおかしくない温度だ。喩えて言うなら銭湯で茹だってのぼせる猛暑である。

「てゆーかッマジ重い…アヤノ…………お前は一体おれの腹の上で何をしているんDAY!」

 すると、ムッとした仮面を装ったみたいに重いと言われて反応して怒ったのか―――顔に赤みを帯びて鋭く潤った眼光になり日当たるアヤノをより存在をはっきりさせる。

「りゃややややややややややややややややややや…重くない重くない重くない重くない重くない重くない重くない重くない重くない重くない重くないDAY!」

「うらららららららららららららららららららら…重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重いDAY!」

 お互いにきちがいの言霊が波乱に絶叫が空間を支配していた。

 だが、意地が悪いせいかお互い退かない。

「軽いよね!」 

「軽くないよな!」

「軽いわよね!」

「重いんだよ!」

「可愛いよね!」

「しらねーよ!」

「素直にイエヤ―い!」

「断る!」

「で! 何しにきたぁ? 御節介女!」

「その言い方は間違っているわよ………面倒見がいいおねぇーさんって言って欲しいなぁ」

「マジとりあえず。おれから密着するのはマジやめてくれないかぁ!」

 と―――すんなり降りてくれたのはいいんだが。

 朝っぱらからアヤノは何しに来たんだか。

 だが、こいつのある程度の考えはわかる。ワンパターン―――つまり厳密に予想すれば一つしか無いのだ。ハレの今、背負わされているものと言えば……今回の現場状況と夏休みと朝のラヴコールと略して真逆なデスコール。アヤノはハレを捕まえてラッキーかもしれないけどハレにとっては都合の悪いアンラッキー。導かされる答えは当然補習の事だ。

「言っておくけど……おれはこれから山に籠って一人修行するんだ」

「却下!」

「早! マジ即答か! 何で?」

「今日は補習でしょ」

「いや…おれの記憶だとぉ……そんなはずはない!」

「肯定しても無駄よ。

「さっき小柳先生に訊いて調べたんだから……」

「なんだと、あの武闘派ロリコン教師に? アンナちゃんに?」

 なんて女だ。人のプライバシーまで侵入するとは支配するとはストーカーかこの女?

 新種のヤンデレか?

「ま、マジ……… マジ夢も希望もありゃ―しねー」

 ぞーっとする悍ましいく顔を浮かべおれは急いで身支度を済ませ始める。

 っぽっと赤くなるアヤノはつぶらな目をクリクリと見て見ない見て見ないを繰り返しバレない様に視線を送る。それは、ハレが汗ばんだシャツを脱ぎ捨てて上半身を露出をガチ見をするアヤノの怪しい行動である。それに気づくハレはギャグぽっく披露して、

「きゃぁーマジ、アヤノさんのえっちぃいい?」

「何? 見て欲しいの?」

「マジ何で! そーなる!」

「きゃっ。女の子の目の前で着替えるなんてエッチ―です!」

「…………………………………………………………」

 何故その言葉を吐いて俺の身体を瞬きもせず性欲に負けた顔でガン見をしているんだ。

 この子は。と。おれはふっと思った。

「しかし? いい筋肉だね」

 真顔で言われたぁぁぁ。

「ハレって見た目よりも結構いい筋肉だね?」

「まぁマジ、鍛えているからなぁ」

「ツン」

「………」

「ツンツン」

「……マジ、触りたいのか?」

「いいのぉ!」

 そう言っておれの上腕二頭筋。上腕三頭筋。鳥口腕筋。上腕筋を滑らかに触る。

 だが、そう言ってしまって本末転倒の四字熟語というものだ。何故ならおれは筋肉を公開してしまった事を素で後悔したからである。欲に負け欲に染められ欲に開放したアヤノの脳内のセーフティーを解除して解き放たれ面白おかしく半ば暴走状態にして上げてしまったからである。おれはそれを抵抗する様に薙ぎ払うが異常な程にアヤノはバカ力だった。それはまさに野獣の意思を持つ破壊的衝動の塊だった。おれはこの時は恐怖と言う気持ちよりも自然に猫とじゃれ合う行動に何故か走ってしまった。

 ―――――――――――。

「サイコ―の筋肉をごちそーさま!」

「はぁーはぁーマジ、見境ないなぁお前? それにマジ、いつおれの筋肉を食した? どんな味?」

「ナニ、言っちゃっているの? ケド、うん。素晴らしい筋肉の一言だよ。」

 内心、おれはアヤノをどん引きだが、軽蔑したが、態度に出さないのが礼儀というものだ。

 本人もキズが付くだろうし何により―――もし、言った後の御釣りが予想も予測も着かないので怖い恐いってありゃしない。それこそ夢も希望もありゃしないことだ。

 いや、しかしこれは面白おかしくギャップ萌えというものではないだろうか。この一面とは真逆に普段優等生で。もちろん成績優秀で生真面目で委員長で面倒見が良くて御節介で法則・法律・校則・規律・ルールを守る憧れの奴が実は桐那岐アヤノは卑猥な趣味を持つ筋肉マニアでしたってなりゃぁ萌えない所かアヤノが燃えるだろうな。完全燃焼で終わる。うん。

だが、見るこっちも影響がおそらく来るからやらないが。

「うん? どうしたぁハレぇ ニヤニヤして気持ち悪いよ?」

「さっきまで醜態をさらしていた奴がマジで良く言うよ」

 ぶっきらぼうなセリフを吐くハレは支度を済ました。

「さぁいくよ。ハレぇ」

「ちょっマジでやめろー見苦しい。おれは補習なんていかねー」

「やだー。バカなハレには忍びの補習がお似合いだから放さないよ~だあぁ~い」

 おちゃめなアヤノは訝しの疑いをハレに掛ける。アヤノはハレの腕をがっしりと胸に当てて無心に赤く緩めてハレを誘惑をさせる。またアヤノの勢力に負けたハレは心にゆとりを作ってしまったせいなのか「ぐぅぅぅぅぅぅぅ」とお腹が鳴る。

「うぷぷぷ。あざといおねぇーさんが牛丼くらいは奢ってやっても宜しいけど?………」

「っく……その手は食わないぞ……」

 どこぞの悪徳会社で勤務するキャリーウーマン似た奴が、自分の利益のために取引先の弱点を突く様にハレへ揶揄を入れる。

 ところが――――――――。

 この時だけは最近金欠気味のハレにとって絶好の宝石話だった。しかもまさに宝石に匹敵する牛肉と来たらもうハレにとってはヨダレを垂らす程の代物。

「♪盛~り盛~り盛り牛丼~牛と~ごはんでぇ~お~たぁ~か~ら~丼ぶりの一杯~。え~い・ら・な・い・の・か・な?」

「……………いい……」

 アヤノはニアミスをしてくる。

「えぇ~聴こえな~い~」

「マジ、わーったよ……その……マジで取引だぜ……おれがマジで補習を受ける換わりにマジ、メシ奢れよ!」

「わあぁ~い。勝った! あたしの勝ちぃ~! あははは。ハレは弱いなぁ~」

「マジでも~負けでいいよぉ~どうせアヤノに心理戦に持ってこられるとマジ勝てる訳なんてありゃーしないんだから。はぁ~マジ夢も希望もありゃぁ~しないぜ…」


     4

 

 ―――――――っと。

こんな感じで今までの一連の流れ的の経緯はこうなっている。

 だが、約束は約束なので守るのが、おれのポリシーなのだが、別にバックれてもいいと思うところだが、証拠はざらーっと並べられるし消去できない証拠が残るのでおれはやらない。

 しかし。

 家から高校までとんでも無く遠い道のりをわざわざ浪費家のハレにとっては、貴重の時間で初出勤のところの補習、第一回目を受けに自分の机に大人しく座ってみたもののやはり気怠かった………。

なんと言っても――――――――。

 ―――今日の授業は忍耐の基礎の講義とか……。

「夢も希望もありゃぁしないぜ」

 ―――おまけに不届き者気配を感じるし。

 ハレはこんな淀みの無い無聊に嘆息を漏らす。

 そして、一応反応してみると――――

「アヤノ……何やっているんだ……」

「………いないよ……」

「いやいやいや。マジ、いるだろう。マジで気配がバレバレだっつーの……………」

 裏声を張って壁際でアヤノが小さくしゃがんで居ないフリをしている。

 不法侵入者と疑われても間違い無しで窓際に座るハレに窓越しで見張っているのはアヤノだった。こそこそしているアヤノに気が散ってつい無視できなくてついつい反応を続けてしまう。

「お前は隠れて何をしている?」

「隠密の修行……」

「おれに見つかる時点でそりゃー失態だな。残念。ハイ。本音は?」

「ハレを監視……いつ脱走するかわかったもんじゃないわ!」

「ハ? マジ、逃げなねぇーし。マジでおっかねぇーアンナちゃんもいるし……そんなことマジでして観ろ殺されるわッ! ……はぁー少しはおれをマジ信用したらどおなんだぁ?」

「ハレの信用度は鳥の糞以下だわ…………」

「災厄だぁーあんなのと一緒にされるなんてー。おれってそんなにマジで信用がねぇーのかよッ……」

「うふふふふ。ポンコツハレだもん!」

「っコ、コノォー………っち………お前はマジ、何しに来たんだぁ」

「ちゃかしッ!」

「もう帰れぇぇぇ!」

「っばっか!」

「あ!」

 ――――やっちまった。

 思いもよらず勢いに乗って怒鳴ったは、いいが、それは、当然と言うか当たり前というか、教室中に響き渡り補習組の連中は、おれへと視線をまとめる。厳密に言ってしまえば、自爆したと言った方が正しいかもしれない。このしらけは、不幸で災厄で異様に気色悪かった。何とか、これ以上の印象を悪い様にしたくなかったハレは一生懸命にこの空気だけは打破したい事と気持ちは多く重んじた。しかし、言い訳はしたかった。だが、何を言っていいのか上手いように言葉を動けず、この場の空気に言い訳をするとやけど以上の命取りの様な気がして言い訳をする口も上手く動かす事もできなかった。ハレは口をつぐむ。

 ――――――そうすると。

「教卓に起立する小柳晏奈(こやなぎあんな)が、帰るのは、貴様だ」と、白いチョークをこめかみに完璧に捉えてミサイルみたいにチョークが空気を貫きハレの頭へ直撃する。

華奢な体でゴスロリを着こなし背が推定149㎝程のロリコン体質なのに凄い脚力で空中を回ってうんこ座りで着地を行う。そして攻撃的な面構えと口調で言う。

「おい貴様、あたしの授業が退屈だから、あたしに帰れって言っているのか? あ~んっ」

「アンナちゃん……あはははは……何言ってるだぁアンナちゃん? 違うってそこにアヤノが居たからアヤノに帰れって言ったんだぜぇ勘違いもいいところだなぁ~あはは……は…は…」

「金木犀が?」

「ああ! マジ、マジ そーうそーう。あっなぁっアヤノ?」

 壮絶に立場を追い込まれるハレは焦って汗だくになりながら、助けを呼ぶ様に反射的に言った。

 だが、返事は返ってこなかった。さっきまで楽しそうにしていたはずなのに――――。

「あれ……アヤノ……さん? マジかよ……」

「金木犀、今日は確か……任務のはず? ……貴様あたしに向かって愚弄かぁ? いい度胸してんなぁ」

「うそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?」

 そして、ハレは慌てて口を濁す。逃げる様に顔を背ける。

 と。

微かに金木犀の香りがハレの嗅覚を刺激する。ヒラヒラと金木犀の花びらが風に乗って踊っているのをハレは嵌められたと言いたげな面を浮かべ目を点にする。

「影分身………」

まずいと全身に刻印された刺激が走る。ハレは必死に抵抗を試みる。両手で頭部を守護した。

「あれ?」

 思いもよらずに正義の鉄拳は下されなかった。

「うむ。確かにこの術は金木犀のものだなっ。確かに居たことは証明されてる……認めよう」

「ははは。だろぉーマジ、そこに確かに居たんだよ。アヤノが……。さすが、アンナちゃん」

「あー居た居た………だが、逢井……あたしの導かれる答えを述べるとなぁ。貴様が今学期半分以上休んで単位を落とし……進級もあやふや。なめてるとしか言い様がねぇーてめーのチンカスの忍学力のためにわざわざあたしが今回ボーナスステージを設けているのにありがたぁ~いとはちっとも思っちゃくれない。貴様のために教えているのに対して補習を十日程サボったてめーをここまで連れてきた金木犀はわざわざ任務の身でありながら影分身を残すのはあたしは大いに評価するぞ。ポンコツのために己の影分身を置いていくのは、当たり前だ。あたしも逢井が友人だったら遠隔操作忍術でそうするだろうな!」

「っくっそーマジでマジで好き勝手に言いやがって…………」

「戯言をあたしに面と向かって言える余裕を施しているなら、成績を安定させて忍び認定試験で忍者の資格を取る努力するほど死にもの狂いで勝ち取ってから文句無く聞いてやる! ポンコツハレって別の意味で忍びの世に歴史に刻みたくなかったらな!」

「っち……」

「舌打ちか? そんなんだから里の奴らに信頼など皆無にされていつまでもポンコツって思われんだろうが! 言っておくがあたしは舌打ちをした屑だけは見逃さないと心に決めている」

「奇遇だな。ポンコツは喧嘩だけは専売特許なんだぜ! 里内最強攻魔士第二位だろーが関係ねー今すぐボコってやる!」

「はッ! そりゃー逢井。貴様は愚の骨頂と言うものだ……あたしと同じ土俵だと思ってるのならいい方を今スグ撤回した方が身のためだぞ~オチこぼれが!」

「アンナちゃんこそ。マジ、そのロリコン体質で出るところも出ていない癖に本当にそう思っているのなら蟹味噌以下だよ。一度汗だくで汗臭い腋臭臭い相撲取りと土俵で抱かれるといい。少しはその元ヤンである後遺症は治るだろう。少しはマシないい反面教師での説教ができるだろぉー?」

 と言葉と一緒に憤怒で固められたハレの鉄拳がアンナの顔面に炸裂して威圧と風圧が交差し教室の小物や机などが吹っ飛んだ。やばいと感じたクラスのみんなは外へ避難する。

「?」

しかし、炸裂と思ったその拳は、

「それが全力か? 逢井?」

「マ、マジか、よ、あ…あ…あ…あ……ゆ……ゆ…指一本で止めやがった。おれのマジな拳を……」

 アンナは首を傾げてハレの間抜けた驚がい面をアンナは上目使いで協調と強調しおもしろおかしくハレを伺う様に追従笑いをする。

「ふん……術とは呼べないこんな見習い体術の基礎中の基礎以下である一点に忍力を集中させるもので止められるくらいのパンチとは愉快な冗談で腹が攀じれるよ………それと元ヤンである反面教師での説教と言ったなぁ逢井。言い返してやるよ! 何だあ、その金平糖が100%できた脳味噌? 甘いよ甘いよ甘ったるいよ。忍びの世の中は実力が全てだ。巣立つ事も出来ないオチこぼれは当然に置いて行かれる。てか貴様みたいな自己中で自分勝手な判断だと忍びとしての素質は生まれてても卵に退化するだけだな。以上。反論はいかがあ?」

 お互いに対峙する雰囲気を出してハレは内心張りつめる。動揺しながら踏ん張って拳を押すが戸惑いと気も漫ろするせいで微動だにしない。だが、そうで無くとも結果は同じであろう。なにせアンナはこの里で教師を務める程の実力者なのだから。

「――――というより何かいいたそーだな!」

「……おれは…おれは! わからないんだ! マジ、何をして何をするべきか。マジ里の奴らはおれをおれとして見てくれないし……誰一人、マジで少しも認めてくれようともしない。友達にマジでなれそうな奴らは友達風に接して演じてきたけどいつも友達以下だった。だから内心ビビりながらマジに自分は強いマジ誰よりも強くなると思い込んで独りで逢井晴として猫被って一人で強く強く生きて誰よりも優れた忍びになろうとマジになって―――――――里の奴らに認められる存在―――忍界仙人になろうとしたんだ。けど…」

「…自己満足みたいな腐ったごみのような話だな。あ~あ……耳かきねぇ~かぁ」 

無粋な思いで「………確かにマジ、そーかもしれない」とハレは返答を返す。小さな羽を縮める様にハレにはバカみたいに突っ立ったまま、声も出せずに黙って言い返す力も残されていない。ただ不器用に頷くしか、ハレには手段と言う手段は無かったのだ。丸で道を選ぶ岐路が失われる一方通行のように。事実を言われて事実を刻印され事実から逃げている自分にどうする事もできない自分の現状に何も言い訳すらも空元気に投げつける事すらもできなかった。

正論過ぎてまさに正論過ぎるゆとりのない現実を叩かれて折れた羽の気分だ。

自分を否定されている気分で静かに染み渡る無力さに悲嘆がくれて億劫に感じる。

「つーかよ?」

 偏見視をするアンナは見縊る様に適当な対応をする。

「……………」

「そんな大口叩いてた割にはへぼだなへぼ! お前に忍びを語る資格も無いし忍びを目指す行動じゃ無いんだよ。友達できねーのは知ったこっちゃないけど。もし、貴様が忍界仙人になったら里は崩壊に決まってんだろ! 舞い上がるなよガキぃ!」

「……………………………………………………………………………………………………」

「忍界仙人ってーのはすべての苦しみを背負いすべての責任を背負いすべての険しい道のりを歩き決して逃げ道が残されていない地獄を覚悟しなくちゃならない。それが忍びの長ってもんだ。貴様のアリンコ程度の覚悟で勤まると思うなよ。ガキが! 幸せ気分を夢見る被害者ぶる逢井……忍びじゃない奴が夢を語るんじゃねー忍びじゃない奴が忍びをバカにするんじゃねー。なぁー偽物。お前は偽物なんだよ。今まで他人を無視してどおだった? 少しはアリンコ程度の実力でもついたかぁ?  そんな目であたしはお前を過大評価している。

「少しは授業をさぼって蛍雪之巧に修行をしていると、金木犀から報告を受けていると呑んで期待してメンチ切ってやったんだが、どうやらものすっごぉおーく、期待外れだったよ……逢井がその程度の実力だったなんて。

「だからと言って…アリンコを足で踏み潰す様なそこまでのあたしじゃあない。この場の責任はあたしが執り行ってやっから、さっさと帰れ。貴様の授業は明日からにしてやる」

「……………………………」

 手を降ろし怒りを周囲に噴霧にチラばし静かに自分の軟弱な強さにしかめっ面で新たに来る怒りを覚えて拳の震えという衝動が止まらない。効果覿面にアンナの優しさであった説教に気付かない。ただ単にハレは自身の愚かさにしか注目を寄せ付けなかった。


 まるで飛び方を忘れた鳥の様に痛みを知る様にそれが今のハレの背中に見られる。


 ―――悔しい。

 ―――あんな小さな指で止められるなんて。

 ―――おれが強いって思い込んで一人で積み上げてきた力がこんなにも微動すらしなかった。

 ―――指一本。

 ―――指……。

 ―――一本で。

 ―――悔しいマジでくそ…………。

「うぃ! ハレ、迎えに来たぞ!」

 とチャライ声がおれの横で肩を竦めて相変わらず、面白いモノを見る態度を堂々と出す。

「ライタ! マジ、何でここに……」

「いやぁ俺も補習でさ。何か下が騒がしくて面白そうな事あるなと思い面白いから駆け付けたってわけだ。どうだ。上等な言い訳だろ!」

「……どこがだよライタ!」

「桐那岐雷汰。金木犀の……こいつとは友達か?」

「どおも。いや。悪友ですよ。俺の悪ダチがお世話になってますよ。七忍将第2位。攻魔士―――水系波動の使い手。ウンディーネの異名を持つ。ハレの担任の先生?」

「ふん…周りが勝手にほざいているだけだ。しかし……面白い実に面白い。逢井貴様はいい味方を持っているんだな…バカとハサミは使いようはこのことだな」

「アンナちゃん……さっきはわりー……」

「う? いいよ……気持ち悪い。そんな改められると迷惑だ。それと『ちゃん』付けはもっと悍ましい……妊娠しちゃう」

「マジ、しねーよ!」

「そーだな。らしくねぇーな…そりゃー。正直…ハレが謝るところを見るなんて面白くない」

 ライタは言った。

「ひでぇー二人しておれの事ディスりやがって。そりゃーマジあんまりだぜ」

 二人はハレに向かって高笑いをする。それを見てハレは屈託顔を思わず出してしまうのである。自分で自分をあしらう様に。思いつめて。前だけを見つめて、自分を見つめなおす。


     3


 その後、ハレとライタ達はブラブラと暇人同士余裕綽々と歩いていた。

 ぎらぎらと鬱陶しい夏の猛暑。さすが、8月と言えてしまう日差しと生肉でも焼けてしまうんじゃないかくらいの熱いフライパン並みの高温のアスファルトが目の前の景色を老眼になった感覚でぼやけて見えてしまう。セミの鳴き声があちらこちらで生息を機能しながらより夏の季節を自覚させた。

「マジセミの鳴き声をどうにかしてくれないか。ライタ…………」

「暑いのはわかる。けど……そりゃー無理な相談だな……さっきコンビニで買ったアイスバーでも食べるか?」

「うぃ!」

「ほらよっ」

 二人は少しでも暑さを凌ぐために体温をクールダウンさせるためアイスを堪能する。

 ライタは視線を斜め上に上げ、こめかみに手を当てて左手で双眸に影を作る。海のように透き通る青い大空には地上から2000メートル付近でゆったりと大きな真っ白な綿雲が浮かんで見えてライタは絶好の夏の風物詩日和だな――――となりげなく誘うように呟く。

「そーいや。もうマジで花火大会の季節だったなぁ~」

「ワクワクする話題を振りかけたのにいかにもバテバテで活気が無い声だなぁハレー」

「マジ、仕方がないだろ。心はウキウキでも常におれのヒットポイントは暑さで限界まで削られているんだよ」

「当たり前だ………こんな糞暑い中フード付のオーバーオールなんてもん着ているからだろうが。お前だけ夏の格好じゃなくて本場もののバカな浮いた格好しているから。しかもおかげでこっちまで厭でも目がくらむよ……」

「マジ、仕方が無いだろう。おれのマジなイケメン顔は指名手配でもされた風に里中のみんなおれの事を知っているんだからさ。人気者は辛いぜ(爆笑)。だから、外で自由快適に過ごすにはこの格好しか思い浮かばないんだよ」

「イケメン? 人気者? 頭イカレたかッ(爆笑)? そんな事より。俺が言いたいのは、ちったあぁ俺の事を考えて半袖のパーカーとかにしろって事だ。ポンコツ……」

「うっせー。お前はおれのお母さんかッ」

「そーか……お前の目には、この俺がママに見えるのか…なんて可哀想な乳離れしないお目目な事だ。ハレ、ポンコツって言われるのは妥当な称号だ!」

「んだとっコラ!」

 ハレは不服そうににらむ。ライタはバカバカしいく微笑して揶揄を入れる。唇を過らせて。

「それにお前…母親居ないだろ……」

「マジ、母親どころか父親にだってマジこの目で見たことも記憶もねぇーし。家族とかって言ったらジジイくらいだけどなっ」

「………とにかくだ! せっかく制服がクールビズなのにちゃんと制服くらい着ろ。オーバーオールとかはさすがにないわ。ズレてるぞ…お前? 」

「やだぁ。やだぁぁ~。マジでマジでマジで。これでいいんだよぉ。なにせ、これが、おれのマジなベストスタイルだかんな~。ほら、マジでよくゆーだろ。主人公になるには、目立つもんが必要だってさっ。だからさ、だからさ、これがおれのマジでサイコ―の一張羅なのだよ。ライタクン。しかし、マジで何故だろーか? 何故かはしらねーけど……肌出して外歩くとじりじりと皮膚がマジ痛くなるんだよ。微妙に……特にこうした洗たく日和の日は……」

「あーね」と薄気味悪く鼻で苦笑するライタ。

「……ふん。変なアレルギーだな……」

「……ん?……あー違うと思う……マジ、もしかしたら、これって体質じゃねーか?………」

「……まっ都市伝説は本当だったんだなっ。陽差しに弱いって!」

「っへ?」

 ライタはハレの事を何か知っている様な反応だった。その顔見て、ハレは困惑をする。ライタはそんな表情を見て冷っとして内心まずいっと思い気持ちを紛わすため瞬きに食い終わったアイスの棒を目の前に投げ捨てた。「………おいおい……ポイ捨てすんなっ……」とハレは近くの公園にゴミ箱を見つけて捨てる。二人は自然にベンチへ沈み少し疲れた体を休める。さらにハレは地縛霊みたいな唸り声を喉から出した。

―――マジでそれにしても

 ハレにとっては本当に困った体質だ。常に全身にダメージが来るため身を纏うものを装備して露出を遮断しなければ、普通には過ごせないのだから。

そしてこうしてなりげなく続いている悪友関係でも実は意識して話してみると良い日常会話が皮肉にも成立するのだ。仲が悪いとは言え。ここまで友達に似た事が出来ているのはハレにとってライタとアヤノくらいだろう。さらに意外と桐那岐兄妹はいい顔をしてくれる。ハレにとっては勿体無い交流関係だ。それは誰もがそう思うはず。自分だってそう思っている。

「マジでそーいやアヤノは?」

「…任務……さっきも言ってたろ。アヤノちゃんが?」

 ライタは自動販売機で冷たいコーラを2本買ってさり気無く「ほらよ。後で金返せよ」とあくどく口で笑い上から目線でハレの目を見て偉そうに言うと「頼んでねぇー……お前の奢りなっ」と言い返し気が利いた顔でサンキューと目の前の三人の二人の男の子と一人の女の子の子供たちが遊んでいる風景を眺めながら悪くない笑みで言う。

「…………マジ、それじゃー祭りは今日いけないな。あいつ今日は祭りってしってんのかな」

「ニシシ…心配すんなって。ちゃんと知ってるから」

「っし……マジで心配なんってしてねーよ」

 顔を真っ赤にして慌てるハレは目をきょろきょろさせた。

「こらこら。照れ隠しはよくないぞ。ふははははははは」

「あっこのっ! マジでボコるぞ。このやろー」

「しかし、毎年毎年何だかんだで。アヤノがいつメンの中で一番楽しみにしてるからなぁ~」

「あーあ。おかげでおれらはマジで散々振り回されてちっとも屋台メシを落ち着いて食えもしねぇーくらいだぜぇ~。マジ、もう気づいたらクタクタだ……」

「ふ~ん……そーかあ? そりゃーハレだけだろォ~」

「にひひひひ。マジやせ我慢はしなくてもいいんだぜぇ~。ライタあぁ」

「バカかお前………。妹の働きを兄妹である兄が付き合わないでどうする? 全国の妹萌えシスコン派は猛烈にエスコートをするのが当然の秩序だ! 義務である!」

「はっ? マジでうすうす感づいていたが、マジ、もしかして………お前ってば、アヤノゾッコン! きも!」

「きもくて結構コケッココウ!」

「マジ、せっかくの眉目秀麗の美男でクールな面影が見事な懺悔でぶち壊しっっちゃあってるんですケド……………………」

「いいんだよ。この身はアヤノのためだけに存在するからなぁ~かまぁ~しないさぁ~。メガネかけるとより妹キャラが引き立たせられるんだぜ~しってったかぁハレ……」

「…………マジか、うわ~意外な一面にドン引きだぜ。マジ、自らの妹を慈愛する兄貴の上にロリコン&特殊な変態性癖か、てめぇーは……。マジ救いようがねぇーな……」

 ハレは呆れた表情で唖然とする。額に指を立てて呆れる。

「妹なめたらやけどするぜ」

「…………ああ、マジ、言ってろ言ってろ………」

「妹のためだけに情熱があり妹のだけに愛がある!」

「なんかこの人―――マジスゲー名言ぽいものを吐いてるんですけどぉ。今日の格言かあ?」

「まぁ~とにかく……噂をすればだ……」

 ライタは脇が甘い態度をどんでん返しする様に態度をいつものに戻し―――ニヤリとやり過ごす。「えっ何がだよ?……」と言いながらも事態の展開を予想しつつハレはそんな不明瞭に包まれて身を挺した。

 ライタが顎で方向を差し伸べてハレは訳の分からずぽかんと棒面になり、

「優等生のご登場だ……」

 そのあとライタも事態を把握した顔で含み笑いを掛けた。

その直後、

「このぉお~このぉお~ポンコツハレぇめぇ~」

 駄々をこねる様に猛烈に元気にダッシュをする影が目の前でハレたちの距離を縮める。それは例えるなら踏切のど真ん中に立って目の前で電車を待ち構えるみたいな風に。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお。っく、くっるっしー。マジで苦しい……マジコロス気かてめぇー」

 ハレはアヤノを見て見ないふりをした。いやな顔で俯きながら何も見ていない様だが、声で瞬息に理解しているからそういう態度を執ったのだろう。

そして忠衛さえ暑くて見苦しいのに対してアヤノは飛び掛かってヘッドロックを掛けてハレは呻き声を出してライタは相変わらずの悪趣味な面白い事には目が無い感じで悪乗りをした笑みを飛ばし、

「それ以上やるとハレが逝っちゃうぞぉ~アヤノ」

「マジ、マジ、マジ、しにゅ~」

「あっああああ~ ごめんねぇハレぇぇ! 大丈夫? 大丈夫だよね! 大丈夫と言っえッ」

「マジわーたから。いい加減に放せ御節介女………………」

「うぷぅぅ。その言い方は間違っているぞ…面倒見がいいおねぇーさんって言って欲しいなっ」

 しかし―――つい、アヤノの馬鹿正直にさらにやられてしまいハレはあわを吹きながら翻弄させられてしまう。

「あっやっちゃった。逝っちゃったあ? ハレ? ハレ? おーいポンコツ!」

慌てて自らの太ももにハレの頭を乗せて内心焦りながらハレの名前を呼ぶ。しかしそれを無視する様にライタは真剣な面を浮かべてアヤノに質問を問う。

「アヤノ―――お前、今日は任務だったんじゃぁ?」

「ん。影分身で来ちゃったあ!」

「マジ、影分身をするまでおれの前まで現れんなよっ御節介女」

 不意にゾンビの様にアヤノのひんやりとした太ももから起き上がり呆れた顔でそう言って。

「その言い方は正しくないよ………面倒見がいいおねぇーさんって言って欲しいなぁあああああじゃなくてッ!」

「ふん……懲りないなぁそのやり取り……」

 ライタは薄ら笑いをした。

 いつもの安定のやり取りに平和な日常を感じさせる二人を見て―――これじゃぁこんな暑くてもこのポンコツと優等生の喧しい日常の方が暑いな、こりゃ……と心で呟く。

「で? アヤノ………お前は何故にそんなカッカと落ち着きが無いやがるのですか……もしかしていつもの様にハレに原因があるとかで文句に来たん?」

手持ちのコーラを飲みながら喉を潤す。ライタだ。

「あっ! そーだそーだ! まったく! まったく! この! この! このぉ! 許さないんだからポンコツ~。ハレがお祭りを誘ってくれなかったー……もう。もうぉ~」

 優越感をにじませるアヤノはハレの懐にか弱いお姫様のわがまま風にポコポコポコと小さな拳でイタ痒く叩く。ムッとしながら。

無聊な吐息を溢しハレは託つ。

「騒がしいぞマジお前……」

「騒がしいのはどっちだあ!」

「お前だろっ!」

 ハレは、とっさに左手でアヤノの拳を受け止めた。元よりさっきまで本当に知らなかったハレはアヤノの言い分を一筆抹殺した。

「待て。そこまでにしておけ」

 馬鹿馬鹿しい会話のやり取りに第三者として横やりを入れようとするライタは取りあえず落ち着かせる会話を流そうと試みた。

「まぁ~互いに忘れていたんだから…お互い様でいいだろお前ら。大体。アヤノもさっき、連絡したばっかなのにそんな電光石火みたいな駆け足でくんなっよバカたれが! 任務はどうしたぁ? お前!」

 どうやら、ライタはハレの知らないところでアヤノに祭りの件を話していたらしい。

「大丈夫!」

 アヤノは満面な笑みで言う。

 それに対してライタは真顔で、

「………ふむ…無責任な言いぐさだなっ!」

「テヘペロ」

「ボケてもだめだ」

 だが、しかし、注意をしたライタの軽い口をあっけなく避けるアヤノは、

「ところで今日のお祭り楽しみぃ~」

 聞いちゃいなかった。

アヤノは本当に祭りごとには目が無く大好きでしょうがない子なのだ。ま。アヤノは女の子だから女の子らしい可愛い興味を持っても全然不自然な事でもなければ全然文句の無い事だ。

しかし、アヤノは女の子だが、そこらの女の子と比べちゃいけないのである。何せ行動が男まさりしていて今回みたいく自らの任務に没頭できないくらいにパワフルな思考で自らの影分身を送り込むというバカな思考錯誤をしてしまう。叱っても直そうともしない呆れる程のお祭り好きなオタクなのである。

「おいおい。マジ、お祭りごときではしゃぎすぎだろーよ」

 ハレは知らないうちに頬を弛め、知らずに錦衣玉食を味わう。

「え~別にいいじゃん。あたしにとっての年に一度っきりの大きな遊びって決めてるんだもん」

「だもんってマジ、お前は子供か」

「十代は永遠に子供って…相場が決まってるんだよ」

 日ごろから何気に子供っぽいところがあるアヤノは無邪気そうだ。

 ハレは正直言って人について行くなんてできないのだ。

誰かを追いかけるなんてできない。

そう言うのは歯痒過ぎてあるいは、神秘し過ぎてやり方がわからない。

今まで人から嫌われてきたハレはどんな風に対応したらいいのかどんな愛し方をすればいいのかもわからない。

さらに言えば、ハレは不器用なりに人間の取り扱い説明書を欲したが、いつもなら、そう思う事もあるのだが、屈託しない笑顔観ていると、自分の嫌な事や不安感を忘れてしまう。誰かの心に触れて安心できる、楽しんでいるハレは、ここが、ベストプレイスと思いながら、ほっこりしながら、

「はぁーマジ夢も希望もありゃーしねぇ」

「まぁー許してやれよ。ハレ。あいつは俺たちと違って里の力になって忍びとしての役割を怠っていないんだからさっ……そう考えれば、安いもんだろ…みんなの憧れの的の金木犀様といちゃいちゃデートできるんだからさっ。それにあいつにとっての息抜きなんだからさぁ~」

 すると、間段も無くアヤノが、

「そーだぞ。たまには、ハレがあたしをエスコートしっろッ!」

 と、以上にテンションが高くニコニコと笑って、スキンシップ代わりに首を絞めた。

「っく苦しい。あかった。わかった。わかったから。ギブ! ギブ!」

「……ははは。ハレは弱いなぁー。女の子にニアミスされるだけで欲情しちゃうんだからさぁ」

「…………っく………」

 半分図星で半分言い返したかった気持ちだが、そう確かに思ったハレだったが、これ以上は愚問愚答と察した。

 さらにハレはアヤノから不意の微笑みを喰らい皮肉な思いで胸を釘づけされてしまう。

「……、」

ハレはごくりと息をのんだ。

ハレは、顔が林檎病の様に頬に赤く帯びて照れくさく照れ隠しに「夢も希望もありゃあーしない……」と赤旗を上げる呟きをするのであった。

ずいっと顔を寄せて、真っ直ぐに覗き込むアヤノはハレへ大きな瞳を近づけて「夢はある希望もあるそれがお祭りだよ。ハレ。うふふふ」と、うれしがるアヤノを見てハレは仕方が無い嘆息を漏らす。


 一方同時刻。

 

 ビルの屋上で夕日にかさなる二つ人影が黄昏ていた。なにもない空間に煙草煙の波紋を揺らし、一人の青年はガラ悪い服装にあちこちフリルなアクセラリーを付けている。顔にバッテン傷があり厳ついサングラスで気取った態度を張って軽薄なテンションを取る。

彼は忍びの世界の裏側で生きる忍者だ。名は井頭栄洵。

「ニシシ! やっぱ! ド田舎の里は殺風景ゼオ! なんもネーゼイし。しかも田舎はブチ嫌いゼイ! 何故なら虫が多いからゼオ。……なぁーテメェもそう思うゼロ? 国臥乃…」

 すると、全身から寒気を曝け出している高校生くらいの少女が気迫の無い冷徹さで言う。

「デュアリズム! グラヤンのお兄ちゃん……それは激突拍子もない失礼な言い方! デュアリズム! けどセイラはお兄ちゃんの偏見を大いに激尊敬に激尊重する………」

 髪はクリーム色に染めた、長いツインテール。服は戦闘に特化した着物で、シルクのキャミソールに、ゆるキャラ風の可愛い蛙の帽子を被ってキャラづけに曖昧な印象をあたえる。足にはエナメルのロングブーツを履いている。それが、少女である国臥乃セイラだ。

「カカ。国臥乃、おもしれーことゆーじゃんかゼオ。さてさてどっかに吸血鬼いねーかゼオ」

「デュアリズム! あたしに期待をかけるな激バカ珍! 激甘えるなっていつも言っているだろうーが? 激甘えるなんてそうママの激乳首吸ってマシュマロのおっぱいを激触らせてもらいながら語り教わらなかったのかい? グラヤンのお兄ちゃん……………」

「っち……うんだよ、激激うるせーよ。んなこと覚えてねーゼオ! そんな昔!」

「デュアリズム! うぷぷ。激滑稽だね~本当に激答える奴居るなんて! まだ、激母乳を吸いたい気持ちと激性欲は激残骸に残っているって認識するよ! あーなる。あーなる。激、男はそういう生き物か……理解したよ」

 キメ顔でそう言う国臥乃セイラ。

「っこ殺す! …………いつか殺すからな。国臥乃。テメェ―。……まっそれは後でにしておいて。どうだ。ここにはいそーか……吸血鬼!」

「デュアリズム! えーとね……激予測だとターゲットはここの敷地に激生息している。里内に魔の気を感知。激情報によるとこの里は今日は花火大会だあ。デュアリズム! けど、今、襲撃した方が激賢明! けど、激、その前に御仕置き用の神域を作るから。激作戦通り激決行は激完成させてからでいいかなぁ?」

「ふふん……うんじゃあ、その時でいい。メインディッシュは豪快に食事するものだろ……盛大に狩りに行こうゼィ。シュル!」

 井頭栄洵はお楽しみの箱を早く開けたい様な無邪気さで口を薄気味悪く微笑した。

 

     5

 

 その頃。

商店街を過ぎて「またあとで」と軽く手を振って、ハレはライタとアヤノと別れる。目の前は駅だ。ライタとアヤノは改札口に向かう。ハレも普通なら問題無く普遍無く一緒に向かうと頃だが。

しかし、ここは学生が集う学生のための教育の街である大都区ウツノミヤであり一日中、不便無い思いで有意義を送れる忍区域なのであるが、都会と違い田舎に住むハレは古い建物や山や森や草原や高原が目立つ自然の街である大都区から都忍区は線路が繋がっていないのだ。しかもバスターミナルも存在しないのでハレはここから約十キロ程、歩いて帰るしか無いのである。

 足元でガタンガタンと電車が駅に到着したのが身に感じる。おそらくもう、ライタとアヤノは電車に乗ったんだな―――とわかる。そうとわかった瞬間ハレは地面を蹴る。空中散歩する感覚で夕焼けに焼かれる都会の風景を鑑賞する。

 アリールゼンションの里には、全て合わせて十四区間の街が混在する。その中でも都会と都会と言える街―――忍びの学校が何十という集う街―――学園大都忍区ウツノミヤがこの里では、大きく規模を支配しドでかく大本の根を張り巡らせ中心に範囲を目立たせる。言わばセントラルシティと言えるだろう。

ビルからビルへ跨ぐ様に飛び移るハレは腹を鳴り響かせる。

さらに喉がそこはかとなく渇愛し痺れた表情が表にあらわれる。

 ――そーいやマジ今日は朝飯しか食ってないや。こりゃ祭りまで我慢するしかないよな。

 ハレは知らないうちにすっぱい頬を引き締め腹を手で揺すって苦い顔するものの気持ちを紛わす事を考えて夏の夕焼けを楽しむように、のんびりとビルにピタと着地をする。

気づけば、虐待するような陽射しもこの時間帯では退き。オレンジ色の空と青暗い空が混ざり合い気温がすっかり下がっているのがわかる。さらにハレの元にはビルがまわりを遮っていないためまるで鉄扇公主にでも扇がれた風圧が押しかかる。

でも一日中汗を掻いたハレには凄く心地よく感じられた。

しかし、その気分は早くも終焉を迎えた。

「うぅぅッ! カッカラス! うう………マジかよ! マジやめてくれよおれは鳥嫌いなんだよ。うぇ~見るだけで気持ち悪い!」

 ハレは挙動不審に震える。

鳥が恐いと見える。

てか、ハレは鳥事態に恐怖があるのだ。

それなのに一匹とあらず数匹のカラスが醜態をさらしていた。

 ハレは後ずさり。嫌がる顔で目を細めて息をのみ込む。

 その時、カラスの群れているところから―――かぁーでも無ければぐあーなど鳴くはずのカラスの陰険臭い鳴き声の中から見知らぬ聞いた事が無い「うぱぱぱぱあ」と言う何とも胡散臭い未確認生命体に属してもいいんじゃないくらいの呻き声が聞こえた。否、今でも聞こえ続けている。よく頑張って目を凝らして見てみると女の子らしき人が突かれている模様。

「った……タス…けてくだしゃぁいぃ……」

 うだる風に救出を求める甘え声が震えて聞こえる。

「ッマ……マジかよ……まっまてろ! 今たったすけてやっから!」

 ハレは自らの片手剣で追い払う様にカラスたちを祓い少女を救出しようとする。

「ぅぅうわ!」

 バサ。

 バサ。

 バサ。

 バサ。

 ハレはいきなりの飛び上がったカラスに鳥肌が立った。恐怖でビビって腰を抜かす。

 ハレと接触した少女がまわりから嫌な気配が消えて伝わったのか、うつぶせ気味だった顔を

見や上げ。凍り付いた様な大きな凛とした瞳が綺麗に開かれる。さらに彼女は虚ろな目にしていた。

 ちせつさが感じられる少女は、純白の小袖に緋色の袴を着て巫女姫の格好をしていた。

 風が暴れる様に少女のセミロングは色素が薄い桃色の髪が似たような動作をして楽しげに揺れ煽られ幾度もの未知なる奇跡をクロスオーバーさせた。

 少女は中学生くらいで―――厳密に言うと一つ二つ年下かなと感じ。立ち上がった少女は本当に中学生の体型と認識できる。

「あの~マジなぜに…巫女さんがここに――――――――」

 その子が助かりハレが安心して声を掛けようとした時そう想った時、

「あ、ありがとうございます。助けて貰って感謝です」

 ぽつりと丁寧に初々しく呟いた。

「あっいや。マジ、礼を言うまでも無いけど。マジ困っている奴が居たから助けただけだし!」

「それでも……お礼を言わせてください! 吸血鬼! ハレさま!」

「吸血鬼? なんだ、どっかマジで頭でも打ったかあ? よくわからない事言い出して?」

 ハレは、訝しく安堵できず、不器用に睨めつけながら観察を図る

少女の体はすらりとした身長だが、背は高からず低からず。均等に割り付けられた体型に似合った胸。そこはかとなく幼さを普遍し肌白く華やかさを兼ね揃えられた幼さを面影に乗せている。前髪が長いせいか長い睫毛にかかり。どことなく眠そうな印象の顔立ちをしている。だがしかし、控えめそうでそれは、草食とも当てはまる。しかもパニックに陥ってどこか危なっかしい様子が見られる。小動物みたいに。

「お前マジ頭でも打ったのかあ?」

「……うって、うってないかもしれる、かもしれる…」

 少女は、怖がる様に肩を丸くし困り果てる。

何だか、とんでも無くテンパっている。稚拙美な少女だ。

 碧眼したきらきらとした海の様に引き込まれる優しい少女の目に対して普通は思わず魅了してしまうところだが、ハレは不器用な性格のため優しい対応とか微笑みを掛けるなどの仕方など心得ずして不遜な態度を入れ込む。ハレは睥睨する。

「ジ―――――――――――――――――――――――――」

「はひぃぃぃ~」

 少し警戒心気味な少女。ジーと見られて恥ずかしさのあまりか頬が火照てしまう。

「…………見たところマジ大丈夫だ。怪我も大したところというか。ビックリするほど無傷だ」

「し、し、し………心配など私のため勿体無いかもしれないかもしれる」

「で、マジ、巫女服なんか着てナニ者だよ。お前。祭りならともかく、こんな、ビルの屋上なんかにいて―――――」

「お祭り? ナニそれ? この格好は私の普段着ですよ。ああ、そうそう。自己紹介しますね。私の名前はアセロラってゆーんですよ?」

「あっどもども。おれはハレって………って、ちがーう。おれがマジ言いたいのはお前は何者なんだと、マジできーてんの? てか、マジ、お前から人間じゃない悪魔のにおいがするぞ?」

「それはそーですよ。私は眷属になった吸血鬼ですから! これでも一応悪魔であるからしてあるからします!」

「……ッハ?」

「いや。だからですね? 私は亡きあなた様の伝説の吸血鬼かもしれないかもしれる母様の遺言で人間と吸血鬼の半分の血を受け継ぐ―――半鬼のハレさまに《眷属》として生涯お使いされるよう任せられたのですよ。覚醒の時が来る日にあなた様をよい導きで転生転成の術――――生まれ変わらせるために。このアセロラ、ここに参りキミを探しておりましたあぁ~」

「ハンキ?  テンセイテンセイ? いやいやいや……マジ意味わかんねーし。何? 変な事言っちゃっているわけ? やっぱマジさっきので頭やられたのかお前? まってろ病院連れってやっからさ」

「あい? いや。っち違います! そうそうそうでした。安心してください! 私は有害な生き物ではありませんよ。無害な半鬼です。ご安心を。ましてやこのアセロラ……王の力を統べるお方様にご無礼な承知はございませんのでどうか。落ち着きを!」

「落ち着き? 落ち着くのはマジでてめぇーだろーが! おれがマジで悪魔? マジで吸血鬼? ふは…なわけあるかよ。しかも吸血鬼って三大悪魔勢力でそれこそ都市伝説の話じゃねーか。っくるってるぜ、お前……ま。ん~あ……アセロラだっけ? お前がマジ悪魔って認めてやるけど。ここは里だ。見た目は人間だが、霊圧や気やらを感じ取られたら即討伐されっぞ! 見る限り害がなさそーだから。今回はおれのマジ顔に免じて見逃してやるしガキをいたぶる趣味のドSでもなければ! 弱者の料理法くらいは心得てる。さっさとマジ消えな!」

「うぱぱぱぱぱぱぱぱぱ。めっちゃ、カッコいい! っや、やさしいのですねぇ。母親様似の御心が綺麗なお方でよかったあかもしれないかもしれる。もし、陰険な悪魔だったら即ブチ殺してましたが……こんなひ弱なこぞーでよかったあかもしれないかもしれる」

 仁義なき任侠の面構えをするアセロラに対してハレは一瞬口元を強張らせて真っ青になる。大きく目を見開いて。

「おいおいおい。いきなり、マジ険悪な面構えになってっぞ! こんなにマジで可愛い悪魔なのに。てか、マジ悪魔で可愛いって訊いたこともないぞ?」

「あ! それはですね? 私が高潔なる中級以上の悪魔だからですからしてかもしれないかもしれる。ハイッ 厳密に言えとなれば、私は悪魔と混じった人間です!」

「尚更だ! マジで帰った方がいい! てか……マジで帰らないのならおれがここでマジ祓うぜ? てめぇーを?」

「大丈夫です。このアセロラ―――そこらのひよっこには返り討ちにしてしまうかもしれないかもしれる。それと悪魔の霊圧や霊力はそー言ったスキルを身に付けたものにしか、人間および忍者には悟られません。今は気配を隠しているので精々半径三㎝圏内でしょう」

「へ? なんでだ? おれは感じられるぞ!」

 そこはかとなくハレは訊いてみたくなった。

「それは、あなた様の生きる世界。忍びの世界の住人は己の中の術を使う力――――エネルギー。つまり霊力すなわち気と言う名の己の生命エネルギーを糧として霊圧を放出しますよね? 悪魔も己の生命エネルギーを糧に何かしらを持ちそれを放出します。それが、魔力ですよ」

「だから、マジ、なんだってゆーんだよ? 名所が違うだけで違いなんてあるのかよ?」

「何を言っているのですか。うぱぱぁ~とありますよ。

「悪魔が印を練る事が出来ないくらいに大ありです。大吉です。マジキチです!」

「マジで悪魔が印を練れない? だと?」

 心当たりがありそうなハレは不穏な口調になりかける。

「そーです。悪魔は、手を合わせることすらできない。欠陥品なんですから! けど、その変わり印が練られなくとも魔力を使って命令式を演算して魔法を使ったり、魔法陣を作るための手書き式もあれば、忍者と違った呪文を演唱する事ができるそれが、魔術!」

「ん? アセロラ! どういうことだ?」

「つまり、忍者には、忍術の印があり、悪魔には魔術の印がある。悪魔と忍者は根本的作りが違うのでお互いの性質の違いを感じ取ること等不可能なんですよ」

「………つまり、マジな話、性質が違うからおれはマジ忍びの印を今まで練る事ができなかった。これからもマジ、できねーっつーのかよ?」

「え? そーなんですか? よかったですね。半鬼でも一応悪魔型。悪魔に片寄りの方で私的にバンバンざーいですよ。嬉しいです。」

「はぁ? なに、てめーはマジに勝手に話進めてるんだよ。しかもマジで勘違いもいいところだぞ。マジ! うれしくねーに決まってんだろッ! おれが悪魔? はいそーですかってマジで鵜呑みする訳、無いだろーがよ。根拠がマジでねぇーのに事を抜かしてんじゃねーぞ……てめぇー。 マジで証拠も無いのに……」

「そーですね、ですが、根拠はどーかは、わかりませんが……証拠なら……あります。おそらく……」

 そーいって、アセロラは肌身に隠し持っていた手鏡を差し出す。

「これで自分の顔確認してください」

「鏡」

「ただの百均の安物です」

「……………………………………………」

 差し出す―――というよりも余りに困った事に衝撃的なダメージを受ける。アセロラにとって沽券に関わる事を意味はしなく何しろ今後の話の展開に都合がいい表情でハレへ真実を証明させて相手の思惑通りハレは、はっきりと怖気立たせる。

それは、死に直面するくらいに威厳だった。

想像もできない事態にハレは間をあけて億劫を感じさせる。

たぶん、コペルニクス的転回を主張しハレ自身狼狽した。

「……………」

「どおしたんです? 億劫を味合うような怪訝して」

「マジ…なんだ……この鏡は? マジおかしくねぇーか、おれがマジ映らないんだけど? お前こんなガラクタ品おれなんかに渡してどーしよーってんだ?」

「なにを言っているのです。逆ですよ。ハレさまが可笑しいんですよ」

「……え……オカシイ? え? え? え? おれがマジオカシイのかよ? マジ、オカシイのはこの鏡だろ?」

「その鏡……ただの鏡ですよ~だい」

「ハッ? おれってなんだか、馬鹿にされていないか? マジ、ムカつくぞ、この糞ガキ?」

「鏡よ鏡さん世界美しいのはだーれって言っても鏡には細工も仕掛けもありませんので呪術演唱を唱えても何も起きません。何も施していない。あなた様にはどう見えますか。どう映されていますか。正解は映らない。何も映らない。この世の理の存在では無いから。伝説の悪魔で混血で高潔で高貴なる子孫で伝説の吸血鬼の烙印を背負う証であるから。この世の理から外れているから映らないのです。もっと正確に言えば、二つの境界の狭間に居るってところ」

 アセロラの言っている事は正直意味がわからなかった。

たしかに――――ダイソーにでも売っているような安物の鏡でディテールを見る限りではごく普通の鏡で念入りに呪力や霊圧や魔力を感じ取ってみるが忍具でもなければ呪力の供物でも無い。本当に安物の手鏡であった。

「マジかよ。それじゃあ………」

「ハイ。映らないのが当たり前なんでかもしれないかもしれる」

「……………マジでいったいどっちだよ………」

「我々悪魔は此方側では存在しない生き物……こちら側には影が現れません。悪魔は忍び界を鑑賞し悪戯や野望や自己中心的行動を執るためだけにこちらを乗っ取る勢いでこちらの物体に憑依している。しかし、あなた様は私と一緒でどちら共の生を受けているので影は健全の様です。悪魔と混じった人である半鬼はそうなっています」

「ははは! 冗談はよっせって? このマジ電波女めっ―――このおれがでんせつのぉーきゅうけつき? マジありえってぃ~だよ。あーマジ無理だよ。無理。マジ無理」

「………………なんか私、物凄く激オコぷんぷんまるなんですけど………信じて貰ってないよね? バカにしてるよね? 私があなたのためにこれほど無く言っているのに~」

 むーっと口を尖らせてアセロラは言う。きっとライタみたいな事は言いたくないがハレがもし妹が居たとしたらこんな子が居たかもしれない。とちょっとばかし家族と言うものに憧れを持って気楽な態度で接し掛けてる。

「ふは――おや? マジJKですかてめぇは?」

 軽薄な態度で苦笑した。

「もっと驚いてよ! もっと困惑した態度を執るといいかもしれないかもしれない!」

「…………」

「むう!」

 頬をふーせんに膨らまし上目使いで睨むアセロラの目は信じて貰いたい目だ。

 口をへの字にして懸命に拒むハレだったが自分より年下でしかも少女に対し大人げないと思ってしまい――――呆れて溜息を漏らす。

「マジあーったよ? そんなにかよ? たく! もし、おれがマジ仮に悪魔だったとして……よくよく考えてみると。てめぇーのゆー通り辻褄が合うかもな。このおれがマジ仮に吸血鬼の呪いがあるとしたらだけど………」

「……うっぱあ? 仮に? かもしれるかもしれる! かもしれるかもしれる!」

 駄々をこねるアセロラ。

 はぁーっとハレはアセロラの胸のラインに「ガキのおもりかよ」と苦笑いした。

もう一度、溜息を漏らしてアセロラと言う吸血鬼ちゃんはハレの捨て台詞を見逃さず気に障ったのか―――――より精神の打ち所が悪かったのか―――――非常に自分の体型を気にして健全なる怒りのビンタをハレの頬にアタックを掛けた。

「キーイ。胸を見て残念な顔をするなッ!」

「痛! マジ、信じるよ! マジ、信じてやっから! おちつけぇ!」

「――――っくうぅぅ」


どうやらこのわがまま過ぎる吸血鬼ちゃんは意地でもおれを吸血鬼と名乗って欲しいようだ。


「―――――――――――――はぁーてめぇのマジゆー通り実はマジ内心わかっていたんだよ」

「え?」

 突然の語りにアセロラは目を真ん丸にしてぽかんとした。

「マジ自分はどこか違うって。アヤノやライタとは違うって! さらにマジアンナちゃんとは毎回喧嘩になるんだ。ちょおっと弱いってゆわれたくらいで感情的になると我を無くすってゆーの? マジ身体が熱くなったり……たまに物凄い怒気が入って暴力的に時々なる事は度々あるんだよ。この前だって強くない自分を否定されたくらいで。かぁーとなってマジアヤノをこの手で八つ当たりしちまってよ。なさけないったらありゃーしねー。お前のマジゆーとおり…………おれが悪魔なのかもしれないから里の奴らは―――本当の事を黙っておれを騙して軽蔑してるのかもしれない。実は恐れているのかもしれない。もしかすると里から追い祓いのかもしれない」

「ハレさ――――」

「けど。そんなんのかんけーねぇ。そんなのかんけーねぇ。マジそれを乗り越えるのが英雄の忍びになるための秘訣だぜ。おれは強い最強の忍びだ。……………………の端くれだけど……だが! おれは強い、最強なんだ。いつか、マジで認められる様な強いマジな忍びになりたい。ジジイの様に。うんうん。いつかこの手で里をまとめて力で認めさせてやる。このおれが居たことを時代に名を残すんだ!」

 ハレは自分が何者なのか関係は無かった。自分と言う我がある限り自分の夢を実現するために自分があるのだと。ハレの目には夢しか詰っていない。いつか里の代名詞になれると信じて自問自答をする。まるでその答えが、どこかの小説家の名言である「僕の前に道は無い僕の後ろには必ず道はできる」という事を口遊むハレだった。そしてそれが、今の一つの心の支えでありパーソナリティーとしての土台になっている。


「………」

ハレはふっと深海に沈む様な記憶を思い出す。昔誰かとこんな風に夢を語った事を。

しかし、ハレには不肖な記憶だったため誰かなどと性別も特徴も記憶には、残されてはいなかった。けど、とても大切な約束をした事は今を持って思い出した顔をする。

――――――――あれ? 何だ今の?


「大丈夫ですよ、ハレさま。少なくともこの私は王として認めてますから」

「―――――なんかマジ調子狂うな。王とか、マジやめてくれない。っで話は変わるけどさぁ……なんで……お前、マジにカラス何かに襲われていたんだよ? ふつうはあんなことにはならないぞ。おれでもマジで鳥は大嫌いだけど、今まで一度たりともマジ襲われた経験はマジ皆無だぞ。――――――まさか、悪魔だからとか抜かすんじゃ無いだろーな?」

 何だか、よくわからない電波さんに拘束れた気分を今、はっきりと理解したハレは面倒事に巻き噛まれる予感云々しつつも聞く耳持たない態度で小指で耳をほじくる軽薄児のハレは一応それなりのおもてなしをしてみるとアセロラはタイミングが悪く腹の虫を知らせる。

「…………おなかへったかもしれるかもしれない」

 人前で腹を鳴らしたアセロラはさっきまで同じ境遇を立たせられたハレと同様に腹ペコの様子。アセロラは、両手でお腹を苦しそうに忸怩云々する。

 その時、そこはかとなく親近感が湧いたハレは、呆然した。

「おいおい。マジかよ。マジ無神経な奴だなお前? しかも、さっきまでのマジ風だった敬語はどーした? まぁーマジ、どーでもいいけどよ~」

「おなかへって言っているかもしれないんだよかもしれないんだよ。ハレ?」

 甘えてくるアセロラの態度は本性なのか作り態度の追従笑いなのだろうか―――――ハレは、詐欺師にでも会って騙されの負い目に萌えという類につけ込まれるみたいな事をされた気がするが、我慢に耐える――――だがしかし、アセロラの影響の連鎖で一端にフィジカルの強さだけは自慢に誇れるハレもいよいよ第二の天敵が現れようとしていると予感しつつ恥辱の腹の虫のざわめきを鳴らし慈悲の心を促す。皮肉にも今を持って同じ境遇の同士だ。

「あーったよ。陽が暮れてるし――――マジそこらに林檎アメくらい売ってるだろ!」

「林檎アメ?」

 苦言の呈しておきたくなる状況にハレは仕方が無く少女と引き続き付き合うことにした。


     6


「ぺろり――――ハレ! これ美味しいねっ林檎アメってゆーの。とてもデリシャスだよ」


 目に輝きを燈す。アセロラはどこにでも売っている林檎アメを珍種を観る様な目で不思議そうにだらしがない歪んだ顔で大事そーにおいしそーに舐める。その舐めっぷりの姿はこっちまで気持ちは漂ってくる。どうやら、気にったようだ。

とりあえず、女の子ならと思い甘味ものを与えれば、何とか黙るだろうと思ったのはいいが、案の定。喜んでくれてこっちも気分は良さげなところだが、とても気分が晴れやしない。

初任務完了となって浮かれ気分で一安心の乗りだったが、普通はなるだろうけど、絶対にそーなる展開へとギャルゲーでは、突入するはずである。そーなるはずなのだ。

けど、おれの場合は違った。

罰違いだ。

間違いだった。

その不幸をハレは思索生知してみる。

林檎アメの屋台へこいつを連れってったらハレにとって嫌悪な事柄が起きたのである。

何もわからないどこかの5歳児の様にはしゃぎだしたアセロラは屋台のモノを勝手に二つも手を出して残りの全財産をこの少女に引っ張られて不愉快な仕打ちを受けてしまったのである。

「くぅぅぅぅぅ」

おれは散って逝った野口さんの命に対して思わず、悔し涙を流しその気持ちを墓まで持って行った。

――どこが、高貴高潔な吸血鬼だ。

こいつ、林檎アメ食った事ねぇーのかよ。と、言う今のハレの心境は―――林檎アメひとつ五百円のモノを二つも買わされてしょぼしょぼした顔で自前の財布の中身の空っぽさに今月の小遣いがーっと青ざめる。

「ペロ―――うんんんんん~とろけるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~甘くて。ふるーてぃ~」

「マジあーそーですか。そりゃーマジよかったなアセロラさんや―――――マジさっきとまるで別人だな。マジで態度がガラリだな。さっきまでのマジ絶対服従みたいな風はどーした?」

「あ! あれね、考えてみたら悪魔的地位は私の方が上だったことに思い出してやめた! でも、ハレの眷属になるのは頼まれたからホント!」

「はぁーまぁいいや。で? マジでさっきの話だけど?」

「ん? あーあれね! カラスね! あれはふつうのカラスじゃないよ」

「……んじゃあ~なんだってゆーだよ。マジ?」

「あれは、忍びの式神! 私、とある二人組の攻魔士に追われているの―――いや? 違うか? 裏切ったから殺され掛けているのが正しい事なのかな。キミを見つけるために!」

「へぇー。マジ、お前も大変だな!」

 式神―――――この忍びの世界じゃ全然珍しくないものだ。呪符を陰陽術で魔法陣を描き命令式とやらで主の使命を果たす下僕みたいなものである。まぁ使い魔や召使とも言えるだろう。他にもそー言った類はごろごろと沢山あるが、中でも高等忍術である自らの血を契約の糧として獣を呼び出す口寄せの術があるが、それができるのはレベルの高い忍者だけである―――例えて人物を出せば小柳アンナだ。彼女は里で誇れる一端の看板を持つ忍び界の最強七忍将の一人の忍びである。七忍将とは、炎・水・光・雷・風・音・命の特性で振り分けられている。その中で最も優れ認められた最強の忍びに与えられる称号の事である。アンナちゃんは副業で忍び教師を行っているが、その強さや実績の秘密はおれには想像もつかない事。今のところ、水系波動忍者ウンディーネと名が全国に伝わっているくらいだ。

「まぁーマジなところ……忍びが悪魔を退治するなんてマジ一般な事だからなぁーマジ何も変哲もないからなぁ―――――――でも、お前、誰かにマジで追われてるんだっけ? 何でマジで追われているんだよ? こんな可愛いマジ悪魔を殺す必要はおれからしてみれば、マジ無いとは思うんだが……まぁ世間じゃあマジ敵視するのが、マジで当たり前なんだが………」

「――――ありがとぉ。お世辞でも、言ってもらえてうれしいよ。かもしれないかもしれる」

 ハレのセリフに、アセロラは目を丸くした。

 アセロラはハレのキザなセリフで――――他人からそう言われて―――――しかも忍びの住人に初めて言われた言葉で単純にうれしくて頬を真っ赤にした。ハレは飄々と話を続ける。

「マジ、目的は何だよ! お前が連中にマジで狙われてる根拠ってのは、マジな話。心当たりあるのかぁ? マジ困ってるなら力貸す事も無いけどよ?」

「さっきも言ったけど、私は目的のため、キミに恩を返す為、組織を脱け出して、追われている。掟に従い組織の秘密を知る私は問答無用で抹殺されるんだよ」

「おれのため? マジ、てめぇー危ない橋を渡ってるのか? だったら、マジそいつら、悪い奴だな! マジ、こんな女の子をよってかかって掟のために殺すとか許せねぇーな! このおれがマジでぶっ飛ばしてやっから! 安心しろ!」

「な…なんで…あなたは……そこまで真剣に私を心配するの…………」

「そんなのマジで決まってるだろ! マジ困っている奴が居たらマジで助ける。それが、マジ英雄の誇りだからだ!」

 まっすぐな目でハレの眼光が感情と態度が出る様に赤い光が瞬きを奔る。

 アセロラは感じた面映ゆく心が温かくなるのを。そしてアセロラは、気づいたおそらくハレは悪魔だろうと他人だろうと関係が無く困った奴には手を貸すそーゆー奴だと。

「それにマジでおれがこの世で一番大嫌いなものがマジでひとつだけある! それはマジ掟だぜ! マジ、わけわからんルールで縛り付けるなんてもんに人を拷問扱いするからなぁーいつか、おれがマジになって忍界仙人になった暁にはこの世からマジにデリートしてやら! けど、お前マジ自分が狙われる理由って?」

 高笑いをするハレ。

「私、吸血鬼だから――――」

 冷たく視線を落とすアセロラ。気持ちを打ち明け様とした。

「んだよマジはっきりしねーな? もしかしてマジあれですか? 吸血鬼といやあ~あれだろぉ~定番で言う万能なる不老不死とか治癒能力とかのことだろ? 狙う理由は良くわかるけど、そいつらやはり、フツーじゃねぇーな」

「………吸血鬼の力はそんな生易しいものじゃないよ。私は元々人間だった。あまり人には言いたくは無いからとあるに伏せるけど――――とある事件で私は死にかけのところ君の母親に吸血されて命を助けて貰った事があってね………それ以来私は吸血鬼の眷属として生まれ変わった。私にある力は血を操る力を相手に継承する事よ! 血の力!」

「つまり―――アセロラのその力を利用するためにそいつらが追ってきているって事か?」

 アセロラは頷きをする。

幾分アセロラは険しい表情をする。

食べかけの林檎アメに手が付けられないほど、少女は手足を硬直させ肩の力を少しばかし入れてしまうくらいに。ハレはそんなアセロラに対し垣間見せる。

「キミはこの忍びの世界の闇がある事をしらないみたいだけど、忍びの世界の本当の目的って知っている?」

「マジなんだ、それ? さっきからマジで忍びを侮辱している様な専門用語ぶち捲きやがって。おれの今の心境。とてもマジで不愉快なんだが―――――」

「忍びってね、実は表は人に役立つ悪魔退治しているけど、本当の目的は新生物の実験とか悪魔の能力を解明して人に植え付けたり、禁術開発や能力の高い忍びの開発や人体実験なんてゆーものがあるんだよ。中にはそれを研究進展のためだって言い訳にして一つの街を舞台にして生贄にしたり、悪魔と契約した忍者だって数多に居たりしたりしたり、悪魔と通じ合っているんだよ」

「あは、な、なんだよ、マジ――――冗談もいいところだぜ…」

 驚異に唖然したハレは、息を詰らした。しばし、呑吐不下に。

「むーう。冗談で私はこんなふざけたことを言わないよ! 逆に嘘を語ったら私、恥を知る。中二クサイ女の子じゃない! かもしれるかもしれる!」

「その辺、マジで一応オタク文化は学んでいやがりガンスか―――――」

 暗い表情をするアセロラの顔面には、どことなく真剣な雰囲気を漂わせていた。

「この際言っておくけど、忍びの方が悪魔よりよっぽどダークだよ! 私の故郷を滅ぼしたのは雪月花! 忍びの裏側で生きるものたち! キミの父親だってメンバーで裏切ったから殺されたんだぞ」

「……………………え?」

 驚愕の事実に言葉を失うハレ。思わず、頭が真っ白になって血管にドライアイスでもぶち込まれた風に体が寒気が感じられる。

「私は、被験者第108人目の実験体。モルモットされ続けたんだよ。この忍び界の裏側を束ねる《雪月花》のメンバーにされた。兵器そのもの。きっとあなたも生まれる前DNAをいじくられ吸血鬼なんて言う半鬼になったのよ!」

「ハッ? な、なんだよ、マジで。ホントーに訳わかんねぇーし……………その事、里の連中はマジ、知っているのか?」

「闇組織くらいはみんな知っているんじゃないかな? 少なくともそれだけじゃない?」

 言葉を絞り込みこんな躊躇してしまう応答になってしまったが、本当に躊躇った。

 しかし、

「けど、心配はいらない、大丈夫だからかもしれないかもしれない………」

「マジ大丈夫だってお前?」

「人に御情けを掛けるほど落ちぶれていないし。それに私は甲斐性があるんだよ、キミの力は到底委ねは皆無だよ。これは、私一人の戦い。キミにはこの件が終わってから会うはず、だったんだけど―――運が悪いね………」

「マジおい――――」

 彼女は気休めにしたつもりだったが、辛い苦笑いをし、どこか切ない思いが感じられる。

ハレは一瞬返す言葉を失語してしまう。

アセロラは髪を翻し、「これ以上他人には迷惑を掛けられない。これ以上――――ここにいたらきっと追ってくるから。私から離れた方がいいかもしれないかもしれる」本気そうな眼差しで独り善がりをする。

それは、自分の招いた責任と信念の志がはっきりと伝わってくる。

ハレは状況に急変を抱き戸惑って、「けど――――――マジ――――」などと無責任で傲慢なセリフを吐くが、誤魔化すに似た口を濁らせてしまう。

どこか、アセロラが自分自身に似た存在な気がして動揺した。

まるで己の影を照らし合わせる感覚で何だか、冷たく感じて脳裏がスパークして奔る。

それでも手を差し伸べようとするが、何故かアセロラの小さな手を掴むのが、何だか無性に怖くなって内心臆病になり始めるハレは自分で自分を呪縛で縛り付けるかの様に動かなくなってしまう。

 アセロラは顔を俯いて「―――――またね」とその小さな唇で小さく囁きハレの胸にぐいっと二つの林檎アメを押し付けて走り去る。

「―――――――――なんなんだよ―――――――――マジなんなんだよ―――――おれじゃあ力不足ってゆーのかよ――――マジこれじゃあ、おれは――――――――全然偽物(ダメ)な忍びじゃあないか――――――――――っく――――――――――――――」

 ハレの両方の拳に憤りを覚えさせる。

 不服そうなハレは感情が高ぶり思わず吸血鬼化してしまう。

何もできなかった自分にまたもや腹を立てて雑念を抱きながら手に持つ林檎アメを発狂して地面に叩きつけるのであった。










第二章 【つよくなりたい】


     1


 花火大会の翌日はいつもの夏の暑さとともにセミのざわめきが止まらない。

しかし、今日は大雨暴風注意報が発令されていた。

 夕明けにぎらぎら光る風力発電の何枚かのプロペラの回転でハレを催眠術らしきものに心を奪われていた。ぼーっとしていた。

ただ、両手をポケットに突っ込み眉間にしわを寄せて。

 ハレは異様に機能が低下しつつ昨夕の出来事が衝撃的で脳裏に焼きつくされていたのであった。

知らず、知らず行く先も決まっていなく。

あてもないままだらだらとのうのうとバガボンドをしていると釣られるように陸橋の階段をゆっくりと上がる。

 すると、

 ハレは気配を感じる様に俯いた顔を見上げる。

「―――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 見慣れる姿に見慣れる横顔―――――――金木犀の香りがする少女が夕焼けを楽しむ様に静かに夏の風に委ねられて夕日の閃光に照らし出され一瞬だけ目の前が攪乱する。


――アヤノ。


アヤノは、陸橋のど真ん中でハレを待っていた。

まるで、ここに来ることをわかってて知っていて待ち構えていたかのように。未来予知していたかのように。

しかもそこに居て不自然さはまったく無い。

そこに居て当たり前、ここに居て当然のモチベーションが醸し出されている。それは、来る事を想定して予め舞台を設定して準備をしていたのである。

あちこち見てみると人払いの結界と目的物を運び込むイエローの焔の燈火の呪符がイルミネーションの様に導く様にクナイでざらと道を作られている。

「マジなんだこれ!」

 驚いた声を上げるが、それを塗り潰すかのように、

「裏切り者!」

 突然、ハレは、狼狽えた。


 ―――――裏切り者。


 そう言って、上目づかいに恨めし気味で泣きそうになりながらムッ面で決して寛大では無いにらみを向け、小さな声には拗ねているのがきっぱりと脳裏に反映される。

 いつになくアヤノは正常では無い。いつもなら御節介事を仕出かし御節介で終わるはずのところが、今は違う様子。さらに今日は髪を珍しく降ろしているせいか、いつも以上に長く感じるハニー色の髪で表情を伺える事ができない。

 けど。

 ハレには、そのアヤノが堪忍してしまう理由がなんとなく良く理解していた。

「――――マジ、ゴメン………昨日は行けなくてッ」

 ハレはアヤノの目をまともに見れない。ハレの視線があっちこっちに散らばる。

「――――――ひどいよ。ハレ……あたしがこんなに楽しみにしていたのにバックレてさ」

「だから、マジ昨日の花火大会の事はわりーって言っているじゃんかよ」

「何だよ、その上から目線の言い方。全然反省してない、約束したのに、ハレの馬鹿、ハレのポンコツッ」

「ぽ、そ、それは、マジ、昨日は、つい、マジで忘れっちまってたんだよ」

「ウソ! ハレは忘れていない出来事は忘れない。なんで、忘れるってウソをつくの? 昨日はライタくんと二人でハレを待っていたんだぞッ!」

「マジ、忘れるものは、マジ、忘れるんだよ。マジ、もう、花火大会は終わったんだ。いい加減にさ、夢の国は終わったんだ夢から覚めろよ………お前」

「ありえない! ハレは、『いつも大事な約束を』軽々しくおもちゃの様に扱う、忘れる!」

 堪忍袋の緒がはち切れたアヤノは、ハレの胸ぐらを掴む。

 しかし、暗い顔をするハレは、まったく無防備で抵抗の色は無い。

「んだよ、マジ……」

「ハレのオチこぼれ、鈍間バカあぁ」

「………マジっ!」

 ハレの声に抑えきれない怒気が入り混じる。

「あたしよりよわっちいくせに!」

「…………弱い? ……おれがあ?」

 ハレは弱っている部分から内なるマグマの鼓動を呼び出してしまう。半ば凶器に似た硬質で攻撃的な眼光が宿ろうとしている。

 アヤノは気づく。

 口の禍は門になってしまった事を。

 アヤノは一歩後ろに下がり思っていない事を口にしてほんの一瞬、後悔に怯む。

「はは、今日はいつになくマジに御節介じゃあないなぁ、マジ、マジ、清々するよ。オチこぼれ? ああ? おれは、マジで落ちぶれたマジでポンコツだ。マジで才能もマジで忍者としての資格も無いよ。ただ、マジで英雄になりたがる。いい夢を見るオチこぼれだ」

「ハレ?」

 異変に戸惑うアヤノ。

「裏切り者だぁ? マジでよ~初めに裏切っていたのはマジで、てめぇーらだろーが! なぜ、なんでマジ隠していたんだよ! なぜ、おれがマジで吸血鬼だって知っててマジ抜け抜けとやり過ごしていたんだよ! おれをマジでバカにするのも大概にしろッ!」

「――――どーしてそれを、ハレ、誰から訊いたの?」

「そんなことはマジ、今は訊いてねぇー! マジで裏切り者だぁ~マジ裏切られたからマジになって裏切ってやったんだよ! それが、マジどこが、悪いってぇーんだよ! やられたら、やり返す。やられたから、やり返したんだ! アヤノ、おれはマジで今何者だ? 知っているならその口でいっぺんだけ言って見ろよ! 吸血鬼って! 化け物だってさっ!」

 おれは強弁した。

 別に自身が吸血鬼だとか悪魔だとか別に気にしない。気にしちゃあいないんだ。

てか、どうだっていい事である。どうでもいい話であるのだ。

 ましてや、あの吸血鬼眷属と名乗るナゾ多き少女アセロラにお前はズバリ、キミは吸血鬼であるでしょう――――――だとか丸尾君風に言われても――――否、別にそんなふざけた事を言っていないが、疑心暗鬼だ。

疑心暗鬼であってもそれは、それで受け止め無くてはいけない事にしかならない話なのでどーでもいい事だ。ドラえもんの四次元ポケットからもしもボックスで『もしも~』が起きたって別にそのアトラクションを満喫するだけだ。

しかし、しつこい様だが諄い様だが。もしも、おれが吸血鬼だったとして別に気にする事でも無い。

気に障る事でも無い。

 ただ、心から怒りが込み上げる。

この気持ちは。

原因はわかる。

それは。

数少ない人物の心よせに。

信用していた人物から騙された事にあり、隠された事実を隠せるまで隠された事だ。

おれにはどーしようも無くそれが異様に異常に許せ無い。

ただその一色の思いだけである。

 

「―――――――――」

 アヤノは言い返す言葉も無い。自嘲して両手をクロスして暗黙をするだけだった。

 その様な態度をするアヤノをやはり、おれは気にくわなかった。

「そっかぁそっかぁ、マジでアヤノは、はじめっからおれじゃなく、吸血鬼(バケモノ)を見てきたんだよなッ!」

 おれは拗ねた。

タダ捏ねた。

自分でもかっこ悪く思っていてもどうしようも無くそれらが噴水の様に湧き出てくる。

怒りが一転に鋭い刃と化して言い責める思いが止まらない。

裡に恥辱を味わうものの自我では制御できない。

別に攻め立てるつもりが無くともつい、アヤノを攻め立ててしまう。

 しかし、アヤノは、

「それは、違うよ!」

 思いっきり否定した。

「はは、結局、おれは、マジでずっとひとりだったんだな。里で孤立、マジ、いい笑いものだぜ」

「ひとりじゃないよ! あたしがいる、ライタくんも、それに――――」

「マジ、冷やかしはもうやめてくれ! さすがは、マジ里で認められてる天才は言うことがマジ一級品だよな…」

「何、一人で穴に沈んでいるのよ、あたしは、自分善がりで天才とか才能を手にした訳でじゃない。約束したからじゃん―――――」

 奥を聞こうより口聞けをした。

「約束? ふん。マジ、さすが、自分の事以外にも気にする余裕があっていいよな! おまけにマジ、いい気分で脚光を浴れるなんてさぞかし、いい気分なんだろうな。マジ、なんつぅーか、夢も希望もあるお前が、ズルいくらいに憎たらしいぜ!」

アヤノの瞳が虚ろになる。少し涙目に潤い眼光が光で反射した。

「――――――――ハレ、なんでいっつもあたしの気持ちを理解しないんだょ―――あんまりだょ――――――」

 アヤノは、もごもごと小さな囁きで少し悲しげに苦笑の欠片を唇に寄らせる。

 突然の事でハレは頭に血を上らせているせいか思う様に聞き取れなかった。そして誤魔化す様に髪をぐしゃぐしゃにする。

「んあ? ンだよ! マジ、言いたいことが、あるんならマジ面と向かって言えしッ」

「……………………………」

 ――本当はマジで聞こえていた。

 ――けど、気持ちを理解していないのはマジでお互い様だ。

 アヤノは、淡々しく首を振り、後ずさりをする。ハレに謝りを掛けるが、謝るよりも約束の方に目を向けていたアヤノは裡に秘める鋭気が隠せない。

 しかし、次の瞬間、その思いを無理やり押し殺し代わりに渋い顔で涙を流す。

 それを観るハレは、僅かに、困り果てる。

「うっぉぉおい――――何で、マジに何で泣くことはねぇーだろぉアヤノぉお!」

 さっきまでの怒気が一転する。焦って、どーしていいかわからなくなる。ハレ。

「み、見ないでよ! 変態!」

 ピクっとして躊躇うハレ。

「………変態って。マジかよ」

 アヤノは、ひくひくして手の甲で涙を拭きながら恥ずかしい顔を隠す。

「っち、ああ、マジでそーゆーのかよ! マジ、心配して損したわ」

「し、しん、ぱいなんっかあしてない癖に き、きどらないで、よ。あ、あっち行って! もーハレ、なんか、し、知らないんだから!」

「……………、」

 そう言われて、ハレは文句がありそーな不承面で背中を向け、大人しく陸橋を渡る。

 痙攣する様にアヤノは、しゃっくりが止まらない。

 ハレは、苛立ちを抱きながら、「マジ、クソッが」と、いい加減に発狂する。道端に転がる空き缶を蹴り飛ばそうとしたが、恥辱を味わってしまうほどの空振りをして、

「―――――――――マジ―――――――ついてねぇー」

 徐々に正気に戻り。少々気に悩む。

瞬と自分の八つ当たりに対し反省を志した。一度、振り返って渋面な顔を浮かべる。

しかしここに留まる事を微妙に恐れ振り返るのをやめた。一歩、二歩、三歩、と足をゆっくりと逃げ足を進めてアヤノの泣き声が少しずつ遠くなっていくのが良くわかる。


     2


物陰からのそりと出てくる気配がする。

「よっ! ハレ、今日初めての御対面だな、ちょっと兄貴分としては、挨拶に来ない事に失礼過ぎる気があるんだが―――――」

 俯いていたハレを起き上がらせた声が目の前から聞こえた。

 クールの悪友であるライタが事情を把握している態度で物陰から現れる。

 ありったけの嫌味にしか思えないハレは物語進行でこーゆーパターンならこうなるだろうと想定して歪んだ笑みを向ける。

「マジ、人の齟齬を悪趣味で見る方が、マジでどーかしているよ、ライタ」

「ああ、悪いな。だが、そろそろいい加減にしろ! お前の行動が常に人に迷惑を掛ける。さっきだってアヤノを泣かせて、自己中にも程があるぞ! お前!」

 いつもと調子が違うライタは、クールで冷静なアクセントに上乗せて虎を凌ぐ眼光の姿がようやく剥き出しを曝け出す。それは、獲物を噛み殺そうとする威圧。その威圧感に飲み込まれそうになるハレは、強張った。言い返す言葉も無い。呑吐不下になった。

ハレ自身が、いつも悪いとはわかっているつもりだ。

自覚がある様な面影が出る。

「――――――――――おれが、マジ、悪いのは理解しているつもりだけど、なんで、マジでいっつもおれだけが悪いってなんだよ。マジ、気にくわねぇー」

「俺もお前が気にくわねぇー。本当の自分に向きあわねぇークソガキが! 自分勝手なんだよハレ。てめぇーを見ててぶっ飛ばしたくなる! 吸血鬼の癖に忍びを目指し、その忍びをコケにしてバカにしている態度をプンプンさせて弱者の癖に強者ぶって人の言う事はきかねぇーし―――人をキズ付ける―――困らせる―――お前は一体何がしたい! はっきり言ってお前は里での害虫だ! はっきり言って今のお前は忍びとして不適任者だ!」

「…………………………………………………………………………………………………………」

 ハレは、意表を突かれる。ライタが作る憤怒が交じっている空気がなんとなく息苦しい。睨みつける双眸がハレの体を石の様に動かなくさせる。ライタの威圧感に飲み込まれ支配されてしまった。

「俺はもう騙すことはやめた。隠すこともやめる。お前のために言う。お前だけのために打ち明かす。お前は、吸血鬼の呪いを背負う半鬼だ。里で歯がゆい思いをして、自分だけ救われないと現時点でそう思ったのか? 愚かな野郎だな。甘いんだよ。お前は!」

 ………………………………マジ、ライタもずっとおれが何者なのかを知ってて隠して騙してたのかよ。

「クソがッ! マジで一方的に言うな…よ…てめぇー。………けど、違う………マジおれが何者だろうがどうだっていいんだ。そんなこと! …………マジ歯がゆかったのは事実だけど、その歯がゆさは…マジ、てめぇーら里のもんが、ずっとおれをおれとして見てくれなかったからだ……おれが吸血鬼? …………そこまでおれを吸血鬼と呼ぶんなら、マジ上等じゃねぇーかよ! この力でおれは英雄になってやっから! そーすれば里もお前もなんも文句はねぇーよなぁぁぁあああああああああああああああああ!」

「だから、お前はポンコツなんだよ! ハレ! 今のお前には悪臭がにおう。物凄く危険なものがプンプン臭ってくる。忍びとして仲間を不安にさせる事はあってはならない事だ! もし、お前が本物の忍びになってお前に似合った任務でも絶対お前のせいで適材適所では無くなる! あぁ! そーさぁ。そーなる。絶対にだ! お前が強さを求めるのは悪い事じゃない、しかし、強さを求め過ぎると邪念を生み出す結果が結末を招くのは付き物だ。それが今のお前だ! ハレ! 俺はずっと気にくわなかった。お前が何故この里で自由に生きがっているんだってナニ、幸せにしてるんだって! ずっと思っていた。だがようやく今、露わになった! 赤裸々になった! お前の考え方は強欲過ぎて悪魔の考え方をしているからだ! ハレ、お前は悪魔たる自分善がりで自分勝手な奴だ、里に迷惑を掛けるクズなんだよ! クズは大切なものを護れはしない。できない。その結果が現に人をキズ付けた、俺の妹を! クズはキズを付けるしかない脳が無い。無能のお前は忍びじゃない、忍びでは無い、忍びにはなれない、元から悪魔なんだよ、元から悪魔にしかなれないお前なんだよ!」

「…………マジ…………忍びにはなれない……………」

 ハレは瞳孔を揺らす。

「いつまで楽な生き方をしている! 不自由な思いしているお前の立ち位置は本当の不自由さじゃない! 悪魔にしかなれないが、悪魔に飲み込まれるな! ハレ! 俺はお前を世界一大嫌いだが、里の仲間であり友でもあるお前を宝物だと心から思っている。そう思っているからこそ、お前を根っこから強くさせて己の逆境に打ち勝つ時、俺は里の掟等を無視してお前に本当の試練が訪れる事を知らせたかった。お前の正体を!」

「んだよ……それ……。マジなんなんだよ! マジわけかんねぇーよ! マジ、おれを里のコマ扱いすんじゃあねぇーぞ! おまえら兄妹はおれの事友達だと思ってなかったってー事かよ! 結局、てめぇーらだっておれの事大嫌いだったんじゃあねぇーかよ! マジでマジでママジで! おれは誰からも必要とされてなかった……マジ、歳上づらすんじゃねぇー!」

 

 その時、


「?」

 と、ライタは不意に空振りする思考が切れた。

 ライタの様子が突如雰囲気を変える。

何かが近づいて着ている。

いやな予感をしたのか、気配を察知したのか彼の顔が豹変する。

上空から何かが接近し始めている。ハレは状況が分かって無い模様。反応に疎い様子で間抜け面をする。事態の急変にライタは嫌な汗を掻いた。さらに喉が胃の中の物を突き立てる様に喉を搾り、「くそがッ! どけ!」ライタは前に出る。

地面を駆けながら印を練ってハレの身を空間転移させその場所から突き飛ばし吹き飛ばした。

オーロラに似た光のラインが、ライタの足元を中心に地面が大円形の紋章を描き浮かび上がる。

上空から降り注ぐ物体の影は、その紋章に吸い込まれる様に落下し、めり込む勢いで瓦礫の破壊音と地場が揺れた。その人工的天災はライタを襲い無残にも巻き込まれる対象になってしまう。

それは、隕石でも落下した迫力まではいかない。

しかし、その影響は確かに周囲を破滅へと導く。

風圧で何回も体が転がった。

安全地帯へと飛ばされたハレは神経を痺らさせる様な電流が走り、脳裏をスパークさせた。

まるで恐怖と困惑で身を支配された感覚。金縛りでもあったかな様だ。

目の前が突然すぎて曖昧過ぎた。

ハレは焦り込みの無慈悲な浮ついた声でライタの名前叫んだ。

現場から一番近くに居たライタはボロボロになりながら、数十メートル程空中を飛び後頭部から落下してダメージを負う。ライタはハレよりも重傷である。意識は辛うじて朦朧として息を浅くしている。九死に一生を得る。でもやはり、命に係わる事には変わりは無い。

「な、なんだよ、マジなんだってゆーんだよ、ナニが起きってんだよ! マジ、くっそぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 絶叫しながら、立ち上がる。キズはすぐ回復し絶望だけが取り残される。

「うぃうぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~。いぇ~い。いぇ~い~」

 そのとき、場が似合わない勝利のポーズ風に片手でブイサインをする新参者の影が埃煙の向こうから薄らとぼんやりと見える。ロウソクの煙を吹き消す様な呆気なさで少女の周りからハリケーンが巻き起こり埃を吹き飛ばす。姿をはっきりさせた。

しかし、少女の面は無表情で童女だ。

そんな――――童女が、独り言のように呟く、

「デュアリズム。激二つ目のターゲットを激捕捉! 激計算通り着地点への激無事着に成功。デュアリズム。激邪魔者は魔術アリアにより排除の任務成功。激、ま、単に大ジャンプした…だけだけドコモだけなのだけど?」

 その独り言はハレに直接言っている様で蔑む目つきでハレの事を睨んでいる風に見られた。

「…………誰だてめぇーは…………」

 謙遜するおれは危ない橋とわかりながらも剃刀の刃を渡る。

「国臥乃セイラ! それがあたしの名前。あたしは某犯罪組織である《雪月花》のメンバー。裏忍び界を生きる攻魔士。激初めまして 逢井晴お兄ちゃん。激詳しく言うと、お迎えに来た」

「………雪月花? 犯罪組織…………………………てめぇーがアセロラが言っていた、忍者!」

 清楚で礼儀正しくぺこりと挨拶をする国臥乃セイラ。

変に違和感をこの真顔少女から感じられる。

犯罪者と名のって置きながらこの上なく悉くその挨拶からは微塵も悪意は感じられない。

 さしてニコリとかニヤリとかしない彼女の表情は例えるなら生放送番組を静止させて音声だけを楽しむみたいな無表情だ。童女だ。彼女の表情のバリエーションはワンパターンと言えるべきだろう。

彼女はどうやら感情を表す事ができない風に見える。細かく例えれば凍り付いた少女。

雪女みたいだ。

けど―――――

ハレはこの時まで気づかなかった。

国臥乃とは距離はそれほど遠からず。国臥乃自ら落下した地場が安定していない地点から一歩、二歩と移動してその場所から離れていく。

徐々に国臥乃の姿がはっきりとわかる。

よくよく目を凝らし一点に集中してみると彼女の左手には、誰かを抱え持つ血だらけの少女が目に余るほどに目立つ。絵空事にしか思えない。

「…………………………………………………………あ、あ、」

 ハレは目を疑う。曖昧し過ぎたが、呻いた。気持ち悪かった。そして胃液を吐いた。

 これは、フラッシュバックだと思わされても不自然さは無い。過言では無い。

だが、しかし、自らの真ん丸い眼球でまんべんなく洞察してもストレスなどの妄想や幻覚などというものには、決してあてはまらない。

逆に無意識に悪夢でも見てるんじゃないのかと現実逃避したくもなりそうなシーンである。

どこのキャプチャーのバイオハザードだよ…と、ギャグも笑いも楽しむ事ができないのは承知である。娯楽できる状況では無い事は十分承知である。新手のスタンド使いだとか、波紋使いだとかそーゆージョークを吐く業じゃないことは十分承知だ。

ただ、その出来事の前と後でのギャップの激しさ。リアルを目の前にして驚きを隠せずにはいられない。焦り、恐怖、困惑、絶望、あらゆる想いが一気に指向したのは、たった一つの事柄だった。


――あいつの言っていた事はマジだったのか!


ハレはこの少女を知っている。知っているからこそ、脱力していても力を振り絞って、「あ、アセロラ!」と思考を混乱させて声を出す。甲高い悲鳴を上げる前に少女のグロイ状態を目の前にして思わず、手を伸ばし。空気を切り払う。

「そ、その娘にナニ、してんだよ!」

 本当に何をしている話だ―――おれは不本意に不用意に勝手に体と感情が言うことを利かなくさせた。おれの魂がそうさせているのだろう。

「デュアリズム! 激半殺し! 激半殺し。激お仕置き! ま、激、モルモット回収!」

「お仕置き! 何だよマジ! その身内みてぇーな言いぐさは!」

 おれは、窘めた。そしてその意味はアセロラに対し介意している。情緒もしている。

「デュアリズム! 激、アセロラはセイラの後輩! 激、身内だけど?」

 さらに、片手で目元に下裏ピースをした。無表情で。

 そのせいかキャラたちには似合わなく低俗すぎて痛々しい。

 きっと自身で萌とか思っちゃっている気がする。

「マジ、ガセ言ってんじゃねぇーぞ冷血女!」

 雪月花と名乗るこいつらとは、無関係無縁な繋がりなのだが、殺人予告を出しているこの少女がアセロラを容赦なく甚振ったこのリアルさを目の前にして、無残なアセロラの姿を披露され、アセロラの話が冗談だと思っていた言葉と適当に振舞っていた昨日の自分を振り返る。

しばしその感情も含めて苛立ちが表に現れる。

さらに言えば、見えない微かな情が生まれていたのである――――いや、むしろアセロラとは、つい昨日会っただけで。林檎アメを奢っただけに過ぎない少女だ。それだけのはずなのに微かに自分を変えてくれる様な気がした。アセロラとは、初めて出会っただけで、初めて会話しただけで、初めて自分の孤独に気づかされただけなのにその中で特別な思いがいつの間にか湧いていた。

きっと間接的に判断してみると、アセロラとおれは似ていた。

昨日の別れ際で客観的に最後に気付かされた。

おれはそう気づいたのである。

気づいたからこそ、姑息な外観を取り繕うとしている自分をいつまでもかっこ悪く殻に籠る事をやめ、その途轍もないきっかけで殻から割れて勢いよく殻から飛び出す様に激昂したんだろう。

―――――こんどこそ、マジ自分の嫌いな部分に立ち向かい受け入れられるかもしれない。

―――――こんどこそ、誰かを助けて誰かにマジで必要とされて。

―――――自分なりの強さをマジで証明できるかもしれない。

―――――こんどこそ、少しは忍びらしいマジな英雄になれるかもしれない。

―――――マジでつよくなりたい!

―――――マジにつよくなりたい!

「っくっそがぁあああ! マジでてめぇー身内とか言って置きながら、その娘血まみれじゃあねーか! マジ、しっちゃかめっちゃかしてやがんだよ!」

 ハレは、何も考えないまま、身を挺して捨て身の走りで地面を何回も蹴り飛ばす。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 ハレは、気迫のある激動で壮絶な雄叫びを腹からしっかりと出した。

自らの漆黒の剣を無暗に投げ飛ばし、国臥乃はそれを風で吹き飛ばす。

「デュアリズム、セイラにはそんな小賢しいモノは効かないよ―――――――――」

「ァセロラぁぁぁぁああああああああああああ!」

 ハレは、赤の他人とか、関係無くアセロラに目掛けて真っ直ぐに進む。

「ハッ!」

 さっきのハレの囮攻撃にまんまと引っ掛かり気を取られ。国臥乃はまんまとハレの作戦に引っ掛かった。

「………………………、」

気を散らされた国臥乃は心の中で表情を歪める。取り乱したのだ。

 直後、アセロラは薄らと視界を回復し目の前で猛然と走るハレの姿が瞳に映る。

ハレは渾身一滴のタックルを国臥乃に向けてアタックした。

「あ、デュアリズム、吹っ飛ばされた! 油断しすぎた―――――」

 国臥乃はあーれっと、リアクションしアセロラを放した。

瞬時にハレはアセロラの身を抱き寄せる。

そのまま転がって自分より小さな体を身を護る様に受け止めるのだった。

 国臥乃はリアクション芸人の様にありえないほどに吹っ飛ぶ。

 狙いすましたギャクをやる様に。

「……………………………、」

 しかし、誰も突っ込む人がいないため内心残念を抱いた様だ。ま、自業自得だろう。

 

 一方。

 地面に寝座る二人は、

「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 ハレとアセロラは密着になりながら、互いの鼓動が高鳴りなりを増す。

「なんだこれ、熱い! マジ、何故だろう、お前を食べたい」

 吸血鬼衝動が堪らなく芽生えるハレは、欲を抑えきれない。

「ハ、ハ……レ………」

 咎め声を出すアセロラも赤い瞳と犬の様な刃を剥き出しにして感情が高ぶる。

「…………………………………」

「…………………………………」

 二人はだんだん己の血の呪いによって自我が保てなくなり沈黙する。

 血が沸騰する様な熱さが心臓から送り出される血液の循環が急速に加速し始め。

 ドクン。

 ドクン。

 ドクン。

 鼓動が次第に大きくなる。

 互いの吸血鬼の本能が芽生え駆り出される。

もはや、覚醒し合っている。

暗黙のまま――。

心が燈らない不気味な緋色の目つきが、互いの首筋に矛先を向け、契りを交わすように無意識に噛みつきあう。

――転成転移。


     3


 次の瞬間。

二人の魔力と生命エネルギーが共鳴し合い二つの心を包むように光が覆い始めた。

「え? マジなんじゃあこりゃ! マジ、どーなってんのぉお!」

 咄嗟に驚くハレは意識を取り戻した。

「ここは、心理の狭間! 今、キミの心と私の心は二つの心の境界に居るのよ! 私たち―――――」

 アセロラは悄然と述べる。

 ハレは周りの景色に驚愕する。

 二人の首筋から驚くほどに繊細な血液が宙に回っている。

 二つの血液が絡み合い幾つものの血のらせんが作り出されている。

「マジ、それじゃあ! これが、血液を操る力ってゆーやつか!」

 ハレは落ち着いた表情で釈然とアセロラと向き合う。

「こうなってしまった、以上―――――」

「な、アセロラ! マジでいいもんもってんじゃん!」

「え!」

「正直、お前とマジ出会えてよかったぜ! マジで本当の妹ができたみたいで、おれは、マジ、うれしい。マジ家族みたいな感覚でお前といるとほっこりする。お前が一人でマジになって抱え込む事なんて今を持って何一つ無いんだ! お前は何となくおれとマジ似ているし、見ててマジ心配になる。だから今度はそのマジで手を離さない。マジ絶対に離さない。これから、マジで一緒だ。おれの母さんがマジで命をくれたのなら、今日からお前は。おれたちはマジで兄妹だ! この戦いがマジ終わったら、また、林檎アメマジ食いにつれってってやる! だから、お前のマジな力―――――このおれがマジで受け止めてやる!」

 ハレは、無邪気に手を差し伸べる。

「……………………………」

 不意にアセロラは無言になり大粒の涙を垂れ流しながら前髪で顔を隠し全身を震わせて腰が抜ける様になる。アセロラはひくひくと瞼を赤くし無言なままに手をハレに預ける。

「さぁ。マジ行こうぜ! アセロラ!」

 手を引っ張り、アセロラはハレの胸に身体を預け――――――

 やがて、周りの光と互いの幾つものの螺旋状の血液が混じり合い。ハレの右手に躊躇いも無くスムーズに集中していく。それは、だんだんと姿を形作ってDNAの情報が組み組まれ構成されて行く。

赤く光る結晶の塊がオーラをぼわぼわと生命エネルギーを放ち、その何もかも貫く切っ先の緋色の光剣は濁った雲を晴らした。

「大剣?」

 現実の視界に戻ったハレは力尽きるアセロラをそのまま抱えたまま、その赤く血液で鮮明化される硬質な血液で作られた大剣を見て自分たちの呪いに熟慮して受け入れを生ずる。

「おや、おや、おや」

 背後からかかった声は、ライタのものでは無い。

おれはそう鵜呑みした。

 けど――――敵だと思うのは確実である。

「っち。また、アセロラを狙う奴かよ。マジ、いい加減にしろよ! マジ、二人の攻魔士のもう一人っててめぇーのことかあああああああ!

 おれは殴りかかる様な体勢で体ごと振り返る。

 すると、壊されたビルの上にその正体不明の男が仁王立ちしている。

「バカ野郎! 国臥乃! 寝てんじゃねーゼオ! いい加減てめぇーはまともにひとつの任務さえこなせねぇーのかゼオ?」

 咄嗟によっと、国臥乃は起き上がる。

「デュアリズム! 激うるさいなぁ! 激グラヤンのお兄ちゃんは。激勘違いすんなよ、激な話、遊んでやっただけなんだからねっ」

 そっけない態度で井頭に向かってピースをする。

「本部に帰ったらぶっ飛ばす!」

 眉間にしわを寄せて国臥乃に対して怒る。

「マジ、よそ見しんじゃねぇー」

「あん?」

 不意をつくハレは一瞬で井頭に対し諸手を挙げて剣先を抉り振り下ろす。

 だが、切りつけたのはいいが手応えが無く。

「………………………、」

 呆然と前かがみになっているハレの目の前に立つ、井頭の皮膚から血が一滴も流れていない。

「マジかよ。これは」

「影分身! よそ見してんのは、どっちだぁ! あ~んゼオ!」

 切りつけた人体は高圧な青白い放電が幾度も竜の舞の様に乱れ舞されている。荒削りに。

 ハレは、驚かなくとも知っている。

 ―――雷人影分身。

 見たことがある忍術だ。

「こんな小細工に引っ掛かるなんてだせぇーゼオ! 能力が開花した被験者吸血鬼!」

 不遜な態度で笑いこける。井頭。

 ハレはそれを受け流し淀みを流し一瞬で井頭の視界に入る。

「ナニ、」

「マジ、笑うな!」

 水平切りの体勢に入るハレは、独自の剣戟の抜刀術で凌駕する

 しかし、余裕ぶっこいて万事休すだとは思わない惰性な井頭は酷薄な目つきで地面を蹴りタイミングよく避ける。

 一瞬のホバリングをした井頭は両手に電流を迸り咄嗟に壮絶な印を練った。

「雷忍術―――電光ウルフ!」

 忍術の方陣から生成されたのは二匹のオオカミだ。雷の鎧を纏った獣。口寄せとは違う類だ。

 主の支持を従うオオカミたちは、狂狷になって敵視するハレへ向かって凶暴に襲いかかる。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 ハレはとっさに奥歯を噛締めて下段に構え。

大剣に魔力を籠めて風の衝撃波を投げつけて誰かに虐待する勢いでに襲い掛かってきたオオカミたちを消し飛ばした。

「風剣戟―――ソニックブーム!」

「ほう! やるじゃんゼオ! だが、」

「デュアリズム。お返し!」

 ぶっきらぼうにからかう様に井頭が微笑した時、ハレに横やりを入れる国臥乃の強烈な拳を猛然と炸裂する。その威力は装甲車をぶっ壊すのは容易い破壊力だろう。

 国臥乃はその時だけ、怨嗟した。

 しかし――――

「っちッ」

 ハレを取り留めてしまう。国臥乃は想定外の舌打ちを吐いた。

「――――――――――――――っぐ!」

 強烈すぎる敏捷さは矛を盾にして受け流し凌いだものの片手に持つ腕に痺れが生じた。

 さらに数メートル弱吹っ飛ばされたものの日頃の鍛錬のお蔭で身の安全はその反射神経でアシストされた。

「アセロラもバカゼオな! 幼い時に祖国が滅ぼされ、おまけに滅ぼしたのが俺ら雪月花と知った途端! 敵視する様になって! しかもいいことに死にかけの時に吸血鬼に助けられ身寄りも無いアセロラを組織が入れさせてやったのは、その悪魔の力あっての見込みなのに! 植え付けに成功した能力をどーして感激しないのかゼオナ~数たび――その吸血の力を使ったくらいで自分からビビってその力を組織に貢献しなくなって。数年ほって置いたらさぁ―――――――案の定、吸血鬼を飼っている里の情報を入手した雪月花の極秘情報を持ち出して裏切ったんだから笑いも減ったくれもねぇーゼオ!」

 血まみれの小さき仔羊のアセロラを井頭は何も変哲も無くディスった。

「マジ黙れよ」

「あん!」

 井頭は言葉に釘を刺されて不機嫌そうに返事をする。

「たく! マジでなるほどな…。マジ、なるほどだぜ! この不思議っこ少女もあんたみたいな下種やろーに御預りじゃあマジ、ビビって安心してトイレもいけやしねぇー。こんな変態大人がいたらそらー家出したくなるのも無理もねぇーなっおい!」

「ナニ!」

 井頭は言う。

「デュアリズム!」

 国臥乃は体を横に振りかぶりハレを睨む。

 ハレは陰鬱な顔面で落胆な溜息をする。 

「アセロラはマジ悪くねぇーじゃんかよ! マジ、ばかやろーおれもお前も! 全て一人でマジになって抱え込みやがって! 全て強がりやがって! 全て似てんじゃん! たく―――マジよぉ。真似すんなってマジな話だよ!」

 いつもの様に強がりを言えないハレは、暖かい眼差しでアセロラを見つめる。

「最初からこいつと会ってマジ、自分のドッペルゲンガ―を見ている様な気がして呆れるくらい自分勝手なんだなぁーとマジに思った。きっと、ライタやアヤノもこんな風にマジめんどくせぇーおれとマジでつるんでいただなんて思った。正直マジ、なんつーかめんどくせぇー。な。おれって! だから、アセロラはおれがマジで護る!」

 ハレの眼光には決意の表明がされている。

 感情が高ぶり笑みを浮かべ吸血鬼化している自分の凛々しい顔を鏡で見られたらもっと胸が高鳴る気がするだろうとハレは思う。

「デュアリズム! 激、亡き吸血王女の子孫の被験者を野良にしていたらこんなにも立派になっている。グラヤンのお兄ちゃん…」

「がはははははは。オモシレー、てめぇーか。悪魔と混じってんのはよ! しかも、アセロラとは違う、本場モノの吸血鬼! 昔雪月花が作った悪魔。しかもこの田舎里の忍界仙人のお気に入りの半鬼か! なぜ、そこまでこいつにこだわる! 助けたがる?」

 井頭は意識が未だに回復しない小さな体に鋭く指を指す。

「そんなのマジ決まってんだろ! マジで困っている奴が居たらマジで助ける。それが、英雄のマジな誇りだからだ!」

「悪魔を助けるだあ。笑える。笑えるゼイ。とてもだが、忍びの国に生きる考えじゃあねーなぁ。鬼や悪魔なんぞ、この表舞台の忍びの世界じゃ見放される因縁何だゼオ! なのに半鬼が英雄なんかになれるわけがねぇーゼオ! 忍びは自分の事しかみていない。世界は自分たちの物だと思っている奴がダニの様に存在する。てめぇーはその中でそれでも英雄ってもう一度口にできるのかゼオ! 吸血鬼の半鬼!」

「それなら、マジに変えてやればいい! 忍びも悪魔も居心地がいいユートピアを!」

「ふん。下らない、くだらねぇーゼオ。ナニ、夢物語を語っているゼオ! この世界に二つの表裏は交わらない。オセロと一緒ゼオ。挟まされたらどちらかが支配し世界を築かせる。そういう慇懃(システム)しかできやしないんだゼオ。正義も悪も! 光も闇も! 表も裏も! 忍びも悪魔も!」

 滑稽に笑う井頭は少しばかしぞーっとさせる。

 うっとりと国臥乃は笑う。

「しらねぇーよ、そんな事! マジで!」

 けど、それに負けない強気想いがハレには燃え上がっている。

たとえ、どんな事柄だろうと今のハレの心にはかすりもせず、効果を無効化されてしまうだろう。

なぜなら、ハレには夢と言う夢にこだわりを抱いているからだ。

ハレには一人前に認められる忍界仙人になりたい夢がる。

でっかい目的を達成させるため忍びとして認められ時代に名を刻む事。

その思いが何よりも忍びを目指すモチベーションだから。

そんな思いでここまで命を燃やしてきたのがハレと言う少年だ。

「マジ、夢物語だけどな……けど、マジ、夢ってゆーのは悪くねぇーもんだ。夢みたって別にいいじゃんか。人には夢を語ったり目標にしたりする権利がある。英雄はできるできないじゃない! やるかやらないでもない! その壁をマジ、ブチ破る勇気だ! 正直忍びの闇とか、突然告白されてもマジ訳わかんねぇーし…忍びの見習いのおれにはマジで受け止めきれない。けど、英雄をマジで目指す以上――――その闇もマジで受け止めなきゃならない時も来るだろう。そんときは、マジ、おれの目の前で現れたらこの吸血鬼の力でマジ悪を祓うぜ!」

「……………ふん、やはり、理解に苦しむ! 英雄なんて人から信頼もなければ、意味は無い。雪月花にはいらねぇーものゼオ。俺らは仲間を裏切ったら、殺す。それが、セオリーだ!」

 井頭は言う。

 否定する様な面影を乗せハレはゆっくりと噛んで含めるように、井頭に話しかける。

「別にマジ、てめぇーらが犯罪組織で犯罪侵そーがそれはてめぇーらのマジな使命だから責めはしねぇー! だけどなっ………マジ、同じ仲間をぶった叩いてどんな悪意だろうとどんな要素だろォーとマジでやっちゃいけねぇー正義がマジ、あるってもんだろぉーよ!」

「黙れよ…」

 矛先を向けるハレに井頭は癇癪を起した。井頭は眉間にしわを寄せて、葛藤も露わに黙り込む。わかりやすい――――図星だと捉えた瞬間そこを集中的に攻める様にハレは悪巧みする。

「マジ、くだらねぇールールに従って人を仲間をキズを付けるなんてあっちゃいけない!」

「しゃべんな。正義に絶望した俺たちに光を向けるな!」

「てめぇーらもマジでそんな風に絶対思っているはずだ!」

「口を閉じろ!――――」

「マジで拒んでじゃねぇー!」

「それ以上言ったらゆるさねぇ!――――――」

「アセロラはマジ一人だったんだ! マジ、仲間だったんなら気づいてやれよ!」

「うるせぇぇぇええ!」

 最後の言葉国臥乃だった

「激、知るかよ。激、悪に生きるものに何故、人の気遣いをしなくてはならないんだ。正義なんて絶対に最後まで正義を貫けられないんだよ。それこそ、悪だ! だから、忍びに現実に裏切られたセイラ達はとことん、忌避してとことん、忍びの世界を絶望へ導く。それが僕たちの復讐精神だ。誰もこの頑な深い暗闇の意思は凍ったバナナで釘打っても砕けない。裏切ったら裏切られた気持ちでぶっ殺す! それが僕らセイラ達の揺るがない精神!」

 国臥乃は忌避的に言った。

 国臥乃は顔面を引きつられながら叫んだ。少々泣いていた。自分の過去を思い出す的な表情を浮かび上がらせて―――――さっきまでの無表情が崩されていく。

 さっきまで対峙し合っていたハレと井頭も突然の言霊のぶつかり合いに横やりを入れられ、不意打ちを受けた様な仰天の顔を浮かべる。

 しかし、ハレは気づいていない。自分にさらなる脅威が襲い掛かっている事をまだ知らない。

だが、井頭はゆっくりとよくやったっと言いたげな感激のにやけをし、それに気づくハレは彼女の今の行動をよく理解しきれなく血反吐を吐きそうな焦りと困惑を死角から襲いかかった。


     4


「…………ラ、ライタ………マジ、てめぇーライタになにをしようと……してやがるんだ!」

 国臥乃はライタの傍にいつの間にかいた。

ライタは身動きができない。

無防備なライタを風の渦により捕獲されていた。

ライタは人質にさらされている。

 意識が朦朧としている中少しだけ回復し視界に光が入るライタは血反吐を吐きながら、いつものクールさと気怠そうな面構えだけを無理に浮かべさせ。まず、目の前のハレの状況を気にする。

「はーはーはー。…………ふん、上出来じゃあーねーかハレ! それが、お前の力か。うっ、うっ」

 息継ぎを必死にする。

 無理やり意気上がろうとするライタは言った。

 風の中で徐々に体を蝕む。

 血が何度も噴水の様に溢れ出ている。

 さらに苦しそうにライタは血を吐く。

「ら、らいたぁあああああ! テメェー今すぐマジで殺してやる!」

 大事な親友を敵に取られ居ても立っても居られないハレは、悲鳴を上げる。

 ハレは、失態した。さっきまで完全にライタの事を考えていなかったのが、最大の不運を招いてしまったのである。ハレは事態の変化に対応する力がない。融通が利かない。むやみに動いて国臥乃が何を侵すかわからない。いつまでもいつまでも守る愚かさを戒めた。そんな心境に立っているハレの困る姿を見てライタは「フン」と嬉しそうに口遊む。

「そ、そんなに騒ぐな、バカたれ! 少し内蔵がいくつかやられただけだ。別に心配すんな、ゲホ、ゲホ―――――な、なっ。だ、大丈夫だろ!」

 ライタは大丈夫って言っているが大丈夫じゃないって事くらいハレにはわかる。

 ライタはもう身も心もボロボロなのだ。ライタが両手で押さえつけている横腹はおそらく、さっき自ら答えた損傷した内蔵のあたりなんだろう。今でも助けてやりたいハレは取り乱さずに剣を構える。

 しかし―――――

「デュアリズム! 激、殺すっていってんだろ!」

「ぐあああああああああああああああ!」

 犯行予告した通りに国臥乃は指を構え、風の渦の檻に囲まれているライタはその中で風の刃で幾度となく血を流される。

「くははははは! 滑稽だゼオ、おいおいおい! 学習能力がないのかてめぇーは。言ったゼオ。国臥乃が殺すって、ゼオ」

 ただ、見捨てる様に起立するしかなく言葉が出てこないハレはとりあえず呻いた。

 さらに咎める。

「ぜぇぇぜぇぇ―――――ハ、ハレ!」

 より酷い姿になってしまったライタは力のある限り意識を集中させる。

「…………………」

 ハレは渋面な顔しかできない。かける言葉も見つからない。ただ、見る事しかできない。

「いいか。別におれの事は構うなよ。お前がこのままそこに突っ立っても何も意味も無い。下手の考え休み似たりだ」

「………………………」

「行動を起せハレ。英雄に忍界仙人になるなら俺を信じろ。

「夢に強さを求めるなよ。夢を叶えたいなら友を信じろ」

「な、なんでマジな面してんだよ、そんなボロボロなのによぉ。マジバカじゃん!」

「ああ、馬鹿―――だよ、俺もお前も、いったいどうゆう遊びしんだかだ! けど、命をお互い天秤に掛けられているんだ。俺は大事な親友のためなら喜んで死んでやる! だから、動け! 自分の信念の赴くがままに生きろ!」

「っざけんなよ。マジ、友情ごっこがここまでとか、本番はこれからだろーが。道をまともにまっすぐ歩けぇーポンコツがやっと自分に向き合おうとしているのに一人でマジで楽に死のうってゆーのか。マジ、甘ったれるなよ。おれの魂がマジそうさせねぇー。人と人で支えられるってゆーのがあるが、絶対に支えられる訳がねぇー。何故なら、他人同しだからだ。マジ信じられる訳がねぇーんだ。友と友だからこそ支えられる。だからこそ、マジ間違った道に進むバカ野郎のお前をここに居るバカ野郎の忍びがネジまがってる生き方してしまって道を踏み外してしまった目の前の友を友情壊してでもお前を助けたい気持ちはバカ正直なんだよ! 自分の命をマジくだらねー言い訳で身を滅ぼしてんじゃねぇーよ。マジ、バカやろーが…………」

 感情的になり涙目になるハレ。そこには強い絆と情がある。

「ふん、認めてやる! 俺はお前を一番に認めてやる!」

 不気味な笑みを浮かべた瞬間――――――――――

「認めるって……マジ……」

 ハレはその言葉に思考と目を奪われる。

「やれゼオ!」

「デュアリズム!」

「マジ、やめろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 

「やってくれぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 ハレとライタは完全に頭の中を真っ白になって絶叫した。


 同時にライタは残酷に散る様に風の渦で命の糸をぷつんと切られる。

「ふっ! 切れた! 俺の中で何かが切れた。これが俺の命というものなのか! だが、いいだろう。これが、俺の役目だ。元から覚悟していた。俺は全力であいつを強くさせるって! 友として悪い友達になっても嫌われてもあいつには仲間と言う大切さを理解して欲しかった。何故なら、忍びになりたがるポンコツにはこれから一生必要とされるからなぁ。これで俺がいなくなることでその意味を少しでも理解してもらえると幸いなんだが。なっ! アヤノ!  後は頼んだぜ!」

 ライタは痛みも苦しみも超越して目を閉じにこやかに天に懺悔を送った。

 

「らあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


それは人生最大の悪夢の様な一瞬。もしくは一面だった。

瞬きもできず桐那岐雷太は即死だった。

 ハレの視界にはライタの無残な姿しか見えていない。見えない。見えている。視界が狭まる。

 ライタがゆっくりと宙を舞っている。

キズ口から大量の出血がシャワーの様に流れ出し顔が青ざめているのが、はっきりとわかる。

ハレはしばし理解ができなかった。

自身の本望では無い。

物事の結末に問答無用で拒否ってしまう。のが、無意識に起こる。

やはり、ハレにとっては理解がし難い。

理解ができない光景でその光景の前では思考が即座に途絶える。

感情が塵になる。

灰になった。

身体と霊体が分離する様な拒絶反応が巻き起こり。

そう言った感覚が襲いかかる。

自分も死んだ風になる様な気がした。

ハレは大仏の様に眺める。ただ、死んでいく大事な親友を大事な悪友を茫然とその光景を見る事しか能がなかった。瞳から光彩を消したハレは、スタスタ無言でライタの方へ近寄った。

……………………………………………………………………………………………………………。

ライタは上空から落下した。

ハレは限界まで来る絶望を必死に堪え様とがんばりながら、

「わああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

ハレは、号泣した。叫んだ。絶望した。

自分の姿を鏡でもし見られたのなら、あまりにも恐怖に塗れた顔に自分自身でトラウマになるかもしれない。そんなことも考えられないハレは、全身に血をめぐらせ、アセロラの存在を忘れ。無意識に手を放してしまう。

血しぶきと共に空中を舞うライタに目掛けて全力で走った。

ただ、ライタに向かって。少しでも生きているという可能性を残して――――。

希望を乞う願い、

「ライタ、ライタ、ライタ、ライタ、ライタ、ライタあああああああああああああああああ!」

 だらしがない叫びで名を連呼した。あるいは鬼気迫る口ぶりで絶叫したのかもしれない。

武器を捨て、身を挺して、身を捨てて、全身を使いライタの体を受け止める――――――。

ライタの体温が徐々に低下しているのが、よくわかる。

その時、ようやく現実に起きてしまった出来事を辛うじて受け入れる。

そして、さっきまで取り乱していたものが、厭でも次第に失われた理性を回復させた。

さらに、ライタの死に直面し顔見て困惑と底抜けの恐怖と現実が襲い掛かる。

「ラ、ライタぁぁあぁ……………………」

 ライタに声を掛けてもいつもの様にハレをバカにはしてくれない。機能を失ったロボットの様に首と手と足がありえない方向に曲がっているのがわかる。

 さっきの竜巻により骨があちこち砕けている。

人としての骨格の作りが人としての面影が失われている。

 ライタの魂はもうここには無い。

霊気が完全に抜けている。

もう、存在はしなかった。

同時に心臓の鼓動も血液の流れも完全に動いていない。

「マジくそがッ! マジ、ばかやろー……」

 ――――おれはマジ、大切な友達までも救えないってゆーのかよ…………。

 ――――嗚呼、そーだ………。肝心な時におれは弱い。

 ――――おれはマジ、ライタを見殺しにしてしまったんだ…………。

 ――――ライタはおれのわがままに振り回されて死んじゃったんだ………。

 ――――おれってマジ、クズやろーじゃん………。マジで自分の事しか考えていない。

 ――――何が、最強だ。何が強いだ。うぬぼれてんじゃねーよ。

 ――――失って初めて本当に気づいて、マジ、どーすんだよ。

――――アヤノのゆーとーりじゃねぇーか。

――――マジ…おれは弱い。ひとりじゃあ全然、強くなんかなれねぇーって。

――――おれが、マジで調子こいてたせいで………。

――――マジで……マジで……マジで……ごめんなさい。ライタ。アヤノ。

「……………………………マジ、ごめん……」

 もう―――喚くことを忘れ。驚くことも忘れている。

 あるのは―――自分への怒りと。

 そして――――託された思い。

「…………………………………」

 ライタの顔を覗く。

「なんて、顔で死んでやがんだ。マジ、たくよー」

 ボロボロに泣きながら呆れた顔をする。

 そのライタの笑みを見て不意に、

 

――『ふん、認めてやる! 俺はお前を一番に認めてやる!』


その言葉がハレの心に深く刻まれる。


その瞬間、いやなタイミングで戦慄の雨があたりの地面を徐々に叩きつけた。

今のハレにとっては、湧いてくる激怒もこの雨の前では鎮静させられてしまう。

「………………………………」

 唇を噛み己の無力さをひたすら呪う。その感情は決して憎しみという名の感情では無い。

 自分の本当の弱さに今を以って思知ったのだ。

 アセロラとライタの血が洗い流されてく。

「はっ!」

 不意にいつの間にか手元に違和感を覚え焦って忘れ物の存在に気づき辺りを見探した。

 抛り捨ててしまったアセロラはまだ息がある様だ。

 井頭は雨に打たれながら低俗にフンと口で笑いハレの背中を睨みつけて、

「どうだ、てめぇーの数分前口にした犯罪者の責務ってゆーやつだゼオ! つまんねぇー昼ドラみたいな出来事に巻き込まれてこっちは飽き飽きだゼオ! ただ、ひとり死んだだけなのにそんな悲しんじゃってゼオ――――この世界はそんなあまっちょろい風にできていない」

「デュアリズム! そーだね、グラヤンのお兄ちゃん。これはセイラ的にも僕的にも激いい眺めだよ。あの吸血鬼のお兄ちゃんは忍びの世界に闇があることをまるっきり、知らない様だったし。見る限り知らさせた。今まで知らないみたいだったけど―――――知らないまま生きて、今、忍びの闇の住人が居ることを今を以って知ったのさ。激、表の住人は忍者は闇があるお蔭で自分ら人類の役割を果たしているに過ぎない。激、たぶんこれは吸血鬼のお兄ちゃんにとって序章なんだろーけど、ま、激な話、あの吸血気鬼のお兄ちゃんがバカなことをしているから、こうなったと推測するよ! 激、あのライタと言うお兄ちゃんがまさかの闇の住人の一人である吸血鬼のお兄ちゃんを助けるなんて正直、ナニ純情系青春なプチドラマを起しっちゃっているのかは今でも激滑稽だけどさ、激、馬鹿じゃん! あはははは……」

「…マジコノヤローライタにバカって言ってんじゃあねぇ。ライタにその言葉を吐いていいのはマジ、このおれだけだ! マジ、闇が何だってゆーんだ…」

「デュアリズム! だから、激な話、キミは吸血鬼で、悪魔退治を好む表の忍者の天敵だ。きみは、悪魔を敵視し悪魔の力を恐れ悪魔を怖がり悪魔の力の良さを邪道だと考えているチンカスばかりの群れに居る。きみは激ずっと、きっと、今まで激、居心地が悪かったはずだと激思っているはずだ。仲間何てなんものは、激意味を持たないのに。自分より激能力が低い奴や髭の塵を払う奴や組織を激で裏切る奴に何故、いい顔をしなくてはならない。どこに都合がいい激話で激に生きられると言う激な話がある。デュアリズム、覆水盆に返らずってゆーでしょ? あれ、さまにその通りさ、激、使えない人間は人類の激的、敵だ。仲間を激欺いて激舐めている奴は、壮絶な激絶望を与える様な死の激鉄槌を下さなければならない! 死んで人類から激省かせて。激思い上がってしまった事を激懺悔させる。そして激的億劫を感じるほどの激凄絶な激後悔をした方がいい」

「―――マジ、うるせぇよ」

 ギン、と周囲の空気を鬼気迫る質感へと塗りつぶす。

 ハレの鬼の様な視線が、国臥乃を鋭く貫く。

 その時ハレの目にはいつも以上に瞳の色が濃い赤に染まっていた。少しでも動いたら瞬殺されそうな眼光だった。

国臥乃の顔が痛撃に歪んで後退りする。

「脅迫かぁ? おいおい、折角、仲間にしてやる誘いしてんのに。まぁ、元々テメェ―は雪月花が作った半鬼だけどな。道具だけどなッ。俺たちの物だけどなぁ。ゼオ!」

 水をさし井頭のイカツイサングラスの向こうには何となく鋭い目をしている。

 だが、

「ごちゃごちゃマジ、っうるせぇんだよ。マジ、それ以上、一回でもマジで呼吸して観ろっ。マジでぶっ殺すぞっ!」

 それ以上にハレの目つきは強烈過ぎていた。その目つきはからいばりの井頭を凌駕させる。

 ハレは自身で耳にした事が無い声で彼らを深く抉った。

ハレの眼光は牙と刃を向け国臥乃と井頭の視線をさらにブチ貫く。

 国臥乃セイラの拙論と井頭栄洵の諄い話に正直、ハレは嫌気を指した。

 彼らのくだらないママごとにこれ以上付き合おうとはしたくなかった。

 目の間で死人が出てその死人を軽々しく含沙射影に殺した犯人の戯言なんか聞きたくもなかった。

ハレはさらに殺意が剥き出しになって行く。

 その驚異が彼らを痛撃させ追い払う様に後退りさせた。

「フン………次会ったらぶっ殺すゼオ」

「デュアリズム! いや、激、それだけは、しちゃあいけないよ。激、なにせ、あのお兄ちゃんは元人体実験の被験者で裏切り者のあのお兄ちゃんの父親が勝手に逃がした吸血鬼でやっと見つけた回収すべき値の半鬼なのだから。次会ったら、激、組織の手にお土産にしよーう。『紫苑(シオン)』のお兄ちゃんが激、喜ぶよ」

「ふは。確かに転成転移の成功者が出たとありゃーボスも喜ぶってもんだゼオ!」

「しかし、あの死にかけの吸血鬼擬きはどーする」

「デュアリズム。激、元々はたまたま見つけた掘り出し物で逢井晴を激最高傑作にするための激都合のいい激道具だった。けど、激な話、もう用済みだと思うよ。激想定外だった事だけど予定通り実験は激完遂したよ。ただ、アセロラは激普通じゃ激死なないから予定通り山で準備した儀式で激消滅させる」

 うかれたピースして言って、彼らは気絶している少女―――アセロラを乱暴に扱い小柄な体を持ち上げた。やはり彼らは仲間に懸念と言う言葉何ぞ眼中になかったらしい。

 闇組織の二人はこの場をあとにし逢井晴はアセロラを取り戻す気力も無く虚無な自在の心の中で一人すべてを洗い流す様に猛烈な暴風暴雨に打たれながらライタの腕を自身の肩に貸しひたすら足を進める。

 すでに陽は日没しており辺りは暗闇を作った。

 月の光なんてものはこの天気じゃあ現れない。

「…………………………………ライタァ………くそ……」

 目を閉じ、不意にライタに伝えられた言葉をもう一度、思い出す。


――『ふん、認めてやる! 俺はお前を一番に認めてやる!』


 ハレは屍を背負い、思いを受け取り一寸の虫にも五分の魂が芽生る。

 雨、風、自分という壁を目の前にして乗り越えなくてはいけないものがあった。

 ハレは折れそうな魂を持ちながらも乗り越えるために前だけを見て歩き続けた。

逆境を目の前にして後ろを振り帰らず、前だけを見て歩く。

体が全然進まなくとも、真剣な眼差しで魂だけを先に歩かせる。

「もう、マジになるよ。殻に籠るのはやめる。羽ばたくよ。どこまでも。おれの魂がマジそうさせるんだ」

 そう言って。

 ライタの横顔に覚悟を表明するのである。





















第三章 【決断と決意を今こそ証明するとき】


     1


 おれが雷太と綺乃に出会ったのは、小等部に入学して四年になる年のゴーデンウィーク初日だった。

 晴れ渡る青空の下で同い年くらいの里の子供たちは子供らしく無邪気に公園で遊び呆けている。その公園で毎日の様におれは独り寂しい思いをしてブランコを漕いでいた。

 おれにはやはり今も昔も友達と言う友達は存在しなかった。目の前の赤の他人たちと混ざってけいどろや鬼ごっこなどをやる事に少し憧れを抱いていた。おれは思い切って目の前の子たちに「マジで混ぜろ!」と少し強引にせがむが、みんな何故か逃げてしまう。

あいつらが逃げて最後に吐くセリフがいつだって「化け(ばけおに)」だ。

と、言い捨てる。だが。正直、この頃のおれは何を言っているのかよくわからなかった。

そんな憂鬱な日々を送っていた。

天涯孤独のおれにとってジジイは唯一の支えだったが、おれの人格と感性は誰よりも崩壊している―――――人格破綻者なため誰かに救われ誰かに頼って生きようなんて言う甘い考えはできなかった。したくも無いし―――する気もとことんなかった。単なるプライドが誰よりも高かったんだろう。何故なら、自分自身が今よりもかっこ悪くなってしまい。何よりも自己愛している強い思いが劣ってしまうと恐れたからだ。

それにジジイは忍界仙人であって里から英雄視されている。ジジイから幸を貰い贔屓な目を受けたくないという気持ちもあったからだとも思う。

とにかく自分自身の事は自分で何とかしたい。

自分自身の居場所は自分で掴み取りたい。

そう思っていた。

 そう思い続けてずっとブランコでタイミングを見計らっていた。

 しかし、おれより先を見計らい先を越す奴らが目の前に現れたんだ。

 そいつらが、ライタとアヤノだった。

 初めて会った時はライタに石を投げつけられ正直初対面の印象は災厄だった。そして恥ずかしがるアヤノはおれの目をチラチラと覗き込みおれの様子を窺って自分の顔を赤くして隠す変な女だった。おれは行き成りの新参者らを当然の如くムカついた。

 だが、ライタの後ろで身を隠していたアヤノが全身震えながらのそりとおれに近づいて来た事を今でも覚えている。

 アヤノは当初おれと同じで友達は居なかったらしくおれとは違う筋だが、内気で怖がりで泣き虫で男キラだったそーだ。そんな彼女が自らの困難を克服するため勇気を振り絞って前へ出たのは、自身と同じ境遇で自分に似たおれを最初の友達にしたかったのだ。一目ぼれとも言うが――――ライタはその手助けをしただけだったらしい。

「と、ともだしぃになってくだしゃい。…………どーしよーかっ噛んじゃったあ。らいたくん」

 そのときは、おれは、アヤノの勇気を振り絞る手に思わず魅了され―――見惚れてしまったのである。何せ、おれに近づいてくる人など今まで居なかったためこれは、夢なのかという疑いを思い込む妄想をしたものだ。けど、正直、二人はおれを恐れず喰らいついてくると不思議と悪くない思いがした。幸せを感じた。単純にうれしかった。

 おれは自身が思っているほど感情が表に出て―――嬉しすぎて照れながら半ば強引に両手でその手を掴んだ。

「お、お、マ、マジ、お、おれ、ハレ……逢井晴って言うんだよ」

「きゃっ―――――」

 アヤノは挙動不審になって驚き声を上げる。

 おそらく、アヤノはこの時のおれを怖がったのだろう。

 あんまりうまく話せなかったのを今でも覚えている。

 そんなアヤノをライタがフォローする。

 昔から変わらず、喧嘩腰にクールさを後味に残す野郎だった。

「こいつは、桐那岐綺乃! 俺は桐那岐雷太! よろしくな。嫌われハレくん!」

 堂々と人の気分を害す奴だったが、ライタの手にはおれをどこかへ連れっててくれる温かい手だったのである。

 こいつらは兄妹で――――。

 彼女とはたぶん同い年で後ろに居る男の子は兄貴なのだろう。どこの学校なのだろうとか思い詰めて取りあえず、しばらく同い年のアヤノを眺めた。興味を持ったのだ。

 ところが、おれの視線にアヤノは後退りする。メンタル面が弱いアヤノは顔を沸騰させ、恥ずかしさのあまりか極度の人見知りだったアヤノは目を真ん丸にして突然逃げ出し録画した動画を早送りするかの様なダッシュして行った。酷い反応だった。あまりに心に釘がささる言動にはさすがに人間不信にでもなってしまうんじゃあくらいに心に傷を負わせれたものだ。

さらに突然走り出した彼女を呆気にとられ見送った。

 快晴の日――――それが、逢井晴の人生で初めて起きた友達との出来事である。


     2


 ハレはライタを背中に抱えながら走っていた。

 ライタの体はもうさっきまでの生暖かい体温とは真逆に雨により冷え切っている。

 夏の雨でもさすがにずぶ濡れではこうなってしまうのは当たり前だ。

「はぁーはぁーはぁーはぁーはぁ」

 夜の道を真っ直ぐ駆けている頃、目の前で誰かが傘を差して小さな姿を現していた。

 しかし、こんな雨の中じゃあ全然顔なんか拝むこと等到底できなかった。

 けど、

「待っていた。逢井!」

 声でわかった。

「アンナちゃん。マジなんでここに!」

 ハレは驚いた。

「ん。……………そっか! 役目を果たしたか――――任務成功といいたいが、馬鹿だな自分の命をくだらん道に注ぎやがって、しかも里の恥であるポンコツのために命を落としたと言うのにこのバカ、どんな面で………なんて笑顔で死んでやがる」

「…………………………………」

 ライタの顔を見てそう言って少々悲しむ。

 ハレはあえて何も言わなかった。

 言う言葉など見つからなかった。

 呑吐不下に。

 否、見つけようとはしなかった。

 できなかったのだ。

「さっきの爆撃はふたりの忍びか? しかも、雪月花の人間だろう!」

 眉間にしわを寄せるアンナは真剣に呟く。

「ああ! マジ、何か知ってそーな顔してんなあ? マジ、答えろよ、小柳晏奈!」

「ここ最近、闇側の忍びがお前をターゲットに争奪戦が起きているらしい。ま、話は単純で簡単だ、お前のせいでこの事件が起きている。お前に巻き込まれた桐那岐兄妹は忍界仙人の特例の特別命に基づき―――自らの命を捨ててでもお前を強くしお前を監視しお前を護る事の極秘任務を熟していた。しかし、今日お前のせいで一人お前のため死んだ。死んだんだ! この意味バカでもわかるよな! 逢井、いや、晴!」

「あったりめーだ! マジ、自分のケツぐれー自分で拭く! そー決めたからな!」

 そー言ってハレはアンナと肩を並べる。

「………また、一人で行く気か?」

 心配そうに呟く。

いつもならお説教なところだろう。

だが、その時ばかり―――アンナは気持ち悪いくらい悲しそーで笑っていた。

どーせ、憐れんでいるのだろう。ハレの事を。

けど、その気持ちはハレの思いを正しく突き動かしハレは文句を言わず、自分の意見を答えを吐こうとしばし間をあけて、

「いや、わかったんだ。マジ。友達を頼るくれー情けじゃあねぇーって」

 立ち向かう勇気で凛々しい眼差しを向けてハレは言う。

「遅すぎだ。バカが。相変わらずっぷりのポンコツだな!」

 ハレの言葉にどれだけの安堵が取れるかアンナは無意識に思い知らされ担任を受け持つ自分の生徒の成長に素直に喜んでいる自分が居た。

さっきまでのきびきびしていた仮面が剥がれ落ち単純に嬉しくて静かに安心感を持つ。

「ふ」

 ハレはそんな初めて見るアンナに対し不思議と鼻で笑えた。

「その情けであたしも手伝おーか?」

 アンナは高鳴る思いでハレに助っ人を依頼した。

「いや!」

 ハレは一目閉じ真剣な顔へと元に戻す。

「……………」

 アンナは不意を打たれたかのように黙り込む。

「これはおれの! 今までのおれを捨ててけりをつけるマジな戦いだ! けど、おれひとりじゃあどうこうできるマジな問題じゃあねー! だから、初めて頼る相手はマジで自分でマジ決める! マジ決めている!」

「ふふ。ひとつ、忠告しておく、雷太のために復讐なんて考えるなよ――――」

「なに、マジ言ってやがる。ふー。これは、自分のマジ黒歴史をマジでぶち壊す! マジ、八つ当たりだ!」

「ふん、単細胞が! 貸せ、雷太を!」

「ガチ雷太を頼みます!」

 ライタを地面に寝かせてライタの傷口から体内の入っている全ての血液を右手で吸い上げ武器を生成する。

 アンナはハレの目覚めた力に驚愕する。

「半透明…の…懐剣?」

 ハレはアンナにライタを預けて走り出した。

 奥歯を噛み締めながら。

「マジ、力を借りるぞ! ライタ!」

 その意味はライタとのお別れを意味している。

 ワイシャツ一枚脱ぎ捨てつなぎの袖を腰に縛りタンクトップ一枚で夜道を全力で駆けて行く。

 自分が何をしたのか確信し―――。

自分が今何をするべきか明白にし―――。

自分のせいで巻き込まれた大切な者を取り貸すためにハレは自分の固い信念を貫き通す。

「マジ、待ってろ! アセロラ! 今、友達と一緒に助けに行くからなッ!」

 

     3


 かれこれ、体で感じる速度でもう数十キロ走っているが、今、何キロ走ったかなんて考えていない。考える事ができない。アセロラの事が心配で心配で仕方が無い。自分でもうこの手を離さないと格好付けておきながら情けない。

焦りがおさまならい。

 冷静にはいられない。

 息はとっくに上がっているし心臓がバクバクと限界寸前だと思うし破裂しそうだし身体のあちこち軋む痛みが奔っているのにハレの心はまだ、吠えている。吠えていた。挫けるなと言っているみたいだ。言われている様だ。誰かに背中を押されている。

まるでライタに言われているみたいな気がした。

ハレは心の息が切れないまま地面を蹴り続ける。

無意識に色んな物を蹴り飛ばしたのかもしれない。

雨と風がだんだん晴れていく。

さっきまで目が霞んでいたものが無くなり辺りの視界が良くなる。

もう、手足の感覚が麻痺していて感覚が途絶えているが無理に手の指を動かしスマフォを動かしてアヤノの番号へ発信する。

「ゴメン! アヤノ!」

『もしもしハレ?』

 おれはアヤノに今日起こったことをありのまま隠さず伝えた。

 もちろん、ライタの死も―――。

 しかし、アヤノは何故か全て知っていた。

『雷太は自分の運命を里のために命を使ったのだから悔いはないと思う。そういう兄だから雷太はそういう道を選んだのなら文句の言いようがない。きみを全力で護る運命だったのだから忍びの家に生まれたのだから仕方が無い事よ』

 アヤノは静寂に電話越しに言う。しかし、どこか脆弱そうであった。

「マジ、仕方がないか…………そーだよな。マジ、忍者だからな。なにもかもマジで忍びのせいにしていいんだよな。ふはは。甘えるなよっ。マジでざけんなよ……お前がマジ仕方がないって片づけてもなッ! おれにとっちゃあマジ、ふざけるなって話なんだよ!」

『…………、』

「マジ、ふざけてんじゃねぇーぞ。忍びだからとか、里のためだとか人のためだとか、そんなふざけた理由で人がマジで死んでいいはずがねぇーだろ!」

『…………』

「てめぇーのマジ燃え上がる忍びのマジな心の火ってゆーもんはよーそんなちっぽけな蛍火なのかよ!」

『……………………………』

「マジ、この世に生を受けてもう自分のための命じゃねぇーってくらいあいつは最後までわかっていなかった! 自分勝手にマジで死のうなんて甘い考えは周りに迷惑かけるもんなんだ! それなのにあいつは、マジで自分勝手におれのためにマジで死んで逝きやがった! おれはそんなあいつをマジで一生許させない! マジ許せ無いから地獄の底に落ちるまで死ぬまでマジ許すわけにはいかないんだよ!」

『……もーいいよ。ハレ……。忍びは、任務のために生きてるから…里のための命なんだから仕方が無いじゃない…』

 アヤノの胸が締め付けられる。ハレの耳にアヤノの苦しそうな声が聞こえる。

「マジで仕方が無くなんかない! お前は優等生の忍びだ――――」

『もーやめてよ。もー黙ってよ…』

「けど、なッ! マジで一つ欠陥があるんだぜ!」

『もーいいから…』

「テメェ―はおれをずっと御節介しすぎて一番大事な家族をマジ見失っちまってんだよ! それが、どれだけの過ちかマジで思い知った方がいい!」

『………………、』

「マジで頼みがある!」

『え?』

「おれとお前でライタの仇を討ってくれ!」

『ライタくんの……』

「そーだ。おれのマジで大切な人が命のマジで危機にさらされているんだよ! マジ、もう、目の前の奴がおれのせいでキズ付けられるはマジでゴメンなんだよ! 自分勝手なのはマジで自分がよくわかっている! 兄貴を殺したのはマジ、おれの注意が足らなかったせいだ! 自分自身のプライドのせいで全部…マジ、めちゃくちゃになっちまった! 昨日、アヤノとの約束をマジ、破ったのも取り返しがつかない事くらいマジでわかっている。マジ、都合がいい事をマジで吐いているのはよくマジで理解している。からマジ、頼む! マジで全部謝るからおれの命、マジで全部捧げるから手を…お前の手をマジで借りたいんだよ!」

『……ねぇーハレ! 約束覚えている?』

「ハッ? 約束?」

 この期に及んでマジふざけいるのかとハレは言った。

『昔したでしょ。英雄に忍界仙人なるって約束を! 忘れているなら、あたしは手を貸さない! けど、もし、思い出したのなら桐那岐の屋敷に来なさい!』

 真剣そうに冷たい声で言い述べてアヤノは一方的に切った。

さらに。ハレからの着信を着信拒否に設定する。

 

「約束?」

 おれは取り乱した感情を押さえつけて冷静に考える。

 アセロラと会話した時に掘り起こされた昔の記憶を―――――。

「もしかして、マジ、あの記憶はアヤノだったのか………マジ……馬鹿じゃん。おれは、自分の事ばっか見過ぎていつの間にか、マジで大切な記憶まで見失っちまってたのかよ!」


 そう。

おれは誰かとその約束を交わした記憶がモノクロのテレビでよく起きるザーが薄らとラグになって取り残されている。記憶の狭間に在った記憶が一円玉の価値的な扱いを無意識にしていたらしい。つーかしていた。ガキの頃、おれは初めてできた友達に浮かれながらもライタとアヤノだけじゃあ物足りなかった。どうやら、友達ができたおれのスイッチが入ってから切れ目がなくなり、強欲になって、もっと、もっと友達が欲しいと思ってしまったのだ。

当初、友達というのは実なところどういうものなのかを理解していなかった。どっちかと言うと物や己自身の暇つぶし相手や都合のいい遊び道具的に扱いしていた。

今まで生まれてから人と付き合う事等なかった、避けられてバカにされて嫌われ者のおれにとっては友達とはどう言うものかなんて知りも出来ず、知る機会も無く、理解もできなかった。

周りが自分のために遊んでいる―――それがどういう味なのか経験してみたかった。

暇なく遊楽にしている風景をブランコから眺めてただ、羨ましかった――――自分がもし、あの場に居たら、どのような気持ちになれるか――――どうように変われるかを知りたかっただけで友達なんてものの意味や存在と価値を考えていなかった。

そのようにしかできちゃあいなかった。

学習していない部分が逢井晴にあった。

結局のところおれはおれしか考えていないのだ。

おそらく、ライタもアヤノもおれのそう言う闇かかった部分を理解の上でおれを世界の外へ連れ出してくれたのかもしれない。手を伸ばしたのかもしれない。

けど、厳密に言ってしまえば、おれを救ってくれた動機なんてものは普通じゃありえないって思う。アンナちゃんが言っていた。ジジイの策略、差し金で任務だったのならそりゃー里の者として絶対行動だ。人形に操られるしかないってものだ。

そんな有耶無耶的内容―――よく昔を思い出せば何も嬉しくも無い純粋に傷がつく話になる。

御蔭で――――。

嘘から奔入する作られた関係がおれにできた。

出来てしまった。

確かに友達は出来て悪いものじゃあない。

だが。御釣りがこの様だ。

今日、おれは取り返しのつかない事をしてしまった。

おれは桐那岐兄妹をこの手で裂いてしまった。

おれはおれのせいであいつらを自分の泥まみれの人生に巻き込んじまった。

なんとも言えない悲劇だろうか――――。

おれは自身を責める。

おれはおれの友達ができたが―――――。

嘘から入った関係で始まり――――。

偽物の物語が突入して――――。

今のおれが作られている――――。

くだらない材料で構成されている逢井晴だ。

けど、それがなかったらおれはここまで成長しなかっただろう。

ライタの死によりおれは今、自分の愚かさを知り走ってここに存在する。

 みんなと友達になりたかったから、今ここから這い上がる様におれは走っている。

 とりあえず、おれというものは欲張りでできているんだ。

手にするものに欲張り者だから、ジジイの様に英雄になりたかった。

忍びになりたかった。

そのおかげで夢と目標がはっきりと見えて生きる希望ができた。

あいつらにいつの間にかこれ以上無い。最高の贈り物を知らずに受け取っていた。

やはり、あいつらは似た者の兄妹だ。

あの二人の不器用と御節介さは筋金入りだ。

おれは、ママごとに付きあわせられていたが、きっちり、おれの世話を焼いていた。

おまけにおれが得たものはいろいろあるけど――――。

見るものも広がり。

知らず知らずに景色も変わる事ができてしまっていたんだ。

知らず知らずに夢を見させてくれたんだ。

そして、おれは、それを自慢して理解をしてくれたのが、アヤノだったんだ。


「何、一人で穴に沈んでいるのよ、あたしは、自分善がりで天才とか才能を手にした訳でじゃない。約束したからじゃん―――――」


『昔したでしょ。英雄に忍界仙人なるって約束を! 忘れているなら、あたしは手を貸さない! けど、もし、思い出したのなら桐那岐の屋敷に来なさい!』


 アヤノは忘れずに覚えてくれていた。

 おれだけすっぽりと忘れていただけだった――――。


昔、満月の夜―――金木犀が並び立つ中。

おれとアヤノは一厘づつ金木犀の花びらを食べて誓いを立てた。

それは、何の意味をするのか、アヤノはおまじないと言っていた。

二人の絆を信じて願い事が叶えられます様に―――――――。と。

それは、今も尚、継続はしているのだった。

おれは、すべてをすべてに泣いて詫びるのである。


     4


 空はすっかりと雨雲が流れていた。

 ずぶ濡れで顔は涙を流していたはずなのに雨を浴びてきたせいか、よくわからない状態になっていたハレは、神社みたいな作りになっている。長い石階段の目の前に立っている。

 両サイドにはバリアフリー的にスロープが頂上まで繋がっている。

 辺りは夜な夜なの初詣的の風情を醸し出している。辺りは火を灯しその灯っている全てが宙を浮かび頂上の桐那岐の家紋が刻まれている門まで誘われていた。

「これってマジ、全て使い魔?」

「アヤノ様、が、お待ちしております。ハレ殿!」

 と。そいつらは、いきなり喋ってきてハレはちょっと、ギャク的にビックリしてみた。

 ハレを上まで招待してくれる使い魔は火の玉で燃え上がる可愛く出来た低級悪魔だった。不思議と今まで暗闇を走ってきたハレの心は温かくなり心地よくさせた。

 悪魔が心地よくさせるとか、どういうシステムですか的に軽く思ってみたりして頂上まで登って勝手に門が開き始めた。

 門構えがいい隙間から昼光色がもれている。

「よし!」

 覚悟を決めハレは眉間にしわを寄せた。

 やがて、眩しく黄色い光に包まれるハレの目の前で待ち構えていたのは、今までとは別格の雰囲気を漂わせる桐那岐綺乃だった。

 アヤノは忍び塾の制服を着て。両手で拝み。庭の中央へ起立している。

 彼女は目を閉じたまま現れたハレを出迎える様に瞼を開け迫力に満ちた重厚な瞳が宿っている。しかも、アヤノの体には黄色くぼわぼわと夜の街を照らす街灯代わりの存在でひとつのライト的な存在となっていた。その実態は辺りに生え並ぶ黄色く光り輝く金木犀の大樹たちがアヤノへ霊力を送っているのである。

 彼らは自らの霊力をアヤノへ委ね与える。

忍びの印を練るための忍力をアヤノはこれ以上なく蓄えさせていた。

 忍力――――それは、生命力と結びつかせるものだ。いわゆる。忍びとしてのガソリンみたいなものでエンジンになる忍者は霊力を糧として忍力へと変換し印を練って術を排出する。

 それを行うための栄養補給が屋敷の庭で行われていた。

 ハレは、その光景を目のあたりし思わず目を輝かせてしまう。

 ハレの上下左右、周囲は埃ぽく浮かび、金木犀の花びらが光を灯し庭をひらひらと揺れ動いている。それを鑑賞しながら心が引き締まるアヤノの一声が掛かる、

「思いを! あなたの思いを! 自身のお答えを訊かせてください!」

 アヤノはぎこない寧な言葉使って礼儀作法を行い。ハレの回答を待機した。

 ハレは少し、驚くが、その面は一瞬で消滅しマジな顔になる。

「アヤノ…」

 ハレが声を掛けるとアヤノはリップクリームで塗られた唇を怖がらせた。

 それでもハレは後を退かずライタの血で作った剣を肩の位置へと上げ左手を右手首に手をまわし覚悟というものの態度を示す。

「おれと一緒にマジで英雄になろう!」

「………………………………うん!」

 その言葉に涙目になった。

 さらに。

 ハレは、追従笑をして、

「にしし! けどな! おれはいつか、マジでテメェ―をぶっ飛ばして。その地位をへしおって! マジで仙人になってみせっかっらなあー! マジ覚悟しておけ! 御節介女! アヤノはそれまでおれをマジ、信じてろぉ! マジで一緒に目指そう。追いかける夢を!」

 しばし、アヤノは目を真ん丸にさせた。

「……………………え?」

 その宣誓にアヤノは戸惑った笑みでコメントを述べた。

 何せ。

 この緊張感漂う中で思いもよらない事を口にし不意を打たれたのだ。

 アヤノはかげながらハレが来るまで数通りのセリフを考えていたが、その予測していた数通りの確率のパターンを尽く粉砕してハレは怖くにやけながら立っている。予定にはない展開にアヤノは対応しきれない。予測していなかった言葉に肩の力を弱めた。

「マジ、驚かせっちまったが、ここにいるライタの遺志にマジになって誓っている!」

 アヤノは虚ろな目で変わり果てているライタの血の塊を眺めた。

「から、マジ、運命とか、マジ、忍びとか、里のためだとか、そーいう掟クサイので。マジ、自分の心を殺そーとしないでくれ。血のつながった兄貴のために立ち上がれアヤノ! おれをマジ恨むのはそれからだ!」

「…………………………………」

 アヤノは狂狷しながらも一度目を閉じ首肯して顔を上げた。

「……ライタくんは本当に…………死んでしまったのねッ……………。別に……ハレを怨嗟しようとは思わない…。ライタくんは……忍びとして…里のために…何より…友のために喜んで死んだのだから、馬鹿野郎二人を責めたり…嫌悪しないよ。それが、何故だかわかる?」

「……………………………」

 ハレにはそれが何なのか、解る。

けど、あえて答えようとしなかった。

 その言葉をアヤノから訊きたかったからだ。

「それは忍びに生まれたからよ。ライタくんも一応、一端の忍者! 誇りがあるのよ! 一番大事な者を護って自慢な友として絆を傾け自分の友達をバカにする奴らを尽く潰していくくらい大事だった野郎を死ぬ気で護って生涯を終えたの! その思いハレ! それだけは忘れないで!」

「……ああ!」

 少し間をあけてハレは頷く。

 アヤノはふーと肩っ苦しい雰囲気を吹っ飛ばす様に溜息をした。

「もうひとつ、マジな頼みがある! アヤノ」

「……?」

「おれのマジな大切な人が雪月花ってゆーマジ、悪い組織に捕まったんだ! そいつらは問答無用でマジ、ライタをぶち殺した奴でそいつらのやり方が許せねぇーんだ。頼む力を貸してくれ!」

「雪月花……そう。………いまいち、動きが無いから…ほおっておいちゃったものがね………」

「マジでアヤノ知ってんの?」

「あ、うん! ここ最近、テロとか人さらい、悪魔関係を類に禁忌分類を研究している闇の忍びを追って隠密で見張っていたんだよ。けど、動きが無かったため中断しっちゃった……あたしの任務だったんだけど……」

「なるほど、マジ、どーりで祭りのとき、おれの目の前に影分身を送りつけたって訳か。マジ、納得・納得」

「ん? あれ、影分身じゃなくてあたしだけど!」

「…………………マジ、ごめんなさい! まじでちょーしこきすぎました!」

 ハレは謝罪をする。

「つーか、そいつら、マジ、こんなイカツイグラサンしてて。マジ、ゆるキャラの帽子を被った無表情したかわいい女の子してなかったか?」

 そう言うとアヤノは突然薄らと笑いだした。

 その顔には冷たい怒りがある。

「へ~。かわいかったあ? そーう。かわいいかったね。あら、そ~う~そうなの~ふ~ん。ハレはそーゆーのが好みなーんだあ?」

 アヤノは冷ややかな声だった。自身の顔を伏せ前髪で表情が見えない。怒っている感情を拳で握りしめて態度を表に現す。鈍感なハレはそのまま喋りつづけた。

「うーん。いや、マジで見た目はかわいいけど、マジで中身は殺人だし! マジ、興味はねぇー! 何よりマジでそいつらライタの仇だ! マジ一発ぶっ飛ばして! アセロラを救う!」

「ちょっと待ってよ………アセロラって? 誰よその外国人ぽい名前の女は!」

 怒気が入ったアヤノにハレはさすがに唖然した。

「あ? いや………おれの妹……だったり……」

 喉が唾で行き詰まりながら、やばいと思いながら正直に言った。

「どーしたのですかあ~ いつものマジって口癖は? ハレにはいないでしょ? 妹わ?」

 ムッとした。

 アヤノは真っ直ぐ足を進め怒りながらはや歩きをしてハレの顔に攻め立てる。

「……………………………あはーマジ、ごめん、それはどうしてもいえねぇ~。企業秘密ってゆーやつだ。マジ」

「あら、そーう。まるでシスコンね! ライタくんみたい!」

 アヤノは脱力して口を尖らせる。ハレは単に本当にアセロラの事を口にはできなかったのだ。悪魔であり半鬼であるアセロラをこれ以上居場所を無くさせないため口固く閉じた。

 けど、

「――――――ライタ、お前、マジ、妹に自分の性癖がばれっちゃってるぞ………」

 ツッコミどころの部分だけ心の中で呆れて呟いた。

「ま、いいわよ。それより、ハレは。このあたしが奴らを叩けっていいたの?」

「あ、うん、マジ。そーゆーことになる。戦う理由がマジでないってぇーのはアヤノにはあるとは思うんだけどよ………」

「ハレ。ナニ、言っているの? あるわよ。この戦いはあたしの任務ミスも関係があるんだから。責任がある。何よりライタくんを殺した奴らを許せ無い。妹として仇を取りたい!」

「マジ、わりー。マジ、わがままいっちゃってよ!」

 しょんぼり反省するハレはアヤノの顔を伺う。

「ほーんと! …………………けど、ハレの初めての頼みだもの訊かない理由なんてないよね」

 アヤノは薄く落ちた美貌の中で双眸を神秘的な輝きを見せて今ある精一杯の笑みをハレに向けた。

「……………………アヤノ……」

 それが、どれだけの思いなんだろう。どれだけの苦痛の笑みなんだろうとハレは巻き込んでしまったアヤノに深く反省した。深く自分自身を情けなく思った。

 ――ごめんなっ。マジで……。おれ、絶対にマジで誰かを護れるくらいの強い男になるから。その時までマジで頼らせてくれ。

 ハレはライタの血の剣を真剣に見る。

 不意にライタの残像を思い出す。

 目元が苦しくなる。しかし、これは吸血鬼化では無い。もうとっくに吸血鬼の力を使っているため目元は緋色に染まっている。涙はもう流し切った。もう流す必要は無い。誰かを護れるくらいのこの力で今度はマジでだれも殺させはしないとハレは心からそう呟いた。

 ……………………………………………………………………………………………………………。

 その時だ。アヤノは親指をしゃぶり口の中の歯の刃で指を切り血を垂らす。思わず、「おいっ」と、驚いたが、アヤノは咄嗟に印を練って何事も無かったかの様に涼しい顔して掌を地面に叩きつけた。切った親指の血が魔法陣みたいなものを地面の上で形成していく。

「口寄せの術!」

 その術名を吐いた瞬間、けむりと共に現れたのは巨大なグリフォンだった。

「な、なんじゃあこりゃあー。マジ、でっか!」

 ハレは仰天した喘ぎ声を出す。

「ハレ! 敵はどこにいるか、わかる?」

 アヤノはハレに問う。

「うぇ? えーと。山って! マジで山って確か言っていたなぁ! そこでマジ、なんとかってゆー術式の準備があるからそこでアセロラをマジ殺すって言っていた!」

「では、おそらく大がかりなものね! ここいらで近くて大がかりな事ができる山は荒海山・鶏頂山・芝草山・塩沢山かな?」

 ハレは背筋を伸ばし真摯な表情を浮かべた。

 アリールゼンション里には約百っこ位の山があるが、一から数えて回って行くと距離や時間がかかってキリが無い。それぞれ山の地形や山頂の高さや広さ――――それぞれ異なるので雪月花と名乗り出る二人がどこに術式を準備しているのかと考えて振り絞っても頭がパンクしてしまうものだ。わかるのはたったひとつだけである。その術式がただモノじゃあないって言う事。しかし、ハレはそんな論理的に考えられない頭のできである。考える必要性は皆無だ。

 ハレは、もう奴らの足取りは把握している。していた。

 生まれつき身体能力だけは優れているハレは五感が獣以上に優れているため目標のニオイさえわかっていれば、ちょろいもんだった。

「いや、アヤノ! 今言ったやつはたぶんマジで違う! おれはマジであいつらのニオイを知っているから、おれのマジな嗅覚でニオイを辿って行けば行先の方角がわかるぞ!」

 引き締まった面でハレは言う。

 そして指で方角を示す。

「月山?」

 アヤノは言う。

「よくわかんねぇーけど、マジであっちだ! アヤノ」

「うん。わかったわ。ハレ、早く上って」

 二人は睨みあった視線を交わし、ハレはひょんひょんとグリフォンの背中に上った。

「この子は加減と言うものを知らない子だからしっかりとしがみついてね? ハレぇ?」

「マジかッ!」

「力を貸してね。行くよ! 雷電!」

 アヤノの命令により勇ましく大胆な行動をする。

ビリビリリと放電する雷電というグリフォンは雷鳴を響かせる大きな翼を先まで広げた。辺りを吹き飛ばす様に風を起し上昇した。そして空中を奔入する。

 その姿はマッハスピードで暗闇の空を飛び。まっすぐと雷の光線の如く後に残像を残しながら走り闇を切裂いた。




第四章 【逢うは別れの始め】


     1


 夏の雲と強い月の光によってこの夜を照らしている。さっきまで雨が降ったせいか余計な都市ガスや埃が無くなり空気がとても清々しく澄んでいる。上空の状況は上昇気流によって発生していた輪郭のいい積雲が周りから消滅しており、山の木々から発せられる水分をたっぷり含んだ、暖まって軽くなった空気も無くなっていた。あたり一帯が冷たくなっているのである。

 何だか不思議な感覚だった。

 ハレはアヤノの口寄せの召喚獣である雷電の背中に乗っかて二人は空中を泳いでいた。

 今現在『月山』という山頂へ向かってアセロラ救出任務へ向かっていた。

 お転婆すぎるアヤノが召喚させたグリフォンは性格通りメスという事らしい。体長は言葉で説明するのは難しいが、とりあえず、おおよそざっと答えれば、一五メートル。雷電の黄金の毛並から力を制御している電磁波を靡かせ微力ながら電気マッサージみたいな体験をさせられる。大きな目は相手の心をへし折るいじっぱりなブルーな瞳をしていて大翼は美しい白色。鋭い蹄はダイヤモンドをぶった切る。

 さらに白銀の鈎爪は、まさに今、空気を切り裂き、地上から約千二百八十メートル程の高さを保って一直線に電光石火をしている。そのド迫力で強烈な駆け足は初めてで慣れないハレにとって目の前から来る物凄い追い風は落ちるか落ちないかの瀬戸際で生死の境目である。

「わははははははははははは。マ、マジ、燃えてきたああああああああああああ!」

 ビビってしょんべんが、ちびれそうなお顔をするハレだが、半泣きで笑って無理にやせ我慢をしているのだ。

「ふはははは。ハレぇ! 身体、ガチガチじゃない? そんなんじゃあ。暴れん坊の雷電に振り落とされるわよ?」

「あははは。大丈夫だってマジで。それよりマジで奴らのニオイがより強くなったぞおー」

「それじゃあ。月山で間違いないわね!」

「だな! マジ、もうすぐだぜええ!」

「ハレぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~」

「マジ、なあにぃぃぃぃぃ! アヤノおおおおお~」

「ううん。何でもなああああああああい!」

「ハあああああ?」

「たのしいねえええええええええええええ」

 そう言い伝えてアヤノは雷電の頭の毛を毟る。そしてしがみつき雷電に加速をお願いした。

 アヤノはもうすでにいつ戦闘になってもいい真面目な体制へ入り込んでいた。

体躯は細い癖にどこからその真剣さが込み上がるのか何て正直理解不能である。特にブレザーの短い袖から見える雪とける白の細い肌なのにどうして恐れる心を持たない気丈夫なところがあるのだろう。強い意志が眼光に燈っているのだろうか。けど、彼女は里で認められる程の金木犀の妖精と異名を持つまで育ったのである。彼女のつよいとは外見じゃなく心髄にあるのだろう。ハレはそう思ったのであった。

 彼女の凛々しいく且つメンタルの強さと実力の違いは見ての通りだ。この大がかりの化け物を軽く手綱を引って前進させる力量を見れば、認めざる終えないのだ。

 ハレは思った。敵に回してはいけない者を今まで敵に回していた事を。本当に殺りあったらと思うだけで失禁してしまうだろうと全身が笑い上げた。

愛しき美貌を持つ雷に愛されし少女の小さな背中にハレは本当の強さと言うものを学ぶのであった。ハレは唇を右へ引きつらせてワクワクが止まらくなる。


そして、

「! ハレ! 見て! あの光を!」

「あれはマジ、きっとアセロラを消すための光かもしれない!」

 山頂付近で見つけた光は青い結界だ。それを覆う壮絶に燃え上がる炎は第二の結界である。

さらに防壁を作り頭上で実体化をし続けてホバリングをして呪文が浮き出ている数本の蛍光色のリングは第三の結界であり、それは、このリアル内でぽつりと遮断させて別次元が発生しているみたいである。

「!」

 ハレの壮絶な視力が神域内を見抜く。

その高魔力の塊でできた神域内にいるのは術者である今現在演唱魔術アリアを詠っている国臥乃セイラ本人と生贄の対象とされている宙に浮き鈍色の光のベールで包まれているのが、アセロラだ。どれもこれも大規模の魔法陣を形成している。

一人の女の子を消し飛ばすのにとんだ大がかりの術式である。どうやらアセロラは只者では無い事をこの状況下で説明されているみたいだ。再度捕捉するが、あの神域は決して忍術では無いのは確かで―――これを機にハレはようやく理解できた。

アセロラは息苦しくなる程の壮絶な圧力を掛かけられアセロラの魔力が膨大に漏れ出している。それに気づくのはこの場でたった一人だけ。半鬼で悪魔を名乗るしかないハレだけなのだ。

「ナニ、あの高精密の結界は? 見たことが無い! なんだか見るだけで心が押しつぶされそーだわ!」

 さすがのアヤノも言わずにはいなれなかった。

「あれは、魔力だ! あれから不気味な魔力がマジで感じられる! マジ、あいつらの力はマジで正直なめない方がいい。アヤノはあの大がかりな結界をマジでなんとかしてくれ!」

「解った!」

 すると、その反応に引き寄せられるかの様に一閃の雷の槍が翼を持って一直線に雷電の死角から入り込む。

「はっ! 雷電! 避けて!」

 アヤノは振りかかる何匹かの電撃を纏うイーグルに総攻撃を掛けられている事を感知し瞬時に適確の判断を行い。ちょっと強引に命令をした。

アヤノは雷系統の術者であって人一倍、雷に敏感であるのだ。だから、物凄く小さな微力な電磁波も感知してしまう。雷系統の術者の特権って言うものだ。

雷電はアヤノの上から目線の注文してくる乱暴な口ぶりにもうすごく気に障ったのか、心底拗ねてハレらを振り落とすかかの様に空を駆けて追尾型と知らずとも不規則で予測不能な動きをして安易に全て回避した。まるで怒っている事を表現したかの様に。

 しかし、余り慣れない乗りものにハレは、突然の思いで対応しきれなく振り落とされてしまった。

「マ、マジかよおおおおお~」

 落下した瞬間、体の反射神経が働きを掛け全身に鳥肌が騒ぎ出した。

 ハレは現在下に向かっている。取れずはずも無い手をアヤノはハレへ手を差出し互いに悲鳴を上げる。

「どしよ。どしよ。どしよ。だめだよ。だめだよ。だめだよ。ハレがぁ! ハレがぁ! 助けなきゃ!」

 アヤノはパニックになる。これはもう混乱を通り越して茫然自失であろう。

 アヤノはハレを失う事を第一に恐れている。彼女にとってハレを護る事が生き甲斐であり一緒に共にすることが生き甲斐なのだから、ハレを失えばもう自分は生きている価値が無い。そう無性に思い続けているのだ。

数秒の苦慮を経て、アヤノは、

「ハレを助けて! 雷電!」

情けない顔で雷電に命令するものの落ち着きの無い不履行の雷電は主人の言う事は訊いてはくれなかった。しかし、背中に悪寒を感じながら万事休すのハレは何故か失笑を買う。

「アヤノ!」

「…………」

「おれは別にマジでいい! さっき言った、あの結界をなんとか! マジでしてくれ! おれはやらなきゃならない仕事がある!」

「けど! ハレがああ!」

「うっせぇー、御節介女! マジでしっかりしろよ! アヤノ……いい加減、おれをマジで見くびってんじゃねぇぞ! マジで心配すんな。おれはマジ死なない。マジで死ぬわけにはいかない。だから、マジ先に行け! アヤノ!」

 すると、アヤノは唇を噛締めて心を殺し雷電を落ち着かせた。アヤノは神域へ向かう。


     2


「……」

 初体験でハレは一人でスカイダイビングをやらされる。

 ――まったく。どこまでマジで心配性なのか。

 一瞬ハレは状況を忘れ―――。呆れた面で呟く。

「けど、これって! マジ、死亡フラグじゃねえええええええええええええええええええ!」

 ハレは頭の中で囁いた。

 例え自分が吸血鬼という確証があってもこのまま地面に叩きつけられれば、ポカンと落ちてしまうんじゃあ。よくよく考えてみれば異例過ぎる吸血鬼など…………漫画やアニメみたくなれるはずも無く。生き残れる保証などどこにも無い事に暗々裏に気づいた。

「あああああああああああああああああああああああ!」

 ハレは大音声した。

 スリル感と刺激が限界突破している中で頭を真っ白になりながら―――――。

 ハレは無定見になりながら、今の選択はどれぐらい残されているだろうか。

 どう考えても選択肢があの世への切符しか無い状況にハレはナニも抵抗でき無いでいた。何せ前から来る風の抵抗のせいで肉体の動きが思う様に動かせ無いのもあり、ただ落ちるしかない。そう思いながらも命が惜しい。ハレは空中で真剣に考えるも無く。考える暇も無く。この世界のルールに抗ったままひたすらこの地球(ほし)の重力に従い落ちるのであった。


     3


 ズバ――――――――――――ン。

 大きな振動音を響かせる。

 そのまま河に落下したハレの姿は水面を叩きつかれた。

水面に物が落ちたときなどに、いく重にも輪を描いて広がる波紋が大しぶきを上げた。次々と周囲に動揺を伝えて行く様な影響がある意味恵みの雨を降らせたのだ。

辛うじて底が深いところへ着地できたが、全身がヒリヒリと肌を赤く染めた。アスファルトに叩きつけられるよりは随分とマシと言うものだ。ショックも大分吸収はしてくれたもののどこか骨が折れた様な嫌な音を立てた気がしたが、そんなの関係無く半分意識が飛びながらもハレは立ち上がる。

「!」

ビューン! と走馬灯の青白いレーザーが気配を消して直角に奔ってきた。

「……うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

考える余裕も動作も無いハレは咄嗟にやけっぱちになって右手で持つ血の懐剣を懇願して投げ出す様に前へ剣を突出して矛を盾にした。すると、理を全て吸い取る掃除機みたいに敵の忍気を刀身が一朝一夕とごっそり吸収し収斂された。目の前で怪力乱神が起きた。これが血の力。吸血鬼の力。ハレは呆気にとられた。

 ――あれ?

 ハレは予測できない事態に焦りを抱く。

「ゼヒヒヒヒ――――なぜ、死なないんだあああゼオ? 何でだ。何でだ。何でだ。おかしい。おかしいよなぁ~。忍びと名乗る偽物のガキィ。どういう能力かしらないが………それは絶対に忍術じゃあねぇーなあ~。化け物! 目に焼き付けたか? それが、血の力だ! けど、面白い! 久しぶりに抵抗がある奴と出会えたゼオ。本当の悪魔と、血の戦いができるぅぅぅ! さぁ~殺し合いといこうじゃぁねぇ~かぁぁぁ………ぎゃひゃひゃひゃひゃ……」

 煙草を蒸かしながら高笑いをする。まるで一倡三嘆に。

 ハレはゆっくりと首を上げて目を鋭くさせる。許せない敵を見るかの様に不面目になる。静かに眼光に宿ろうとしている。

「………」

 もう、ハレには敵が誰なのかなんて全国模試の結果を最初から知っているくらいわかっている事だ。首実検になる必要なんて無い。再び会えて心から嬉しくなるのは間違いない。心にわだかまりがなく、隅々まで澄み行き渡る吸血鬼の鮮血がそうさせるのだ。

だが、場合が場合で状況が状況であり出来事が出来事で少々弁えてハレは毅然とした態度でうっとうしい井頭の顔面に一発ぶん殴りたい気持ちで山々であるのだ。

 目の前にはライタの仇がいる。

井頭栄洵はそこにいた。

「マジで奇遇だな! おれも八つ当たりに来たところだぜ!」

「………………」

 カシャ。

 則天去私のハレは歪めた唇から気勢を迸らせ柄を脇構えの体勢に入った。

 瞬間――――――。

 二人は意気投合し同時に地面を蹴った。

 一枚上手だった、井頭はハレを凌駕した。

「マジかよ――――」

「おらああっ!」

 右手に籠る放電した拳が一瞬で懐に入りハレの腹部を抉る。

「が…あああああああああああ!」

 ハレは撃鉄を喰った。

ボキボキと骨が折れる。

 雷鳴を鳴り響かせるハレの身は電磁波を帯びて数メートル程吹っ飛び数本の樹を貫通させた。

「………………」

 一度、奥歯を噛締め不安定な地面をどうにか踏ん張ってハレは蜘蛛の体勢でバランスを立てて咄嗟に対処を試みた。懐剣を地面に突き付けてブレーキを掛ける。

だが、ハレの身に直接的に電気を浴びてしまったため痙攣して追加攻撃の麻痺効果で足元がよつんばに成りかけスリップしてしまうのだった。そして、止まる。

「……マジ……くっそおお!」

勢いよく地面へ頭を叩きつけた。

ハレは気持ちを入れ替えて走った。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

ハレは気合を全身へ迸らせた。

すると。

ハレの視界は井頭を見失う。

 暗闇から風を切る様な音が、ハレの五感を震わせる。

雷の忍術で作られた忍具がハレへ雨の様に降り注ぎ―――――昼光色の様に閃かせる。ハレは即座に背中を翻し――――やってくる物理攻撃をキン、キン、キン、全てエフェクトさせた。

「テメェ―! マジで暗闇に隠れて物を投げてんじゃねぇー。マジ、あぶねぇーだろぉーが! 当たったらマジでどうする! こそこそと戦うとか、マジでふざけてんじゃあねぇーぞ? テメェ―は夏に出没する蚊か? マジ戦うならマジ、どうどうとインファイトしろや、コノヤロー!」

「……ゼヒヒヒ。テメェ―は忍びの癖に忍者の戦い方すら知らない様だゼオか? バカが?」

「知るかッ! マジでおれはいつもでも全力で立ち向かい! 全力でど真ん中をマジで走るタイプなんだよ! ボケぇぇ! それが、おれの忍道だ! おれはマジ、もう……かげに隠れるんじゃなく………そのかげを踏み潰し前へ出るって決めたんだ! だから、おれの五感でテメェ―の姿を捉えてやる!」

「ふん! できるものなら、やれよ! どーせ経験も実力も体力も違うのだから……ぎゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

井頭はハレを核にして距離を取り疾風の如く走っている。襲いかかる何十物の雷の手裏剣やクナイや鎖鎌などそれぞれを斬って斬って斬って斬りまくる。

「………」

ハレはふと気づく。

――マジで一定だな。時計回りに攻撃しやがって。

「なめてんのか? マジで!」

 そう感じた瞬間、頭の心がかあっと熱くなった。

 ハレはニオイを頼りに走って井頭へ接近した。

「!」

 突進するハレの前方、土壇場になって腰に巻いてあるポーチからクナイを取り出す。クナイを握り切ったまま井頭はすぐに、空中を一曲線へ横切る。透明な雷光が揺らぎ。反射的に井頭は身を案じて回避する。

「オ……オオオオっ!」

迷いも無い斬撃を開始するハレは剣を上段から振りかぶった。敵の攻撃の軌道を予測して右前方に跳んだ。

ブンッ、ブンッ、ブンッ、と、エフェクトと光を何度も切り裂き、耳元で澄み渡る空気が何度も震えた。お互い信じる鋭い刃を乱舞し続ける。互いに素早く身動きをするもののハレは井頭を追い込むまで入った。

「……………」

ハレは、このチャンスを逃さず。内心焦りながら前進する。井頭の一定の旋律を見逃さず、それ以上にハレは加速して加速しまくってモーションスピードを上げ続ける。

「く、くそが! 何だ! 何なんだ! その動き! その動きはよー! こいつ! どこかの流派を学んでやがるのか?」

 生意気の井頭はハレの未知なる斬撃が読めずにいた。だんだん感覚が鈍る剣に恐れを感じハレの威圧に触れた途端、どこからか入った盲点も解らず、異次元から襲ってきたとでも言うのか、気づけば、井頭は体に深いキズを負わされていた。

 ――マジ? なんだ………こいつ、剣を知らないのか?

 ――体術や忍術がマジ…できていても剣戟は専門外なのか?

 ――なら、マジでそこをとことん突けば!

「ウオオオオオ!」

 ハレはさらにさらに気勢が上がった。

 予測不可能なランダムの業に井頭は感覚と闘争心を頼りにぎりぎりに剣線を避けそれでもハレは感覚を鋭くして透かさず、ぎりぎりで躱す相手の肉を斬り続ける。

「んだゼヨ! 何なんだゼオ! その常人離れした業は?」

驚きながら後ずさりを退く。

「おれはずっとマジで忍びになりたかった! マジで忍術が駄目なら剣なら………剣闘士ならって思い、マジになって始めたものだ! テメェ―にこれほどのマジな思いをマジな忍びになりたい思いを! わかるはずがねぇーんだ! この意志を持たない汚い野望しか持たないテメェ―を認めない! 絶対にマジで忍びだって認めない! マジ、お前に言ってやる! 忍者が忍びになり続けられるのは里と仲間を思う者だけだ!」

「さ、里だああああああ? 里にどれほどの価値があると言うんだゼオ? 里に命を掛けるなんて馬鹿げている。才能の無い人間は忍びにはなれない! 忍びとして認めて貰えない! ただ、それだけで誰も必要とされなくなるんだゼイ? 自分の人生を凡人に預けるとか――――」

「どれほど、マジで無理、無理、無理ってマジ思っていてもなッ! 人にはなぁ! 枉げられねぇーもんをマジで貫き通さねぇーと可能性ってぇーのはマジで爆発させられねぇーモノなんだよ! 別にマジ実力が無くたってなんだって言うんだ! 才能が無いからマジでどうした? 才能何てマジで誰一人持っているわけぇーだろ! そー。マジ決まってるんだよ。マジな話、才能あるって言われている奴は、元から持っている訳じゃねぇーんだよ! 才能ってーのは、マジ自分がなりたいものにマジで着目して…マジ人一倍頑張って…マジで努力して…夢を掴んだ瞬間! ここまでやってこられたマジな道のりをマジ、才能があるってゆーんだよ! だからおれもテメェ―もなんも、マジで自慢する事をマジでやり遂げていないんだ!」

「うっせー! いい加減この俺をバカにするのも大概にしろやー! チョーシこいてんじゃねぇーゼオオオオオオオオ!」

「このぉぉぉ…マジでわからず屋めがぁぁぁあああああああ!」

 ばしゃ、と、水音を鳴らし次のステップに入った瞬間、井頭はクナイに術を掛け雷の刀を具現化させ斬撃を前へ打ち込んで来た。ハレは迷わずライタの血の懐剣の能力をとことん引き出して受け流し、からのその雷の刀をへし折ってやった。直後、命中した雷の刀から井頭の忍気が空中に留まる。それは井頭にとって億劫を感じさせるものであった。ハレは井頭のよそ見を利用して止めを刺そうとした瞬間、懐剣が主の意気込みに応える。吸収した気を吐き出すかの様に灼熱渦みたいな衝撃波が、井頭の全身へと擦り抜けた。螺旋状の渦に身を煽る様な感覚で支配されボロボロになりながら何回もぐるぐると宙を転じた。井頭から大量の血液が笑う如く流れ出す。

「ぐ……はっ……」

 井頭は喉の奥から鮮血を吐きだすと、

 二人の激しい戦闘は終焉を迎える。

 それから恐いものを見るかの様に井頭はハレと距離を取ろうとする。 

「バ、バカ………な。本当に完全に忍術が利かないのか?」

「どうやらマジでそーらしいなぁ! てめぇーの忍術はマジでありがたい事に全部ライタが受け止めてくれる!」

 ハレは友達と一緒に戦っている事にどれだけの心強さと勇気を貰っていたのだろう。ハレにとってライタという友達がどれだけの特別な存在だったのだろう。どれだけライタに助けて貰ったのだろう。後悔を後悔に重ね今の自分へ今の自分にその言葉を伝えた。

「は、はははははははははははは! この鬼が! お前は絶対に忍びにはなれない! 悪魔の力に頼る天才だよ。吸血鬼の力を自由自在に操る才能があるよ! ゼオ、ゼオ、ゼオ!」

 矛盾を吐く。往生際が悪く抗う。さらに壊れた笑い方をしたのだった。

 最後の悪足掻きをする様に井頭はパシンと両手を叩き。四方八方へ飛び散る火花が雷の巨体のキツネを生まらせた。

 巨体なキツネは腹を空かせた獣の様だ。「殺せええええええ」と井頭は叫ぶ。

 ビャッコは、その牙を剥き出しにして獲物を食いちぎってやろう的に凶暴化して喰らいつこうとハレの方へ飛び掛かる。


「テメェ―はマジ引っ込んでろッ!」


 ハレは雷の化身に一太刀を入れた。そのビャッコを返り討ちにして逆に懐剣がその忍気を自分へ蓄える。

「!」

 その時井頭栄洵の面は誰もが笑ってしまいがちな間抜け面をして確かにハレはそれを拝めることができた。井頭は思考を停止した。驚きで膝が笑う。

「マジでもう、終わりかよ。ライタをマジぶち殺した時の勢いはどーしたあ!」

 ハレが前に一歩出ると井頭は一歩バックする。

「…………………っく、くるなぁー」

 井頭が後ろへ下がるとハレは追い込むように力強い足音で前へ踏み込む。

「ど、どうだ…ゼオ?」

 井頭は言い告げる。

「は?」

 ハレはシニカルに「?」を付けた。

「仲間になんねぇーか? これはガチな話だゼオ。雪月花に入れば、自由に忍びやってられるゼオ?」

 井頭は不始末に言った。

「マジ、なんの話だ…」

「だ、だから、俺が、上に……紫苑(ボス)に頼んで……仲間する事を頼んでや―――」

「だから! マジで何の話してんだっつーてんだろーがよ!」

 ハレは怒鳴る。怒鳴って井頭の心を押し潰す。

「……………」

 グラサンは呆然一方で心拍数が上がる。

「悪いが! マジでお断りだ!」

「――――んだとッ………………」

「おれはマジで忍者になる! ライタの分までマジに生きる! ライタがおれの事を初めてマジ認めてくれた! だから、どこにもマジ行かない! おれはマジ、あいつのお蔭で鈍感なおれに里の意味を改めて教えてくれたんだ! だから…アセロラを泣かせる組織なんざぁーライタを殺した組織なんざぁー断るにマジで決まってんだろォ! おれの居場所はアリールゼンションだ! 糞野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 ハレは天に雄叫びを上げた。その雄叫びは静かな夜を隅々まで轟かせる。

「……………ゼヒィィィィィィィ……」

 悪に染まる忍者は知能が低すぎる馬鹿が存在した事を改めて理解する。グラサンはしゃっくりした様な笑いで最悪な状況を誤魔化そうと頑張ろうとした。

「歯を食いしばれ! グラサン野郎―――――――」

 是々非々に逢井晴の両足が本能で井頭栄洵の懐まで邁進して追い込む。

 この至近距離で大爆発的術を発動すれば、一番有利なのは確かに井頭だ。だが、しかし、術が封鎖された今、この短い秒数で思索生知は決して生まれやしない。懐剣の攻略できない。井頭は心臓が凍り付く。何もできないままハレの姿に翻弄させられてしまう。

「オ、俺を殺す気か、できるゼオか? カカカ……この鬼がああ」

 悪に染まる手先は最後まで負けず嫌いでいた。だが、ハレは迷わなかった。迷えなかった。まして許す事もできないし憐憫に思う事もできないし加減をする余裕も持てないし手加減する気力もなかった。そして何よりハレを動かしているのは三人の存在なのだろう。

 ハレは両方の拳を強く握る。ハレの拳は今ならダイヤモンドを砕きそうな程に意識は集中していた。

 糞野郎をぶっ飛ばす選択肢は原始時代から相場が決まっている。

 それは言うまでも無い……拳だ。

「安心しろよ! マジでは殺さない! もしかしたら、テメェ―みてぇーなマジな糞野郎がいるから、この世界に掟なんてものがあるんだろうなッ。だから、まずは、マジ、その夢も希望もありゃあしねー面を粉砕してやっからよお!」

その夢も希望もありゃあしないリアルを目の前にして八つ当たりで精彩の拳を入れる。

 忍びになりたいのに忍術がマジで一切練る事ができない身体だけど、マジで友達のために身体が働くのは凄くいい気分だ。何故だろう。そこには情けない自分が居ないしカッコ悪い自分も居ない。やはり両方の利き手のおれには案外……剣と拳がお似合いかもしれない。

 自分が吸血鬼だとか何者だろうがマジで今はどうだっていい。

 とりあえず、マジ、誰かを不幸にさせる写し鏡が、今そこに目の前に映っているのなら……おれの八つ当たりで全部、マジになって割ってやる。

 な、マジそーだろ。ライタ。


 ハレの左の鉄拳が井頭栄洵の顔面にねじ込み。サングラスを割った。

 ライタの懐剣(血)は役目を果たして鏡が割れる様に散って「よくやった」と言ってくれた気がする。

 瞬間。

井頭栄洵は一番最悪な快挙を成し遂げた。

最弱の敵に自分よりも背が低い相手に負けた事を。心へぶっ刺さる。

体はそのまま自然に囲まれた地面に叩きつけられ、激しく手荒に身が暴れ出しゴロゴロと転がって大樹へ激突した。


「マジでいい加減始めようぜ。なぁーおい。糞(兄)偽物(弟)! テメェ―もよぉ…マジで最高に名声をあびてぇーだろぉがぁ。マジ最高の仲間に触れて。マジ最高のダチ抱えて。マジ最高の里に居る―――みんなから愛されるマジな忍者になりてぇーよな……なぁーおい! だってそーだろ! おれたちは何のためにマジ生まれてきた! そんな事とっくにマジ決まってんだろーがぁ! なっ。そんなの自分のガチな魂に訊けば教えてくれんだよ。この世に生を受けて生まれた瞬間からマジ決まってんだよ。そんな事、誰にだってマジ解りきってんだろぉよ! なぁーおい。解らないなら、その薄汚れた闇をマジ晴らしてやぁっから…良く耳かっぽじって…マジ良く聞けよ。おい! そんなのマジ簡単だ。……マジ仲間想いになれる…本物の忍者なればいいだけなんだよ!」


 井頭栄洵は意識が朦朧としている中――何とか最後の気力を使ってハレを対峙してその熱いセリフを耳にしていた。井頭は馬鹿馬鹿しいハレの演説を断末魔で薄ら笑った。まるで幸せそうな笑みを浮かべて―――――――――――。


     4


 桐那岐綺乃は口寄せを解いて三つある結界を駆け廻って術者ゴーレムを二つ潰していた。

 一番やっかいであった自分の同系統忍者――井頭栄洵を相手にするのは、相性が悪かったアヤノは囮として放った逢井晴が相手にしてくれたおかげか、アヤノに噛みつくものはやけに祓いやすかったのだ。左手はバックラーを携え、右手には二メートルあろう斧を持つスケルトンの軍勢を安易に決壊し優雅に剣舞する事ができた。残るは後、一つの砦だけである。

 そして。疾駆しているアヤノは一つ感知している。

「…ハレ、よくやったわ――――――」

 この場。指揮をしていた井頭栄洵から発せられる電磁波が途絶えた事に気づいたアヤノはニヤっと笑みを浮かべる。より活気が出始める。

「セアアアッ――――はああああああああっ」

 神域を囲う結界付近で甲高い気勢と「ビリリ、ビリリ、ビリリリ」と何度も放電を閃き明滅して行く。艶やかなハニー色の三つ編みヘアーの尻尾を背中で左右に揺らしながら風や波が荒れて激しい音をたてる。

「てやっ!」

 最終防衛ラインを仕留めれば、結界は解かれる。アヤノは順調に敵へ襲い掛かった。あらゆる類の悪魔を殲滅させる。

 サササササ、と、しばし、草むらを蹴り飛ばす音がアヤノの耳に入る。

「………ッ!」

 アヤノは冷や汗を掻き、息を詰めて口で微笑する。

自身の剣を鞘に納刀しようとした時、

「マジわりー。アヤノの剣、借りっぞ!」

 その姿は、ハレだった。

「ふん。折らないでよねっ」

 アヤノは来る事がわかっていたかの様に鼻で微笑する。

「お……らあッ! マジ……邪魔だぁあぁあ…こらぁぁ…あああ!」

 ハレは奪った黄金のつるぎを強く握りしめアヤノより最前線で走る。邪魔な奴を関係なく蹴散らし、排除し刃向う悪魔共へ剣先を贈る。お手前の剣戟や居合斬りをコンボして行く。

「ハレ! ちょっと手荒だけど――――雑魚は瞬殺させちゃうよ。ハレはゴーレムを……」

「マジ解ったッ」

 ハレは頷いて目の前の巨体の一角ゴーレムに向かって直線を突っ走る。 

アヤノはハレの援護に入り左手と右手を束ねて八行印を練った。

「雷忍術! 電撃(エレクトロン)の(・)双掌(フィンガー)!」

 アヤノは叫び、雷忍術の呪文を唱えた。

 アヤノの双方の肩付近の隣に光が生まれた。生じた散乱光はするりと伸びて、泳ぐ様に二つの雷の手が翻る。アヤノの忍術に応じて、雷鳴を轟ろかせる二本の巨人の双掌が一つの天災を起す。

 まるで異次元空間から現れたみたいな感じだ。そのまま「急急如律令!」悪魔祓いする常套句を命じて主に従い黄金の双手は次々に振り掛かるスケルトンを安易に潰して行く。                                            

「マジ、スゲー」

 それは凄まじい破壊力だった。その自由過ぎる則天去私の動きは水を得た魚だ。ハレは唖然にとられる。

「おれもマジ負けてらんねぇーぞ!」

 ハレは柄を強く握り返し剣へ霊力を注ぎ込む。そして己の能力(ちから)をそれぞれ変換させて魔力と忍力を昼光色の如く膨大に燃え上がらせる。今の自分を縋らせ眼光を鋭く光らせた。目標を絞り込み忍びらしく素早く大樹並みを強引に蹴り飛ばして行った。

そして一角ゴーレムへ飛び掛る。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 腹の力をぞうきんの水を絞り切る勢いで甲高い気合を吐く。

 全身が情熱の赤の炎と邪を晴らす黄の炎が絶妙なバランスを保ち真円の月を背負い、魔力と忍力の一つの炎の突撃槍を作り出した。

 前方では、一角ゴーレムが侵入者の迎撃体制へ入る。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

ドでかい咆哮を吐くと同時に敵はハレへ渾身の拳を入れた。宙を飛んでいるハレには今の軌道を変える事などできない。否、避ける必要などないのだ。迷わず全力投球を投げる意気込みで突進する。強烈な光を生み衝突し合う。

「邪魔だッ! マジどけぇぇ! てめぇーにはマジ用はねぇーんだよ!」

 ハレは、もはや幅を取るしか、取り柄しか無い角が生えたデカブツの事など視界に入れず、とにかく前へ進めば、会いたい人に届く。前へ手を伸ばせば届くアセロラの事しか頭になかった。

「マジ燃え尽きろッ!」

 意識を収斂させてアセロラへ刃先を向ける勢いに乗る。苦悶に満ちた顔をしながら最後の砦を粉々に貫いた。ただ、アセロラの安否が知りたい。アセロラの哀しみを晴らしてやりたい。アセロラに明日の幸せを与えてやりたい。簡単な理由かもしれないけど、友達や仲間を護るのに本当はそんな、理由などいならいんだ。

往生際が悪い鬼は一つの灼熱になり何もかも目の前の最果てを晴らす様に結界を浄化して行く。

「アセロラ!」


 結界を潜り抜けたハレは初めて何かをやり遂げた稚拙さを兼ね揃えた喜びを浮かべている。

「アセロラ、迎えに来たぜ!」

 ハレの心臓が大きく跳ね上がる。脳細胞からスパークする。体中に電流が染み渡る。そのまま、神域へ着地した。ともあれ、強行突破に成功したハレは四隅にある焚火の集れるところをゆっくりと歩く。四方には正しい位置に設置された十二支像が置いてある。そして中央で背中に光の十字架を背負わせられているアセロラを中心に魔法円が発光している。

 この術式の主である国臥乃セイラは驚愕して跪いた。

「……うそでしょ」

 国臥乃は空虚な声だった。

 国臥乃はいつもの口癖を言わなかった。おそらく、事の目の前の事態に認識が追い着かなくて不明瞭過ぎて言う余裕が無かったのだろう。今までの無表情は無理していたもので結局は演技である。演技と言うよりは闇を背負い過ぎて重っ苦しかったはずだ。やっぱり、最後に行きつくさまは、どこまで行ってもただの女の子に過ぎなかったんだ。

だんだん、形相した顔になり敗北した涙を流す。これが、この少女の本性。素顔なのだろう。初めて見る彼女の涙は感情が入っていてキラキラしていた。

「お前はマジ、ライタの仇だ。けど、今、何もなかった様な冷血さが崩れ落ちてそれがお前の今のマジな素顔だとしたら。なかなか、かわいいじゃあねーか……きっと、あいつ好みの晴れた顔だよ!」

 ハレは口元を綻ばせた。

 ハレは腕の力が完全に抜け落ち、鋭い粗暴な目がだらりと下を向いた。

「…これ…はセイラの…ものじゃない…」

「いいや、てめぇーのマジ面だ。心を殺す様な真似をマジでするな。誰にだって苦痛を味わう人生をマジ送んだよ。人間、襲い掛かる地獄は見る事だってある。マジで踏み外す事もあるだろう。けどな、それを乗り越えなきゃダメなんだ。セイラ! 辛かったら苦しかったら。おれがマジでてめぇーを救ってやる。マジで友達になってやる。逢井晴はセイラを決して裏切らない。どこまでもだ。かつてライタとアヤノがしてくれた様に。敵だろうが、マジ関係(かんけー)ねぇーよ。おれはお前の傍にマジでいてやる。だからいい加減、マジ安心してアセロラの手をマジ繋いでやれ。ガチで仲直りしてやれ。おれはもうマジできないんだ。それが、お前に今からできるんだよ。マジできてしまうんだ」

 国臥乃は眠っているアセロラへ振り返り、ゆっくりと足を進める。

不意に襲い掛かる思いが漏れ出し国臥乃は思いっきり泣いた。

「うえええええええええええええええええええええん。ごめんなさああああああいいいいいい。ごめんなさああああいいいいい。行き場を失ったセイラたちはこうするしかなかったのおおおおおおおおおおおお。こうするしか生きる事ができなかったああああ。普通の日常をただ送りたかっただけでいつの間にかなにもかも見失っていたのおおおおおおお。アセロラあああああああああん。あなたが居ない世界なんて苦しいだけなのにそれなのにこの手でわたしああああああ。親友であるあなたをおおおおおおおおお。いっぱいいじめてぇええ。ごめんなぁぁあああああぃああいいぃ。いっぱい恐い思いさせてごめんなにゃしゃいぃいぃい」

 国臥乃は今までの溜まっていた感情を一気に開放してアセロラを抱きしめた。

 薄らとアセロラは瞼を半開きになる。

 同時に神域の幻術は消滅し魔法円もなくなり、まるで消しゴムで全て掻き消されたみたいだ。

「マジ、幻術だったのか……」

 ハレはぼんやりと呟く。

 すると、

「―――セイラ……いつも以上に温かいかもしれない…かもしれないよ」

 アセロラは優しく天使の微笑みを掛ける。

 国臥乃は何かを偲ぶ様にひくひくと頷く。

「――――何もかも晴れて終わったのね……」

 意識をはっきりさせるアセロラは近づいてくれるハレへ脆弱ににこやかに呟く。

「ああ…マジ、終わっ――――」

 ハレの声がプツンっと切れた。

 この夜。逢井晴はアセロラという少女を救えた。救えたんだ。この少女のどこまでも晴れ渡る声を聞けた。聞けたんだ。初めて他人のために命を張ったんだ。

その時、逢井晴の全身全霊は安心感に満ちてぽかぽかと温かくなる。

ハレはクラッとしないで即座に地面に跪く。その瞬間、誰かの叫び声を聞いた。それが誰なのか解らない。まるで頭の認識力がひどく低下しているみたいで全て同じ声に聞こえた気がする。それが、アセロラかセイラなのか。あるいは、後ろから駆け付ける御節介女なのかもしれない。

どこからか、シュルルっとエフェクトが鳴り始める。

ハレの体が異常な光が鳴り始める。まるで朧な光みたく。あるいは蛍光に閃かせているのかもしれない。もしかしたら自身の体が霞んでいるのかもしれない。ハレは涅槃を打とうとしている。

ただ、ひとつ言える事はハレの足元には浅い池があったって事である。

それは悪魔である。鬼である。ハレにとって致命的弱点であった。

――――聖水。マジかよ………。

聖水。それは、聖なる清めの水。穢れを祓う。所謂、悪魔を祓う水だ。

空には月が、ぽっかりと真ん丸に浮かんでいる様子が聖水に反映されていた。首を下へ傾げているハレとっては、天を仰ぐ気がして三途の川を眺めているみたいだ。

体はもう指一本も動かす事が出ない。たとえるのなら手術する前の全身麻酔みたい何だろう。もう、体の先と言う先はまったく反応はナシ。全てが空気の感覚さえ味わう事ができない。

それでもハレは目の前の誰かのために安心させてやりたいと笑って済ませたいと思っていた。

水面の上に倒れ込む。

八面玲瓏のハレは完全に脱力した。

あるいは、もう目を覚める事がないのかもしれない。死ぬかもしれない。

そう思って最後は最後まで最強を名乗り続けて英雄を気取って笑いながら瞳の光彩が消滅する。


八月六日。午前二時三十八ごろ。

逢井晴は天真爛漫で逝った。


エピローグ【後日談】


「もう、植物状態と言っても過言では無いだろうねぇ……」

 市街区。下都賀郡壬生町北少林八百八十に私立獨協医科大学の病院がある。その病院の廊下で黒髪にジャージとジーパンを穿いて簡単に白衣を着るシルキーな中年オヤジはアヤノへ確定申告を告げる。年は推定三十代後半。煙草代わりにチュッパチャップスのいちごミルク味をしゃぶっている。いかにも医者っぽく無いペテン師野郎に見えるが、一応、里で誇る名医である。

「……」

 アヤノは酷薄そうになる。

「話に訊くところ、あの子は、半分鬼であり聖水をもろ浴びたそーじゃないか」

 名医は少々意地悪そうな顔をしてシニカルそうに喋った。

「………」

 アヤノは不満そうで少し不安を感じていた。

 聖水を全身に浴びてしまった悪魔であるハレにとって致命的弱点の一つである。だが、普通は聖水を浴びたら上級悪魔だって多少の類は殲滅できる代物に対しハレは死ななかった。植物状態になるだけで死ななかったのだ。この状態に収まっただけでも幸福過ぎる奇跡という事であるらしい。しかしアヤノにとってそんな残酷過ぎる結果は生理的に受け付けなかった。

「だとすれば、オイラには治せない。まったく言って……専門外だね……表の忍び世界があるのならその知識に従い行動する……裏の忍び世界があるのなら裏の知識は裏側の知識に従い行動する……悪が、オイラは患者を助けたいが……悔しいケド、手の施しようがない……これは、種族違いの差別じゃ無く。オイラの力不足さ」

「…結局……何も悪くないハレは誰も手を差し出して貰えないんですか……」

 同時に寂しさを思いやる透明な液体を瞳からサラっと流した。それはまるで願い事を叶える流れ星の様な一瞬の流れだった。

「ハレは一生、報われないんですか……自分の因果を……あんまりですよ……ハレだって一つの命を背負って一生懸命、生きて。精一杯、頑張っているのに何も得る事が出来ないんだなんて……」

人一倍情愛深いアヤノはそれでもハレを単純に助けて欲しかった。救って欲しかったんだ。できるなら自分がハレを救ってやりたかった。表とか裏とか、世界の作りとか、掟とか関係なく。なんでもいいから一番大切な人を一番傍に居てあげたいあの逢井晴の元気な姿を見たかった。

こんな結末に壮絶に未練がありこんなハッピーエンドでも無いバットエンドを突如と迎えてしまった現実を桐那岐綺乃はケリを付ける事ができなかった。

「――バ、バカ…ハレ……」

 弱弱しく呟く。癖でアヤノはフレアスカートをグイっと掴む。

アヤノはいつものアヤノらしくない。

目の前の窓を見て己の情けない今の自分が映っている自分自身に酷をした。

名医は気を使う顔をして溜息をついた。

「気を悪くさせて謝罪をするよ。忍者の事はオイラにはよくわからない分野だ。けど、何をするにしてもオイラ達は何か打ち込む事に苦労して喜びを貰って依頼者のために全力を尽くすのが仕事だ。何も変わらない。何もだ。あんたの友達だってきっと、そのようにやって命を張って忍びをやったに違いないはずだよ。あんたはそーやって思い悩んだ顔をして彼の心と誇りを貶すのかい?」

「……、」

 アヤノはそう言われてごもっともだと思った。

 忍びというものは誇りそのものだ。

 ハレは前へ進んだ。ハレは成長したのに対してアヤノは何も変わってはいなかった。

 アヤノはそう思っていた。そう思ってハートの部分が酷く痛みを上げる。

「ところでそーいや、どこかで耳にしたんだが、気のせいだったのか。解ら無いケド。オイラは医学以外疎いようでね~。二人の犯罪者がどこかの病院に侵入したって報告を受けたんだが、そいつらが恩人のためにある人物に呪い(まじない)をかけるとか言っていたぁ~。まっ。この病院には来ないだろう。なにせ、オイラが守っている病院だからね。安心してくれ、桐那岐綺乃くん。逢井くんもきっと大丈夫だ」

 一言。一言。懇切丁寧に言い触らした名医はまるでトボケタ風に見えた。あるいはボケた様に見えた。そして。その名医は真顔で姿を去って行った。

「……………、」

 アヤノは目を見開き動向を揺れ動かした。

「もしかしてっ」アヤノは呟いた。

 微かな希望を祈り起死回生をしてアヤノは心拍数を上がった。

さらにアヤノは早歩きをする。それから走る。走る。走る。

 

 こんこん、と病室のドアをノックしようとした。

 ただ、それだけの仕草なのに、アヤノの心臓は風船の様にぱんぱんに膨れ上がって破裂しそうになる。

それでもハレの事が気になるアヤノはハレに合わせる顔も無い事をひたすら胸に抱きドアを少し開けて隙間を覗き込んだ。

六人入りの病室は見た感じ違和感があり、真っ白な空間と億劫を感じさせる。至って現代の病室である。 

しかし、患者と呼べる人物は一人しか居なかった。

一人しか―――――。

居なかったのだ。

その少年は気持ちが軽そうにしてどこか楽しそうな微笑みを浮かべて、それを開いている窓の向こう側へ飛ばしていた。喩えるなら風でひらひらと舞い踊るカーテンみたいな情であろう。

「よし!」

 少しだけ力を込めた口調で言った。

 ぎゅうっ! と、少し控えめにドアノブを握りしめ入る事を決心する。

儚げなシルエットの金木犀の背中は前へ進む。

 その瞬間、気配に気づいた少年は返事を出す。

「ハレ?」

 アヤノは控えめそうに少年の名前を呼んでみる。

 真っ白なベッドの上で上半身だけ起こして傷だらけの体なのに優しく笑みを浮かべてアヤノの方へ向ける。

 同時にスタスタと足音をゆっくりと鳴らして、

「………」

 口を固く結び、渋い顔をしてアヤノは必死に涙を堪える。けど、我慢している分だけどうしても涙が零れ落ちるのだ。それから顔を緩くして素直に涙を流した。

 ハレはアヤノを見ている。

たった、それだけなのに―――――――。

アヤノは心の天気が曇りの内晴れな様な気がした。

ハレの心に絡みつくアヤノの温かい眼差しが、何だか心までも温まる様な気がしてほっこりする。

 アヤノ………。と、ハレは、元気そうに言った。

「マジ、泣いてんじゃあ~ねぇーって。この御節介女め~」

「その言い方は正しくないよ……面倒見がいいおねぇーさんって言って欲しいなぁ」

 ハレの言葉はあまりにも眩し過ぎて。声だけ聴けただけで心が歓喜して躍り上がる。

「ばか…心配したんだから……」

「……マジ、ごめん、」

「ううん……こっちこそ、ハレ、ずっと、ずっと、ずーと、騙して黙っててごめんね?」

「………」

「いっぱい、いっぱい、ひとりにさせて……ハレを苦しまさせて…ごめんね?]

「アヤノ、」

「わたしはハレをずっと、苦しめていたんだね」

「………、」

「あたし、ハレの傍に居ない方がいいよね。あたしが気持ち悪い程、過保護過ぎて。逆にハレを辛い目に会わせるし生きる事奪うんだね?」

「アヤノ」

「あたし、もう、ハレには逢わないから……大丈夫、大丈夫だから……」

「んだよ…マジ、言い訳はそれだけか!」

 ひそめた面を下に向けて小さく静かに怒声を吐いた。

 アヤノはピクっと心臓を撃たれた感覚が奔り涙が弾けた。

「テメェ―。それ、二回目、言ったらマジで許さねぇーぞ。言ったら、許さねぇーからなッ!」

「………」

「全部が全部、マジ、テメェ―が全て物語を描いたと思ってんじゃあねぇーよ! ああ、ここまでおれをマジ成長させた事を無力だとか思ってもダメだ。ガラクタな人生を送って来たこの逢井晴様のマジな人生は満更でもねぇーマジおれさま忍道って訳だ。今思えば、マジ修行の一環だと思えばなかなか、マジ普通じゃあ経験できない特別なマジ修行だ。今もなッ。だからマジ、ちょーしこいて、おれの事マジ、苦慮すんのやめろよなっ。アヤノ…おれを背負い過ぎるなよ。ましてや、おれの目の前からマジ、居なくなるとか、寂しい事口にするなッ。ライタがマジ居なくなってお前まで、おれからマジ居なくなったら…マジ、ひとりぼっちになっちまうじゃあねぇーか。頼むからマジ……傍に居てくれよ。アヤノ」

 アヤノは、無言で何度も頷くと、腕を伸ばしてハレの背中を丸めこんだ。

 首を傾げ、微笑みながら、ハレは彼女の甘い金木犀の匂いを嗅ぎながら間抜けな顔になっている。心配されてとてもいい気分になっているハレはアヤノへ揶揄を入れようと考えた。

「だあはははははははー。それにしったってマジお前、このおれがマジで聖水喰らっただけで死んだって思ったらしいじゃあねぇーか。♪ふふふん。普段からおれが、マジ迷惑をあわされていたんだ。その分、いい薬になってマジで今回の事で少しはいい経験できたじゃあねぇーの?」

 ………、アヤノは獰猛の顔つきで黙り込む。それと凄く心配していたのにハレにより嘲笑ものにされてアヤノは忸怩な思いをする。

「ハァァ~レェェ~?」

 身と心が連結してアヤノから微力ながら電気が迸っていた。

 ハレは流石に自分で言ってしまったセリフに今のは、無いよなと思いつつ、後悔した。

 全身にざわざわと疾駆して不安と落ち着きの無い表情が目立ちハレを襲う。

 うふふふふ。と、不気味にアヤノが笑い。

アヤノは一旦ハレから離れて軽く仁王立ちしてみた。

しくじったハレは諸手を挙げてひきっつった顔で探りを入れてみた。

「あれ~。マジで気のせいかな~。マジおかしいなぁ。目の前の出来事におれのマジなシックスセンスによってマジ雷注意報が発令されている様な……」

うん、うん。遺言はそれだけ? とアヤノは言いたげそうな口を浮かべてハレを蔑ます。

「ハレ、サイテー!」

 頭のてっぺんから足の爪先まで壮絶過ぎる十万ボルトを浴びさせられたハレの絶叫が病院内を轟かせる。おまけにビリビリするビンタを受けたのである。

 口をへの字にして速やかにアヤノは病室を出て行く。

 アヤノが出て行くところを見計らい次は、アセロラが入り込んできた。

「ハレ? 大丈夫かもしれる? かもしれる?」

「死ぬ。マジで死ぬ。相変わらず、手加減ってマジで言葉を知らねぇー御節介女だぜぇぇ……」

「―――けど、本当にいいの? 本当の事……喋んなくて…」

 ハレは黙り込む。

 正直言って。ハレは実のところ本当に死ぬ一歩手前であった。聖水を頭から先と言う先まで浸かって三ヵ月も昏睡状態でいつ死ぬか解らない状態だったらしい。

 原因不明な病気にあっていたハレは現代の表の知恵では治す事ができなかったのだ。現代の表医学では悪魔を治す等と言う事はできない。知識が浅はかであるためろくに手を出す事もできないのである。

 けど、ハレの体は今をもって健全である。

「いいんだ。マジでいいんだ。おれにはマジ……護りたい者があるからさぁ。何もかも失おうが…後を退かない。マジ、何度でも立ち上がってアヤノの前では…マジ最強を名乗り続ける事に決めているんだよ。マジ、そうじゃあなきゃっ……かっこいい忍びじゃあねぇーだろ?」

「だけど、栄洵とセイラの紹介でここの先生の医療により意識を取り戻したのはよかったかもしれないけど、聖水の後遺症のせいで霊力が悉く低下しちゃったんだよ? 忍びとしての生命がくだけちゃったんだよ。もう…キミは忍者として術も使えなければ、魔術も使えないんだよ。それでもキミは忍びの英雄を夢見るの?」

「……ああ。マジで当たり前じゃん。マジ、ガキんときから思い描いて来た夢だからな。それにマジ、約束だしよ。マジで裏切らねぇー」

「……………約束?」

 ハレは微笑してそう言った。

 自分でも何故、笑っているのかなんて理解できない。けど、笑みを浮かべているハレを見ると、アセロラはどこか哀しい、と不思議に感じ取れた。

 それはきっと、ライタの葬式にも駆け付けられなかったからだと思う。

 会いたいと会いたいと願ってももう会えない。

 こんなにも大切な者を失うと苦しくて辛い。

自分の記憶の中でしか死者は生きられない。

 ハレは、もう、こんな悲劇を起さないためにもっともっと強くなろうと強く拳を握りしめて目を瞑った。そして人が変わった様に突然、凛々しい眼差しをアセロラへ向ける。

 アセロラは、少しびっくりした様子を出してハレを見た。

「だから……ここから、先はマジで逃げも隠れもしねぇー。一本道でおれの忍道をマジ貫き

通す!」

 ハレはそう心から思った。

「ふ~ん……どーやってそんな前向きに生きられるの? かもしれないかもしれる?」

 アセロラは最後にふいに問い詰めてみた。

 今まで裏側の社会で生きてきた彼女にとってとても重要な事であった。

 なんとなく、その事を悟ったハレはつまんなさそうに鼻で笑いアセロラを見下した。

 己の道に理屈やルールや掟はいらない。一つ欲すれば、自分の信念だけである。

 それが、忍びだ。忍者だ。

「マジでよ~く。耳をかっぽじってマジで頭に入れとけッ」

「……………?」

 逢井晴は寛容ぶって答える。


「マジ…晴れ渡る大空の心を持つ事さぁ」

その言葉を述べて共鳴したのか羽を休めていた鳥たちが、透明な青を照らす大空を支える快晴をどこまでも。どこまでも。羽ばたいた。



もしも現代に忍びがいたらどうなるんだろうからはじまりました。

ですので、もしよかったら主人公たちの活躍を見てくださると光栄に思います。

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