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バカ剣士と弓使い

作者: Material136


0.Real


「うわぁぁぁぁ!!」

 突然の転落にただただ驚くことしかできない自分がいた。

 僕(=一応主人公)は、駅で誰かに突き飛ばされて、しかもそのときはちょうど特急列車が通過する瞬間。

 最後まであきらめない精神のもと、振り返って犯人を発見しようとしたのだが、人の多さとパニックのせいで見つけることはついにできなかった。


 僕は死ぬのだろうか。


 最後まで混乱し続けていた僕の意識は、騒々しい列車の音にかき消されたのだった。


      ★


1. Between Real and Fantasy


 気がつくと、暗闇に浮かぶ青白い大地に立っていた。

 ……、というか、何故僕は気がついているのだろうか。

 周りを見渡しても一切なにもない。

「どこ……、ここ。」

 口に出しては見たものの、何も変化は訪れなかった。

 ふと、右手に違和感感じていたので、右腕を持ち上げてみると、なんと剣が握られていた。

 鉄でできてそうな刃渡り60センチの両刃剣。

 この剣に気付いたとたん、青く光る大地から影を丸く固めたようなものが数体現れた。

 その影のカタマリ(以下影塊)は、何度かキョロキョロ周りを見てから、僕に黒い影から見える黄色い小さな二つの光が向けられる。

 じっくりと僕をなめまわすように見た後、僕とその影塊らの一体と目が合った。

 じっと見つめたのは一瞬、しかしその影塊にとっては十分な時間だったのだろう。その影塊は、体の一部を鋭い爪に変化させてなんと僕を襲ってきた。

 小さい体が、僕に向かって駆け出してくる。僕はその影塊を避けようと、右足を後ろに一歩引いてのけぞる様にし、受け流そうとする。

 僕と影塊が交差するのは一瞬。しかし、その一瞬で僕は見てしまった。

 影塊が体の一部を変化させて作った爪は、皮膚はもちろんのこと内臓がえぐれそうなほど鋭いことに。

 僕の体中に死の恐怖が駆け巡り、一瞬で体の自由を奪われる。

 続く影塊の攻撃を受け流そうと体勢を整えようとするが、あまりの恐怖ゆえそのまま、尻もちをついてしまう。

 攻撃を外した影塊たちがもう一度突撃しようと体勢を整え始める。

 尻もちをついたままだが、それでも僕は影塊から逃げようとして後ずさりをする。

 じりじりと下がった分だけ影塊たちがじりじりと寄ってくる。

 干からびた喉からは何も音を発せず、恐怖で塗りつぶされた僕の脳内は、ただ影塊から逃げるということしか考えていなかった。

 それだけを一心にやったせいか、思いのほか早く青く光る大地の端に来てしまった。

 それを知ってか知らずか、影塊たちはそれでもにじり寄ってき、先頭の一体が爪を構えて切りかかってくる。

 前からやってきた影塊を避けるには左右に逃げるしか方法がなかった。

 僕は転がるようにして右側に逃げる。

 すると、もうそこにも影塊がいて、思いっきり体当たりをされた。

 緊急回避後の不安定な体勢での体当たりに、僕の体は耐えることができずに、慣性に従って後ろへたおれ、

 

 僕は、真っ暗な闇の中を落ちていった。

 

   ★


2. Fantasy


 目を覚ませばそこには、目に良いとされる緑が広がっていた。

 正確に言うと、大量の木々に囲まれている。

 そこでふと、自分の姿を見てみると、動物の皮をなめして何重にもした服(鎧?)に、肩から背中にかけてやや大きめの弓が、腰には矢が数十本入った矢筒がかけられ、頭には若草色の大きなとんがり帽子(羽つき)をかぶっていた。

 まるでファンタジーの狩人みたいな恰好だ。

 確かに、僕は弓道部に所属していたので、剣よりも弓のほうが使える自信があるのだが。

「っていうか、ここどこ……?」

 現実世界でこの恰好をしたら完全にコスプレの域で、その格好で僕が森に放置される理由が見当たらない。

 というより、さっきの青く光り大地で起きたことも気になる。

 結局、剣が弓になっているし、でも僕はあの大地から落ちてしまったし……。

 (思考中)

 考えても何も思い浮かばない。というより、ひとつだ思いついたが、脳内のゴミ箱に廃棄した。

 まさか、僕がゲームの世界に迷い込んだわけじゃないよね……?

 誰に問いかけるわけでもなく心の中に呟く。

 よくある話。主人公がゲームの世界に迷い込んでしまい、なぜか勇者として魔王討伐に行かなくてはいけなくなって、結局勇者の力で魔王も撃破! その国は平和になって、自分は成長した姿を周りに見せつけ、討伐に行く前とでは一味ちがう学園生活を送るという感じの話。

 にしても、なんか納得のいかないところがいくつもある。

 まず一つ目。勇者の武器は剣。これは絶対に(自分的に)譲れない。そして恰好も、剣士っていうよりどう見ても狩人な恰好をしている。狩人の勇者って邪道だ!

 次に二つ目。スタートが森の中ってどういうこと?勇者なんだからもうすこしやりやすいところから、例えば王国の城下町とかにしようよ。

 最後に三つ目。お供がいない。何も美人魔法使いとは言わないが、せめて一人くらいパーティがいなければ僕、戦い方とか、そもそもこの世界の事なんか何も知らないんだが。

 納得ができないスタートの仕方。

 今更だが、青く光る大地でのあの影塊は持っていた剣で倒せたのだろうか。

 今更気づいても遅いか! と、自暴自棄に開き直っていた時。

 ガサガサッと、近くの草の茂みから音がした。

 僕は驚いて弓に矢をかけつつ、その草の茂みを凝視してしまう。

 その草の茂みから表れたのは、


  神秘的な空気をまといつつバカっぽい空気も漂わせた、なんともよくわからない青年だった。

 

 藍色のボサボサ頭、澄んだ紫の瞳、いかにもバカですって主張している顔。

 体は僕の革の鎧と違って、青銅をプレート状にし、何枚も重ねた鎧をまとっていた。肩には剣がかけられている。

 僕がポカーンとしていると、彼の行動はバカそうな顔をしている割には迅速だった。彼は素早く剣の柄を掴もうとする。

 しかし、事前に弓に矢を掛けていた僕の方が早かった。

 一瞬で弓を相手の方に向け

「チェック・メイト」

 つい(本当につい)、そう呟いてしまった。

 ……、耐えがたい沈黙。

 は、恥ずかしい……っ!

 そんなこと言うつもりでもなかったのに、なんか反射的に言ってしまった。

 これがマンガばっかり読み続けた結果なのだろうか。

 彼は怪訝そうな顔をしたのち、慣れた手つきで手を頭の上にあげつつ

「まぁまぁ、ここは挨拶といこうぜ」

 この状況が見えていないのかそう言った。

 確かにバカっぽい空気が漂っていたが、ここまでバカだなんて……。

 僕は拍子抜けして、ありえないことに弓を手から落としてしまった。

 彼にとっては最高の勝機なのに、剣を掴もうとせず、殴りかかろうともせず、弓を拾って僕に渡してくれた。

「あ、ありがとうございます」

「いいってことよ」

 なんとも、のんびりしている人だ。

 まだ唖然としていると、相手は

「俺、ミタチ。剣士やってんだ」

 彼が挨拶しているのに自分が挨拶しないなんて卑怯だと感じた僕は、自分も挨拶しようとして口をあけて、気付いた。

 こっちの世界(ファンタジーの方)で、自分の本名を言うべきなのだろうか。だが彼は、完全にカタカナ文字だったし……。

 というわけで本名はやめて、もとの世界でよく遊んでいるネトゲで使う名前を名乗ることにする。

「僕はルヤフといいます。えっと、狩人です」

「よろしく!」

 ミタチさんと名乗った彼は、にっこりとした顔で手を差し出してきた。

「よろしくお願いします」

 僕も、握手で答えなきゃと思い、意外とがっしりとした手を握る。

 そこで、なぜか僕も笑っていた。

「そこで、ルヤフ。近くの町まで一緒にさせてくんね?」

「え・・・?」

 思わず自分の口から漏れる、間抜けな声。アテにしていたのに・・・。

 今始めてこの世界に来たのに、近くの町どころか、自分の現在位置すら分からないのが事実。

 すいません、わかりません。

 そう言おうとしたとき、近くの草の茂みから青く光る大地で殺されかけた奴―影塊が飛び出してきた。

 その姿を確認した瞬間、あのときに感じた恐怖がまた全身を染め上げた。

 また、あの時と同じように動けなくなる。

 今度は、周りは暗闇でなく木々で囲まれている。落ちて逃げるのはさすがに無理らしい。

 影塊たちも容赦することなく、体の一部を鋭い爪に変化させて襲い掛かろうと準備をする。

 そんな状況でミタチさんはおびえることもなく、ひるむことなく平然と剣を抜いて、構えた。

 ミタチさんの持っている剣は、僕の知っている剣(現実世界のゲームでの剣)の中でも珍しい色、薄いけれど鮮やかな紫で染まっていた。

 長さはおよそ90㎝、片手直剣ほどの長さ。しかし、片手剣に属する剣なのにミタチは、対をなす盾を構えることもなく、背中にからっているわけでもない。

 そこまで観察していると、完全に爪の変化を終えた影塊が何故かしっかりと自分の方めがけて飛びかかってきた。

 僕はどうにかしてでも逃げ切ってやろうと構えていると、横からミタチさんが躍り出てきて影塊たちをなぎ払ってみせた。

 印象的なのは、片手剣のくせに盾をもっていないこともだが、片手剣なのに片手で握らず無理やり両手で柄を握っていることだった。

 おもしろいくらいに吹き飛ぶ影塊たち。ミタチさんはこっちに向いてきたので、

「ありがとうございます」

 と僕は言った。しかし、ミタチはこう言いのけた。

「いいけど。なぁ、お前のそれってお飾りか?」

 正直むっとした。礼を述べただけなのにこの言いよう。

 でも、確かにミタチさんの言っていることが正しいことに気がついた。

 僕は(恰好的に)狩人なのだ。何をハントすればいいのかって、そりゃあ、状況的にあの影塊たちだろう。それなのに、僕は攻撃もせずただ礼を述べただけ。

 ミタチさんの気持ちが痛いほどよくわかった。

 それに、一応現実世界じゃ僕は弓道部に所属していたのだ。

 僕は、矢を弓につがえてしっかりと狙う。目標は、なぎ払われて体勢を整えきれていない影塊。

 矢から手を離すと、矢はまっすぐその影塊へ飛翔し、見事に貫通した。

 体に穴が開いたその影塊は、一度体をぶるりと震わせると黒いもやとなって辺りに消えてしまった。

「やった!」

 僕が声を上げて喜んでいると、ミタチさんからも

「うまいな」

 と、称賛の声をかけてくれた。

 しかし、僕が矢を一本放つ間にミタチさんは、三体の影塊を倒していたのだ。

 バカっぽいのに実はとても強いのかもしれない。

 僕が二本目を撃ち終えた頃には、影塊の集団は全滅していた。

「ふぅ、こんなもんかな」

 そう言いつつミタチさんは、剣を空中で左右に二回振り(決めポーズなのだろうか)鞘に戻した。

 僕も弓を背中に背負うようにして戻すことにする。

 そんなことをしていると、ミタチさんから声をかけてきた。

「で、さっきの話なんだけど」

「すいません。僕もわからないんですよ」

 準備していたので、すばやく答えると何故か

「えー。なんでわからねぇんだよ」

 キレられた。

「なんでって……。っていうか、ミタチさんもわかってないじゃないですか!」

「だって俺バカだし」

 開き直られたー!

 逆ギレのあとに開き直り。まさかの二連コンボに思わずよろめいてしまう。

「あ、じゃあ地図みせるから、近くの町まで案内よろしく!」

 地図も読めないのですか。

 突っ込もうとしたが、また逆ギレや開き直られたらかなわないので、おとなしく地図を受け取ることにする。

 地図には、真ん中にドーンと大きな大陸が書いてあって、周りが海で囲まれている。この大陸には何本もの大河が流れているらしい。また、大陸の外側にも、小さめの陸や小さい島の連なりなどが書かれていた。

 ミタチさんが指差した現在位置は、その大陸の北東の先にある『カームの森』。

 このカームの森から一番近い町は、南東にある『フォレスタ』のようだ。

 ミタチさんから方位磁石を借りて(持っているのに使い方を知らないらしい)、方位を確認する。

 さぁ、行くぞ!っていう時に、ミタチさんが

 「なぁ、そういや戦闘のときも初心者っぽかったけど、地図は読めるだよな? ……、ルヤフってどこ出身?」

「日本です」

 つい、バカが伝染ってしまったのだろうか、ポロリと言ってしまった。

「ニホン? そんなところあったっけ」

 もう、腹をくくること決定。ここまで聞いてくるのだ。今はぐらかしても、道中にずっと聞いてくるだろう。なら、さっさと言っといたほうがいいと思った僕は、

「この世界とは違う世界からきました」

 ひとつも隠さずに答えたのに、ミタチさんはキョトンとした顔で僕の言ったことを全く理解していないことが見て取れた。

 なんとなく、めんどくさいほうに進んでしまったような気がするのだった。


  ★


 道中何度か影塊の集団に襲われたが、ミタチさんのおかげで難なく倒していくことができた。

 ずっと、ミタチさんに説明したが結局理解できないまま、フォレスタにたどり着いた。

 今いるのは酒場。

 現実世界だったら「未成年お断り」という張り紙が張ってありそうなこの場所は、未成年でもはいっていいようだ。

 お酒はさすがにダメらしいので、ここはおとなしくジュースを頼むことにする。

 なぜここに来たかといえば、まず、ミタチさんにどうにかして説明を理解させようというのがひとつ。もうひとつは、ここにくれば何かしろの情報が入るだろうと考えたからだ。

「だーかーらー、この世界とは違う世界から来たのですよ。この世界の遠い離れ小島から来たわけじゃないんです」

「???」

「だから……。」

 こうやって、説明することさらに三十分。

 最初のほうは必死で理解ようとしていたミタチさんだが、途中からは適当に聞き流していて、最後のほうはうんうんうなずいているだけだった。

「でさ」

まだ説明している途中なのに、割り込んでミタチさんが言ってきた。

「どっか、冒険してみね?」

「って、話はちゃんと聞いたんですか!?僕は初心者なんですけど!」

 必死で説明していた時間が無駄に消えた瞬間だった。

「じゃあ、俺がいろいろ教えてやろう」

 上から目線の言い方に、イラっとしないわけでもないですが、今回は無視しておくことにする。

「正直言うと、地図とか読めないから手伝ってくれると助かるんだが」

「でも、僕無一文ですよ?」

とにかく、この世界に来たときはこの狩人の装備だけで、薬草などの気が利くアイテムなんてどこにもあるはずがない。

「大丈夫。おれが持ってる」

 そういうとミタチさんは席から立ち上がり、近くの掲示板へ向かった。

 僕もついていくと、その掲示板は酒場が運営しているらしく、様々な依頼書が貼り付けてあった。

 酒場などでクエストが受け取れるようだ。つまり、酒場が依頼人と冒険者の仲介を行っているのだろう。

 依頼書には、簡単そうなものでは「薬草をとってきてほしい」「落し物を探してきてほしい」難しそうなものでは「宝玉を届けてほしい」「ドラゴンを討伐してきてほしい」などと多種多様。

 また、それらの依頼書には期限、場所、成功報酬などが書かれていた。

「とにかく、何か受けてみたらいろいろわかるだろ」

 ミタチさんはおもむろに掲示板から一枚の依頼書を抜き取った。そして、受付のところへ行くと、受付嬢にそれを渡していろいろ話している。

 これからどうすればいいのだろうか……。なんか調子に乗ってクエストをする感じになってしまったが大丈夫? ってか、元の世界に戻れるのだろうか。

 そこまで思考していたとき、ふと気付いた。

 自分はたいして元の世界に行きたいと願っていないのだ。どちらかというと、この境遇に楽しんでいる自分がいた。

 なんとなくだが、もしこの世界で死んでしまっても、また別の世界にとばされそうな気がする。そう思わせる経験を今回は2度もしてきているので、まったく否定できなかった。

「おーい、ルヤフ。行くぞー!」

 ミタチさんの声に思考が中断された。あのまま考えていたら、どこまでいっていたのだろうか。

 僕は頭を振って、今まで考えていたことをすべて追い出す。そして、ミタチさんの方へ駆け出した。


  ★


 依頼内容は「森の奥にある薬草をとってきてほしい」とのこと。ミタチさんからすれば、苦難のないようにしてくれたのでだろうが、僕からすれば問題がありまくりなのですが……。

 やってきたのは、『フォレスタ』から西にある『カーディアの森』というところ。

 依頼の通りに森の奥へ向かっている僕たちだが、たまに影塊に襲われる。

 しかし、数はたいしたことないので、難なく倒すことができるが。

 もう何度目かわからない影塊との戦闘の後、僕は疑問になっていることを尋ねた。

「コイツらの名前ってなんですか?」

「さあな。コイツらって意外と最近出てきたんだよ。」

「最近?」

 最近出てきたばっかりというのは、どういうことなんだろうか。

「俺に聞かれてもよくわかんねぇんだよ。なんていうか……、いつの間にかいたんだ。」

 気がついたらでていた……?

「でもな、名前も決まっていないんだけど俺たちは、闇を呼ぶ者(シャドウ)って呼んでる。」

 闇を呼ぶ者、シャドウ。これが、さっきまで戦っていた敵の名前。

「シャドウって、何者でしょうか。」

「知るか。」

 その一言で僕の質問は切り捨てられた。やっぱり、ミタチさんはバカなのか。それとも、ただ何事にも無関心なだけなのか。

 それから、僕が地図と方位を何度も確認しながら進んでいった結果、見事に森の奥にたどり着くことができた。その進んでいる間にも、何度も何度もシャドウが襲ってきたのはいうまでもない。

「薬草、薬草……。」

 僕が依頼書に同封していたスケッチをもとに、依頼者が探している薬草を探しているとき、一方のミタチは草の上を寝転がっていた。

「ミタチさんも手伝ってくださいよー」

「お前のためだ。薬草くらい一人で探せるようになれ」

 絶対言い訳だということに気付いたが、言っていることはミタチさんにしてはまともだったので、黙って言うことに従うことにする。

 スケッチには、黄緑色のヨモギのようなものが描かれていた。名前を「イシャイラズ」というらしい。

 単調な名前だなー、と思いつつ探していると、思いのほか早くイシャイラズを見つけることができた。

「ミタチさん、見つけました!」

すぐさま駆け寄り、傷つかないように摘もうとした時、視界の端に雑草に埋もれた盾を見つけた。

 そんなに汚れはなかったのだが、所々へこんでいたり、引っかき傷があるのが特徴の盾だ。

 なんでこんなところに。という疑問は、盾に近づいた瞬間に解消した。

 盾からそんなに離れていないところに、鎧を着た兵士のような人が倒れていたからだ。

「み、ミタチさんっ!」

 すぐさま、ミタチを呼ぶ。ミタチさんも僕のただならぬ声に反応して、すぐに駆けつけてくれた。

 ミタチさんはウエストバックから緑色の液体が入った小瓶(見た目的に傷薬)を取り出し、その兵士に飲ませた。

「どうしたのでしょうか」

 ミタチさんにいうわけでもなく、僕はただ呟く。

 ミタチさんもそのことが分かっていたのか、反応せず、ただじっと兵士を見ている。

 兵士が目を覚ます間に、さっき見つけたイシャイラズを摘み取って、ズタ袋にいれておいた。

 それからほどなくして、その兵士さんは目覚めた。最初は、ボーっとしているだけだったが、自分の状況に気がついたのか、僕らに尋ねてきた。

「ここは・・・?」

 僕が答えようとすると、その前にミタチが、

「尋ねる前に、言うことがあるだろ?」

 何故かドスをきかせた声で言う。言っていることは確かだが、相手は傷だらけなのでそれくらい見逃しても。

 僕はそう思うだけで決して言おうとせず、結局兵士の人が目を白黒させながらも言った、ありがとうの一言で場は(ミタチさんは)収まった。

「で、あの、ここは?」

「あ、はい。ここはカーディアの森の奥です。僕たちは、探し物の途中であなたを見つけました。あなたは?」

そう、僕が問いかけると兵士の人は

「私はピーターといいます。この近くの村で警備をしていました。しかし、その村は魔物に襲われてしまいました。私はもちろん、村の男性方と協力して魔物を退治しようとしましたが、太刀打ちできずにたくさんの人が亡くなりました」

 そこまでいうと、ピーターの目から一粒の涙か頬を伝った。

「私は、村を守らなきゃならなかったのに、守り切れず、死ぬこともできませんでした」

 ほおっておくと、そのまま自殺しそうな雰囲気。

 あまり、僕はこんな湿った雰囲気得意じゃないのですよね。

 そんなことを思いながら泣き続けているピーターを見ていると、突然ミタチさんが言った。

「その村って、どこだ?」

 もらい泣きをしそうになった僕は、とても驚いた。というより、その言い方だと……。

「カーディアの森から南にある、リトス村です」

 これまた、泣いていたピーターさんも答ます。

「ピーター、お前はここから東にある『フォレスタ』にこのことを伝えておいてくれ」

「で、でも……、私は」

 完全に自殺を考えているピーターさん。すると、ミタチがこんなことを言った。

「お前は生き残ってしまったのだろ?だったら、死んでしまった人たちのために働くのが道理だろうが。それに、誰か生き残ってるかもしれないだろ?」

 ミタチさんの説得。

 ピーターさんはそれを聞いて納得したのか、わかりました!と一声叫んで、僕たちに村の地図を渡して、東へ向かって歩いていった。

「ふぅ。あれなら大丈夫そうですね」

「そうだな」

 ……。

 次にミタチが言う言葉がありありと浮かんでしまう。なので、

「なぁ、ルヤ」

こういう時は即答するに限る。「わかりました」

「よし、じゃ、行くぞー!」

 ミタチは元気そうにリトス村がある方向へ歩き出した。

 しかたなく、僕も着いていくことにする。

 (ミタチ曰く)簡単なクエストが、どんどん危険な方に向かっていることを肌で感じることができた。



 「あ、ミタチ!こっちは北でした!」

 「え!?」

  不安要素ばっかりだ。このミタチといると。



  ★


 「確かにここがリトス村だよな?」

 ピーターさんと別れて、空がオレンジ色になる頃に僕たちはリトス村に到着した。

 ……、正確に言うと着いたハズ。

 目の前に広がる光景は、予想を大きく外れていて、


 何の変哲のない普通の村が広がっていた。


 家も壊されていないし、畑も荒らされていない。そしてなにより、人がいる。

「ピーター……。」

 ミタチさんのそのたった一言に含まれている怒りを感じ取ることは、いとも簡単だった。

「でも、ピーターさんは嘘をついているような雰囲気ではありませんでしたよ?」

 自殺しそうな雰囲気をかもしだしている人が、そのことで嘘をついているはずがないと思う。

「じゃあ、これはどう説明するんだよ!」

 何度見ても変わらないのどかな村。

 とても魔物に襲われた村だとは思えない。

「何かあったのでしょうか?」

 知らねぇ、と短くミタチさんは答えた後、

「よし、事情は村人が知っているだろ」

 そうですね、と答えようとすると、ミタチさんが僕を睨みつけてきた。

 視線からすると、「お前がきいてこい」。

 ら、らじゃー。

 僕は、村の入り口に一番近い家へ(駆け足で)直行する。

 ドアをコンコンと二回たたきました。が、返事すらナシ。

「すいませーん……。」

 できるだけ申し訳なさそうに声を出してみる。

「あ、はいは~い。」

 今度は気付いてくれたようだ。

 パタパタというスリッパで駆ける音の後、ドアが開いた。出てきたのは、お姉さんとは言いにくい、おばちゃんが一人。

「あら~、知らない声だと思ったら、冒険者さんじゃない。何?どうしたの?」

「それが、」

「そうそう、知ってる?最近ここらで化け物がたくさん現れるようになってね、自由に外に出れなくなってしまったのよ。全く、ただの雇われ門番兵のくせに私を止めるのよ。あ、でも、門番兵の日給って高いらしいわね。夫に行かせようかしら……。早くあのダメ男をどうにかしなくちゃ」

おばちゃんのマシンガントーク炸裂。

「あのダメ男は農作業しかできないのよ~。戦闘訓練に行かせたら、半日で逃げ帰ってくるし……。あ、ちょっとまって。私今、晩御飯を作っていたところだった。いけない、焦がしちゃうわ。ごめんなさいね。何か聞きたいことがあるなら、この村で一番大きい家にいる村長に聞いてみてね」

 おばちゃんは、言うだけ言って家の中へ戻っていった。

「どうだって?」

 いつの間にかミタチさんが僕の後ろに立っていた。こういうどうでもいい時に無駄に驚かさないでほしい。

「この村で一番大きい家にいる村長に聞け、だそうです。」

 おばちゃんトークによる疲労感と、急に後ろに立っていたことによる驚きを隠しながら言う。

 すると、ミタチは周囲をキョロキョロしだした。

 不審者に近いキョロキョロっぷり。

 しかし、目的のものは見つからないのか、ただひたすらにキョロキョロしている。

「ミタチさん、うしろ。」

 ミタチさんの真後ろに、村で一番大きな家が建っている。

「・・・。」

 しばしの沈黙状態。

 ミタチさんの気持ちはわからずもないんだが、前と左右しか見ていなかったミタチさんが悪い(?)。

 そのまま僕たちはその家へ行った。


「すいませーん。」

 今度はしっかりした声で言う。村長がいるらしいので、できるだけ大きい声で言わないと聞こえないと思ったからだ。

 しかし、僕の予想は大きく外れた。

「開いている」

 低くどっしりした声だった。老人はそんな低い声をだせないだろうって思わせるくらいの低い声。

「おじゃましまーす……。」

 僕と横にいたミタチも中へ入りました。

 中は普通の家とほとんど同じ。

 変わったところといえば、村長が座っているところの左右にたいまつがかかげられていること。

 村長は、僕の考えでは老人の予想だったのですけど、現実はガタイのいいおやじさんです。でも、顔がやーさん並に怖い。

「おぉ、冒険者さんか。ようこそ、わが村へ。何もないがゆっくりしていってくれ」

「あのー」

「ん? なんだね?」

 聞くべきだろうか。生きている村長に「この村は魔物に襲われて壊滅しましたよね?」と。

 聞けるはずがない。僕は、そのまま適当にごまかして帰ろうと思っていると、

「この村って、魔物に襲われたハズだよな?」

 ダイレクトにミタチさんはその村長に言い放った。

「……。(テメー、何いってんだ?)」

 ギロリと、その村長はミタチを睨み付ける。

 僕だったら今すぐにでも逃げ出したくなるような眼光。

 しかし、ミタチさんはその眼光にひるむことなく、逆に睨み返していた。

 俺は間違っていない、間違っているのはお前だ。

 そう叫んでいるような感じがする。

 しばらく、ミタチさんと村長が睨み合っていると、根負けしたのだろう。村長が言った。

「本当は、外部の者に知られたくなかったが……。」

「襲われたんだよな?」

しつこく聞くミタチさん。村長は苦笑いをしながら言う。

「襲われたというよりも、気付いたらもう襲われていたというほうが正しい」

 それじゃあ、何で村をはじめに村人や建物があるのだろうか。

「じゃあ、お前は何で生きてるんだ?」

 そして何故、ミタチさんはこうも聞きにくいことをズバズバと聞くのだろうか。

 案の定、村長は怪訝な顔をして

「……? 君は何の話をしている? 私は見ての通り生きているが。何故?ときかれてもな」

 確かに、村長さんの言う通りだ。

「襲われたといっても、村を壊しに魔物がきたわけではないようでな」

 さっきの話の続きでだろうか。村長さんは言う。

「子供たちが誘拐された。気付いた頃には、もういなくなっていた」

 子供たちだけ。建物や村人などではなく、子供だけ。

「私の村では、7人いた。たった7人かもしれんが、わが村の大切な財産だ。で、この話を聞いてきたお前らに頼みがある」

 どんどん危険な方に向かっている予感(というか確信)。

「頼む。子供たちを助けに行ってくれないか」

 やっぱり。

「村からだせばいいじゃないのか? 何も部外者に頼まなくてもいいだろ?」

 あ、ミタチさんも嫌だったんだ。『部外者』って言葉。

「もちろん、村の者も送った。しかし、三日たった今でもまだ帰っていない。これ以上、村の者を送ると、万が一のときに村が危ないのだ」

「だから、いなくなっても困らない部外者の俺たちを行かせるってことだな?」

 凄いくらい皮肉るミタチさん。村長は、苦虫を噛み潰したような顔でミタチさんの言うことを黙って聞いている。

「いいよなぁ、使い勝手がよさそうな部外者がタイミングよく村に来て。」

「わかった。」

 何がわかったんだ? そう言いたげなミタチさん、言う瞬間に村長は驚きの行動に出た。

 村長はゆっくりと地面にひざをつき、手も地面に付けて、頭を垂れる。つまり、


 村長が土下座をした。


 ミタチさんも僕もただ唖然とするしかなかった。

「私も、自分の言っていることはよく分かっている。どれだけ自分勝手かということもだ。そこまで解っているとして、君たちに頼む。わが村の未来を取り返しに行ってくれないか」

 土下座したまま村長が言います。

 (どうする?)

 ミタチさんが目で聞いてきた。

 (うけるしかないでしょう。)

 目で返事をする。

「分かりました。受けます。その子供がいる詳しい場所を教えてください」

 土下座していた村長は顔を上げて言った。

「この村から西に二キロに小高い丘があって、そこに小さいが洞窟がある。そこに魔物が住み着いているから、子供もそこだろう。……、頼む」

「わかったよ。でも、お前、子供を助けられたらいろいろいただくぞ」

「この村にあるものならば、なんでも差し出そう」

 そういうと、村長はポケットから鍵を差し出した。

「これはその洞窟の奥にある封印を解く鍵だ。この村はその封印されているものを守るためにここに住んでいる。鍵は二つあったが、ひとつは、子供を捜しに行った村の者に渡して、この鍵が最後だ」

 錆がたくさん付いている古ぼけた鍵を僕は受け取る。

「封印しているもの?」

「詳しくは分からない。相当昔の話だ。もしかしたら、先人の冗談の類かもしれない。一応、渡しておくだけだ」

 冗談だといいなぁ。

「それじゃ、ルヤフいくか」

「そうですね……。」

 諦めが一番! という心の声を無理矢理振り払って、早速家を出ようとするミタチさんについていく。

「子供たちは頼んだぞ」

「頼まれたって」

 ミタチさんはかる~く答える。

 最初は薬草集めに出かけたはずが、まさか子供を助けに洞窟へ向かうことになるなんて。

 未来は分からないものですねぇ……。


 ★

 

 二キロってこんなに短いんですね。

 村を出てからたった十分。黒く染まり始めた空の下、僕たちは洞窟の前にいた。

「さて、行くか」

「やっぱり行きますか?」

「ここまできたら引き返せないだろ」

 確かにそうですね。

 僕は肩にからっていた弓を下ろしながら

「それでは、行きますか」

「そーだな」

 ミタチさんも剣を抜きながら答える。

 (戦闘)準備完了。

 僕たちは洞窟の中へ歩き出した。


 ★


 入った瞬間から、大量のシャドウの襲撃。単体はとてもザコいが、数が数だけにおされ気味。

「夜だからこんなに多いんですかっ!?」

「知るか!」

 ですよねー。

 ミタチさんが知っているハズもなく、ただ僕たちは、襲いかかってくるシャドウたちを倒し続けました。

「……ふぅ」

 ミタチさんの活躍のおかげか、どうにか大量のシャドウを撃退することができた。

 洞窟内で空は見えないが、洞窟に入った時を考えると、空は闇で包まれているだろう。

「戦い方が板についてきたじゃねぇか」

「ありがとうございます」

 そりゃ、こんなに何回も戦闘をすれば、いやでもうまくなるものだ。

 洞窟の天井には所々穴が開いていて、そこから月の光が差し込んできているおかげか、洞窟内は暗闇ではなく、少しだけ明るい。

 歩くのにはこの明るさだと問題ないのだが、シャドウが襲ってくるときだと集中しなければ見つけられない程度の明るさだ。

 いうなれば、無いよりマシレベル。

「微妙な暗闇って、怖いですね……。」

 例えるならば、お化け屋敷の照明。あの見えないようで見える光加減が恐怖心を煽るのだ。

「そうか?これだけ光が差し込んでいると、全然大丈夫なんだけどな」

 ミタチさんは夜目がきくのだろうか。

 そんな話をしているうちに、目の前には分岐点があらわれた。

 どうしましょうか、と考えているときミタチさんと目が合った。

「右」

「左ですよ」

見事に分かれた。ミタチさんの場合は、なんとなくで決めてそう。

しかし、僕も実はなんとなくで左を選んでいるので人のことを言えない。

「左だと思いますけど」

「右じゃね?」

 お互い譲る気は無いようだ。すると、ミタチさんはこんなことを言い出した。

「お前、右なめんな!俺は今まで、右を選ぶことでたくさんの危機を乗り越えてきたんだぞ!道でも、右を選んだ結果、迷うことは一切なかったし!」

「僕と会ったとき、ミタチさん、迷ってるっていいませんでしたっけ?」

「うっ!?」

 自分から墓穴を掘ったミタチさん。しかし、ミタチさんは僕の説得にも応じず、

「右なんだよ!行くぞ!」

 独断専行で右の道を進み出した。結局、僕も一人ではシャドウたちを倒せないので仕方なく、ミタチさんについていくことにする。


 右を選んだ結果→子供


……、なんてカンの良い人なんだろうか。もし左に進んでいたら、と考えると寒気がする。

 ミタチさんの顔には、な?言った通りだったろ。なんて、してやったりの顔をしている。

 すごく悔しい。でも、反論できない。

 ミタチさんのおかげで、子供たちを見つけることができたが、僕たちと子供たちの間に鉄製の柵が邪魔している。

 そして、その柵には鍵穴付の南京錠が。

「この南京錠って、やっぱりこの鍵ですかね……。」

 あきらめとともに僕は言う。そして、ポケットから古ぼけた鍵(大量の錆付)を出した。

「そりゃそうだろ」

「はぁ……。」

 封印を解かないと子供たちは助けられないけど、解くとなにかしらな化け物が。

僕はあきらめて、古ぼけた鍵を南京錠へ差し込んだ。

 ガチャリ。見事に南京錠は開いてしまう。

 その瞬間、部屋の中心から黒いもやが噴き出た。

 まるで嵐の中心にいるような轟音ととも黒いもやは部屋中に広がる。

 しかし、子供たちや僕たちを襲うことなく、その黒いもやは天井の穴から出て行った。

 部屋に静けさが戻る。

「なんだったのですか?あれ」

「知らねぇ。それより、子供が先だろ」

 ミタチさんの言う通りだ。それに、害がなかったので気にしないでおく。

開いた扉から子供がぞろぞろと出てくる。そして、その子供たちはぎゃあぎゃあ喚いた。

「助けてくれてありがとう!」「おじさんたち誰?」「村に戻れる?」「ここどこ?」「おなか減ったー」「あの黒いのなに?」「はやくベットで寝たいよう」

 正直言うと、うるさいの一言。

「分かったから、ほらガキども、出るぞ」

 ミタチさんの言葉にも過敏に反応する子供たち。

「ガキじゃない!」「おじさんと行くの?」「外だー!」「やったー!」「おじさんたち、食べ物ちょーだい」「あ、おじさん剣持ってるー」「あの黒いの敵?」

「黙れっ!!」

 急に周りが静かになった。

「こっちですよー」

 僕の誘導に素直に従う子供たち。あ、しょんぼりしてる。

 そんな時、背後から何かが集まる音がした。

 振り向いて見てみると、この部屋にシャドウが大量に集まっていた。

 それに気付いたミタチさんは、剣を構えまる。

 僕も弓を構えようとしたら、

「ルヤフは子供たちを連れて行け!」

 そうだった。子供たちがまだ洞窟の中にいるのだ。

「ひ、ひとりで大丈夫なんですか!?」

「いいから、行け!」

 子供たちはいち早く出口へ駆け出した。僕も足の遅い子供たちを連れながら駆け出す。

 走れば、出口まではすぐだった。

「いいかい?みんな、ここから村まではわかるよね?」

「「「「「「「わかるー!」」」」」」」

「じゃあ、みんなではぐれないように気をつけてかえるんだよ?」

 はーい、という元気のいい返事の後、子供の一人が尋ねてきた。

「おじさんはどうするの?」

「もうひとりのおじさんを助けにいかなきゃ」

「気をつけてね?」

「君たちもね」

 僕は、今来た道を辿るようにして駆け出す。

 戻ってみると、ミタチさんはまだ生きていた。

 ホッとするのはつかの間。ミタチさんの目の前にはシャドウが一匹。

 しかし、そのシャドウが異様にデカいのだ。

 まさか、さっき集合していたシャドウが合体したのだろうか。

「ボーっとしてないで、手伝え!」

「はい!」

 矢筒から矢をとって、弓にかける。巨大シャドウに狙って、弦をひいて離す。

 僕の弓から放たれた矢は、きれいな直線を描いて空を飛び、巨大シャドウに刺さった。

 しかし、巨大シャドウは全くひるまず、ミタチさんを狙って攻撃し続けている。

「な、なんで!?」

 矢が効かないなら、僕は何をすればいいのだろうか。

「効いてないわけじゃない、あいつの体力が多すぎるだけだ!」

 ミタチさんが叫び続ける。

「何回か攻撃していればひるむ!頑張ってくれっ!」

 そう言われても。

 しかし、ミタチさんは巨大シャドウの攻撃を剣で弾くので精一杯のようで、攻撃は僕がしなければいけないようだ。

 とにかく、一度に三本の矢を撃ってみることにする。

 三本を弓にかけて、狙って弦を引いて離した。

 見事に三本とも見当違いの方向へ飛んでいった。

「ルヤフ!」

 すいません。

 次の方法。いつも通り矢をセットして、巨大シャドウを狙いながら、さらに力を込めて弦を引きながらねじる!

 そして離す。

 矢は回転しながら、巨大シャドウへ飛翔し、見事右肩の部分を貫通した。

 想像以上の威力に驚く自分。

 肩を撃ちぬかれた巨大シャドウは、痛みのせいか、のた打ち回っている。

 そんな隙を見逃すミタチさんではない。

 ミタチさんは、剣を腰だめに構えると、剣から紫電が迸るようになった。

 剣が激しく紫色に発光した瞬間、ミタチさんは駆け出す。

 剣を前に突き出しながら巨大シャドウへ向かう。

 巨大シャドウは、残った片腕の爪をミタチさんへ振り上げた。

 僕はそのタイミングで、もう一度その片腕めがけて貫通する矢を放つ。

 矢は狙い通りのところを貫通した。

 両腕を失った巨大シャドウは、ただもがいているだけ。

 そこへミタチさんは、紫電の迸る剣を横一線に斬りつけた。

 そこから、縦、横、斜めの連続斬りを巨大シャドウへ浴びせる。

 グアァァァァァァァ・・・。

 それが、巨大シャドウの最後の断末魔だった。

「うし、戻るか!」

 あんな攻撃をした後にさっさと帰ろうとするミタチさんもすごい。

 それから僕たちは、疲れた体を引きずって(実は僕だけ)村へ帰ったのだった。


 ★


 はやく眠りたいという欲求を押さえつけながら、村へ帰る途中に助けたはずの子供たちと遭遇した。

「どうしたんですか?」

 子供たちは、怪訝な顔をして衝撃の一言を言った。

「村がない」

「「は?」」

 思わず僕とミタチさんは言ってしまう。

「だから、村がないんだよ!」

 子供たちとしても受け入れがたいことだったようだ。まぁ、僕も受け入れられませんけど。

 ミタチさんを見ると、全く理解していない顔だった。

 一度、村へ戻る必要があるようだ。

「まぁ、もう一回だけ村へ戻ってみませんか?」

 子供たちは自分の言っていることを信用してもらえなかったことに納得がいかなかったのか、不機嫌な顔になっていた。


 村が本当になかった。

 きれいさっぱりなくなっているわけではなく、ほのかに村の名残が残っていただけ。

 崩れた家屋、ぐちゃぐちゃに荒らされた畑、人ひとりいない村。

 そう、まるで魔物に襲われた町そのもの。

 僕たちが村を出て帰ってくるまでかかった時間は、およそ二時間。

 たったそれだけの時間で村をここまで破壊したのか……。

「な? ないだろ?」

 子供たちの言うとおりだった。

 もしかしたら、僕たちが村に訪れたときには破壊された後だったのだろうか。

 そうなると、ピーターさんの言うことは正しくなる。

 とにかく、子供たちの安全なところに連れて行くために近くの町『ガラント』へ僕たちは進むことにした。

 子供たちをまとめて、ガラントへ歩いている途中、風の声を聞こえた気がしたが、気のせいではないだろう。

「なぁ、ルヤフ、誰からこの仕事の報酬もらえばいい?」

「知りませんよ」

「てことは、俺たちはタダ働きかよ……。」

「たまにはいいんじゃないんですか?」

 そういうと、ミタチさんは清々しい顔をして真っ暗に染まる空を見上げた。

 僕も見習って闇に包まれた空を見ます。

 空にはいくつも星が輝いていた。


〝ありがとう〟


 ★


 さて、その後の話をしよう。

 子供たちは無事ガラントの教会に届け、別れ際に子供たちから「ありがとー」という言葉をもらった。

 それから、酒場で僕たちはリトス村で起きた出来事を伝え、それが終わると、やっと宿屋でぐっすりと眠ることができた。

 長い眠りから覚めたとき、時は丸一日進んでいた。

 周りは宿屋の一部屋、格好も狩人。近くには僕が使っている弓が。

 これまでの事はやっぱり夢ではないようだ。

 周りと見渡すと、部屋に備え付けられていた机でミタチが剣を研いでいました。

「お、やっと起きたか」

「おはようございます……。」

 起きたてで頭が良く回らない。

 えっと、ここは現実じゃなくて、でも、現実はこの世界で……。

「これからどうする?」

 え? コレカラ?

 やっと、頭が冴えてきた。

 僕は現実の世界で一回死んで、この世界で目覚めて、その時会ったミタチと危険で楽しくて怖くておもしろい冒険をした。

「何か新しいクエストでも貰いに行くか?」

 ミタチの問いかけに、僕は返事をせずに考えます。

 もとの現実世界に戻るべきだろうか。親が心配してそうだな……。あ、でも戻り方が分からないし、どうしようかな……。

 色々なことを考えながら僕は答える。

「ミタチが言うなら、そうしますか」

 戻る方法はあるのだろうか。もし戻れなかったら、この世界で一生を暮らすのだろうか。それとも……。

 僕は、頭の中に渦巻く考えを一度消した。

 それから僕は、何かを忘れていることに気付かずに、出発の準備をする。

 といっても弓をからって、使った分の矢を補給しに武器屋に行くだけだった。

 それから、道具屋まで行って、傷薬をはじめとした様々な冒険者用道具を買った。ちなみに、お金は全部ミタチがありがたいことに出してくれた。

 買った道具をズタ袋に入れているときに、頭のどこかで引っかかっていたものを見つけた。

ズタ袋の底に黄緑色のヨモギが。

 詳しく探すと、依頼書(スケッチ付)も発見した。

 期限は今日まで。

「み、ミタチ……。」

「ん?」

 僕がその依頼書をミタチに見せると、ミタチの顔から血の気が引いた。

「き、期限は……?」

「今日、です。」

ミタチはゆっくりと依頼書を読み、現実を認識した後、他の道具をすべてズタ袋に放り込んだ。

「よし、予定変更。今からフォレスタへ行くぞ!」

 ですよねー……。

 そういうと、ミタチは早速町の出入りをするための門へ駆け出した。

 戻る方法とかは後回し。早くしないと、期限が過ぎてしまう。

 こうして、僕はミタチと一緒に行動するようになった。


 僕たちの冒険はまだ始まったばかり。



                               To be continued…


初めて書いた作品を投稿させていただきました。個人的にとても楽しく書けたのでよかったと思っています。感想をお願いします。

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