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突き刺さるモノ 1

 三月の半ばには進級試験の合格を告げられ、芳音たちは調理師専科Ⅲの二回生を、望の級友だった河野百花はパティシエ専攻科を、そして望はマネジメント専科へとそれぞれの前進を勝ち取った。

 パティシエ専攻科だった堤果穂は今年で卒業だ。恋人のいる地元へ就職し、まずは結婚資金を貯めるらしい。そんな果穂の門出を祝う席で盛り上がり過ぎて、気づけば望と君塚が終電を逃していた。

「うわ、やっちまった。望ちゃん、ごめん。またあの鬼親父に小言を言われるかな」

 と尋ねる君塚は、心底面倒くさそうな顔をしている。

「ああ、それは問題ないわ。パパは今日中に仕上げないといけない仕事があるから帰らないって連絡があったし、お母さんもグループヒーリングの手伝いで大阪へ出張中なの」

 と君塚に答えた望の口調に、どことなく違和感を覚えた。

(普段、パパって呼び方は人前でしないのに)

 よく見れば少し青ざめた顔をしている。

「本当はまっすぐ帰れと言われていたの。ひどいでしょ? こんなときでもないと自由に遊べないのに」

 それは全員が初耳だ。もちろん芳音もそれを聞いて、血の気が引くほどバレたときの穂高の顔を想像した。

「ちょ、っと望、やばいんじゃないの? それって」

 百花が芳音の代弁をする。

「あの親父さんのことだから、却ってしつこく電話を入れてるとか」

 君塚の予測はほぼ合っている、と芳音も思ったのだが。

「多分それはないと思う。だって、今回はお母さんの方がかなりくどく注意をしていたもの。そういうときって、大体パパにそんな余裕がないほど忙しいときなの。だから大丈夫」

 狐と狸の化かし合い、または腹の探り合い、親子の癖に。誰も口にはしなかったが、途端に全員が黙り込み、顔を見合わせては苦虫を潰した。多分、みんな同じようなことが思い浮かんだに違いない。

「楽しかった~。あ、そうだ。どうせパパの決済になるし、贅沢にタクシーを使いましょ」

 と望らしくない物言いをする。穂高に借りを作るのは性に合わないというのが望の基本スタンスなのに。どうも様子がおかしいので、芳音は

「なんだったら、うちへ泊まれば?」

 と君塚や望に打診した。あくまでも、疚しさなどひとつも含まない理由から。

 穂高や泰江の不安には、芳音も内心で同調していた。いくらオートロックのマンションとはいえ、不審者が住人の出入りに紛れ込んで通り魔的に事件を起こすようなご時世だ。望の危機管理意識の低さが心許なくて、独りにはしておきたくないと思った。しかも体調があまりよくなさそうでもある。あまりそういった弱いところを人前に出さないので、こちらから誘い水を出したに過ぎなかったのだが。

「あ、その方がいいわね。考えてみたら私の方が君塚くんちより手前だから支払いが出来ないわ」

 望はなんでもクレジット決済なので、割り勘という概念がない。だがそれは、奢られて当然というのではない。逆に自分がすべて請け負わねば、という思考回路なのだ。それが未だに一部の女子から「お嬢さま」と煙たがられる原因になっている。

「そういう問題じゃないと思うんだけど」

 百花がそう突っ込みを入れるのは、望の気性をあまりよく知らない果穂への印象を考えてフォローをしてくれたのだろう。

「んじゃ、決まりな。君塚もそれでいいよな?」

 当然イエスの答えが返って来るとばかり思ったので、芳音はふたり分の切符を買おうと自販機に小銭を投入した。

「んー、俺は佐藤んちに泊まらせてもらうわ。いいよな、佐藤。この間言ってた、山口鋭太郎の妖怪特集の録画を見せてよ」

(へ?)

 芳音の間抜けな疑問符を哂うかのように、切符が二枚吐き出された。

「うわ、やった! 君塚くん、やっとオカルトに興味を持ってくれたんだ。いいよいいよ。うちは友達が来るのってすごく喜ぶから、親も急に来たって文句言わないし」

(ちょ、待て)

 この切符はどうしてくれるんだ。ギリギリの生活をしている中で見栄を張って買った二百三十円! ――とは言えなかった。切符を握りしめて振り返った先で望を除く全員が、ものすごく意味ありげにニヤリとしていたので、文句が喉の奥につかえてしまった。

「お、こっちの終電もそろそろヤバい。じゃ、そゆことで。乙でした! 堤さん、おめでとう! じゃ!」

 君塚が逃げるように佐藤の腕を取ってサクサク逆方向へ歩き去る。

「あらホントだ。こっちもそろそろ。芳音と望ちゃんも、今日はありがとね。こっちへ来る機会があったら是非声を掛けて。待ってるわ」

 果穂が贈られた花束を掲げ、引きとめようと口を開いた芳音を目で殺す。

「望、明日オールで電波三本線のところで待機しておくから。連絡ちょうだいね。おやすみッ」

 元気印の百花が締めに言い放ち、百花宅へ泊まるらしい果穂を伴って雑踏の中へ消えてしまった。結果、芳音は望とふたり、ポツンと改札口前に残された。

「連絡って……明日遊ぼうってことかしら?」

 そして望のこのリアクションである。

(どっち?! すっとぼけてんのか? 素で言ってんのか?!)

 思わずまともに望を凝視する。ひとり無駄に心拍数を上げている自分がバカバカしいと思っているのに、心臓は所有者の意向を全力で無視して過剰労働に励み続けた。

「なに?」

 と見上げて来る瞳は、とぼけているのか、本当に何も考えていないのか、冷静さを欠いている今の芳音には判らない。

「……なんでもない」

 望があまりにもためらいなく視線を絡めて来るので、つい視線を逸らしてしまった。

「ヘンな芳音ー。へんー」

「ヘンなのはのんの方だろ。顔色も悪いし」

「そう?」

「そうだよ。ほら、マジで終電やばいから、急ぐぞ」

 と言い訳をして、小走りに切り替える。やたら息苦しいのはそのせいだ。滑稽なほど自分にそう繰り返す。

「顔色の悪い人に走らせるの? まだあと二分もあるわよ?」

「うっさいな。いいから走るッ」

「待ってよ」

「ったく、文句言う元気あるじゃん。ほら、走れ」

 と愚痴を零しながらも芳音が手を差し伸べると、望は不服げな顔のまま、それでも細い指を絡めて来た。

「なんか、昔を思い出すね。ママたちのお説教から脱走したときとか」

「なっつー。大抵追いつかれて捕まっちゃったけどな」

「そうそう。でも、逃げ切れる気がして、いっつも安心して引っ張られてた」

「克美に敵うわけないじゃん。しかもガキんちょのころだぜ?」

「そうよね。でも、あのころはなんでも芳音が私のお願いを叶えてくれてたじゃない? だから逃げ切れるって信じてたのよね」

「毎回取っ捕まってケツ引っ叩かれてたのに?」

「うん。次は大丈夫って」

「なに、その根拠なき自信」

 次第に動揺が凪いで来る。繋いだ望の手は、相変わらず芳音を落ち着かせてくれる。昔話がそう感じさせたのか、とても心地よい、そして懐かしい感触だった。


 電車の中で、泰江への連絡を渋る望を強引な口調で連絡を入れろと説得した。

「連絡は携帯に来るんだし、特にそんな必要はないと思うんだけど」

 明らかに面倒くさがっている。眠いのか体がキツいのか、何度も瞬きをする望だったが、そこだけは譲れなかった。

「もし家の電話に掛けたとき、誰も出なかったら心配するだろ」

「だから、携帯に」

「親戚とか! もし心配して捜索願でも出されちゃったらどうするんだっつうの。自分の立場を自覚しろって」

 暗に渡部薬品の社長令嬢である認識をしろと訴えると。

「……うざ。今の芳音、パパとそっくり。うざっ」

「……ッ!!」

 拗ねた口調でそう言い放たれ、文句を返そうとすれば「メール中。自分が連絡しろって言ったんでしょ」と牽制された。どこがいいんだか、と我ながら思いつつ、結局。

「芳音、電車を降りたら、ちょっとだけコンビニにつき合って?」

「……うん」

 望の自己主張には永遠に勝てそうにない、と思う自分がいた。




 アパートに着いてからほどなく、望のスマートホンが着信を告げた。

「ほらー。やっぱりお母さんから電話が来ちゃったじゃない」

 と文句を言われても、それはうっとうしがる望に非があると思う。彼女の文句を聞き流し、泰江と話している間に寝床を用意してやった。顔色の悪さがどうにも気になり、少しでも早く休ませてあげたかった。

「お母さんが芳音と代わって、って」

 とスマートホンを差し出された。途端、腹にひやりとした感覚が走る。芳音がおずおずとそれを受け取ると、望はさも当然と言った口調で

「芳音の部屋着、借りるわね」

 とクローゼットをガサガサとやり始めたので堪らない。

「ちょ、ま、待って! 今出すから! 勝手に開けんなッ」

 焦ってとめる一方で、携帯の泰江にもどうにか対応する。

「こんばんは。ちゃんとのんを帰せなくてすみませんでした」

『こんばんは。先輩の壮行会だったんだってねえ。終電に乗り遅れちゃったんだって?』

「はい。先輩たちが悪酔いしてなかなかお開きに出来なくって」

『お祝いの場だし、雰囲気を壊しにくいものねえ。でも、未成年が先輩たちと一緒になってお酒を飲むのは、よくないな』

「い?」

 望へ貸そうと取り出したスウェットを出す芳音の手が、泰江の発言で一瞬とまった。

 飲んだくれたのは果穂と百花で、ほかの面子は食前酒用の小さなグラスに梅酒をもらって乾杯をしただけだ。あとはずっと、ジュースや烏龍茶の類だった。

『お母さんにはお見通しなんだよう。だってのんちゃん、子ども返りしてるんだもの。どのくらい飲んだ?』

「食前酒用のグラスで祝杯だけです。正月のお神酒と同じ程度ですよ。それって飲んだうちに入るの?」

 それを未成年の飲酒と呼ぶのであれば、これまで泰江を始めとした母親たちが自分たちに季節の行事で教えて来たそれらも糾弾されるべきだと思う。

 そんな不満が声に出ていたのか、泰江がいつもより少し早口で用件を述べた。

『そっかあ。芳音くん、そこは覚えていなかったんだねえ。のんちゃんはアルコールに弱いんだよ。芳音くんも一度だけうちでお正月を迎えたことがあったから、のんちゃんがお神酒でひっくり返ったのを覚えているって早合点しちゃった。ごめんね』

 一瞬、頭の中が真っ白になった。真っ白な中で、何かがパリンと砕けた気がする。

「あ……そか。それでサヴァランを食べないんだった」

 泰江に言われるまで忘れていた。スイーツならなんでも来い、という望が唯一食べられないケーキのことを。

「ごめんなさい。うっかりしてました。全然酔ってる風に見えなかったし、忘れてました。えっと、どうしたらいいかな」

『あんまり顔に出ないんだよねえ。その程度なら、お茶を飲ませてから寝かせてあげてくれる?』

「はい。わかりました」

『お世話を掛けるけど、よろしくね。のんちゃんは独りで大丈夫なんて言っていたけど、本当はすごく心配だったんだあ。芳音くんがのんちゃんについててくれるなら、私も安心して眠れるわ。気を回してくれてありがとうね』

 トス、そんな音が聞こえた気がした。今度は脳天からロンギヌスの槍が突き刺さったらしい。

『今パパさんに知らせると仕事どころじゃなくなっちゃうから、明日私から連絡を入れておくね』

 その言葉を受けた瞬間、巨大な壁と化した穂高に睨み下ろされるイメージが浮かんだ。何かがものすごい勢いでしぼんでゆく。その“何か”がなんなのか、段々と解って来た。

『のんちゃんに報告するよう言ってくれたこともありがとう。それじゃ、おやすみなさい』

 絶大なる信頼が、目くるめくアレやコレやの葛藤をあっという間に粉砕したことに、ようやく気がついた。日ごろとちょっとだけ違っている望の言動は、単に酔っ払っているだけだったのか。切れた通話とともに、芳音の中でぐるぐると巡っていた淡い期待も、ブツリと音を立てて途切れてしまった。


 ちゃんと意味を認識して自覚もしたから、改めて望と“約束”をし直した。それから一年半が過ぎたのに未だそれ以上の進展がないのは、何も“穂高や泰江への義理立て”などというう綺麗な理由だけがすべてではない。

 再会してから初めて温泉街の別荘で一緒に過ごしたおととしの夏。再会が嬉しくて、同じ想いでいてくれたことに感極まって、衝動に駆られた。知識だけは圭吾仕込でやたらと肥大していたものの、それまではそういうことにさほど興味も欲も湧かなかったくらいだったのに。望の帰る日が近づくにつれ、欲が抑え切れなくなっていった。忘れられないように、とでも思ったのだろうか。芳音には今でもあのときの自分の心理が解らない。

 結果、穴があったら入りたいほど情けない理由を盾に、望から強く拒まれた。それ以来、自分から何も切り出せなくなっていた。衝動のままに我欲を押しつけ掛けた自分は、望を貶めた加害者たちと同じだ。そう思ったら、望が信州で過ごせる残りの期間を怯えて過ごす破目になった。もちろん、自業自得だと今でも芳音は考える。彼女の傷が癒えてないと見せつけられるまで、自分が彼女の傷の深さを理解出来てないことにさえ気づいていなかった。

 それでも望は、芳音のすべては否定しないでくれた。あとになって自分に誓った。望が許しの気配を見せるまでは、絶対に我欲を晒して彼女を追い詰めない、と。

 今夜の彼女の無防備さは“許す気配”かな、と少しだけ期待してしまったのだ。粉砕されてから自分の早合点を自覚させられることほど自己嫌悪するものはない。加えて泰江の信頼が、芳音をより深い奈落へ突き落とした。


「芳音ー、お風呂空いたわよー。一番乗り、ゲットー」

 色めいた雰囲気どころか、後ろめたさや疚しささえ微塵も感じさせない望の大声は、思えば子どものころによく風呂の順番を取り合ったときとまるで同じだと、今なら的確に判断出来る。

「……はい」

 呟きに近い無気力な声が芳音の口から零れ落ちた。




 望に充分な量のお茶を飲ませてから風呂を使い、掃除を済ませて部屋をそっと覗いてみれば、望はもう寝息を立てていた。しかも敷いてやった客布団ではなく、芳音のベッドを占拠して。

(あーあ。髪、生乾きのまま寝てら)

 ゆるめに束ねたツインテイルとノーメイクの寝顔を見れば、昔の面影を残した少女のあどけなさが宿っている。

 知らないうちに、苦笑いを浮かべていた。有無を言わさず相手の保護欲をそそる寝顔を見たら、不埒な我欲にうろたえた自分が、やっぱり不道徳なヤツに思えた。

(おやすみ)

 心の中でだけ、挨拶をする。そして眠るお嬢さまには額へそっと挨拶を。

 芳音は胎児のようにまるまって眠る望の隣へ敷いた客布団の方へ潜り、そして睡魔に誘われるまま深い眠りへと堕ちていった。


 ――寒い。

 夢うつつの中、身を震わせる。

 ――あったけ……。

 ぞくりとしたのは一瞬だけで、すぐに柔らかなぬくもりが芳音の寒気を掻き消した。それに加え、甘ったるい匂いが鼻をくすぐった。妙にそれが心地よく、柔らかなそれを包むように両の腕で抱えて少しだけ力をこめる。

 ――あれ……うちに抱き枕なんかあったっけ?

 覚醒し始めた頭が、ふとそんなことを考えた。

「あったか……」

(え?)

 自分以外の人の声で今日は独りじゃないことを思い出し、一気に目が覚めた。まだ部屋の中は薄暗い。夜明け前だということと一緒に、ものすごく恐ろしい事実を認識した。

(なんでここで寝てるの?!)

 悲鳴に近い声なき声が、懐の中に収まっている望に気づいて脳内でリピートされる。一瞬ひんやりとしたのは、彼女が布団の中に潜り込んだときに冷えた夜明け前の空気まで一緒に入って来たせいだろう。

(ああ、そっか。のんって寒がりだったっけ)

 望の家は空調が完備されている高級マンションだ。かたや芳音の借りているこの部屋は、隙間風が入って来る安アパート。エアコンのタイマーが切れて、部屋全体が結構寒い。スレンダーな望には堪えるこの寒さから、彼女は寝ぼけたままより温かいほうへ逃げて来たのだろう。思い返してみれば、子どものころに望が『Canon』で過ごしていたとき、いつも一緒の布団に寝ている状態で目を覚ますことが多かった。

 芳音は望を起こさないようそっと身を起こし、枕元に置いてあったパーカーを羽織って布団に入り直した。無防備な闖入者が息苦しくならないよう、自分の肩をむき出しにした位置で上掛け布団を調節する。望の肩だけをしっかりと包み、昔のように向かい合わせにきゅっと抱く。子どものころだと、芳音が少しうつぶせ気味で、望が少しだけ仰向きの形に顔を傾け、頬を重ねて眠っていた。でも今の彼女は芳音の懐に、すっぽりと収まってしまう。

(これは……結構、キツいな……)

 ふと辰巳を思い出す。克美は何度か、辰巳に“育てられた”と言っていた。喜怒哀楽の激しい克美のことだ、そして母親になった今でも甘ったれな性格のままである。

(親父……同情するわ……)

 芳音は初めて辰巳の葛藤に共感を覚えた。同性としての共感に限定したものではあるが。

 無防備を晒して甘えて来る彼女の信頼を感じると、それが保護欲をくすぐり、傷つけまいと誓わせる。

 同時にそんな彼女の心をそのままにしておきたくて、誰にも奪われまいと、この宝物を独り占をしたくもなる。

 どんなに覗き込んでみても、男には女の心理がわからない。フェイクなのか本心なのか推し量れない。自分の下した推測の先で、相手がどんな反応を見せるのかなんてまったくの予測不可能だ。だから、夜ごと身悶える。どうしたらいいのか解らなくなる。自分と相手を持て余す。

(親父は、後悔した?)

(だからまだあんなところに燻ったままなのかな)

(つうか、あんた海藤辰巳だろ? 中途半端な自己主張なんかやめて、言いたいことがあるなら伝えてくればいいじゃん)

(結局、俺にはなんにも返事なしかよ)

 シンと静まり返った部屋に、日本帝都ホテルで感じたような気配はこれっぽっちも見当たらない。


 ――遺しておいて、克美のことばっかかよ。ばーか。クソ親父。


 なかなか寝つけない夜明け前を、芳音は独り頭の中で辰巳に語り掛けながら睡魔の訪れを待った。だが結局芳音は、眠気も辰巳からの答えも得られないまま、白んでいく部屋の景色が変わっていくのを眺めながら朝を迎えた。

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